30話 屍鬼
やっとボス戦ですね、、、どんなボスなんでしょうね、、、?タイトルから察し、、、ゴホン。
「よし、行くぞ!」
俺達はジジイに新しい武具を作ってもらい、二十階層に来ていた。
「相変わらず暗いな、、、」
二十階層はやっぱり暗かった。そして
「動光」
重光が光を付けるとそこは洞窟が一直線に続いている様に見えた。やはりボスがいる階層は作りが簡単になっている場合が多いようだ。
(ジュワッ!)
「屍鬼か、、、」
俺達はこのエリアに来てから幾度も遭遇し聞き慣れたモンスターの名前を呟く。そう、屍鬼が俺達に向かって酸を吐いて来たのだ。正直屍鬼は弱い。面倒なのは屍鬼と戦っている時に出てくる色んな他の敵だ。ここは軽く走り抜けてしまいたい。できるだけボス戦までは体力を温存したいものだ。
「走り抜けるぞ!邪魔な奴だけ斬れ!」
添島も同じ事を考えていたらしく指示を出し、俺達全員が走り出す。
「ギィィィィ!」
地面からは地屍鬼が走り、空中からは屍鬼が滑空してくるが俺達は難なく迎え撃つ。
「火球」
「ギィィ!」
空中から滑空してきた屍鬼に向かって重光は火の玉をぶつけ焼け落とす。重光の魔法制御も上がったお陰で今までと違い重光を庇いながら走り抜ける必要が無くなりよりスムーズに先に進めた。そして、重光がファイアボールを撃ったのにも関わらず、あの厄介なムカデが出てこない事にも気づいた。ここにいる敵も屍鬼と地屍鬼だけだ。それと一方通行な事もあり割と直ぐにボスの扉前についた。
「ちょっと明かり消すわね、、、」
俺達の後ろを確認した重光が明かりを消す。そして、詠唱を始め暫く経った時俺達の後ろからずっと俺達を追いかけていたであろう屍鬼と地屍鬼達の足音が聞こえ出した。そしてその足音が大分近づいた時に重光はほくそ笑み言った。
「一掃するわよ、、、深炎」
重光がそう唱え地面に手を翳す、、、すると俺達の後方、、、屍鬼の方だろう。重光の手のあたりからゆっくりと景色が徐々にゆらゆらと歪み始めた、、、そして、
(ボッ!)
ガスバーナーなどで火が付く瞬間みたいな感じの音がすると、そのゆらゆらと歪んだ部分に火が付き次々とゆっくりと乗り移って行く、、、そして
「ギィィィィィィ!」
俺達の方へと向かって来ていた屍鬼達の断末魔が聞こえた。屍鬼はもがきながらもこちらに向かって来ているが、この炎はじわじわと対象の身体を焼いて行く。重光がこの魔法を放った方向は一帯が火の海と化していた。だがその火は消える事が無く、ごうごうと燃え続けている。モンスターの断末魔が消えた頃重光は地面から手を離した。すると炎は暫くは燃え続けたがそれから火は消えた。
「おい、重光、、、今の魔法は、、、?」
見た事の無い魔法に俺達も驚き声をかける。
「今の魔法は深炎さっきは元々とは少し違う使い方をしたの。この魔法はね、元々対象に燃え続ける炎をぶつけたりする魔法なの。制御の仕方、込めるマナの量によって威力や持続時間、そして範囲も調節できるの、、、そして、さっきみたいに身体が触れていると遠隔でマナを供給させ続けて永遠に燃えさせる事も可能ね、、、ただ、瞬間的な威力や発動速度的には普通の火魔法で攻撃した方が威力は出ると思うわ」
重光はかなり詳しく新しい魔法について説明してくれた。成る程、打点を稼ぐ魔法では無いらしい。だが、この魔法は妨害やサポートにもってこいの魔法だ。特にマナリンク持ちの重光なら最大火力で永遠に運転させる事も可能だろう。まぁ、使い道は少ないかも知れないがな。いっその事この階層に入った瞬間使えば敵をはなから一掃できたのでは?と思うかも知れないがそれは無理だ。さっき重光が撃った深炎も範囲は十メートルあるか無いか位だったと思う。いや、無かっただろう。そして、屍鬼もその炎の中を二、三メートルは歩いて来ていた事から重光の説明通りそこまで火力は無いだろう。だが、火力の持続性や罠的な意味で言えばこの魔法は使えるだろう。この魔法で二十階層で追ってきた敵を返り討ちにした俺達はボスの扉を確認した。
