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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
13章 氷山エリア
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259話 勇者

後ろから透き通った女性の声が聞こえ振り向くが、その姿は一切見えない。


今は、こんな事をしている場合じゃない。


添島の怪我を一刻も早く治さないと、添島の命が危ない。


《あの……もう治しましたので宜しいでしょうか?》


は?


再び聞こえ声に俺は思わず声が出そうになる。


何を言っているんだ?添島の腕は明らかに粉砕骨折しており、筋肉組織も壊死しそうなレベルで紫色になっていて人間の腕では無かった。


それをあの俺達が会話していた一瞬の内に治療出来る筈がーー




何だと……?


そんな馬鹿な……。


氷の上に打ち上げられた添島の腕は綺麗に元どおりになっており、添島の身体にはとんでもない濃度で圧縮されたマナが纏わりついており、完全に再生していた。


添島は一度に途轍も無い威力の攻撃を受けた為か、ショックを受けて気絶している。


そして、その添島の上に少女は姿を現した。


身長百三十程の小柄な身長は、小学生と思えて仕方がなかった。


頭には白い装束を纏っている為に顔が見えないが、桜色の透き通った羽衣を纏っている。


羽衣から出たスラリとした白い足には靴を履いておらずよりその少女の奇怪さを引き立てていた。


腰の下あたりまで長く伸びた銀色と金色のメッシュ状に透き通った髪の毛を揺らして少女は話す。


いや、話しているのでは無い。


少女の口は動いているが、耳に音が入ってくる感じは無く、リヴァイアサンと同じ様に念話で俺達に語りかけている感じだった。


《私は元々ロークィンドで召喚された。だけど……ロークィンドでは私達の存在は否定される》


俺はこの少女が言ってる事を理解するのに少し時間がかかった。


ロークィンドで召喚される予定だったと言う事は、勇者として召喚されたのだろう。


だが、その存在が否定されるとはどういう事なのだろうか?


今までの話を纏めるとロークィンドとここの時間軸は世界は違うにしろ、シンクロしている。


元々同じ世界だった事もあってか、時間軸が同じなのだ。


勇者って事は次元の戦争の前に召喚され、次元の戦争の発端とも言える人物達だ。


何故、そんな人物達がここに?


次元の亀裂に巻き込まれてこの迷宮に迷いこんだ?


いや、それでもこの勇者が次元の戦争を巻き起こした人物の一人だと考えるとこの迷宮の世界に移動する為には次元の亀裂が発生した時点でその勇者達がこの迷宮内にいる必要がある。


そう考えるとあり得ない。


次元の戦争の時はその勇者達は戦場で熾烈な争いを繰り広げていた筈だ。


それなら……別の勇者……?


しかし、そんなに簡単に勇者をポンポンと召喚しても良い物なのか?


色んな小説とかでも見るが基本勇者召喚には王家の血筋の生贄が必要だどうのこうので禁忌の術とされている事が多い。


《あの……》


いや、ロークィンドでは勇者召喚がどういう扱いなのかは分からないが、少なくともそんなに簡単に召喚して良いって事は無いはずだ。


《あのぉ……聞いてーー》


勇者召喚とは、別の世界などから自分達の世界に強制的に召喚する術だ。


他の世界に強制的に干渉する事が簡単な筈が無いのだ。


それが出来ていれば、俺達は既にこの迷宮から脱出している。


ん?待てよ……この勇者がロークィンドからここに召喚……?


いや、だが、この勇者はーー


《聞いて下さいよーー!!!》


え、すまん。考えに没頭してて気がつかなかった。


頭の中に甲高い叫び声が響き渡り、俺は眉を顰めながらその声の持ち主である少女の方を見る。


少女は拳をグーの形に握って顔を俺の方に近づけて今にも泣きそうだ。


顔は見えないけど念話の声からして何となくそんな感じがする。


念話って事はそのまま念話で返せば良いのか?


リヴァイアサンの場合はまるで何処かで監視している様な感じだった為普通に声を出して会話が出来た。


アクアの場合契約竜だから、普通に強く思うだけで会話が通じる……だが、この少女はーー


《あ、大丈夫ですよー。私、貴方達の考えている事分かるので》


唐突に先程までの泣きそうな雰囲気は何だったんだとでも言わんばかりにケロッとした様子で少女は念話で衝撃の事実を述べた。


じゃあ、俺がさっきまで考えていた事も全てあの少女に聞こえてたって事かよ……。


とんでもない残念少女だと思っていたが、そんな事は無かったんだな。


最初のお淑やかな口調はどこに行ったのか知らないけど。


《はい、全て聞こえてましたよ?それに私は小学生では無いですし、残念少女って呼ばないで下さいよー。私はロロマ・マジエル・フローラ……》


少女はムッとした様子で早口で喋る。


名前長え……分かった。もうフローラで良いだろ?


俺はフローラの念話を遮って直ぐに呼び名を決定する。


フローラの声、他の仲間達にも聞こえてるんだろうな……。


だって全員フローラの方を見てそれぞれの反応を返している。


ん?それぞれの反応って事はこいつ!?まさか!


《そのまさかでありますよー!五人に別々の念話を送ってるのです!他の人に見えている私の姿も微妙に変えてあるのです!》


こいつ急に元気になったな。


だが、五人に別々の念話と別々の視覚情報を見せながら普通に会話が成り立つのは凄いな。


重光の同時詠唱技術でも今の所三つの同時詠唱が限界だ。


それを考えるとどれだけ並立思考状態が難しいかは分かる。


それに先程添島を治した魔法はジジイが使った全快に近いレベルだ。


で?そんな勇者様が俺達なんかに何の用だ?


まず、何故こんな奴がここにいるのかも分からないし、意味が分からない。


《分かったですか!私は凄いのですよー!簡潔に述べますと私は貴方達に力を与えに来ました!》


予想外の答えに俺は驚き固まった。








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