232話 統合と抵抗
投稿遅れてすみません。脛骨骨折の経過観察で病院行ってました。
――重光視点
「いい感じ」
私は魔法を繰り返す内になんとなく超魔さんが言いたい事が分かって来た。
マナの薄い膜を繋げるのだ。
魔法を滞空させているのでは無くて、魔法を包んで上に運ぶイメージ。
それで合っている筈。
この状態だったら中でマナを水流の様にかき混ぜようが、形状を多少弄った所でマナは崩れない。
本来は、マナを具現化する前にこの動作を行うのだけれど、この外部での操作が必要な魔法もある。
それが、火災旋風って訳ね。
それに集中力が欠けた状態でも維持できる安定した基盤は元から必要な事だったわ。
だけど、それを私は未怠っていた。
あれくらい、既に完成させた状態で放たないとダメだった。
完成していないから、未完成で崩れる。
完成品は外からどう弄られても完成品のままなのだから。
私は生成したウォーターボールを滞空させたまま別のウォーターボールをくっ付ける。
そこ瞬間にマナの通り道をお互いに作って互いを結合させて新たに生成されたウォーターボールはめりめりと中に入り込んで行く。
成功……?
(パンッ)
だけど、ウォーターボールは水風船の様にその場で破裂して辺りに水を撒き散らして私にもその飛沫は振りかかる。
超魔さんの辺りだけは細かいミスト状になってキラキラも輝き、スポットライトの様に超魔さんを照らして消えた。
超魔さんは私に向かって両手の人差し指を立ててひし形を作って広げて合図する。
あのサインの意味は何となく分かる。
どこかの誰かさんだったらここでサ◯ンはVみたいだなとか考えそうではあるけれどサ◯ンはVでは無い。ひし形よね……。
あの何ちゃらアタックみたいに協力して魔法を撃つわけでは無い。
私は少しつまらない事を考えて、ふぅと一息ついて落ち着く。
「追加統合魔法 水球」
私が放ったウォーターボールは互いに退き合うものの超魔さんが合図した様に指の動きを参照にして魔力を、練って互いの水流を馴染ませる。
「出来た!」
互いに結合したウォーターボールはより大きく中で先程とは比べ物にならない勢いでマナを循環させていた。
これならば、全力で放った魔法を組み合わせれば、性質も威力も全く違う魔法が私の中で完成する!
私は自分が行った事に対して興奮していた。
「まだ終わりじゃ無いよ。次はマナ共有だ」
超魔さんは私が形成したウォーターボールを一瞬で凍らせて破壊して、ニカっと笑って言った。
「そのまま。行くよ?」
うっ……!?
私がマナの膜を解除する直前に超魔さんは私のマナの管に直接自分のマナを繋げた。
私の中に大量のマナが流れ込んで来て気持ち悪さも感じる。
「押し返して」
マナを一気に込めて超魔さんのマナを押し返して超魔さんは満足気にマナの管を解除する。
「終わり。少しマナの容量も増やしといた。行くよ。みんな待ってる」
マナの共有はアディショナル・インタグレードマジックと然程操作性は変わらなかった。
いや、寧ろ簡単な作業だった。
マナの型を合わせて相手のマナと接続して注ぐだけ……相手のマナとの入り口を作るだけなんだ。
私は明るい顔で超魔さんの後ろを付いて行った。
――亜蓮視点
「何よ、やれば貴方中々凄い方ですわよ?」
おうよ、クソビッチBBA俺を舐めんじゃねえよ。
俺は周囲に走らせた複数の影騎士を自由自在に操って茨燕の影を向かい打つ。
しかし、悔しい事に茨燕の分身の範囲が広過ぎて全範囲に指向性を広げるとしても対処を捉えきれない。
奴は強い。
それは認める。
だが、俺は進化した。
それだけの事実で十分だ。
何が不満だって言うんだ?
「全方位影武者!」
俺の足元から全方位に黒い球を作るように影が広がっていき、茨燕の眷属ごと包む込み、俺の世界は隔離される。
シャドウフィールド。
これが俺の領域だ。
俺の能力は影を操る能力でも何でもねぇ。
ただ、虚空の世界に指向性を広げること位出来ても良いだろう?
俺だって分かってら、妄想の世界は所詮妄想だ。
だがよ。俺は妄想の世界で生きるって既に腹括ってんだよ!
何度も言わせんな!
俺が、広げたシャドウフィールドの中では茨燕の眷属達が居場所を失った様に狼狽えて、暴れ始めた。
シャドウフィールドは視界は悪くなる。
だが、それ以上に相手の視野は狭くなる。
相手の指向は何も無い空間……そう、この俺が作り出した妄想の世界に視野を向ける。
しかし、マナの消費も中々エグいな。
長時間展開は不味い。
相手に気が付かれるって意味でも、自分が負けるって意味でも……。
「合格ですこと」
「何っ!?俺の領域からどうやって!」
「簡単な事ですの。私をこの程度で倒せると思ったら大間違いですの」
これは!眷属!?
俺のシャドウフィールドが徐々に縮まっていき、虚空に消える。
元から俺のシャドウフィールドの中にいる眷属はフェイクかよ。
虚空の世界に迷い込んでいたのは俺だったと言うのか?
「その技は中々強力ですが、技発動の際の隙が大きいのと、従来の物よりも効果範囲が広いのに対して、威力は控え目ですの」
俺は影の様な眷属を扱う茨燕を参考にして仕上げたこの技が通用するとは思ってはいなかったが、ここまで効かないとは思ってもいなかった。
完敗だ。
そろそろ俺もヘトヘトだ。
悪足掻きはよして、降参しよう。
俺は両手を上げて、俺を背凭れにして笑っている茨燕の白い肌の腕を立ったまま握って振り返り際にナイフを生成して付く。
「何をするのかと思ったら……?降参するのでは無くて?」
「元はそのつもりだったが、一かバチかでやってみたくなってな。分かったよ。完敗だ」
俺が突き刺したナイフは眷属を貫き、眷属は影となって茨燕に吸収される。
「貴方聞いていなかったのかしら?合格って言ったじゃない。仲間の所に行くわよ?」
「お、おう」
茨燕は少しイラっとした様で眉を顰めて、俺を見て少し早口で喋る。
その顔嫌いじゃないぜ?
聞こえていなかった訳では無いが、最後まで抗うって何かカッコよくないか?
俺は分かっていてもやっぱり妄想の世界を捨てきれないんだろうな。
俺は少し哀愁を漂わせながら、ポーチに手を突っ込んで仲間の元へと向かった。