「準備はいいな?」
周りは全員肯定の意を示す。そして俺達はボスの扉を潜った。
(ギィィィイ)
扉が開く音がして視界が、、、開けなかった。扉 俺達が扉を開けた先は今までの階層と同じく、真っ暗だったのだ。
「動光!」
重光が光源を展開し、俺達は辺りを確認する。そこは今までと同じく洞窟で、ドーム状になっていた。そしてそのドームの壁には沢山の穴があり、いかにも何かが住み着いている感じがする。そして、中心にいる大きなモンスター。これが二十階層のボスである。そいつは体長は前回のシャコと同じく五メートルは優に超えている。身体はどこかヌメヌメとした感じがあり、テカっており長い体毛がその皮膚に薄く生えている。そして長い腕な長い指。肘から下は全部地面についている。そして翼の退化したものだろうか?肘の辺りに膜が微かにあるのが確認できた。そして顔は大きな顎から長い牙が歯茎ごと露出しており口に収まっていない。目は退化しており目があったであろう部分に血管が集中しておりどこか気持ちが悪い印象を受ける。そして、大きく発達し尖った耳が特徴で微かな音も聴き逃しそうにない。頭のサイズだけでも俺達を超えており、噛みつかれたりしたら俺達の身体が二つに分かれそうだ。更に喉には発達した発声器官の様な物が見え、相当な音を立てることができると予想する。四つん這いで立っている姿はほぼ地屍鬼の上位種の様な雰囲気を感じる。
「な、確かあれは獣屍鬼!?気をつけろ!マナ、、、」
添島がそのモンスターを獣屍鬼と言った瞬間だった、、、
「グォォォォォォォオ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
獣屍鬼が大きな鳴き声を上げ突風が巻き起こる。俺達は耳を塞ぎながらも吹き飛ばされる。そして、
(ブチッ!)
俺達の前から光が消えた。
「重光、、、!光を!」
「駄目っ!使えない!」
どうやら魔法を狂わす効果を持っているらしい。やはり地屍鬼の上位個体か、、、同じ技を使ってくる、、、だが、俺達には光を獲得する方法がまだ他にもある、、、そう
「属性付与火雷!」
残念ながら俺のエンチャントは魔法じゃない、、、これなら、、、!?
「何っ!?」
そう、使えなかったのだ。そして、俺は気づいた。マナだ。奴の攻撃は魔法の制御を狂わしているんじゃない、、、マナを狂わしているんだ、、、地屍鬼は魔法だけだったがこいつはマナを狂わせる、、、か、、、ヤバい、、、もしかして、、、
「!?」
「嘘っ!?」
やはりだ、添島と山西も同じだった。添島の気と山西の身体強化も使えなかった。
「ギィィィィイ!」
「ぐわっ!、、、」
俺達がスキルや魔法が使えず戸惑っていると近くから添島の声と獣屍鬼らしき声が聞こえた。恐らく暗闇の中獣屍鬼の攻撃を食らったのだろう。絶望、、、撤退、、、恐怖、、、色んな言葉が俺の頭をよぎる。そして
「ギィィィィイ!」
「かはっ!」
俺も暗闇の中獣屍鬼の腕と思われる物に身体を薙ぎ払われ吹き飛ばされた。威力は前回のシャコよりは低めだが、これも数発食らい続けると危ない。俺はこのスキルも魔法も使えない中冷や汗をかきながら必死に獣屍鬼とまともに戦う術を考えるのであった。