413話 神宮の覚悟
時は安元達が轟雷エリアへと向かった直後へと遡る。その頃神宮は森エリアでエルキンドと会話をしていた。
「やれやれ、ワシも何だかんだで甘いわい。あの程度の実力では全く通用せんよ」
「まぁ、そう言わないでくれよ。そうは言っても今の彼らは俺より強くなっているぜ?この短期間でここまで強くなれるってのは正直異常だぜ?あいつらは気付いて無いかもしれないがその成長速度は正直羨ましい位だ。それはそうと、俺の所にきたって事は彼らにあの技を教えるつもりなんだろ?」
神宮の目の前の椅子で笑顔を浮かべて指先に木製のトランプを挟んでくるくると回している人物の顔の皮膚は酷く爛れて黒ずんではいるものの、表皮はしっかりと身体に癒着しており、未だ美形と言われる容姿をギリギリ保っていた。
「そうじゃ、もうあやつが復活するのも時間の問題じゃと思ってな……それでもあくまでこれは最終手段じゃ。じゃが、この技のリスクは大きい。じゃからこの技を使った場合の奴への勝率を聞きたい」
「ほぼゼロだ」
即答だった。 神宮の質問に対してエルキンドは一切迷う事無くきっぱりと答えを述べる。それこそ無慈悲とでも言わんばかりに。
だが、それを聞いた神宮の表情は絶望と言うよりかは最初からそれを分かっていた様な顔をしていた。自らの手で戦った相手だからこそ神宮は分かっていた。小細工、秘策位で勝てる相手では無いと。
「だが……まだ勝機はある」
エルキンドは神宮の質問への答えをキッパリと述べた直後にある程度操ってから二つに分けてその半分を神宮に渡して同じ数字のカードを除いてから神宮とのババ抜きを始めながら話を続けた。
「ただし、彼自身が変わらない限りは勝機はゼロだ。彼が誰かを失う悲しみに耐えられない限り無理だろう」
「それ位分かっておるわい……じゃからこそ、あの虚無の空間で彼が変わってくれるとワシは信じているのじゃ。逆に言えば彼があそこで成長しなければワシ達含め、彼らは全滅を逃れられまい」
この二人の間の空間にパチパチと言うトランプが机に置かれる音が異様に大きく響き、エルキンドの手には二枚のカードが残る。
「引きなよ」
「ああ」
神宮がエルキンドの手元の左のカードを選び、エルキンドの顔が引き攣る。
「ジョーカーか」
「ああ」
神宮の手には死神が描かれたカードが握られており、神宮の顔も自然と暗くなる。このトランプゲームには特に意味は無かったのだが、この一枚のカードが自分の運命を表していると話の流れから神宮は感じざるを得なかった。
「貴方には俺は読心術は使えない。どうやってもレジストされてしまう。ただ、このカードの結果……不穏だね」
「ワシはカードゲームをしに来た訳では無い。その僅かな勝機を聞きに来たのじゃ」
エルキンドは両手を広げて、落ち込む神宮を持ち上げようとするが、エルキンドの表情も若干暗い事からエルキンドも神宮と同じ事わ、思ったのだろう。その悪い流れを断ち切る様に神宮は話を本題に戻した。
「僅かな勝機ね……魂の破裂。これを使えば彼は死ぬ……それこそ、魂の欠片すら残らないレベルでね。それは魂付与と何ら変わらないんだが、この技を使うのは本当に最終手段にしておいた方が良い」
「どちらにしても、使用者が死ぬのは変わらないのは分かっておる。じゃが、魂付与を使っても敵わない相手じゃった場合は仕方がないのでは無いか?」
「いや、この技を使って俺は彼が自我を保っていられるとは思えないんだ。味方と敵の区別すらも出来なくなる程にね」
エルキンドが発した恐ろしい言葉に神宮は冷や汗を垂らしながら固唾を飲んだ。神宮は魂付与の事は知っていた。仲間全員で元の世界に生きて帰る目的を持つ安元に取ってその目的が強制的に絶たれてしまう技である為、それを最終手段にしようとしていた。
だが、その技にはまだ上があったのだ。魂の破裂と言う魂に肉体を支配され、敵と味方の区別すら付かなくなる手段が。それを使わなければこの迷宮の管理者を倒せないという事に神宮は心を痛めた。それに焦りを感じた神宮はエルキンドにもう一度質問をする。
「もし、今の状態で彼が魂付与を使用した場合はどれ位の強さを得る事が出来る?」
「せいぜい貴方位だ。貴方も分かっている筈だ。その程度では全然足りないと」
神宮はエルキンドの口から発せられたあまりに厳しい言葉に膝を落として唇を噛み締めながらエルキンドに頭を下げた。
「魂付与の発動方法を教えて下さい。次帰って来たら彼にはきちんと伝えておきます」
「分かったよ。俺も出来ればあの技を思い出したく無い。俺はあれで全てを失った。だけど、今俺達が生き残る道はそれしか無い……が、貴方はそれを許さないだろうな」
「何を……この老体……この犠牲だけで済むならば能力発動の時間位稼いでみせますよ」
「そうか」
神宮はエルキンドから魂付与の方法を教えてもらいながら目尻の皺を寄せてニヤリと笑い、それに対してエルキンドは素っ気なく返事を返した。
拠点に戻った神宮はポツリと呟く。
「魂付与……あやつが危機的状況でこれを発動出来るのか……難しい所よのぉ。じゃが、これを発動出来るのは極限状態で己を引き出し続ける事が出来るのは必須じゃ。轟雷エリア位は簡単に超えて欲しい物じゃ。ワシが折角装備を作ったんじゃ、あそこの雷如きにやられていては、今後訪れる古代遺跡エリアで間違いなく詰むぞ?」
《と言う事は奴らはまだまだ来ねえのか》
「ああ、お主と戦うのはまだまだ先じゃろうて、と言うより今の彼奴らの実力じゃお主には手も足も出んわい」
《それもそうか?少なくとも俺を倒せなきゃ、到底ここの主には勝てねえから俺は手加減はせんぞ?》
「好きにせい。じゃが、タイミングも考えておくのじゃぞ?奴の封印が解ける日も近い」
《それは奴ら次第だな》
神宮は何者かと念話を繰り返し、少し疲れた顔をして自らの拳を強く握りしめた。
「出来るだけ早く、最下層に辿りくのじゃぞ」
そう呟いた神宮の目はまだ希望を捨てて居らず、闘志と覚悟に溢れていた。




