257話 外部圧縮属性付与
リヴァイアサンは余裕を保った声で俺達を嘲笑うと、海中に渦を発生させる。
やっとあの技を使ったか……。
フィールドの地面が大分砕け散って海面が露出した事により、リヴァイアサンは海を操り始めた。
複数の巨大な渦潮を発生させて、俺達が立っている僅かな氷の足場を渦潮に巻き込み、粉々に砕いて行く。
不味い!このままだと数分も保たないぞ!
数分もあれば、このフィールドの氷は全てリヴァイアサンの作り出した渦潮に呑み込まれて消える。
俺達は、僅かな氷の足場を飛び移りながらリヴァイアサンが創り出した渦潮から避難するが、これも少しの時間稼ぎにしかならない。
複数の巨大な渦潮を作り出したリヴァイアサンは身体をドリルの様に回転させながら海上に身体を出して身体全体に水を纏う。
俺達の上空に大きな影がリヴァイアサンの身体で形成され、大きな水飛沫が槍の様に俺達に降り注ぐ、俺は咄嗟にジジイの海賊船をマジックバッグから取り出して乗り移ろうとする。
だが、リヴァイアサンもその海賊船の素材を見て看過する訳にはいかないと思ったのか空中で身体を捻りながら猛スピードで海賊船に向けて一直線にリヴァイアサンは突っ込んでくる。
そうはさせるか!
この海賊船に乗り込めなければ俺達は終わりだ。
逆に乗り込んでしまえば、俺達の物だ。
アディショナル・インターグレートマジックは放つまでに時間がかかる。
しかし、普通の魔法ではリヴァイアサンにダメージを与えるどころか、足止めにもならない。
チェーンソーの様に回転する鋸状の鱗やリヴァイアサンの圧倒的な質量を前に今回は添島もあまり役には立たない。
亜蓮!頼んだぞ!
俺が亜蓮に目配せをして合図を出すと、亜蓮はそんな事は分かっているとばかりにシャドウウォーリアを発動させた。
シャドウナイトは、速度が遅い上に射程も短く、リヴァイアサンの攻撃の威力では殆ど役に立たない。
亜蓮が取れる選択肢はシャドウウォーリア一択だった。
美しい弧を描いてそれぞれの数十本のマナで形成されたナイフがリヴァイアサンを俺達から突き放す様に空中を飛んで行く。
だが、リヴァイアサンは動かなかった。
動いたのリヴァイアサンでは無く、海だったのだ。
海がまるで意思を持っているかの様に唸り、水の竜巻を作り上げる。
海賊船に向かって氷の上を渡っていた俺達もその竜巻に巻き込まれて空中に弾き飛ばされ、亜蓮の放ったナイフは一瞬にして全て砕け散った。
そして、リヴァイアサンは海賊船のあった場所に頭から突っ込んで行き、海賊船はくるくると空中を舞う。
それを見たリヴァイアサンは黄色い目を大きく開けて驚いた表情を浮かべる。
まるで、そんな馬鹿な……あの攻撃でも壊れないだと?とでも思っているかの様に。
しかし、俺達は今激しい水流に呑まれており、呼吸もままならない状態だ。
インプレスエンチャントを発動するも直ぐに攻撃が海流に揉み消されて何処かへ消えてしまう。
オーバーインプレスエンチャントを発動しようにも、ぐるぐると回り続ける身体は言う事を聞かず、爆炎も冷気も全て無駄な様に感じた。
海流の質量が大き過ぎて、俺達の攻撃が意味を成していないのだ。
無論、他の仲間達も対処出来る筈も無く、海流によって溺れている。
流れる海流の中を猛スピードで回転する氷の破片が俺達の肉体を貫き、水のずっしりとした重さは骨をも砕く。
水属性や聖属性を得意とするアクアでさえ、海流に揉まれて身動きが出来なくなっている。
ヤバい、とにかく海流を止める事が出来なければ……俺達はここで終わりだ。
――遠隔で俺の攻撃を防げ。お前は俺の言う通りにしろ
遠隔で攻撃を……?
少しずつ身体の痛みと共に薄れて行く意識と共に俺の頭の中で闇智の言葉が反復される。
内側からじゃなく、外側から……?
オーバーインプレスは内側……外側はレゾナンス……?
違う。
俺は気がつくと、自然にその動作を行なっていた。
バイパスを自分の内側から拡げる様に外側に広げてマナを込める。
その直後からビキッと言う何かの亀裂が入る音が響き、水が中に流れ込む。
水が流れ込んだ?
つまり、水が流れ込むと言う事は海流の水がどこかで切れ、空気が入り込む空間が出来たと言う事だ。
俺は全てのマナを使い切る勢いで全身にもマナを込めて外部に放出しているマナも一気に圧縮させて拡大させる。
白く輝く、壁が俺の周囲で拡大されて行き一気に範囲を広げる。
そして、その壁は海流の竜巻を内側から侵食して巨大な球状の氷玉となって海流を食い止めた……いや、違う、凍らせたのだ。
そして、その氷の球の内側から俺はオーバーインプレスエンチャントを発動させて氷の球の中で自然落下を始めた仲間の元に即座に向かい、腕を掴み、氷の球を内側から突き破って勢いよく外に出る。
アクアも復帰して残り二人を抱えて、俺の突き破った穴から脱出する。
氷の球の亀裂は徐々に大きくなって行き水が中に流れ込む。
そして、大きな音を立てて氷の球は破裂した。
粉々に砕け散った氷の破片がキラキラと空中を舞い、水が反射して輝く。
そして、俺は空中を舞っている海賊船に向かって自身の身体の軌道修正をして勢いよく海賊船に向かって飛んで行く。
既に俺はマナが残っていない。
添島と亜蓮は俺がオーバーインプレスエンチャント状態で腕を掴んでしまった為に腕に火傷と裂傷を負っている。
船に勢い良く叩きつけられた俺はその反動で大きく咳き込み仲間達の手を離す。
そして、直ぐに船の中に避難させて貰った。
自然落下を行う魔導海賊船は下から怒りの形相で向かってくるリヴァイアサンに向けて真っ直ぐと落ちて行く。
「リヴァイアサン!お前はもう終わりだ!」
《今何が起こっタ!ソシテ、その船ハ何ダ!》
一気に想定外の物事が進行した事に動揺したリヴァイアサンは声を荒らげて念話で俺達に問う。
「俺の新技外部圧縮属性付与とでも言っておこうか?この船は文明の利器だ」
《だが、ソノ強固な船に乗った所で儂を倒せるとデモ思っているノカ?》
リヴァイアサンは現実を逃避する様に焦りを見せ、余裕ぶるが、それはお前程の強さを持つ者ならば分かっているだろ?リヴァイアサンよお?




