255話 リヴァイアサン
しばらく船の中で休息を取った俺達は、氷に覆われて地面をひたすら進む。
何度か戦闘はあったものの、グレートウォールス程苦戦する事も無く俺達は進み、巨大なボス扉の前に到着した。
そのボス扉は無造作にポツンと氷の大地のど真ん中に置かれており、空間にポッカリと穴が空いている様にも見える。
みんなに準備が出来たかどうか確認すると、全員が肯定の意を示したので全員で扉を開けて中に入る。
《よく来たな。歓迎しよう。それでは行くぞ?》
扉の中に入るや否や、俺達は辺り一面の氷の大地に覆われた空間に放り出され、リヴァイアサンの声が響く。
大地が大きく揺れ目の前の分厚い氷で覆われた地面が割れ、巨大な竜の頭が顔を出す。
頭だけを出してリヴァイアサンは大きく咆哮を上げ、俺達に警告した。
準備は出来たか?と。
リヴァイアサンの大きさは頭だけで優に五メートルはあり、一口でアクアを除く俺達全員を飲み込めてしまう程だ。
頭には透き通った薄水色と白銀の鱗が逆立って並んでおり、黄色い眼からは知性の輝きを感じさせている。
身体には腕は無く、鮫のような大きなヒレが付いており背中にも巨大な刃物の様な立派なヒレが付いていた。
リヴァイアサンは咆哮で大きく空気を震わせ、再び巨大な身体をくねらしながら轟音を立てながら氷の下へと潜る。
その際に逆立った鱗が、鋸の様に高速で動いている為に俺達は近づく事さえもままならない。
鱗の硬さは勿論の事、その鋭さも並みでは無い。
しかも、本体の質量も半端では無いとか反則過ぎるだろ!
だが、リヴァイアサンの身体は大きく、完全に氷の中に身体が潜り込むには時間がかかる。
それでも、全身の長さは百メートルにもなる為、全身を氷の下へとのめり込ませなくてもこのフィールドの殆どが攻撃範囲になってしまうのだ。
しかも、これだけ身体がデカイとどこを殴って良いのかさっぱり分かんねえな。
俺は地面に潜ったリヴァイアサンを見ながらアクアに飛び乗って飛行する。
山西の方が実はスキルを駆使すれば、空を飛べるのでは無いかと思っているが、その点については山西がまだ出来ないので言及しない。
《空を飛んだ所で無意味。儂から逃げられると思っているのか?》
やはりな。
リヴァイアサンはどこかアクアに固執している様で、先程から地面に潜ってもアクアが飛ぶ方向に向かって移動している。
地上にいる四人を無視してだ。
あの巨大な身体で急襲すれば、被害が大きいのは間違いなくあの四人の筈だ。
だが、リヴァイアサンは執拗に俺とアクアを追う。
下の四人もリヴァイアサンを追うが、リヴァイアサンが海中を移動する速度はあのブルーローズタイラントにも匹敵する。
しかも、鋸の様な鱗が高速で回転しているリヴァイアサンにあの四人は為す術は無い。
今はリヴァイアサンが本気にならずに、おちょくって来ている様な様子だから良いものの、リヴァイアサンが本気を出してしまえば即俺達は壊滅する。
あそこまでの巨体を持ちながら轟音を立てながら高速で動くリヴァイアサンに重光も魔法の狙いが定まらない。
と言うよりもどこに当ててもダメージが通る気がしないのだ。
しかも、身体が氷の下に隠れている間は攻撃を当てる事は出来ない。
アクアに地面から垂直に上空に飛ぶように俺は指示を出し、垂直方向に飛ぶ。
とんでもない大きさの重力が俺を襲い、俺の視界がブレる。
エンチャントを発動させて、アクアの身体と俺の身体を固定させ手を離す。
しかし、リヴァイアサンは俺とアクアが自身の身体の長さの百メートルを大きく超える二百メートル付近まで飛行しても尾行を止める事は無い。
そして、リヴァイアサンは俺とアクアが尾行している真下の地面の氷を頭で突き破って大きく空中に飛んだ。
大地が大きく揺れ、リヴァイアサンの頭が猛スピードで空中にいる俺達の所に迫ってくる。
おいおい、マジかよ!
「アクア!旋回しろ!このままだとリヴァイアサンに食われるぞ!」
「ギュイイ!!!」
俺は自由になった手を横向きに合わせて大きな爆炎を生み出し、アクアのサポートをしてアクアも大きな翼を動かして旋回する。
そして、地面から二百メートルはある筈だった俺達の真横をリヴァイアサンの大きな頭が通り過ぎた。
その時リヴァイアサンの黄色い大きな眼が俺をギョロリと捉えた。
リヴァイアサンはその時口元を僅かに緩ませて笑った様に見えた。
口元からは大量の白い息が放出されており、威圧感をより高める。
目の前を正に危機一髪と言う感じで通り過ぎたリヴァイアサンの頭から巻き起こった風は俺達を大きく煽り、アクアも少しバランスを崩す。
あまりの突風に目を伏せたその瞬間俺は目を大きく見開いき、即座に身体を固定していたエンチャントを解除して背中にマナを一気に込めてアクアを突き飛ばす。
来る!?
その直後、俺とアクアの間をリヴァイアサンの巨大な尻尾と強烈な真空波が空気中を突き抜けた。
その真空波で巻き起こった突風は俺とアクアを更に突き飛ばして台風の様に俺は回転しながら地面に向かって落下して行く。
間違いなく、あの攻撃を直に食らっていれば、アクア諸共真っ二つになっていた。
俺の身体は凍る様な寒さを感じた。
決してこれは外気が寒い訳では無い。
俺は闇智に言われた言葉を思い出して心臓を何かに掴まれた様な感情になり、歯を食い締めた。




