263話 雪道
ほぼ完全に新規とも言える武具をジジイから貰い俺は復活した二人に声をかける。
「心の整理はついたか?まぁつく訳無いとは思うがーー」
「「大丈夫」」
俺が宥めようと甘えた言葉を掛けようとする声を遮って二人はスッキリとした表情で言葉を返した。
そうか、二人もやっぱりここで自分達が落ち込んでいたらそれはフローラに対しての裏切りだと区切りを付けたのか。
俺は笑みを浮かべてジジイから受け取った武具をマジックバッグから出して仲間達に支給する。
流石はリヴァイアサンだな。
あれだけ巨大なモンスターだけに、リヴァイアサンの素材の量は多く、それだけで殆どの武具をリニューアル……ほぼ、新規改良する事が出来ている。
素材の品質も、以前の俺達では全力でかかって傷一つ付けるのがやっとのレベル……いや、傷を付けるのもリヴァイアサンが動いている状態では不可能な位の強度と鋭さを兼ね備えていた。
当然、そんな素材の加工も容易い作業ではない筈だ。
相変わらず、ジジイのマルチな才能には嫉妬するレベルだ。
まぁ、これも長年の鍛錬の賜物何だろうな……俺達がこうして簡単に手に入れてしまった力をジジイはずっと一人で鍛えて来たんだ。
それが、弱い訳が無いじゃないか。
再び自己嫌悪に至りそうになる自分をフローラの言葉を思い出して鎮めてジジイが作り上げた武具を装着する。
かなり重いな。
リヴァイアサンの鱗は一枚一枚にずっしりとした重みがあり、今までの防具と比べて明らかに重かった。
だが、自身の肉体が勇者の力によって格段に強化されたからか、今までよりも身体の動きは滑らかで力強く、重さも動きに支障をきたさないレベルだ。
蒼を基調としたリヴァイアサンの防具は内側を分厚いグレートウォールスの皮で覆い、外側はゴツゴツとしたリヴァイアサンの鱗をそのまま使ったシンプルな作りになっている。
そのデザインは今までと比べて色の種類は少なく、青と白の二色で形成されている。
俺達の目の部分には目を保護する為の可動式のガラスの様な物が付いているが、それは一目見てブルーローズタイラントの結晶部分だと分かった。
これならば、あの猛吹雪でも目を開けた状態で行動出来るって訳だな。
重光もローブと言われればローブだが、ブーツもかなりゴツい革素材と鱗素材を使っている為、ローブと言うよりは羽織る鎧みたいな感じである。
武器は当然、リヴァイアサンの巨大な牙などを加工して白銀の刃を持つ美しい刀がジジイから渡される。
鞘や、持ち手にまで繊細にアクアをモデルにした龍の柄が彫ってあるが、正直無駄な才能である。
嬉しいのは嬉しいのだが、何か申し訳ない。
重光の杖の先にはリヴァイアサンから取れた巨大な魔石が綺麗にカットされて、空気中の光を反射してキラキラと輝きを保ったまままた龍の形を模した台座に嵌められている。
全員の武器に龍の姿が彫ってあるが全員姿形は違うものの俺以外の仲間達の武器に彫ってある龍の意匠は全て同じ様な顔をしていた。
まるで、その龍がジジイにとって大事な物であるかの様に……。
偶然だろうか?それを確かめる方法も無いし、偶然の可能性が高いのでそこは頭の片隅に置いておく程度に留めておく。
ジジイから刀の扱いを忠告され、予備の刀を十本近く貰い受ける。
リヴァイアサンの素材が余ったらしいが、これだけの本数をこの品質で短期間仕上げるあたりかなり苦労した事を想像するのは容易い事だ。
実際にジジイは寝た様子は無い。
だが、疲れた様子も無い。
お節介なのか、ただの化け物なのやら……。
ジジイに対しての化け物は俺は褒め言葉だと思ってかけている。
装備を着込んだ俺達は、ジジイにお礼の言葉を述べて、そそくさと転移碑の所に移動して五十六階層に転移した。
その時ジジイは右手を振って俺達を見送りながらも左手で自らの髭を触りながらぶつぶつと独り言を呟いていた。
いや、誰かと会話をしている様子だった。
しかし、あの場にはジジイと俺達以外居なかった。
隠密系のスキルを使える奴又は、技術が俺達を大きく上回る奴ら……それ以外の何か。
話し相手が居たとしても、俺達には今は関係無いな。
俺達の目的は全員で生きて元の世界に戻る事だ!
