34話 添島の秘技
獣屍鬼戦決着です!
「グォォォォォォォオ!」
自身の身体の痛みかそれを与えた俺達への怒りか変わり果てた姿に変貌した獣屍鬼はボロボロの身体を引き摺りながら長い前足を俺達の方へと突き出す。俺達は逆に奴への距離を詰めるように走り出し、奴の腕を回避する。だが、
(ジュッ!)
「ぐわぁっ!」
奴の動きは鈍くなっているもののその動きに合わせて奴の体の液体が俺達の方へと飛び添島が腕に食らう。だが、添島は鎧を溶かされ皮膚が酷く爛れているものの歯を噛み締めそのまま奴の後ろに回ろうと走り続ける。そう俺達は現在奴の咆哮の効果であるマナを乱す攻撃の範囲外の近くまで奴を誘導しなくてはならないのだ。添島の提案した攻撃方法は奴の近くで行わないと威力が減衰してしまうというものだった。それだといくら奴が弱っていたとしてもダメージは僅かである。
「こっちだ!」
俺達は全員で奴の背後の方向へと移動する。すると奴は後ろを振り向きながら息を吸い込み始めた。マズい!
「添島!」
俺は咄嗟に添島に虫の粉末を投げつける。
「グォォォォォォォオ!」
「気貯蔵!」
俺の合図に気づきいち早くマナの乱れていた範囲外から抜けた添島は近くまで奴を引き寄せる事を諦めスキルを発動させた。
(ジュッ!)
「ぐわぁぁあ!か、身体が焼ける、、、!?」
「きゃぁぁぁあ!?」
「うがぁぁぁあ!」
咆哮の風圧で獣屍鬼の体液が巻き込まれマシンガンの様に俺達を襲い俺達に激痛が走り悲鳴をあげる。勿論回復魔法も唱えられない為、、、俺達は地面で爛れた全身を抑え呻いている。俺は痛みを堪えふらふらと立ち上がり顔をあげる。するとそこには、添島が粉を纏いながら咆哮の範囲外へと一瞬で抜け攻撃の構えに入っていた。そして、
「少し強めに行くぞ、、、頼む、耐えてくれ、、、俺の身体!気貯蔵ぅぅう!」
(ズン!)
「グォォォオ!」
添島がエネルギーを纏い剣を振り下ろす。その瞬間透明な衝撃波が獣屍鬼を襲い獣屍鬼の肩から脇腹にかけて直撃する。そして、獣屍鬼は少しよろめき体液が噴き出す。今の攻撃の威力はそこまででは無さそうだ。だが、
「かはっ、、、はぁっはぁっ、、、ギリギリ耐えてくれたか、、、」
添島にとっては今の衝撃波は結構腕をブッ壊さずに出せる限界の威力っぽい。実際添島は息が乱れているし、腕を抑えている。今の攻撃は真空波か?恐らく攻撃の余波だけで攻撃しようとしたのだろう。だがそれはかなり無謀なチャレンジだ。だが、奴に直接攻撃できない以上、、、これしか攻撃手段が無いのも事実だ。実質今は俺達は戦闘不能状態に近い。全身を酸で焼かれ、痛みで動けない。ピンチだ。だが、
「グルルルル!」
獣屍鬼が添島の方を向き威嚇する。獣屍鬼の怒りの矛先は添島ただ一人になった。
「はっ、、、タイマンかよ、、、勘弁して欲しいもんだな、、、!」
添島はそう言いつつも獣屍鬼とは逆方向に走り始める。これは俺達から奴との距離を離す目的があるのだろう。このまま攻撃してしまうと、奴の傷口から噴出した体液によって俺達が更に傷つく可能性を考慮したと考えられる。
「こっちだ!来いよ!」
「グルルルルルル!」
添島が挑発し、奴を誘き寄せる。すると奴もそれに従い両腕を使い牙を剥き添島を猛スピードで追いかける。そして、添島はボス部屋の端まで追い詰められてしまった。だが、彼処には咆哮によるマナの乱れは無い。
「グォォォオオ!」
