236話 夜釣り
辺りも暗くなって、夕陽も既に落ちてしまった。
船の中と甲板では、重光がチャージしたマナの力を使って電気の様な物が作動する。
移動しながら電気を起動する場合には重光が常にマナを供給し続ける必要があるそうだが、浮力調整装置と電気系統のみの起動ならば、チャージ分でも一日、二日は大丈夫そうだった。
これを考えると夜の行動は控えて船で寝るって選択肢もありそうだけど……俺は隣にいる添島の方を向いてニカっと笑った。
「釣るか?」
「勿論だ」
「よし来たぁ!」
山西がちょっとあんた達何する気?と言って眉を顰めるが俺達は構わず準備を始める。
流石に船を出して半日近くは経ってるんだ。
流石にずっと時速九十キロで飛ばしている訳では無いが既に数百キロ沖に出ているのは間違い無い筈だ。
それならば、これしかないだろ?と言うか船の中の自室に置いてあった。
この海賊船の自室にはかなり娯楽も充実しており、小さいが麻雀部屋さえもあった。
部屋は五部屋しか無く、広さも豪華客船とは比べ物にならないが、それでもこの海賊船は旅をする俺達の為にしては豪華過ぎた。
娯楽施設も作ってあるとかジジイ神過ぎるだろ……。
だが、部屋の数とかから考えてこれは元々俺達用に作っていたとしか考えられなかった。
アクアの部屋が無かった事から、アクアが俺達の仲間になる前……つまり、俺達が沼地階層に到達する時には設計図が完成していたと考えられた。
ジジイは元から俺達がここまで来る事も予想していた様だ。
いや、ここまで冒険させるつもりだったと言った方が正しいな。
闇智達もジジイも含めて俺達をどうにかして最下層までは行かせたいみたいだしな。
そんな事は今は良いんだ。
俺と添島はマジックバッグから二本の竿を取り出して餌となる先程俺が回収したバックレクマトビを付ける。
さぁ、添島よ。勝負と行こうか?
流石に船の甲板にも落下防止用の柵が付いている。
夕陽が出た辺りで大きな鳥が止まっていた場所だ。
既に鳥の姿は無く辺りは静かに静寂を保っていた。
「どうする?大きいのを釣った方が勝ちか、量か?」
「当たり前だ。大きいのに決まってんだろ?」
「オーケー!」
そう言って俺と添島は同時に船から糸を垂らす。
このジジイ製の釣竿も凄え素材で出来てるな……むちゃくちゃしなる上に強度も凄え。
糸でも切れる気がしない。
蜘蛛の糸っぽいが、それにしては硬すぎる。
そんな俺達を見た亜蓮も何か楽しそうじゃんと釣りに参加して結局三人で釣り勝負をする事になった。
山西は釣りに興味は無く、椅子に座って観戦中だ。
後で釣った魚は重光さんに料理して貰おう。
現在船はアンカーを下ろして沖で停泊中である。
マナのチャージを終えた重光さんも、甲板に上がってきてお疲れ様と声をかける。
そこで、俺の釣竿が大きくしなる。
お?来たか?それに合わせて添島の竿もしなる。
二人が鬩ぎ合い、釣竿を揺らす。
先に魚を釣ったのは俺だった。
げ……。
そして、添島が釣った魚も見て俺の肝が一気に冷える。
ドンマイ。お互い運が悪かったな。
「「はいがっ!?」」
「異常回復」
お互いに叫び声を上げる添島と俺に呆れながらも重光さんは毒を治療する。
俺達二人が釣り上げた魚はお互いに毒魚である。
俺はイキタイと言う黒を基調とした鱗に強力な前歯を持つ鯛を釣り上げ、添島はデビルロックフィッシュと言う魚を釣り上げていた。
イキタイは石鯛の仲間で、貝などを鋭い前歯で殻ごと食べる魚だ。
身はしまっていて淡白。中々美味しいらしいが、イキタイは敵を感知すると表面の黒い鱗を紅く染め上げて空中に飛散させる事が出来る。
その飛散した鱗は空中で、破裂して近くにいた生物を驚かせて逃げる隙を作る事が出来ると言う。
イキタイと言う卑猥な下ネタにも聞こえるネーミングセンスがまるでリア充への皮肉を例えて爆発するのだ。
鱗が、自然に剥げるから調理前は楽で良いかも知れない。
だが、少なくとも俺達二人はそんな関係じゃねえ!
普通に鱗は痛かったけどな。
そして、添島の釣り上げたデビルロックフィッシュ。
こいつはカサゴに似た種類で背中に大きな棘を沢山剣山の様に持っている魚だ。
大きさは真鯛程の大きさを持っており、危機を感じると背中の針をヤマアラシの様に大量に射出する。
その針は金属の鎧をも貫き、僅かな毒を持つ。
針は一度飛ばすとしばらく飛ばせないらしい。
この魚も、柔らかい白身魚であって、食うと美味い。
煮付けとかにすると最高だ。
山西に言わんこっちゃないと怒られながらも俺達は釣りを続けて何とか晩飯は確保する。
勝負の話だが、それはおあいこって事で……終わりを告げた。
何故ならば、一番量を取ったのも大きいのを釣ったのも亜蓮だったからだ。
亜蓮が釣った魚で一番大きかったのはブダイの様な魚で大きさは一メートルを超える。
亜蓮は人魚を釣りたかったらしいが、そんなのいる訳無いだろ。
いや、居たとしても釣れる訳無い。
たが、多分指摘すると亜蓮が怒りそうなので、敢えて俺達はそこには触れずに事を進める。
亜蓮のお陰で数日は食べ物に困る事は無いだろうけど何か嫌だ。
元々は添島との勝負だった筈なんだけどな……。
その日の夜、俺はどうしても大きな魚が釣りたくて甲板に釣竿を持って行くと、そこにはやっぱり添島も居た。
この日俺と添島は色々やらかして、山西にめちゃくちゃ怒られる事になったのは別の話である。




