233話 大海原
ん?階段は無いのか?
五十階層の転移碑がある場所の扉を開くともう一つ巨大な縦に開くシャッターと同じタイプの巨大扉が開く佇んでいた。
その横にはレバーと近代的な認証装置のような物が置いてあり、そこに俺は手を触れる。
すると認証装置は起動して、青い見た事の無い文字を浮かべて認証してその下に日本語で翻訳が出た。
《ボス攻略情報を確認しました。次の領域への回路を確保します》
と。
そして、大地が揺れ、目の前の巨大扉が砂埃を上げながら開き、太陽の明るい光が闘技場内に差した。
その光は俺達の新たなる旅出を告げているようだった。
その開いた扉から出るとそこは行き止まりだった。
俺達五人と一匹が何とか乗れるようなスペースの地面があり、そこから先は広い大海原が広がっていた。
太陽はさんさんと輝きそれに反射して海も輝く。
手前は浅瀬だが、奥はそれなりの深さはありそうだ。
手前の海には色鮮やかな魚たちや珊瑚礁など、もしも観光に来ていたならば喜んでる入りたい海だ。
季節の概念がこの迷宮にあるのかどうかは分からないが、ここはかなり暖かい。
夏の沖縄と比べても大差ない位だ。
しかし、俺達は悩む。
そう、どうやって進もうかと言う事だ。
俺の視界は一面に広がる大海原だ。
それはつまり、浜辺エリアの様に海岸線を歩くと言う事も出来ない。
一応俺達でも金属で船を作る事も出来るが所詮泥舟だ。
海は沼池と違って水流もある上に容積も途轍もなく大きい為に、凍らせるのには相当な火力が必要……だが、俺達にはそんな火力は出せない。
水属性魔法で鎌倉の様にする方法もあるが、水の質量的に不可能だ。
俺達に鍛治スキルでもあれば良いんだが……出直すか。
道理で、俺達の装備がぴっちしとしている物だと思ったらそういう事か。
今回、闘技場では敵モンスターの素材やドロップが殆ど無い。
だから、装備は基本的な部分は強化されていない。
だが、今までの防具――
もとい、厳つい見た目の防具にジジイは修理する際に何かのモンスターの皮を被せて全体的に纏まって落ち着いた印象に改造していた。
タイラントデスワームの牙の表面はゴム質の触り心地の良い皮で覆われており、色も薄い青色と無難である。
武器に関しては、最低限の修理とヘラクレスのヒュドラの弓の金属素材で強化されているのが僅かに金色の輝きを放つ刃から想像出来た。
ヒュドラの弓はヘラクレスの強靭な弓を引く力にも耐え、ヒュドラの強力な毒にも侵されない特殊な素材の様だ。
俺達はジジイの所に一旦戻ると、ジジイが自慢顔で工房のとある部屋へと案内した。
「船を貰いに来たのじゃろう?これを持って行け」
えらく準備周到だな。
ジジイが腕を置いてドヤ顔でこちらを見ている。
その手の先には高さ十メートル、全長二十メートル、横幅十メートルはあろうかと言う巨大な船――
いや、俺達五人が乗るだけにしては立派過ぎる海賊船の様な物があった。
その海賊船には穂は無く、ジジイ曰く全部魔導式だそうだ。
マナを燃料にして動き、燃料は魔石か、チャージして使うとの事だった。
ちょっとこれ、デカ過ぎるじゃないか?
逆に扱いも難しそうだし、何かジジイには悪いな。
俺は海賊船に手を触れてマジックバックに収納して再び五十一階層に戻る。
中は四層に分かれており、三回建ての住居に合わせて四層目は看板になっている。
中には風呂や調理台、修理施設など殆どの施設が完備済みだ。
何だ。このイージークルーズは。
そして、下には小型の二人乗りの魔導ボートが五隻あった。
第一層は、船を修理したり、船の浮力を調節したり、出力を変える魔導施設などを中心に。
第ニ層は巨大な撃ち出すタイプのアンカーや、魔導大砲などの武器が積んである。
第三層は俺達が住む居住区だ。
あのジジイの工房には他にも何隻が船があってこれよりも巨大な街の様な巨大な魔導船もあった。
あれ一つで、とある世界の海賊王になれそうな感じの船だった。
ジジイ曰く、趣味で作ったとは言っていたが、あれは趣味のレベルではない。
先程、拠点に戻った時にジジイの図鑑で海階層のモンスターを確認しておいたが、変な名前の奴らばかりだった。
絶対にあれはジジイが遊び心で付けている。
あとでエルキンドに正式な種族名を問いただしておこう。
今度からは、次のエリアに侵攻する前にモンスター情報を予習しておくと多少は楽になるかも知れないな。
何かワ◯ピースみたいになってしまったが、俺達の船旅は始まった。
確か船酔いに弱い奴居なかった……よな?
良かった全員顔色は良さそうだ。
だが、誰がこの船を運転するのだろうか?
そして、この船は大きすぎて小回りが利かない。
しかも、視界が悪くよく見えない為に普段の行動は小型ボートでした方が良いだろう。
まぁ、あの巨大船がモンスターにやられるって事は考えにくいがな。
俺達は小型ボートに乗り換えてそれぞれ、魔導操作部分に手を触れてボートを発車させた。
成る程、操縦は魔導操作部分に手を触れてマナを動かして操作するのか……動かしながら敵に襲われたらこれは結構面倒だな。
これに気が付いた俺はしまったと思いながら一人ずつ乗ってしまった己の行動を悔いる。
あの大きい巨大船に限ってはモニターの様な物は見当たらなかった事から看板にいる人から声でやり取りをして進むって仕組みになりそうだ。
確か声を伝える聴音管の様なものはあった筈だ。
しかも、あの大きさだとマナをかなり食いそうだ。
結局あの巨大船を使うのは夜寝る時や休憩する時位かな?
確かここら辺は、バックレクマトビって言う魚とジョウショウウオって言う魚に注意しないといけないんだっけ?
バックレクマトビは魚の癖に二本のヒレがクマの腕の様に太く大きく発達して巨大な爪が付いている魚だ。
磯 晋作って言う大人しい人型の触手型の生物の体内に隠れており、突然水中からアイテムを盗んでくる魚だ。
磯 晋作もバックレクマトビが飛び上がった瞬間に浮上して毒を撒き散らすと言われている。
俺は記憶型のマジックバックだから問題無いものの武具を取られては厄介だ。
ジョウショウウオも物凄い速度で船を突き破って攻撃して来る鮮やかな黄色をしている魚だ。
このネーミングセンスはどう見てもジジイがわざと付けたとしか思えないが、今は仮にその名前で呼ぶ事にする。
こうして、俺達は大海原に進出した。




