409話 拘束と連携
雷轟巨大獣と俺が大地を蹴ったのはほぼ同時だ。だが、奴と俺では決定的に違う物がある。雷轟巨大獣が大地を蹴って一瞬たじろぎ、動きが鈍る。これは後ろで亜蓮がスキルを発動させた影響だ。
その間に俺は雷轟巨大獣の懐に入り込み刀を抜刀する。最初の牽制の一撃……そう思って右脚を一気に踏み込んで刀の間合いに奴の前足を近づけた。
その勢いで刀を振るい、周囲に響いたのは乾いた金属音とバチバチと火花が散る音だ。それとほぼ同時に俺は後ろへと飛び、雷轟巨大獣から距離を取る。やはり、こいつの体毛の強度は去る事ながら、最も厄介なのはこいつが身に纏っている高電圧の電気か……。雷轟巨大獣の体毛には鋭い切れ込みが入ったものの、その傷は深部までは達しておらず、俺の刀の根元からは白い煙が上がっていた。
これだから出来るだけこいつとの戦闘は避けたかったんだよ。あまりこんな事を続けていては刀が持たない。防御面は山西と亜蓮に完全に任せて大丈夫そうだし、さっさと決めるしかないか……。
「共鳴真空波」
俺の攻撃を食らって少し苛立ったのか長い尾で周囲に電気の塊を大量に作り、俺に飛びかかろうとして亜蓮にヘイトを奪われた雷轟巨大獣は後脚で方向を変え、極太の雷光を巨大な雷鳴を轟かせながらレーザー光の様に亜蓮に向かって放つ。
その隙に添島は既に雷轟巨大獣の背後に回り混んでおり、雷轟巨大獣の頭部の後ろから飛び上がり、上段に大剣を構えた。
「泥撃」
雷轟巨大獣は添島にも気が付いていたが、本体の電圧を高めて周囲を牽制する。その上、自分の攻撃に相当な自信があったのか亜蓮にも極太の雷光を放っている為、亜蓮の事は既に眼中に無かった。
やっぱり亜蓮のヘイト管理能力は異常な程強いな。俺はそう思いながら流動付与を発動させて上空へと飛び上がってアクアと共に雷轟巨大獣の左右に旋回した。
添島の攻撃に対して後肢での蹴りで対応しようとした雷轟巨大獣の身体に巨大な泥の塊の様な物が纏わり付き、動きを拘束する。重光のマッドショットである。轟雷エリアの地面は硬く、変形させるのが難しい為、泥沼形成から拘束に繋ぐのは難しい。重光ならギリギリ可能なのだろうが、泥沼形成、泥沼を纏わせる、硬化のタイムラグを考えると直接泥の塊を形成して対象に飛ばすマッドショットの方が適切である。増してや、亜蓮がヘイトを奪っており、それ以外にも添島や俺と言った奴が他にヘイトを割くべき存在がいる為、避けられる可能性も低い。
その拘束は一瞬だったが、それで十分だ。雷轟巨大獣に纏わり付いた泥の塊はすぐに赤く赤熱し、融解するが、その時にはもう添島の振るった大剣は雷轟巨大獣の後頭部に直撃していた。
纏わせた泥によって奴が身に纏っていた電気は泥に吸収され、添島の方に流れる電圧はかなり弱まっている。内部に強烈な衝撃を与える添島の攻撃を頭部に直接食らった雷轟巨大獣は脳震盪を起こし、ふらふらとした足取りで前肢の膝を大地につける。それでもまだ自立を保ち、戦意が消失していない時点でこのモンスターの強さがどれだけのものか想像出来る。
牙を剥き、抵抗とでも言わんばかりに周囲に電気を放電させる雷轟巨大獣だったが、既に遅い。山西が懐から出した金属の粉を網状に変形させて、雷轟巨大獣の周囲に展開させる。雷轟巨大獣が放った強烈な電気が周囲を迸り、避雷針となった金属へと大半が移動するが、避雷針となった金属は一瞬で塵に変わる。
だが、それで良い。アクアは正直雷属性系の相手とは相性が悪い。防具を付けているとは言え、直接攻撃は出来るだけ憚るべきだ。そんな中でアクアが発動可能な遠距離攻撃手段は水を圧縮させて放つ水流波や、相手を拘束させるフリーズ系の技や水を氷結させて放つ攻撃などがある。
アクアは背中に魔法陣を展開させて、口元にエネルギーを収束させる。その間に俺は両腕にマナを込める。俺とアクアが狙うのは当然雷轟巨大獣のと後頭部……添島が大きな傷を付けた部分だ。俺の切り裂く事に特化した斬撃とは異なり、対象を力で叩き切り、内部から破壊する事を目的とした添島の斬撃には流石に雷轟巨大獣の硬質な体毛でも耐えられなかったらしく後頭部には大きな傷が入っており、衝撃波で内部から抉れ、肉が迫り出し、大量の血が流れていた。
「内部圧縮属性付与 火」
俺の両腕からドリルの様に複雑に練り込まれた炎が雷轟巨大獣の後頭部の傷に向かって真っ直ぐと突き進み、後頭部の傷に俺の攻撃が着弾するのとほぼ同時にアクアが口から放った水流のレーザーも傷口を抉った。炎と強烈な水流がぶつかり合って傷口の中では大きな爆発が引き起こされる。そんな非人道的とも言える攻撃に耐えられる訳も無く、雷轟巨大獣はその場に倒れ、無残な死体を晒す。
周囲の気温は俺の放った攻撃で一気に上昇していたが、空気中に放たれた大量の水蒸気は黒雲から降り注ぐ多量の雨によって冷やされ、周囲は濃霧に包まれた。雷轟巨大獣をほぼ動かさずに完封した事と尾根枝の出番が無かった事に少し申し訳なさを感じつつも雷轟巨大獣の素材は非常に役立ちそうな為死骸をマジックバッグに回収して俺達波濃霧が晴れるのを待った。




