292話 大天使之騎士団
思ったよりもかなり早く、六十一階層を突破できた事に俺達は驚きつつも周囲を見渡す。
恐らく、六十一階層と言うのはあの梯子が上空から降りて来た所からなのだろう。それから小さな天空島はかなりの高度上昇した。
うん。そう言う事と割り切っておこう。深く考えてしまっては負けな気がする。
六十二階層……なんら六十一階層と変わりは無いな。ただ、花畑の様な物は存在せず、空中には大きな翼を生やした天馬などが飛び回っており、地上では一つ目の巨人が巨大な棍棒を持って眠たそうに大きな一つ目をパチクリとさせながら地面に座っていた。その姿も大きさがもう少し小さければ可愛さすら覚えただろう。
六十二階層はどちらかと言えば新たな階層って感じよりは六十一階層の延長線上にあるって感じの階層だな。先程までは殆どのモンスターが受動的で草食のモンスターだったが六十二階層は地上でのんびりしている巨人を見るとそうでも無さそうだ。
あののほほんとした態度の巨人を見るとあの巨人までも実は受動的なモンスターなのでは無いか?と疑いたくなるレベルだけどな。
だが、このエリアのモンスターは見かけによらない。見た目で侮るなどそれこそ言語道断である。
まぁ、先程の五十メートル級の大きさを誇るジャックズジャイアントと比べるとあの一つ目の巨人……キュクロプスは大きさ十メートル程と、かなり見劣りするサイズではあるが巨大なのには変わりは無い。
良く考えてもみて欲しい。五十メートルと言うサイズが規格外だとしても、高さ十メートルと言えば三階建てのアパートの屋上まで位の高さに相当する。
それを考えるとキュクロプスでさえ、どれだけ巨大な存在かは想像するのは容易い事だ。
俺達が本当に豆粒の様に見える。
何度も思うけれどそう考えるとヒュージトレントやっぱりデカすぎるよなぁ……幹の外周だけでキロ単位ってどんな大きさだよって感じだよ。
あいつ一体で小さな町を覆い尽くして影で閉ざす位の大きさはあるぞ?中身腐って無かったらマジであの時で俺達は詰んでたな。
キュクロプスの身体はゴツゴツと浅黒い翡翠色をした皮膚を持ち、皮膚の表面は岩石の様に硬く、大量の角質が表面を覆っている。
服は着ておらず、例のブツは弱点になり得るので体内の中に収納されて外からは確認出来ない。鋭く尖った爪と人間と比べて異常に長い犬歯が獰猛さを強調しているのに対してクリンとした青い瞳はギャップを誘う。
頭には一本の小さな角……?いや、コブの様な物な出っ張りがあってかなり硬そうだ。
だけど、鱗の様な物などは無い為、あの岩石の様な皮膚さえ貫ければ倒すのはそう苦でも無いと俺は主観的に感じる。
キュクロプスはまだ、見た目で何となく戦闘スタイルも分かるし、強さも何となく想像出来るからまだ良いんだよなぁ。
と言うか、空高くを飛び回っている天馬も気になる。まず、天馬ことペガサスって世界に一匹しかいない貴重な伝説の生き物だよな?こんなに沢山居て良いのだろうか?
いや、まぁ、そんな事に一々突っ込んで居たらキリが無いのは確か何だが、やっぱりそう言うの気になるなぁ。
天馬はその名の通り天を走る馬だ。巨大な鳥の様な翼を一対もち、体には純白の美しく長い毛がぎっしりと生えている。その毛は光を受けて反射して輝く程白い。
頭には金色の毛が生えており、美しい真紅の瞳と青色の瞳を持つ個体がペアで空中を飛び回っている。
恐らく、赤いのがオスで青いのがメスだろうが……リア充爆発しやがれ。後は身体に紫電を纏っており、雷を扱う能力がある事が予測できる。
見た目はほぼ神秘的な馬なので、あまり強そうじゃないけれど、怒ったらあの豚みたいに強いんだろうな。ピ○チュウ!十万ボルト!的な感じで攻撃したりするのだろうか?いや、それはネズミか。
実際馬って近くで見るとかなりデカイし、割と不細工な面をしている。だから、実際に馬面と言う言葉もある位だ。
だが、この天馬達は現物を見ても不細工に見えない。それどころか、とても凛々しく見える。まるで、絵に描いてある馬の様だ。
草原の草木の高さはほぼ気にならないレベルまで短くなり、綺麗な雑草と言われても違和感無いレベルで乱雑に地面に生えている。
これならば、ほぼ火属性の魔法を使っても、延焼の危険性は無いだろう。やっとこれで俺の得意属性を使える訳だ。
天馬などの雷属性に耐性がある敵が割と多そうなので、あまり雷属性の攻撃を撃たない方が良さそうだ。
地上では雷鳥の様な小さなとりや、純白の子鹿など様々な可愛い生物も生息しており、若干俺達の気を緩ませる。
しかし、遠目に見てアンゲロス達が隊列を組んでこちらに迫って来ているのが確認出来た。
向こうはまだこちらを見つけてはいない様だが、気付かれると面倒だ。そして、その隊列を率いる一回り大きな天使はアークアンゲロス。
二対の巨大な翼を持ち、アンゲロスと違って兜の角がクワガタの様になっているのが特徴である。アンゲロスの黄金の飾り気の一切無い鎧に比べると若干意匠を凝らしてあり、胸の部分には獅子の顔の紋様が刻まれていた。
その他の部分はあまり変化は無く、若干突起物が増えていると言った程度だろうか。
遮蔽物の無いこの草原では、体長十メートルを超える体躯を持つアクアがいるとすぐにバレてしまう。
アクアを上空に飛ばした俺はアークアンゲロス達の隊列を避ける様に迂回してアークアンゲロス達の様子を窺う。
アークアンゲロス達の隊列は元々俺達がいた場所で隊列を止めて潰れた草を確認してしゃがみこんで何かをしている。
後ろを振り向きながら小さくなっていくアークアンゲロス達の姿を確認した俺は心の中でガッツポーズを浮かべて草原を真っ直ぐ駆け抜けた。




