419話 終わらない雷道
「そろそろ限界か……?皆んな!俺に掴まれ!」
煌髪龍が多重防御を幾枚も破壊して重光の限界が近づいていると感じた俺は両手を広げて叫ぶ。もう、数分は稼げた。これだけ時間を稼げたのならば煌髪龍を撒くのに十分な距離だろう。特に明確な敵意を持っている訳でもない煌髪龍が姿を見失った俺達を執拗に襲うとは考えにくい。
俺のスキルで同時に転移する為には俺の身体にどこかしら触れている必要がある。俺はアクアの背中に騎乗して他のメンバーを待ち、全員が俺の肉体に触れた所でスキルを起動する。
「転移座標印付与 ・直線的転移!」
俺の声と共にマナがごっそりと吸われる感覚と共に視界は映る。俺達がいる場所から背後に向かって透明なマナで作られた道が作られ、俺達全員の肉体は物理法則を無視した動きで俺が座標印を付けた場所に向かって吸い寄せられる様に真っ直ぐ移動し、外の景色が一瞬で流れて行く。例え道中に壁があったとしても俺達はそれをすり抜けて移動する。その間数秒……いや、使用者の俺にはそう感じられたが、そこまでの時間は実際には感じられていない。移動中は船などの乗り物に乗っている感じで、酔いに弱い人は確実に酔う事が想定された。
だが、俺達の面子の中には乗り物酔いに弱い人は居ない。ただ、今ので俺の所有しているマナは半分程使われた為、少し勿体ない事をしたとも思った。転移が終わった直後……俺達の身体に向かって落雷が降り注ぎ、装備の表面が火を噴いた。
「しまった!重光!直ぐに防御壁を展開してくれ!」
「分かったわ」
重光がすぐに防御壁を展開して事を得たが、正直失念していた。流石に一瞬で数キロもの距離を移動したんじゃ、重光も防御壁をキープ出来る訳無いよな……。それに転移中は俺が形成した特殊なマナで覆われた空間に隔離されている。あのマナの空間を途中で敵に切られる可能性はゼロとは言い難いけど、流石に数キロもの距離を一瞬で転移する間にしか出現しないマナの道筋を視認してぶった切る又は、先読みして破壊する事が出来る敵がこの周囲にいるとは思えない。
少し道を戻ってしまったが数キロ程度であれば問題は無い。それよりも俺はマナを半分も消費してしまった事の方が気がかりだ。前からずっと言っている様に轟雷エリアはいつ休めるか分からない。マナ切れは避けたい所だな。ただ、今から道を進むとなると煌髪龍がさっきいた場所と同じルートは通れない。
八十三階層は一本道じゃないだけ沢山のルートが取れるがそれは又俺達が道に迷うリスクを伴っている。激しい雷雨のせいで視界は悪く、どこで道が途切れるかも分からない。ただ足場の無い場所でも俺達は重光の防御壁を足場に使っている為問題は無い。取り敢えず、オートマップも更新されない為進む方向は前方しかないな。先程は八十三階層に入った場所からひたすら真っ直ぐ進んでいただけだったから、今度は右寄りに進むのも悪く無いかも知れないな。
「今度はこの方向で進もう。マナの残量の関係でそう何度も何度も俺も同じ手は取れないから、煌髪龍は避けるべきだ」
「ええ、私もそう思うわ」
俺の意見には皆んな賛成の様で、少し進む軸をずらして進む事にした。煌髪龍ね……そう何体もいるとは考え難いが、また出てきた時は交戦は避けられないだろうな。あのドラゴンの強さも強いのは強いがこのエリアでは雑魚モンスターとして出てきてもおかしくは無いレベルだし、いつ出てきてもおかしく無い。
――俺達が煌髪龍から逃走してから数時間が経過した。それから煌髪龍の様な重光の防御壁を破壊する可能性がある様なモンスターは数体しか出てこなかったが、視界は一向に変わらず先に進んでいる実感が無かった。
そのせいで俺達には疲労が蓄積しており、休む場所を探していた。地面付近では濃霧に包まれている周囲を激しく全身を点滅させて照らしている雷光鉱石の泥人形達が互いに身体を擦り合わせながらゆっくりと歩いている様子が目に入る。あれがパペットの方であろうとただの泥人形であろうと俺達には関係無い。事前にこれを予測しておいてやはり正解だった。ここにいる泥人形種は飛行を行う事が出来ない為、空中に防御壁を展開させて歩いてしまえば奴らと遭遇する事は無い。身体から雷光を飛ばしたり、大地を自らの足で蹴って飛んで来る又は自身の身体の一部を投擲して来る事はあるが、本体そのものと戦闘になる事は少ない。
ただ、こいつの放つ雷光レーザーの威力は異常に高く、重光の多重防御壁の障壁を数枚貫通して俺達に飛んで来る事がある。初動は大きく本来ならば避けやすい攻撃なのだろうが、濃霧や雷雨に包まれて視界が閉ざされている俺達にそれを避けろと言うのは無理な話である。その為、その雷光を食らうたびに重光の張った防御壁が破壊され、その度に防御壁を修復する手間がかかる。
俺自身も何度か貫通して来るレーザーにやられており、鎧の表面が削れて鎧の形が多少変形してしまっていた。そんなこんなで俺達は少しずつダメージを受けている。
それからも俺達は疲労や装備の損傷を蓄積させながら八十三階層の安全地帯を探すが階層自体が雷光鉱石の泥人形みたいな物なので逃げ場はどこにも存在しなかった。重光の精神力が持つ事を俺は願いながら八十三階層を進んでいると、先の見えない移動に希望が現れる。
階層の狭間を表している虹色の膜が見えたのだ。階層の狭間を表している膜の向こうを見て俺は非常に嫌な予感がした。何故ならば、八十四階層を表している場所はここよりも激しく点滅しており、常に黄色の雷光に包まれていた。俺達は多分、ボス戦が終わるまで休めない。それは俺達全員がそう悟った瞬間だった。




