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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
12章 海エリア
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253話 氷下の一角獣

冷ややかな空気は確実に俺達の身体を蝕み、体力を奪う。


アクアの偵察のお陰もあってか敵との戦闘は出来るだけ避ける事が出来ている。


だが、俺達の足の速度では避けられない戦いもある。


そして、アクアの偵察は上空からの偵察になる為に氷の下からの奇襲には弱い。


ある程度氷が透き通ってはいると言っても氷河の様に不純物が一切無く、真透明と言う訳でもない。


これだけ分厚い氷であれば、足場に近い辺りを泳いでいる魚類やモンスターの姿は見えるものの、奥深くにいるモンスターの姿までは察知出来ない。


いや、それは氷が張っていても張っていなくても同じ事だが……。


海中からの奇襲に俺達が気がつく頃には既に手遅れである事が殆どである。


実際に俺達の足元から大きな影が迫って来ているのに気が付いたのは、その大きな影が足元付近まで近づいてからだった。


俺達の足元の分厚い氷に大きな亀裂が入り、そこを中心として足場が崩れ落ちる。


俺達は敵襲に驚きはしたものの予測はしていただけにそこまで取り乱さずに後ろにステップで下がり、海に転落するのは避けた。


水中でレゾナンスエンチャントを発動させればダメージを与えられられるかも知れないが、相手に敵意がない場合に無駄に相手を刺激してしまっては本末転倒だ。


しかも、海エリアの敵の強さを考えるとレゾナンスエンチャント程度で大したダメージが入るとは思えないので、俺は自重する。


この中で予測しているモンスターは何種類かいる。


そして、砕いた地面の亀裂がを更に大きくして大穴を開けて巨大な肢体が姿を現す。


ドシン。と言う重量感のある音が響き、ひび割れた氷がキシキシと悲鳴を上げる。


うん。嫌な奴が出て来た。


逃げたい。


ここが、海と言う環境で無ければ俺達は余裕で逃走する事が出来ただろう。


そう思えるほど海中から出て来たモンスターの身体はずんぐりとしており、重厚感漂っていた。


象牙色の皺々の皮膚に、螺旋状の巨大な一本の白銀の角が頭に生えており、口には長い髭と二本の大きな牙が揃っている。


二本の脚で後ろのヒレを引きずる様に海中から出て来たモンスターはブルルル。と顔を震わせてこちらを見る。


こっち来ないよな?戦うの嫌だからそっちも引いてくれれば助かるんだけど……。





しばらくの間この大きな身体を持つモンスターと見つめ合い、先に動いたのは向こうだった。


そのモンスターとの距離は二メートル程で刀を踏み込んで抜刀すれば、届くかもしれない距離だ。


そのモンスターは十メートル程はあろうかと言う巨体を揺らし、尻尾を地面に叩きつける様にして大きな音を立てる。


その太い尻尾を地面に叩きつける度に大きな音が鳴って、大きな水飛沫が上がって氷が割れる。


何だ?今のは威嚇に近いのか?


このモンスターはグレートウォールスと言われるモンスターでセイウチの仲間だ。


本来のセイウチの特徴から考えると、セイウチは群れで行動しており自分から他の種族に攻撃を仕掛ける事は無い。


だが、鋭い牙と分厚い皮膚を持っており、それは並大抵の生き物では傷を付ける事すら難しい上にセイウチの鋭い牙は他の生物の身体を容易く貫く。


そんな戦闘能力を持っているのにも関わらず他の生物に襲われた場合は逃走する。


そして、逃走時に仲間を自分の体の下敷きにして殺してしまう事も少なくは無い。


それ程の体重を持っている生き物なのだ。


だけど、グレートウォールスは単体で行動している。


それは雄のみがその様な行動をしているのでは無く、全ての個体がその様な行動をしているのだ。


勿論、単体で生きていれば他の生物に襲われてしまうだろう。


だが、グレートウォールスは逃げる事はしない。


白銀の巨大な螺旋状の一本角は繊細な感覚器官でもあり、遠くの僅かな振動や音さえも察知出来る。


それで自分達でも狩れそうな獲物を探して狩りに行くのだ。


グレートウォールスは、肉食モンスターが蔓延っている危険な世界でも単体で生きる力を持っている。


これだけで、グレートウォールスの強さが分かるだろう。


グレートウォールスは、獲物と思って俺達を襲ったものの今までに見た事が無い動きの俺達に対して警戒している。


だが、俺達が逃げればその獲物を弱者とみなして間違いなくグレートウォールスは俺達を襲うだろう。


そして、俺達が反撃したとしても、グレートウォールスは敵対者と判断して戦いになるのは避けられない。


尻尾を地面に叩きつけて威嚇をしたグレートウォールスの肉体に赤いエネルギーが収束して行き、徐々にグレートウォールスの尻尾を地面に叩き付ける速度と威力が上昇して行く。


バフだと!?


あれは単なる威嚇では無くて自身の能力をも底上げしていたって言うのかよ!


「来るぞ」


グレートウォールスが地面の氷を叩き割り、巨体が空中に浮いた瞬間亜蓮のナイフが地面擦れ擦れをキリキリと音を立てながら飛びそれと同時にグレートウォールスの頭がその方向に傾く。


グレートウォールスは俺に対して腹を向けており、チャンスだ。


だが、グレートウォールスの体重とその皮膚の強靭さを考えると今攻撃してダメージを受けるのは俺だ。


下から俺が刀で斬りかかったとすれば、俺の攻撃は分厚い皮膚に阻まれて通らない上にグレートウォールスの体重が刀にのしかかる。


そうなれば、刀は折れた上にグレートウォールスの巨体のプレスをまともに食らってしまう。


あの巨体でプレスされてしまえば、全身の骨は砕け散り、息をする間も俺には与えてくれないだろうな。


しかも、あの巨体からは考えられない位の速度でグレートウォールスは飛び上がる。


言うて速いのは初速だけだが、それが脅威なのだ。


グレートウォールスの攻撃の直前には溜め時間があったりして隙は大きい。


だが、反撃時は首を振るい巨大な牙で素早い反撃も可能とする。


俺はレゾナンスエンチャントを発動しながら後ろに二メートル程飛んでグレートウォールスの攻撃を広めに回避する。


グレートウォールスにレゾナンスエンチャントが命中して、角が氷の大地に突き刺さって再び大きな亀裂を入れるが、グレートウォールスはそれがどうした?とばかりに黒煙の中から姿を現した。


やっぱり生半可な攻撃だと効かないか……となると、あの技しか無いよな……?


俺は大剣を構えた状態で様子見している添島の方を見て合図する。


すると添島も頷いた。




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