406話 ギャンブルルート
「尾根枝!巨大化しろ。それで俺達を守りながらこの谷の隙間を駆け抜けるんだ」
「それくらい容易い御用よ」
俺達は避雷針として使っていた武器を鞘に納めながら尾根枝に指示を出すと尾根枝は自身が巨大化出来る最大サイズである八十メートルまで巨大化して俺達を手の中に隠し入れる。
「それじゃあ、行くわよ」
低い尾根枝の掛け声と共に尾根枝の肉体が風を切って動き始め、尾根枝の肉体を電気が伝い尾根枝の肉体からは青白い雷光が轟き、巨大な尾を引く。
尾根枝の全身を雷光が伝い青白く輝きながら全速力で走り続ける尾根枝の姿はまるで神話にでも出て来るかの雷の巨人の様だった。尾根枝は方向音痴の為、誰かが外の様子を確認出来なければならない為、尾根枝の指と指には隙間が作られており、そこから青白い雷光が侵入し、尾根枝の手の中を明るく照らす。
だが、俺達の装備品は絶縁体で作られており、中に侵入した電気は尾根枝の肉体の方へと流れて行く。雷光の尾を引きながら走る尾根枝だが、八十メートルまで巨大化している尾根枝の全身の質量やパワーは相当なものだ。消費するエネルギー量も並では無いし、そんな馬鹿力を脚に込めても崩壊しない青白色の鉱石で作られた柱の強度も半端では無い。
前回の失敗を生かしてこの鉱石を採掘しておくべきか考えたが、今はそんな余裕は無い。俺達に残された時間は有限では無い。迷宮の管理者の封印が解けるまでの時間も無ければ、轟雷エリアを抜けるまでにこの装備品がどこまで耐えられるかも分からない。正直、この八十一階層レベルの電圧が続くのであれば問題は無いのだが、これが強くなって行くと考えるとゆっくりはしていられない。
「尾根枝。この大きさだったらあとどれ位維持できそうだ?」
「うーん。この大きさだったら後二、三時間が限界かしらね」
「分かった」
尾根枝に肉体の限界を尋ねるとこの状態を維持出来る時間はそう長く無い事が判明した。やはり、肉体にかかる負荷は生半可な物では無い様だ。尾根枝の限界が終わる前に次の階層へと辿り着ければ良いのだが……。
その時、尾根枝の足元から砕け散った青白い鉱石の破片が飛び散って三叉状の真ん中の通路の方へと飛んで行く。そして、真ん中の通路の上にその破片が落ちた瞬間、その鉱石の破片は眩い光を放って一瞬にして黒い塊に変貌を遂げる。
「おい、何だ……今の……」
「間違いない。一瞬にして電圧が一気に高まって発火したんだ」
「詰まる所罠だな」
もし俺達が真ん中の道を進んでいたとしたならば、あの鉱石の様に黒焦げになっていたかもしれない。電気を割と通しやすい筈のあの青白色の鉱石でもあれだけ熱を発して黒焦げになっているのだ。それに、尾根枝の脚力でも多少欠けたりはするものの粉々にならない程の強度を誇っているのにも関わらず一瞬にして黒焦げになるという事はあそこに俺達が行ってダメージを受けないとは考えにくい。
やはり罠を警戒して、尾根枝を使ったのは正解だったか?左端の通路は距離が離れすぎている為かどうなっているのか分からないが、右端の通路は距離の関係で霞んではいるものの何とか視認できる感じだ。
右端の通路の上空には何やら小さな何かが群れを成して集まっており、巨大な雲の様にも見える。その巨大な雲はピカピカと黄金の雷光を轟かせており、危険な雰囲気だ。その雷雲は巨大な上に、常に移動しており、その全体像は数十キロにも及ぶ。
あの雷雲の雷がどれ位の威力があるのかは分からないが、真ん中の道の地雷源の凄まじい威力を考えると相当な威力なのは間違いない。それに、あの雲は恐らく鳥形のモンスターが集まった物だ。あの数のモンスターに取り囲まれていたらまともに通路を進むことは不可能だろう。
真ん中の通路と右端の通路が罠って事は、左端のルートが正解のルートだったのか?いや、それも考えにくい。迷宮の仕組みから考えて冒険者達に慈悲を与えるメリットは更なる冒険者を呼ぶ事位しか無い。しかし、この迷宮は他の世界から隔離されている為冒険者が更なる冒険者達を呼ぶ事は無い。
その上、この迷宮の深層は難易度が高くここまで来るだけでもその冒険者は相当な強者である事は間違い無い。その為、その冒険者が生きて帰ったとしてもここに迎える冒険者は限られている。寧ろその偉大な冒険者がここで死んだ方が話題性は高まる筈だ。それにここの管理者は俺達を強くさせて食らおうと画策している。わざわざ生存ルートを一つに絞るみたいなギャンブルはあまりしたく無い筈だ。
どちらかと言えば死なない様なギリギリの難易度で俺達に困難を経験させた上で成長させると言うのが目的だろう。残念ながら勇者達やジジイのお陰で管理者が考えていたよりも死にかけてはいないんだけどな。
管理者も管理者だけに迷宮の難易度は少しずつ弄っているみたいだけど、想定外の事態もいくつか起きているみたいだ。迷宮の脈動は管理者の封印が薄れている合図でもあるが、それ以上に迷宮の難易度調整と言う意味合いもあるのだと俺は推測している。
その番狂わせ……つまり、勇者達やジジイ達の助力によって絶対的な存在である管理者……奴の計画を狂わせる事が出来れば、俺達にも勝機はあるかもしれない。食らわれるだけの存在だった筈の勇者達に以前管理者が封印を施されてしまった様にな。




