24話 デコイ作戦!
前日洞窟の踏査に入った俺達は再び迷宮の十六階層に来ていた。今度こそはは昨日行って分かった事を生かして迅速に次の階層に辿り着来たい所だ。敵は目が見えない変わりに他の感覚が優れており獲物の察知方法は様々だ。それで俺達は策を練って来た。罠だ。デコイを仕掛ける。そして、もし見つかってしまっても重光の魔法を解除する必要は無いだろう。これで完璧だ。今俺が持っているのは重光が魔法を込め、衝撃によって起動する特製玉だ。俺はこのサッカーボール程の物体に指をかけ俺達の進む方向と逆向きに投擲する。
(パリィン!)
ボールが落ちた辺り一帯に霜が降りる。そして案の定
(ズズズズズ!)
例の百足達がデコイに向かって集まっていく。「途中までは昨日の探索で地図は出来ている。奴らがデコイに群がっている内に行くぞ!」
そう言いながら俺達は走り出す。
「ギィィィイ!」
屍鬼だ。だが俺達は気にせず走り抜ける。そして、それに合わせて滑空して来るが昨日の事から一瞬でも躊躇して足を止めると囲まれる事位は分かっているので滑空してくる屍鬼を走りながら葬る。そして、俺達はデコイを投げながら走り抜ける。そして囲まれる事も無く順調に進んだ。デコイのお陰で足元よりも周りに注意を割けた。これは大きい。このエリアは敵とまともに先頭をしては駄目だ。そして俺達は昨日あれだけ苦戦した十六階層を突破し、十七階層への階段を下る、、、そこには
「うわぁ!?すげぇ!」
「綺麗!」
とても洞窟とは思えない程幻想的な光景が広がっていた。辺り一面が青く輝いており先程までの暗さが嘘のようだ。そして、ここならば重光の動光が無くても問題ないだろう。だが十六階層と比べて天井がかなり高い気がする。十六階層の天井は暗くて良く見えなかったから勘違いかもしれんがな。
「光源は確保できたが油断はするなよ?」
添島が注意を促す。勿論それは分かっている。と思っていた時期が俺にもありました。
(ベチャ)
添島が注意を促した矢先に何かが俺の腕にくっ付いた、、、そして
「うわぁぁぁあ!」
「安元!」
(ブチッ)
俺はそのくっ付いた何かによって遥か上空へ打ち上げられて行ったが亜蓮の咄嗟の投擲により俺は助かった。だが、、、
「ありが、、、」
「伏せろ!」
添島の怒号が飛ぶ、、、そして、、、
(ドン!)
上空から火の玉が降って来たのだ。やっぱりここも走り抜けるしか無いのか!?と思い、俺は立ち上がりまだ次々と降ってくる火の玉を刀で両断しながら気づいた。あの光、、、!?あれは壁じゃ無い!生き物だ!そう俺が見たもの、、、それは先程の光り輝いており幻想的な景色を創り出していたのは大量の身体を発光させた昆虫だったのだ。その昆虫達はその輝く身体を互いにかち合わせながら火の玉を作り俺達に次々と落としてくる。あの遥か上空に攻撃できるのは重光しかいない。だが、奴らを倒すと光源が無くなってしまい、再び重光が使えなくなってしまう、、、このまま火の玉が降り続く中探索を続けるか、、、それとも、、、いや、ここは倒すべきだ。そう考え重光に指示を出す。
「重光!あの空中一帯を吹き飛ばせる様な魔法はあるか!」
俺が重光に問いかけると重光は待ってましたと言わんばかりに魔法を詠唱した。
「あるわ!連鎖爆発弾!(チェインエクスプロージョン)」
重光もここまで魔法を撃てなくて溜まっていたのだろう。重光が魔法を唱えた瞬間だった、、、
(ドドドドドドド!)
遥か上空、、、あの輝く昆虫がいる場所が次々と爆発し、爆炎と黒煙に包まれる。あれはもはや炸裂では無く爆発だ。そして、爆発が終わると火の玉は降り注いで来ることも無く、俺達の視界に映る光は爆発による淡くて赤い世界である。その光も長くは持続しない。次第に薄れていき辺りは再び暗闇に包まれた。
「動光」
そして今まで通り重光が光源を展開する。
「スッキリしたか?」
俺が重光に聞くと縦に首を振った。やっぱり溜まってたんだな、、、たまには重光に魔法をぶっ放させる必要がありそうだ。やるなら安全な所でやって貰いたいものだ。そして、洞窟と言うこともあり、火を使っても大丈夫なのだろうか?とか思ったが実際大丈夫なのだろう、、、だが出来るだけ使って欲しくは無いものだ。いつ、酸素が無くなるか分からないしな、、、まずこの世界に酸素の概念があるのかどうかは不明だがな、、、そして、そこから足を進めた俺達はまた屍鬼らしき敵を見つける。だが、どうもさっきまでの屍鬼よりは体格が大きな気がする、、、そして、天井にぶら下がっていないのだ。まず、屍鬼は天井にぶら下がっておりそこから滑空して攻撃を仕掛けて来る場合が多い。まず十六階層では地面を四本の四肢で這うように歩いている個体は見ていない。まぁこいつもスルーで良いだろう。すれ違い様に斬り捨てればいいのだ。言っては何だがこいつらは本当に防御面は弱い。奴らの動きに合わせ刀を這わせるだけで致命打になる。そう考え俺達は今までと同じ様に走り抜けようとした所で添島が何かを思い出した様に叫んだ。
「おい!安元!そいつは只の屍鬼じゃねえ!地屍鬼だ!そいつは、、、魔、、、」
「ギィィィィィイ!」
添島が言葉を言い終える前に事態は変わった。その地屍鬼が叫び声をあげた瞬間、、、俺達の方向へ突風が吹き荒れ、、、重光の制御している光が揺れ始めた、、、
「せ、制御が、、、乱、れ、、、る!?」
(ブシャァ!)