獣屍鬼は添島と数メートルまでの距離に追いつき次こそは仕留めようと跳躍する。
「添島!」
全力で添島を心配して腹から声をだす。だが添島は笑って言った。
「俺もな、、、前から進歩してないと思うなよ!?気貯蔵!」
添島は斜めに剣を斬りあげる様に衝撃波を放ち添島は横にズレる様にして獣屍鬼の攻撃を回避しつつダメージを与える。
「グォォォォォオ!」
獣屍鬼は腹に衝撃波を受け体液を噴出するが、その瞬間全力で自分の身体の筋肉を締め付け自ら液体を大量に噴出させた。
「!?」
添島は咄嗟に目の前の巨大なバケツを思いっきりひっくり返した様な量の酸を剣を斬りあげ移動した勢いのまま剣を上空に投げ飛ばして液体にぶつけた。
「ぐわぁぁぁぁあ!」
剣を投げ飛ばした事により直接液体を食らう事は避けたものの剣の面積で全ての液体を防ぎきれる訳もなく、剣を避け降ってきた液体を身体に浴び、添島は身体から煙を上げる。
「グォォォォオオ!」
獣屍鬼は最後の力を振り絞って立ち上がり添島に向かって口を開き噛み付こうとしてきた。それに対して添島は俺達と同じく全身大火傷の状態で皮膚が爛れて膝をついている。
「添島ぁぁぁぁあ!」
添島はどうやっても避けられる状態ではない。これはもう終わりか、、、と思った時だった。添島は拳を握りしめ言った。
「俺はもう心配はかけさせねぇ、、、!気貯蔵、、、螺旋衝撃波!」
添島がそう言い放った瞬間添島の構えた右腕に螺旋状のエネルギーが纏わり付きバネの様に縮み添島が拳を振り抜く、、、その瞬間、
「グォォ、、、!?」
音も無く螺旋状のエネルギー波は獣屍鬼の身体を撃ち抜き、奴は声をだす事も出来ずに倒れた。そして添島の腕も、、、骨が折れている様でぷらんぷらんとしている。
「ぐっ、、、やっぱり使い慣れねぇ物は使うもんじゃねえな、、、そして、貯蔵してた気を殆ど使い切ってしまったぜ、、、また貯めとかないとな、、、」
「倒した、、、のか?」
俺は添島とそこに倒れている獣屍鬼を交互に確認してやっと現状に気がついた。
「添島、、、ありがとう、、、」
「良いって事よ、、、痛ててて、、、」
添島が苦痛に顔を歪めるだが、ちょっと待てよ、、、
「俺たちどうやって戻るんだ、、、!?誰も動けねぇぞ、、、」
そう俺達は今全身大火傷を負っておりまともに動ける状態では無いのだ。その時後ろから声がした。
「やれやれ、、、仕方がないのう、、、」
「!?ジジイ!なんでここに!?」
そう俺達の後ろにはジジイがたっていたのであった。
「今までお主らがどうしても不安での、、、もしもの事があった時に助けられる様にと待機しておったのじゃが、、、今回ので分かったわい」
どうやらジジイはお節介でここに来ていた様だ。だから今まで何かジジイの話は妙に察しが良かったのか、、、そして、ジジイは言った。
「これからは本当にお主らについていかない様にするわいお主らはもう強い、、、大丈夫じゃ、信じるのじゃよ、、、自分をそして仲間を、、、自信を持つのじゃ、、、」
何故かジジイが付いて来ていた事を知った今となっては逆に命綱的ポジションにまだいて欲しくなってくる。だが、俺達はできる大丈夫だ。自分を信じろ、、、そして仲間を信じる、、、そのあとジジイは俺達を全員治療し、拠点まで送ってくれた。装備も修理してくれるらしい。だが、今回正直危なかった筈なのに、俺達に付いていかないと言ったジジイはどこか安心した顔をしていた。