237話 魔導砲と沖海
船での宿泊を終えた俺達は再び船を進める。
やはり、小型船舶よりも、この海賊船の方が安全に旅路を進める事が出来る。
俺と添島は昨夜の罰として、しばらく食べ物がイカ飯になる。
イカ飯とは北海道で生まれたと言われる郷土料理で、イカの中に米を詰めて甘辛く味付けをして炊いた炊き込みご飯の様な物だ。
俺はこの味は割と好きなので苦でも無いが、おかず無しでこれ単品毎日って結構キツくないか……。
昨夜俺と添島がやらしかした事を考えるとこれは妥当な処罰だろうな。
本来ならば、夜は夜行性の魚や海鳥が襲って来るかと思ったが、静かだった。
魚も人間と同じ様に夜は眠って朝に起きる。
だが、人間と比べると時間帯はかなり早めだ。
夜に上がって来るのは夜行性の魚と、深海や深い海に普段はいる魚達だ。
俺達は魚釣りでも、こんなに暖かく、浅い海であんな魚が釣れるとは思ってはいなかった。
だが、奴が釣れたと言う事はそれを餌とするザトウクジラの様な巨大な捕食者が居るはずだ。
数時間の航海を進めると、巨大な門が目の前に現れた。
その門を潜り抜けると景色が変わった。
海の色は深い青色に変わり、先程まで周りにあった島々は姿を消してただ一面の海が広がるのみだ。
若干先程よりも気温が下がり、冷たい潮風が俺達を襲う。
潮風も大分強くなっているな。
それにしても、ここは船前提のエリアなのか?
距離や広さも数百キロと、普通に泳いで突破出来る距離では無い。
そりゃあ、地上であれば今の俺達の身体能力で走れば車ぐらいの速度は出せる。
だけど、ここは海だ。
水中でそんな速度を出せる訳が無いのだ。
もしかしたら、ここのエリアを楽々俺達は進んでいるが、実の所ここはかなりの難関ポイントの一つだったりする気がする。
そう考えると、多少モンスターが弱いのは分かる気がする。
ん?もしかして、今の門が階層の狭間だったのか?
今までは下に降りる様に階段状になっていた事から気がつかなかったけれど、そう言う仕様なのだろうな。
じゃあ、今は五十二階層か……。
「フウォォォオ!」
――!
五十二階層に入った途端何かのモンスターの鳴き声が聞こえて海賊船が大きく揺れる。
馬鹿な……一つのビル程の大きさがある海賊船を揺らしただと?
「ギャァァア!」
横を並走する水面からはサッカーボール程の大きさがある巨大な眼玉が姿を現して俺達の海賊船を睨んで身体を揺らして突撃してくる。
そして、上空にも俺達を狙う巨大な鳥がものすごい勢いで突っ込んで来る。
その鳥は昨日の鳥とは種類が違って凶暴だ。
艶々とした防水性能が高く、空気抵抗が少なそうな薄青色の羽毛に、鋭く尖った鷲型の太い嘴。
その鳥達は、風を切り裂き、海賊船の甲板に向かって突撃を始める。
「迎撃だ!重光!船を止めるな!方位磁針通りに船を進ませろ!」
突撃した鳥達は亜蓮が突如形成した空間に呑み込まれて地面に向かって突撃してポキッと言う嫌な音が響く。
「ギィァァア!」
普通ならば、船の甲板は穴だらけになっていただろうが、これはジジイが作った船だ。
お前達如きの攻撃では壊せない。
それにこれが亜蓮の新技のシャドウフィールドって奴か……いわゆる、ナイフを持たずに仮想の全領域で発動させるシャドウウォーリアだ。
ナイフを持つタイプの全領域もあるみたいだが、俺にはイマイチ違いは分からない。
本人は、指向性が拡散されるだどうのこうの言っていたが、本人が理解しているのならばそれで良い。
自分から船に向かってダイブして来た愚かな鳥達を俺達は手際よく仕留めてマジックバッグの中に収納する。
「フウォォォオ!」
「また来るぞ!捕まれ!」
水上の巨大生物が、大きな鳴き声を上げて再び海賊船にぶつかり、船が大きく傾く。
この速度でも撒けないのかよ!
しかもその生物は甲板近くには上がって来ずに船の下で暴れ回っている。
その為に俺達は迎撃する事もままならない。
幾らこれがジジイが作った船とは言っても危険だ。
転覆してしまえば、全てが終わる。
船が壊れなくても転覆する可能性は十分にあるのだ。
増してや、一撃でこの船をここまで揺らす化け物だ。
直に攻撃を食らってしまえばタダでは済まないだろう。
そうだ。あれを使えば……。
「重光!船の武装は?」
「使えるわ!もうチャージ済みよ」
船に積んである武装を使えば、船の真下に敵がいたとしても対応出来る。
一発の魔導砲やアンカーを撃つのに重光のマナ全力三回分を使うと言われているとんでもない代物だ。俺は甲板を亜蓮に任せて第ニ層の武装室へと向かう。
流石に船の真下に潜り込まれたら射角が足りないか……。
武装の魔導砲は左右で合わせて十二門。
アンカーは二本だ。
合計十四発。
これを外してしまえば船の下で好き勝手に暴れているモンスターを倒すのは難しい。
魔導砲を回すのに気を纏った状態の添島に手伝って貰いながら下の巨大なモンスターに向かって照準を合わせる。
魔導砲は筒型の大砲の様な形をしており、弾を詰める部分は無く、魔力を補給するパットが置いてあるだけのシンプルなデザインだ。
だが、見た目通りなのか素材はかなり丈夫な物で作られており、照準を合わせる作業は添島が気を纏っていないと動かせない程重労働だ。
しかも、あれだけの魔力を必要としている上に一発撃ち切りと、一気に数回分をチャージしておけない仕組みになっている。
奴が、船の真下から出て来て身体が見えた瞬間を狙う。
奴は船に攻撃する直前に助走を付ける。
その時に一瞬姿が見える。
その時を狙うしかない。
「フウォォォオオ!」
「今だ!撃てぇ!」
ドンッ!
魔導砲に青いラインが流れ出して魔導砲が青く輝く。
そして大きな音を立てて衝撃波が放たれ、船が大きく揺れる。
おいおいおいおい!これ、魔導砲撃った反動で船が転覆するんじゃねえか?
船は魔導砲を撃った反動で水面と水平に水を切りながらぶっ飛び、何度か跳ねて止まった。
魔導砲が撃ち込まれた場所はこの船よりも大きな水飛沫が上がっており、それが遠く離れたここからでも確認出来た。
あのジジイ絶対魔導砲の威力考えて無いだろ……。
あれ、重光のマナ三発分の威力じゃねえぞ……?
当然そんな魔導砲を直接食らったモンスターの頭は跡形も無く消え去っており、海上に身体だけが虚しく浮かんでいた。
そこには臭いを嗅ぎつけたであろう鮫などの生物が集って死体を貪っていた。
少し敵までの深さがあったから威力足りるかどうか心配してた俺が馬鹿だったわ。
あの様子では小型ボートで素材を回収する事も出来そうにないな。
はぁ……この海賊船見てると自分達が馬鹿馬鹿しくなってくるな。
俺達はあははと言うから笑いをしながら船を地図通りに進ませた。