俺は突風を掻い潜りそのまま地屍鬼を斬り捨てた、、、だが、
「「っ!?」」
その瞬間辺り一面は光を失った。
「おい!重光!何をしているんだ!?光を早く付けてくれ!」
「無理なの、!何故か制御が乱れて魔法が詠唱出来ない!」
光がチカチカと一瞬付いたりはするのだが、直ぐに消える。そして何も見えない視界は俺達に恐怖の感情を与える、、、だが俺はもう同じ事は繰り返さない。冷静に考える。おそらくさっきの地屍鬼の鳴き声は魔法の制御を阻害する効果が有るのだろう、、、なんてこった、、、これだと光が暫く付けられない、、、この状況は非常に不味い俺達は光源が無い状態だと戦闘は愚か十七階層の入り口にさえ戻る事が困難になる。生憎、食料はマジックバックには詰め込んであるが、ここで野宿は危険だろう。寝込みを襲われてはそれこそ終了だ。そうだ!だが、、、
「皆、、、敵は増えるがこの方法しか無かった、、、属性付与!雷火!」
俺がエンチャントを唱えた瞬間俺の両側の刀が炎と稲妻に包まれる。そのお陰で重光の光よりは範囲は狭く暗いが辺りを照らす。だが、
(ズズズズズ!)
やっぱり来たか、、、そう奴が俺の所に来たのだ。
「よし、俺が百足を引きつけるからそのまま俺に付いてこい!無理矢理強引にこのエリアは走り抜ける!あまり俺から離れるなよ?あまり明かりは明るく無いんだ!直ぐに見失うぞ!」
(ガチン!)
俺は百足の顎を避け、そのまま駆け出す。そして、百足達も俺を追ってくる。そして、
(ズズズズズ!)
色んな方向からも百足が襲ってくる。おいおい、どんだけ数がいるんだよ、、、っ!?
(ドン!)
「ぐっ、、、っ!?」
(ガチン!)
目の前からいきなり何処からか跳躍して来た地屍鬼が腕を振り下ろして来たのだ。俺は吹き飛ばされそこに地面から百足が出てくるが決死の思いで避け先ずは百足を葬る。くそっ、、、いくら明かりがあるとは言っても直ぐ先でも敵の姿が見えなくなる、、、如何すれば、、、その時だった。
「動光!」
重光が魔法を唱えた。どうやら奴の鳴き声で魔法の制御を乱すのには時間制限があるようだ。そして俺を殴った地屍鬼が俺達を倒そうともう一度腕を振り下ろそうとする。そして、光が付いた事によって遠くが見える。そこには沢山の地屍鬼がおり叫ぼうとしてる、、、ヤバい、このまま奴を葬っても他の地屍鬼から声が漏れるだろう、、、その時だった、、、
「、、、」
奴らの声は出なかった。
「俺の存在も忘れてもらっちゃ困るぜ」
亜蓮は奴らの発声器官を全員ナイフを投擲し貫き破壊していた。そして
(ブシャァ!)
「おりゃぁぁあ!」
「やぁぁぁあ!」
山西と添島は発声器官の潰れた地屍鬼達を次々と葬って行く。
「先に発声器官を壊しさえすれば奴らはただの屍鬼と変わらねぇよ」
そうか、、、確かにそうだ、、、それならば少し腕っ節の強い屍鬼と変わらないだろう。だが別に亜蓮の事を舐めてた訳では無いがここまで出来るとは流石に思わないだろう。俺はエンチャントを解除し先へと進む。だが、そこで不審な物を発見する。
「おいおい、これ蜘蛛の巣じゃねえか?」
「そうだな、、、しかも何てサイズだ。本体はどんなサイズをしているのやら、、、」
俺達の目の前には、巨大な蜘蛛の巣があった。まるでそれはほぼ家の様な感じだ。普通に一軒家が入るサイズである。だが俺達はそれを横目に通り過ぎ十七階層を突破したのであった。そして再び拠点に戻る。今回十六階層と比べて楽に突破出来たのは敵の個体数が減ったのもあるだろう。そしてデコイもだ。敵はサイズこそ大きくはなっているものの数は十六階層の様に出鱈目な数では無かった、、、だが蜘蛛の巣と言い、地屍鬼と言い、どうも更に下にはもっと大きな生物がいるのだろうか?それは気になるが一先ず今日は休む事にする。余談だが洞窟エリアに来てから飯の見た目が食欲を誘わない感じだ。そろそろ美味しそうな生き物がいても良い筈だ。目を瞑れば良いかと言われるとそれそれで臭いが気になる。飯が美味かった浜辺階層が恋しいぜ。そして、俺達は十七階層を突破し、次の日へと備えるのであった。