39話 流動生物
「爆破刀!」
俺は再び刀を赤熱させ空気中で振る。
「ん?ここはガスが少ない、、、?」
ブラストソードの音が明らかに二十二階層とは違ったのだ。そして、火花も多少は出ているものの轟々とした感じでは無い。ここはガスは多少は発生しているようだが濃霧の水分の割合がわりかし多いらしい。それなら普通にファイアエンチャントなどを使っても問題無いだろう。
(ぐちょ)
「っ!?」
足元で泥が形を成し俺の足を掴み地面に引き摺り込もうとして来た。二十一階層のマドハ◯ドか?と思ったが、それから泥は俺の体を伝い俺の全身を覆わんとする。不味い!?俺を窒息させて殺そうとしている!?俺はそう考えるや否やスキルを発動させる。
「属性付与氷!」
俺は冷気を纏い両手に刀の柄を握り交互に腰から引き抜き泥の塊を切り裂く。
(バリィン!)
俺の刀に触れた泥の塊は固体状になり氷の割れる様な音を出し崩れ俺は解放される。だが、泥はゆっくりと動いていき、俺の身体と同じくらいの茶碗をひっくり返した様な形に手が生えている、、、だがヒクヒク動いている事から泥アメーバみたいな感じだろうか?そいつは俺に向かって更に纏わりつこうとして来る。生半可な冷凍では駄目か、、、それならこれでどうだ!
「はぁぁぁあ!」
俺はもう一度刀に冷気を纏い泥の塊、、、もとい泥アメーバに向かって刀を突き刺しマナを込める。泥アメーバは刀ごと俺を拘束しようと動くが徐々に動きが鈍くなり完全に凍結した。これならばすごい生命力を持っている泥アメーバでも再び動き出す事は無いだろう。だが、正直俺の腕ごと凍らせたのでめちゃくちゃ寒い。俺は急いで完全凍結した泥アメーバごと腕を引き抜きファイアエンチャントで温め自分の腕を解凍する。これで先に進める。だが、今ので周りの濃霧も冷気の影響で霜が降っており居心地が悪い。取り敢えず先へと進もう。そう思い俺は先を目指すが一向に先が見えてこない、、、このままでは永遠に濃霧の中を彷徨いかねないだろう。
(バシャア!)
暫く俺が霧の中を彷徨っていると再び泥アメーバが出て来る。そして泥アメーバがおもむろに地面に潜ったかと思えば、俺の周りには俺を囲む様に地面から出て来る複数の泥アメーバの姿があった。ふ、、、俺が一人だからってなめんなよ!俺はそう思い手を足元の地面に突っ込んだ。
「お前ら俺が付与出来んのが武器だけといつから錯覚していた?属性付与氷!」
俺は腕に冷気を纏いマナを込め周りの泥アメーバを地面ごと凍らせる、、、そして、俺は気付いた、、、これなら行ける!迷う事なく、、、しかも泥アメーバも受け付けずに先に進める!
「はぁぁぁあ!」
俺はエンチャントを自分自身に発動し、全身に冷気を纏う。
「はぁっはぁっ、、、」
自分の口から白い息が舞う。そして、全身から白い煙を立てながら身体には霜が纏わりつく。
(ピキッ、、、ピキッ、、、)
一歩一歩歩くたびに地面の表面が凍りピキピキと音を立てる。だが、これでいいんだ。元々ぬかるんだ沼地では自分の足跡はすぐに消えてしまう、、、だがこうやって地面の表面を凍らせて歩けば暫くは自分の足跡が残る。それならば少なくとも同じ道を通ることは無い筈だ。そして、地面も表面は凍ってくれるのでぬかるんだ沼地よりかは歩きやすく泥アメーバに捕まる事も無い。だが、勿論弱点もある。見ての通り冷気を纏っている間は寒い。だが、自分自身はエンチャントで外側に全身から冷気を放出しているだけなので見た目程寒くは無い。だが、空気中の水分などが冷気に晒され霜となった状態で自分に付着し、周りの外気の温度もかなり下がる。これは当然寒くなるだろう。そして、冷気を纏っている間はマナを消費し続ける。何処かで休憩は取りたいところだ。そこから何時間歩いたかは分からない。だが、俺はマナの限界を迎えて休むことにした。だが、奪われた体温の事もあるしここで寝た場合見張りに付ける仲間などはいない。それならばどうするかだ。しょうがない、、、簡易ハウスでも作るか、、、俺はそう思い地面の泥を積み重ね始めた、、、そして土属性を付与し、固める。すると上は開いているものの簡易的な囲いは作れた。そこで地面に沈まない様に根元を凍らせて底にマットをひく。これで俺の寝床の完成だ。一応いつでも戦闘に入っても大丈夫なように装備はつけたままだ。そのまま俺はマットに包まり仮眠を取る。そして、俺は目を覚ます、、、だがどうも何かがおかしい、、、
「あれ、、、俺こんな場所で寝たっけ、、、?」
俺は寝ぼけた顔で周りを見渡す。隣には俺くらいのサイズがある大きな卵があり、、、って、、、卵!?俺は驚いた。そして、気付いた。無い、、、マットが無いのだ。そして今俺がくるまっていたのは木の蔓などで編んだ何かだった。そして、なんとなく今俺が何処にいるか勘付いて来た俺は恐る恐る壁際まで移動しそこから外を眺め顔を覗かせる、、、
「ああ、これ普通にアウトなやつやんけ」
濃霧で全く下が見えないがここの位置が高い事は分かった。下の様子が伺えない程の高さに俺はいたのだ。そんな状態で俺に飛び降りる勇気などは存在しない。そう俺は寝ている間に餌として巨大な鳥の巣に連れてこられたのである。寝る直前まで冷気を纏っていた事もあり俺は弱っていると判断されたのかも知れない。だが途中で親鳥が帰って来たら割と不味い。いくら弱っているとはいえ最後にトドメを刺すのは当たり前だろうもしかしたら四肢とかを捥がれて、、、いやそんな想像はやめておこう。とにかく親鳥が帰ってくる前に何としてもこの巣から脱出し下に降りる必要がある。しょうがない、、、あれを使って降りるか、、、。俺は巣がくっ付いている木を眺めて降りる方法を模索するのであった。