265話 危険な旅路
永遠かと思える程先が見えない雪道を蹴って俺達は走り始める。
本来であれば、この走ると言う行為は足場も悪い事から体力の消耗を加速させ、視界も悪い為に仲間と離れ離れになる事を誘発させる。
だけど、先程のモンスターとの戦闘で軽くあしらう事が可能だと言う事に気が付いた俺達にとって多少体力を消耗した所で特に問題は無いだろう。
まぁ、この視界の悪さだとオートマップもあまり役に立たないからどちらかと言えば方向音痴である俺を先頭にして走ると迷子になりかねないと言うのは事実ではあるがな。
しかし、見えている視界の分はオートマップに記載されるので、チラチラとオートマップを確認しながら走ればそんな事も起こらない筈だ。
今更だが、かなり便利な物をジジイに貰ったものだ。
そこから何度か戦闘をこなして進むと雪道の傾斜は大きく変化した。
流石に、本気で走ってはいないとは言っても、このゴツい防具を着込んだ状態で走り続けていれば、汗もかくし、疲れる。
本気で走っていなくてもこの悪い足場で時速四十キロ近く出ていた気がする。
それはあくまで体感でだが、多分気のせいでは無い。
勿論、走れば足音も大きくなり、地面に痕跡も残ってモンスターに感知されやすくなる。
だが、フロストバイトリザードとの戦闘で流し戦闘でも敵を仕留められる位の戦闘力が自分達にある事は理解している。
だから、特にモンスターが襲って来たところで問題は無いのである。
フロストバイトリザードが弱かったと言う可能性も考慮した。
相性の問題も有ったのかもしれないが、フロストバイトリザードはどちらかと言えば防御と攻撃寄りのステータスで、動きはどちらかと言えば鈍い。
ただ、瞬発的な速さはそれなりにあるので注意が必要なモンスターだ。
だけど、一番のフロストバイトリザードの強さは状態異常攻撃だろうな。
海階層のモンスターと比べても普通に強いと俺は感じたから別にフロストバイトリザードは弱くは無い。
そのフロストバイトリザードの装甲を一撃で貫通させる事が出来たのだから俺達が過信しても仕方がないのでは無いだろうか?
途中で出会った、ブリザードフラワーと言うとあるゲームに出て来そうなモンスターがいたが、コイツがこの階層の猛吹雪の原因だったらしい。
地面から巨大な頭を出して大きな口を開けて獲物を待ち構えている姿はハエトリソウの様に見えなくも無い。
しかし、その頭の大きさは半径十メートル近くある巨大な物だった。
俺はあまりの大きさに一瞬海階層のエリアギミックやエリアモンスターを想定したが、エリアモンスター程の威圧感を感じなかった為、エリアモンスターの可能性を頭の中で俺は排除した。
ギミックモンスターであれば、何処かに仕組みがあるみたいだが、そんな物は感じないさせなかったので速やかに焼却させて貰った。
まぁ、猛吹雪の元凶って言っても多少吹雪を強める程度だがな。
ブリザードフラワーは、地中に埋めている巨大な根っこに三つの器官を持っている。
一つは強力な凍結液を含む器官、残りは熱風を生み出す器官と冷風を生み出す器官だ。
普段は後者の器官を使って、呼吸を行なっており、白銀の薔薇の様な花弁を地に埋めて獲物を待っている。
白銀の花弁を持っているのにも関わらず、薄ピンク色の口?の部分を地上に出しているのは本当に擬態する気があるのか?とも思ったがそこは敢えて突っ込まない。
獲物が近づくと呼吸を行う風に乗せて凍結液を広範囲に巻き込んで食らう。
まぁ、今の俺達には当然効かない訳だが、その大きさと規模故に中々本来であれば厄介なモンスターだ。
白銀の花弁もそれなりの強度と鋭さを持っており、中々突破するのは難しい。
こんな化け物みたいなモンスターがうじゃうじゃいると思ったら寒気がする。
いや、寒いけどな。
傾斜が一気に変わった坂道に足を引っ掛けてゆっくりと登る。
ちょっと休憩だ。
坂道でも同じ様に走る程俺達に余裕は無い。
幾ら俺達が強くなったからと言っても自然相手だとどうしようも無いのだ。
そりゃ、天候さえも変える程の化け物になったなら別にそんな事は無いだろうけど、そこまでの力は正直俺達は持ち合わせていない。
ジジイクラスなら普通にやりかねないけどな。
地球では昔の時代に既に絶滅してしまったダイアウルフに酷似した狼のモンスターは光に反射して輝く毛皮が神秘的だった。
まぁ、奴らは賢い為に、何匹か仕留めたら逃げて行ったので、俺も無差別に命を奪う程心が腐っている訳では無い……筈。
その逃げる姿を追う事無く、先を目指した。
雪道を進めば進む程傾斜はキツくなって行き、俺達はこんなに寒い筈なのに大粒の汗を防寒服の中で垂らす。
正直、気持ち悪いが、この服を脱いでしまえば、一瞬でこの汗は俺達の身体を蝕む霜に変わってしまう。
それに、これは大切な身を守る防具でもある為に外す訳にはいかない。
氷山か……。
氷山と言うのは本来であれば南極大陸とかから分離した巨大な氷塊などの事を言うのだが、俺はこれ以外の表現の仕方を知らない。
氷の大陸って言うのも何か違うしな。
何処かで安全に休める場所を見つけないとな……。
流石に、この猛吹雪で氷山の傾斜も考えると、防護シェルターを置いても吹き飛ばされてしまいそうだ。
防護シェルターもAランク相当のモンスターの攻撃を受けると液体に戻ってしまう。
海賊船は既にジジイに返却したから、俺のマジックバッグの中には存在していない。
魔法や、スキルで休める場所を作るって言っても、空気の穴は作らないといけないし、そうなると強度も不安だ。
雪山だから洞窟みたいな物があれば良いんだけどなぁ。
これだけ吹雪が斜めに打ち付けて来ていると岩肌などが削れて洞窟があっても不思議では無いのだが、この階層に入ってから生憎、地面しか見ていない為、遮蔽物が存在していない。
参ったな。
次の階層まで歩き続ける訳にもいかないだろうし、次の階層も危険な環境の可能性が高い為に中々厳しい旅路になりそうだな。
自身の能力が向上しても、中々骨が折れるなと、防寒具の中で溜息を吐きながら俺は雪道を歩く足を少し速めた。




