26話 言葉無き試練
「おお、お主ら、、、全身ビショビショではないか、、、今日はどうやら洞窟の水辺の所に行ってきたって感じじゃのう、、、その感じからしてまだ突破はしてないと見た」
俺達が帰ってくるなりそうそうジジイがビショビショに濡れた姿を見て考察を始める。当たってるけどな。そして、ジジイはなぞなぞを出す時のようなお茶目な顔で言った。とは言っても一切可愛くは無いが
「水が溜まっている所はかなり動きにくかったのでは無いかのう?勿論進行速度も遅くなるし、敵への対処も鈍くなる、、、」
正直当たり前の事を言い過ぎててこれではジジイが何を言いたいのかが全く分からないぞ、、、?
「そうだ。それに困ってしまってな、、、それで今日は何か作戦を立てて明日また挑もうと思ってるんだ」
添島が答える。そうなんだよ、、、そうなんだが策が中々浮かばないんだよな、、、前のようにデコイを仕掛ける事も出来ないしな。
「そこはこのお爺ちゃんがヒントをやろう」
「いらないです」
何人かが拒否する。ジジイやっぱり信頼されてないな。というよりジジイの提案は最初は断るのが定番化してきている。ジジイの策はジジイが経験豊富なだけあって実際役に立つ物ばかりだった。聞かないと言う選択肢は無いだろう。だがジジイをからかうのも最近の俺達の楽しみにもなってきたのだ。大体このジジイは一回断ると必ずと言うほど、、、もう一回は、、、
「そこはお願いだから聞いて欲しいのじゃぁー」
駄々をこねる。最初はキモいとか思ってたが今は、、、いや今もキモいな。
「分かったから、、、爺さん話を聞くから、、、その気持ち悪ぃ顔やめてくれ」
亜蓮が言う。うん。俺も同意見だ。からかっておいてこの有様いつもの事である。
「気持ち悪ぃ、、、てコホン、、、。ではヒントじゃ、、、今までの洞窟エリアの階層で視界が見えないとかそう言う時はどうしてたのじゃ?」
ジジイは多少落ち込みながら言った。ん?どう言う事だ?洞窟エリアの階層で視界が見えない時、、、普通に重光に魔法を使って貰ってたな。
「私が魔法を使って光で照らしながら進んでいました」
重光が答える。
「終わりじゃ。つまりはそう言う事じゃ、、、深く考える必要は無い。策なんて幾らでもある、、、今まで通りにすれば良いのじゃよ」
ジジイはそう言って歩き去ってしまった。飯の時間になったら自分を呼ぶ事を忘れずに俺達に伝えて。え?それだけ?どう言う事なんだ、、、今まで通り、、、重光に魔法を使わせて、、、!?そう言う事か!
「おい!重光!お前水中とかでも水を避けながら俺達が普通に移動できる魔法とかってあるか?」
重光に尋ねる。
「うーん、、、そうね、、、私が出来る中では無かつたと思うけど、、、風属性の魔法を応用すれば出来なくは無いかもね、、、明日試してみましょう!」
重光の合意によって俺達の洞窟の水辺突破作戦が完成した。全ては重光次第だ。洞窟エリアではずっと重光に重荷を負わせてるようで悪いな、、、だが仕方がない事だ。それが最善で俺達が進める道なんだ。それから俺達は次の日の準備をし、生臭い飯を食い就寝した。そして、次の日俺達は起きてから飯を食い直ぐに準備に取り掛かる。
「策は理解したようじゃの?」
ジジイが準備中の俺達にニヤケながら声をかける。
「ああ、一応な」
「無事行ってくるのじゃぞ」
ジジイの言葉に頷き俺達は転移碑を使い十八階層へとワープした。
「ワシも何処かで付いていくのを止めるタイミングを見計らう必要がありそうじゃのう、、、」
ジジイは俺達が居なくなった後に呟き俺達と同じ様にワープした。
(バシャ)
「ふぅ、、、また来たか、、、重光、もう少し奥まで行って水深が深くなって来たら試してくれないか?」
「分かったわ」
足が濡れるのは嫌なのだが、ここで水を避けたって重光の魔法がどんなものか分からない以上あまり効果があるかは分からない。重光の魔力は無限供給されているから別にここで使っても良いのだが、念のためだ。そして、少し進み、水深が俺達の膝くらいまで来た時に重光に魔法を使う指示を出す。
「重光、、、使ってくれ」
すると重光は詠唱を唱え始め俺達の足元の水面が波を立てる。そして、
「外旋風!」
重光が詠唱をし、俺達の足元に旋風が巻き起こる、、、だが、このままでは俺達も動けない、、、しかし重光はそのまま旋風の中心の目の部分を徐々に広げていき、そのまま俺達全員を覆う形にした。台風と一緒で中心の風はなだらかで周囲の水を給水しながら肥大化していく。がこれだと視界が悪い、、、そこで重光は視界をクリアにする為にもう一つの魔法を唱える。「乾燥!」
これは火属性魔法の応用だろう。これで水面から巻き上げた水は蒸発し、俺達はクリアな視界を手に入れる。これなら、重光が使った魔法の範囲から内側には水は入って来ない。完璧だ。これで水中戦でも問題なく動けるだろう。だが一つだけ問題がある、、、それは、、、
「、、、」
重光は常にこの二つの魔法を制御しながら進まなくてはならないと言うことだ。前も言った通り重光は並立詠唱が難しく、少なくとも攻撃魔法との同時使用は今の所は出来ない。そして、現在簡単な魔法の応用とはいえ、、、重光は二つの魔法を同時に扱っている。重光への負荷は相当なものだろう。だが、ある意味これは重光の魔法制御の訓練になるかもしれない、、、ジジイはこれを知ってて敢えて重光にやらせる方法を選ばせたのかもしれないな、、、とひと段落ししばらく足場にも困る事も無く順調に進んだ俺達だった、、、勿論重光はずっと魔法制御をしており苦しそうだが、魔力はほぼ無限のようなものなので大丈夫だろう。その時だった。
(ドドドドドドド!)
またあの地震が起こる。
「くっ、、、またか!」
「キシキシキシキシ!」
そう。また出たのだあの巨大なモンスターが、、、そしてそのモンスターは俺達の方を向き突っ込んできた。
「来るぞ!」
そして、俺達とこの巨大なモンスターとの戦いが始まるのであった。