それが達成出来れば過程なんかはどうでも良い。
俺達は再び五十六階層の洞窟を訪れる。
この装備の素材などを聞いたら分かるが、無茶苦茶暑い。
それこそ、普通に常温の所で着込んだ場合には中がサウナ状態になる程の防熱能力を持っている。
スキルの使用の際に防具は大丈夫なのか?と今更思ったかもしれないが、俺の能力はエンチャントだ。
服の上からでも直接触れてさえいれば発動出来る。
実際に素肌じゃないと攻撃出来ないスキル……それこそ、帝武とかのスキルの様に身体を変化させたりずる能力の場合は薄着をしていなければいけない。
実際、帝武は見えてはいけない物が見えてしまいそうな位に薄着だ。
だが、本人に自覚が無い分、残念美女感が漂っている。
まぁ、帝武ならば、大抵の男がそっち目的で近づいて来ても男が逃げ出しそうだけどな。
一応俺も元高校生だ。
ここではどういう扱いになってるのかは分からないが、まだ年齢的には高校生である。
ここに来て何日経ったかなんて正確には覚えてはいないものの、まだ一年は経過していない筈だ。
まだ半年位だと思う。
正直、時計も無いし太陽も迷宮の中だから正確なのかどうかさえも分からない。
だから、時間はかなり曖昧だ。
もしかしたら一年近く経っているのかも知れないし、まだ数ヶ月かもしれない。
話を戻すが、何を言いたかったかと言うと、高校生であれば、若い女性のそう言う所が見えそうになったらドキドキするだろ?って話だ。
一応、闇智グループも結婚適齢期を逃しかけている年齢ではあるものの、まだ若い。
この迷宮に来てから常に危険と隣り合わせだし、女子二人は間近に居るわでそんなにそっち系の処理も出来ていないんだよ!
ったく……恥ずかしい。
「おい、何かお前顔赤くなってねえか?」
「なってねえよ!て言うか見えねえだろ!」
少し、そっち系の事を考えて熱が上がってしまったのか、猛吹雪の中の筈なのに身体が熱くなる。
「余所見してんじゃねえぞ。一応マナのバイパスで仲間の位置は確認してるものの、離れ離れになってしまったら洒落に何ねえからな」
俺は添島の軽い挑発に乗って顔を少し赤らめて多少ムキになって反論する。
顔の部分は目以外出ておらず、目の部分でさえ、薄青色の透き通った結晶ガラスがあって中の色は確認出来ない筈なのにだ。
添島はその俺の態度が余程面白かったのか笑いながら雪道を歩く。
お前、後でぶっ飛ばすからな。
覚えてろよ?
今まで、視界が悪い階層ではほぼ確実に仲間達とはぐれた。
だから、今回はちゃんとマナのバイパスを仲間に繋げて位置を確認しながら移動している。
流石はジジイ製の防具だ。
この猛吹雪の中で一切の寒さを感じさせない。
それどころかこの温度が丁度良い位だ。
靴が可動式のアイゼンの様になっている所も俺の中では評価が高い。
爪状になった靴の裏はしっかりと地面の雪を捉えて俺達の足を固定する。
脚部分のピストンの蓋を開けて弄れば、その爪は出し入れ可能だ。
ほんとあのジジイは芸が細かい。
俺達はザクザクと音を立てながら限りない雪道を進む。
今回は俺が人間エアコンにならなくて済みそうだな……。
俺はその事に安堵を覚えつつ、ザクザクと言う心地よい音を楽しみながら先を目指した。




