31話 戦略的撤退
さて、主人公達よ考えるのだ。
「かはっ!」
俺は獣屍鬼の攻撃を受け肺から空気を吐き出しながら吹き飛ぶ、、、かん考えるんだ俺!暗闇の中響くのは俺達の悲鳴と獣屍鬼の叫び声だ。そして、俺が導き出した結論、、、
「撤退!」
俺は自分の唇を噛み締めながらその言葉を捻り出す。
「了解、、、!」
近くからあまり乗り気では無いが返事が聞こえる。手遅れになる訳にはいかねぇんだ!このままでは俺達はなす術なく敗北する!悔しいがここは撤退が最適だと俺は思っている。壁を伝い俺達は扉のある場所まで移動する。そして
(ギィィィィイ)
誰かが扉を開けた様だ。その音のする方法へ俺達は移動しボス部屋を抜けた。
「がはっ、、、はぁっはぁっ、、、くそ、、、何なんだ一体、、、今の俺達じゃ歯もたたねぇ!」
扉を閉めボス部屋前の地面に寝転がり息を落ち着ける。そして添島が腹が立った様に言う、、、そして、
「いや、違う、、、厄介なのは奴の能力だ、、、あれをどうにかできれば、、、」
そう、厄介なのは俺達のマナの力を乱し魔法もスキルも使えなくしてしまう能力だ。そして、あのボス部屋も暗闇だ。だから俺達は視界を失う。それなのに奴は俺達を何かしらの方法で感知できる。嗅覚か、聴覚か、温度色彩か、、、その方法は分からないが奴が俺達を感知出来なくなったとしても俺達が奴を視認できなくては意味が無い。攻撃のリーチや威力は奴の方が上なのだ。俺達が視認、、、!?マナを使わない力で俺達が奴を視認出来たら、、、そう、例えば懐中電灯だ。だが此処にはそんな便利な物は存在しない。元の世界から持って来ていれば、、、とか思ったりするのだが無いものはしょうがないだろう。
「おい、マナを使わずに発光する物とかに心当たりは無いか、、、?」
俺はみんなに意見を求める。すると、しばらく考えた後添島が何かを思い付いた顔をしたが、その後に何も言わずもう一回考え直した。どうした?意見があるなら言ってくれよ。
「添島、、、意見があるなら言って欲しいんだが、、、」
「悪ぃ、実は十七階層から出て来たあの輝く虫がいただろ?あいつを使えばいいんじゃ無いか?とは思ったんだが奴等は仲間同士で自分達のマナを共鳴させ甲殻で反射させて体液に着火して威力を増大させた火炎弾を撃ってるだけだ、奴等が光っているのはマナの力が大きいから無理だと思ったんだよ、、、」
添島が残念そうに答える、、、だが、良くその言葉を聞いて俺は閃いた。マナを反射させる甲殻、、、共鳴、、、!?
「添島一つ聞くぞ、、、その虫が身体を共鳴させる時は何も無い状態からいきなりマナ単体を反射させるのか?」
俺のその言葉にこの場にいる全員がはっとした表情をした。
「いけるぞ、、、」
添島が拳を強く握りしめる。
「だが、あの虫を原型を保ったまま捕まえるのは至難の技だ」
亜蓮が頭をかきながら言う。だがそこでお前が活きるんだ。
「まぁ、色々策はある、、、取りに行こうじゃねぇか、、、輝く虫をな、、、そして、俺達も光を掴みに行く!これは単なる撤退ではない!戦略家的撤退なんだ!」
俺は何処かで聞いた事のある様な台詞を吐き一旦拠点へと転移し準備を整え十七階層へと転移した。ボス戦で大分体力は消耗したものの、重光の回復魔法で普通に動く事は可能になった。まぁ、少し動きには支障が出るが十七階層の敵程度ならば大丈夫だろう。どちらかと言うと敵の数が多い十五階層とかの方が厳しい。
(ブゥゥウン!)
十七階層へと転移した俺達は直ぐに遥か上空にひためく虫の姿と羽音を捉えた。
「作戦決行!」
「えい!」
俺の合図に合わせて亜蓮が大蜘蛛の糸で作った強固な糸を上空へと飛ばし、見事に虫の集団を捉え虫達を捕まえる、、、だが、
(ドォォォオン!)
虫たちは網の中で発光し始め一斉に大爆発を起こす。そして、虫の身体は粉々になり一切残らず残ったのは降り注ぐ火の玉だけだった。
「やっぱりか、、、次行くぜ!」
「えい!」
「重光!今だ!」
先程と同じ様に亜蓮が網を虫に投げつけ虫達に命中し虫達が発光し始めた所で重光に合図をする。
「大水球!」
大量の水の塊が網の中の虫達を包む。すると、、、虫達は爆発しなかった。やはりそうだ。光の屈折率が水中と空中で違うのと同じ様にマナの屈折率も水中と空中で違った様だ。俺の読みは当たった。このまま俺達は虫達を窒息させ、一匹ずつ丁寧に息の根を奪って行く。そして、俺達の手元には数百匹の輝く虫達がいた。だが命の灯火を失った虫達は輝く事は無かった。
「駄目か、、、これどうやって使うんだ、、、」
添島が虫達の死骸を眺めぼやく。だが、虫達を裏返してみるとほんのりと身体をの一部と管の様なものが光っているのが見えた。
「いや、これは微かに光ってるぜ、、、恐らくこいつの体液があの光の溶媒だったんだろうな、、、重光、、、こいつにマナを流しこんでみてくれ」
恐らくマナを流し込めば光るか、爆発する筈だ。
「ええ、これ爆発しないわよね、、、?」
重光が俺を疑う様な目で見てくるが知らん。爆発すればあの虫の攻撃の溶媒がこの虫の体液である事が明らかになる筈だ。
「はぁ、、、行くわよ、、、」
重光も観念したようでマナを虫の体液の入った容器にマナを流す。するとその容器が発光し始めた。そして、
「!?」
重光は何かに気づき咄嗟にその液体を容器ごと遠くへと投げた。そして、
(ボン!)
案の定その液体は容器ごと爆発した。だがこれで分かった。使えるぞ。奴に勝てる。
「これで分かった。これは元々蛍光塗料みたいなもんだ、、、そして、マナを加えると更に発光し、爆発する、、、これなら奴に勝てるぞ」
俺の説明に皆はまだ理解が追いついていないみたいだ。
「そして、この虫の甲殻、、、これはマナを反射する、、、これがあれば一瞬でも奴のマナ阻害を避ける事が可能かもしれない、、、あとは分かるだろ?」
俺が力説すると重光が疑問の声をあげる。
「この虫の甲殻はマナを反射すると言ってもこの前私が魔法を撃った時は普通にダメージが通ったわ、、、あれはどういう事かしら?」
確かにそう思いがちだだが、
「もしも、獣屍鬼の咆哮が単純に周囲のマナを振動させて俺達の周りの空間のマナを狂わせていたとしたら?そうだ。具現化する前のマナは無効化出来る。何故なら形成する前に破壊されてしまうのだから!つまりこいつも一緒だ!具現化する前のマナしか反射させない。つまりあの時の重光の魔法はもうすでに爆発に変わっていただろ?だから効いたと俺は考えた」
俺が話すと皆が目を見開いた。そして俺は言った。
「ありがとう。これで材料は揃った、、、さぁリベンジマッチと行こうか?」
こうして、俺達は獣屍鬼に通用するかもしれない策を打ち立てたのであった。