234話 小型船航海
いやいや、それにしても流石にあのネーミングセンスはねえだろ……。
バックレクマトビとかカクレクマノミだろ?
ジョウショウウオとか、チョウチョウウオだろうし……。
まず、磯 晋作って何だよ!?
イソギンチャクを高◯ 晋作みたいに言うんじゃねえよ!
更には亜種で磯 刃出っていうイソギンチャクの仲間みたいなのもいるが、磯 晋作とは違い好戦的な性格で、紫色の毒性を持つ液体を刃の様に硬化させて使うらしい。
何か、それもネーミングセンスに悪意を感じさせるんだよなぁ……どこかのうがい薬でありそうな名前だしな。
俺は片手を魔導小型船の魔導操作部分に手を乗せて船を沖に出しながら欠伸をする。
時速は九十キロ位は出ているのだろうか?空気中から感じる気持ちの良い潮風と言い、俺達にとっては久しぶりの気晴らしになっていた。
当然時速九十キロと言う速度は、熱帯魚や刺胞動物などを中心とする浅瀬のモンスターに追いつける様な速度では無い。
だが、船の下には複数の小さな影が見えており、船の速度に負ける事無く追いついて来ている。
この魔導小型船は出力だけならば手を離していても調節出来る。
だが、舵の調節は手を離した場合には俺とか、重光などの遠隔魔導操作が出来ないと出来ない。
小型の人影は水中から徐々に近づいて来て船の下に張り付いた。
あれは!磯 晋作か!という事はーー
「敵襲だ!内部属性圧縮付与 火」
水上に勢いよく飛び出して来たバックレクマトビに向かって俺は右手で船を操作しながら座ったまま左手で爆炎を照射する。
ドンッと言う大きな音と衝撃が響いて海面は大きな水しぶきをあげて船は揺れる。
バックレクマトビは熊の様に変異したヒレを自身の顔の前でヒレをクロスして俺の爆炎を防いだ。
だが、それでも俺の爆炎の威力を防げなかったのか吹き飛ばされて水面にバックレクマトビの死体が何匹か浮かぶ。
何だと?
俺は黒煙の中から出てきたあるものに目を疑う。
バックレクマトビを撃ち落とした筈なのに!?
俺の目の前には視界を覆う程の大量のバックレクマトビがクロスブレードの様にヒレを構えて高速で飛んできているのが目に入った。
それを見て船の上だと避けられないと悟った俺は後ろに飛び上がって右手で船をマジックバックに収納する。
そして、叫ぶ。
「添島!そこに着地するぞ!全身内部属性圧縮付与 曙光!!!」
俺の体を炎と氷が覆い俺の体からエネルギー波を敵に向かって放出しながら飛翔する。
俺の身体を何か触手の様なものが貫こうと身体に近くが俺の全身から出ている強力なエネルギーに一瞬でその触手は崩壊する。
俺は上空を激しく飛んで高速で水上を走っている添島のボートの助手席に勢い良く着地する。
ドンッと言う大きな音が響き、水飛沫が高々とあがり小型魔導船は左右に揺れるが小型魔導船はビクともしない。
流石はジジイ製の小型魔導船だ。
何の素材で作られているのかは分からないが、かなり頑丈だ。
しかも、今の俺達が本気で殴っても壊れそうに無い。
小型魔導船の表面は青紫色の深淵を誘う様な濃い色をしており、僅かに輝きを放って透き通っている。
鉱石の様で鉱石じゃない。
しかも、その強度で柔軟性もある。
何かのモンスターの素材だろうか?
俺達の記憶にはそんなモンスターの記憶は無かった為にかなり下の階層のモンスターなのでは無いか?と想像できた。
それで、耐水性があるのだからもっと先の海階層のモンスターなのか、それとも、海に似た階層があるのだろうか?
「おい、もうちょっと丁寧に着地出来ないのかよ……。まぁ、この船が壊れる気配は無いけどよ」
添島はそう愚痴をこぼしながらも船を操作する。
二人乗りボートとは言っても流石に二人で乗ると戦闘には不向きか……。
特に添島や俺の様なリーチが長く振り回すタイプの武器ではまともに戦えないな。
チッ。まだ下にも何か居やがるな……。
「うおっ!?」
そう思った矢先だ。
船が大きく揺れて船が宙に舞う。
俺と添島は船にしがみついた状態で下を確認する。
ジョウショウウオか。
ジョウショウウオの突進は強力とは聞いていたが、まさかここまでとは俺も予想していなかった。
俺と添島、そして船……それに俺達の装備品。
全て合わせると合計の重さは三百キロを優に超える。
だが、そんな重さのある俺達をいとも容易く、それこそ、流木の様に空中に吹き飛ばしたのだ。
その威力は弾丸……いや、それ以上かも知れない。
身体の大きさは六十センチ程の小柄なのに攻撃力はサメクラスかよ。
そして、俺達を吹き飛ばしたジョウショウウオは再び空中にいる俺達を標的に定めた。
「安元ここは俺に任せろ。お前は俺が船を蹴った瞬間に船を回収して他の船に移れ」
添島はそう言うと気を纏って船を後ろに蹴り上げた。
俺は添島の言葉に従って再び曙光を発動させて、船を回収。
そして山西の船の助手席ダイブする。
「きゃっ!?何で私の船に!?」
突然弾丸の様に船にダイブして来た俺に戸惑う山西だったが、特に理由は無い。
近くにあったからだ。
添島は空中で船を蹴ると空中で大剣を翻して突進して来たジョウショウウオを真っ二つに切り裂いた。
そして、そのまま大剣をぐるぐると振り回しながら重心を変えて落下する際の場所を整えて大剣を空中で胸の前に抱え込む。
添島の大剣の鞘はピストンスリンガー式の為一度鞘を外さないと納刀出来ない。
だから、あの姿勢で船の助手席に着地するしかないのだ。
添島の真下には重光が、船を動かして待機しており、助手席に添島が着地して纏った気を解除する。
亜蓮は欠伸をしながら、のんびりと船を走らせている。
お前な……。
まぁ、進化した俺達なら問題ないのは分かってたんだろうけどよ……。
すると、添島を回収した重光のボートがこちらに近づいて来て、少し身体が暖かくなる。
これは、マナのバイパスか?
「安元君……ちょっとマナ使いすぎじゃないの?幾ら私がマナをチャージ出来るからって言っても供給速度が遅いんだからいざと言う時使えなくなるわよ……?」
重光さんが俺に少し強めの口調で注意換気する。
俺も重光さんにあまり強く言われた事が無かったので少し拍子抜けしたが、素直に謝った。
だが、マナ供給効率が悪いとは言え、連戦やボス戦以外だとマナが少しでも回復できるのは嬉しい。
毎回頼むのも重光さんに申し訳ないけどな。
マナを俺が重光さんからチャージしてもらっている間少しだけ山西がムッとしてたのは何故か俺にはよく分からなかった。




