411話 集合体の底力
雷鳴烏とは違って黒雲に紛れて飛翔してくる飛竜や鳥類のモンスター達は様子見などと言う甘い事はしてくれない。今回アクアの鎧には鐙に相当する部分が俺に合わせて作られており、ジジイは元からこの空中戦闘を予測していた事が分かる。
足の裏とアクアの鎧の鐙を土属性のエンチャントでしっかりと接合させた俺は二本の刀を腰に付けている鞘から引き抜いて両肩の力を抜いた。二本の刀がぶらりとぶら下がり一見その姿は無防備に見える。
「さてと、いつもならばすぐに新技を使いたい所だが、防具の劣化を早めるから出来るだけ、新技は使いたく無い……となるとマナを抑えた戦いをしなくてはならない」
真っ直ぐ一筋の雷光の様に突っ込んで来た雷を纏った小型の鳥類をアクアは身を翻して躱す。アクアが天に向かって身を翻せば同時に鐙と本体を固定している俺もアクアと同じ様に方向を変えながら敵の攻撃を躱す。
マナを抑える戦法を取るならば当然俺は二本の刀を使った戦闘を行う事になる。出来るだけエンチャントの能力に頼らない戦法をな。足場となっているアクアは身体が大きい為、どう敵を回避しても数相手だと攻撃を食らってしまう為、エンチャントは必ず何処かで使わなくてはならないのだが、エンチャントを使わなくてもアクアも自衛位は出来る。
勿論アクアもマナの貯蓄量はある為、俺とバランス良くマナを使用していくのが無難だと俺は考えている。次々と飛翔してくる小型の鳥……黒雲鳥は体長五十センチメートル程の隼に類似した鳥だ。体毛は黒雲の様に黒く、羽は一枚一枚が電気を出来るだけ多く溜められる構造なのか全体的にもふもふとしている。その影響で隼程早くは飛べないのだが、こいつには厄介な能力がある。一匹一匹の能力は大した事無いのだが、群れで集まるとこいつらは力を発する。本体は帯電鳥とは違って体内に自家発電が出来る器官を兼ね備えている。
一匹が本体に溜められる電気の量と一度に放出可能な量は生身の人間を一瞬で黒焦げにしてしまう程の電気量を誇るが、それ以上に同種の仲間や周囲に電気を発する物体があったりするとその電気と共鳴して自らの電気を合成する事が可能だ。それによってこいつの発する電気量は半端では無い量になる。そして、黒雲鳥が電気を共鳴している際は自身の漆黒の体毛が黄金に輝く。それこそ、俺が雷だ。とでも主張をしているかの様に。
黒雲の中でも一匹一匹は小さくても一際存在感を放つ存在……それが黒雲鳥なのだ。ただ、本体の羽毛に耐久性はあまり無く雷を蓄積する事に特化している為、エンチャントを使わなくても片手で軽く刀を振るうだけでその肉体を真っ二つに切り裂く事が可能だ。
ただ、雷系のモンスターと戦う際に気をつける事がある。雷系のモンスターは自身にも雷を纏っている事が多く、その生身に触れると電気が通電し、攻撃を行った方もダメージを食らってしまう可能性がある。刀が傷むのは止むを得ないのだが、武器を劣化させているのは確かなのだ。
アクアは時速八十キロ程で飛行しながら黒雲鳥の群れを躱し、アクアに騎乗している俺もすれ違い際に敵の肉体を真っ二つに両断する。基本的にアクアの飛行している加速だけで黒雲鳥を切るのは事足りる。だが、それは相手が黒雲鳥に限っての事だ。小型の鳥に紛れて飛んでくる飛竜は流石にアクアの加速の勢いだけでは切れない為、かなり面倒である。本音を言えばこの二倍位の速度で先を目指したいし、その速度で飛行も可能なのだが、地上の仲間達を置いて俺達だけ先を目指す訳にはいかない。
常に何か異常があった時の為に指示が聞こえる位置にいる必要がある。地上でも相手モンスターが発する光がちらほらと見えている為戦闘にはなりかけているのだろうが、スルー出来るならばスルーして先を目指す事を推奨している為仲間達が止まる事は無い。マジでキツい。
黒雲鳥は身体を合わせて巨大な一つの集合体を作りだした。その姿は黒雲そのもの……その黒雲は爆発寸前の爆弾の黄金の光を放ち始めた。その光量は遮光強化ガラス込みの二層鎧を着込んでいても眩しいと思えるほどで、太陽の対を想像させる。
「外部圧縮属性付与 土」
俺の掛け声と共にアクアと俺の外周を覆う様に円状の岩の防護壁が形成されとそれと同時に防護壁が赤く赤熱し、融解する。ギリギリだった!?俺は予想以上の火力に少し焦るが、ここは落ち着くべきだ。俺は今マナの消耗を恐れて少しマナをケチった。その影響で防護壁の強度は下がっていたが、それでも電気の抵抗で融解温度になる程柔に作ったつもりはなかった。
融解して、穴が空き外の視界が新たになってから俺は再び驚愕する事になる。黒雲鳥達の強烈な雷攻撃はこれで終わりどころか、寧ろこれからが本番と言わんばかりに先ほど以上に黒雲は大きく肥大化し、眩く輝いていた。
先程の様な強烈な雷撃を連発出来るとは思っていなかった俺は少し戸惑いながらアクアの首元を軽く叩いて加速をする様に指示をする。アクアの背中に魔方陣が浮かび、アクアの翼付近からものすごい勢いで水が噴出し、アクアは時速二百キロ近くまで急加速した。防御に回ってたらジリ貧になるだけだ。根本を潰さない限り、あの攻撃が止む事は無いだろう。
そうなれば、俺が直接黒雲の方へと出向くまでだ。生憎俺達は急いでいるんだ。お前らに構っている時間はない。俺は加速するアクアの背中で刀を鞘にしまって、両手と頭付近……空気中のマナを一気に操作した。




