415話 雷鳴と豪雨
仲間達と合流してから俺達は仲間達と協力しながら青白色の鉱石が連なって壁状になっている場所をひたすら走った。
その道幅はアクアでも十分に通れる程の幅があり、途中の迫り出した壁のトラップは結局あそこだけだった。途中、すやすやと道の横で寝ている雷轟巨大獣の横を通り過ぎる事はあったものの、今回の雷轟巨大獣は横向きでは無く、通路を塞がない様に端の方で縦向きに寝ていたので俺達は奴を起こす事なく先を目指すことに成功する。
雷轟巨大獣が寝ていた場所を過ぎると十字路に出るが、直感で真ん中の道を選んだ俺達は正解だった。左右の通路の先は見えなかったが、真ん中の通路を進んでいるといつものそれはそこにあった。虹色に輝く階層の狭間を表す薄い膜だ。
「八十三階層か、どうなっているのやら……」
八十三階層に足を踏み入れた直後大きな落雷の音と共に俺の体表から火花が散った。
「なっ!?」
それに驚いた俺は声を上げながら一歩退き、八十二階層に戻って鎧の表面を手の平でゆっくりと撫でて手の平を上に向ける。手甲の表面には黒い焦げの様な物が薄く付いており、それは今の一撃で鎧の表面が僅からながらも損傷した事を表していた。
「マジかよ……」
それを側で見ていた添島は思わず感嘆の声を漏らしながら、俺の損傷した鎧をじっくりと観察した。
「まぁ、焼け焦げたのは鎧本体って言うよりかは鎧の表面に付いていた汚れとかが殆どなんだろうが、この威力は流石に不味いんじゃねえか?この調子だと、この先いつ休めるか分からないレベルだな」
「ああ……」
俺は重光からマナを分けて貰いながら添島の言葉に頷き、顎に手を当てて考える。先程の落雷の威力から考えると山西の金属粉は八十三階層を通り抜けるまでまで保たないだろうな。それにあの威力だと鎧で攻撃を受け続けるのも危ないな。
「重光……バリアで常に俺達をかばい続ける事は可能か?」
「ええ、流石にその状態で四列詠唱とかは出来ないけど単発ならば可能よ」
よし、決定だ。重光の頼もしい答えによって今後の俺達の方針が決まる。重光が外側から来る雷撃を常にバリアを周囲に展開してブロックすると言う戦術だ。以前は範囲防御壁などの類は場所は固定で動かす事が出来なかったが、細密なマナコントロールを身につけている重光ならば余裕だ。土壁との違いを言えば、土壁がマナを込めなくても一度生成したらそこに存在し続けるのに対してバリアはマナを込め続けなければ存在出来ないという事だ。
一部例外もあるが、マナが基本的に無限である重光ならばバリアの方が効率が良いし、土壁の耐久力も不安で、その場に存在し続ける意味もない。未だ裸で何ともなさそうな雰囲気の尾根枝だが、こいつがいつダウンするかも分からないし、念には念を入れると言う形を取る。結論を言うと海中洞窟エリアの風のバリアと同じ様な感じである。やってる事は変わらない。
「多重範囲防御壁」
俺達の周囲を覆うように少し青みがかった透明のアクリル板の様な防御壁が魔方陣を築いてその上に形成される。重光曰く無色透明にも出来るらしいが、俺達がバリアの位置を知覚しやすい様に色を付けているみたいだ。流石に多重範囲防護壁は厳しいかと思ったが、重光はそれを難なくとこなす。多重防護壁系列の魔法も最近は以前と同じ分厚さの障壁を展開しても、一枚一枚の強度も桁違いに高い上、多重展開の密度や、障壁の柔軟性も上がっている為、防御力は以前と同じマナ量で発動したとしても数倍以上となっている。
勿論障壁が損傷したら損傷した時点で修復が可能であり、柔軟性、応用性共に非常に高い。
重光の防御壁を周囲に展開した俺達は全員で顔を見合わせて八十三階層に足を踏み入れる意を示す。俺達が階層の狭間を潜り抜けると一瞬チカチカと激しく防御壁の表面がカメラのフラッシュのように点滅するが、先程と違って火花が上がる事は無い。俺達が八十三階層に入ってからはずっと防御壁の表面がチカチカと点滅し、周囲はゴロゴロと雷鳴が響き渡っている。
雨が酷く、正直視界もままならない。天空は全てを黒雲が覆い尽くし、水平線の向こうの雲は嵐の様に渦を巻き、中心に向かって雷が収束していっている感じである為、この階層は中心に近付けば近付くほど周囲を漂っている電気の強さが上がっていくのだろう。現在でも俺達が防御壁無しではやってられない程の電気が周囲に漂っているのだが、それ以上と考えたら寒気がする。周囲は先程までとは違い、開けており壁の様な遮蔽物は見当たらない。
だが、それでも数十メートル先は見えない程の雨が降り注ぎ、落雷が頻出している。空気が乾燥していないにも関わらず、放電現象がこれ程までに激しく起こる事は普通は有り得ない。それに何よりも俺達を驚かせたのは地面からも雷がまるで意思を持っているかの様に天へと上り、動いている事だった。流石にこれは重光も予測していなかったのか範囲防御壁を張り直す。
一歩一歩、歩く度に靴の裏からは白煙が上がり、水が蒸発する音が周囲に響いた。重光は範囲防御壁を上部をドーム型に展開して下部には巨大な板を置いた様な形にして足場を作る。一部、空気を循環させる為に隙間を作っているが、多重で防御壁を展開している為、重光に抜かりは無い。
まず、生物が生存出来るかどうか微妙な環境だが、それでも生存している所が異世界何だよなぁ。そう思いながら俺は八十ニ階層にあった青白色の鉱石とは違い、青白色のベースに緑がかった金属光沢のある鉱石を基盤として作られた大地を踏みしめる。正確にはその地盤の上に展開したバリアの上を歩いているのだが、そんな細かい事は気にしない。
八十三階層の基盤となっているその鉱石は八十二階層までに存在した青白色の鉱石とは違って自らが強烈な雷撃を生産して放ち続けていた。まるで自らが生きているとでも思わせる様に。




