228話 感性と理由
――重光視点
自身の限界を超える力を制御する事なんて出来るのだろうか?
出来る。と言いたい所だけれどそれは中々に難しい事ね。
私は火災旋風を詠唱しながら、額から汗をぼたぼたと垂らす。
並列詠唱でも今の私ならば、火災旋風を起こすのに十分な熱量を生み出せる。
だけれど、問題はそこじゃない。
私の弱点は最大火力と、詠唱時間。
継続戦闘に於いては守る人がいた場合に力を発揮するけれど、正直、私一人だと圧倒的に不利だ。
さっき超魔さんに言われた様に詠唱時間が長く、しかも魔法の威力も格上相手だと歯が立たない。
それは、私の魔力量の問題じゃない。
魔法の制御力……つまり、コントロール能力が低いから!
もしも、この火災旋風をコントロール出来るようになったならば、確実に魔法制御能力は上がる。
着々と形を成して行く火災旋風に超魔さんはおー。と言いながら何をするでも無く眺めている。
「うーん。威力上げたいなら別に魔法と魔法を合体させれば良いのに」
え?
「これだと、使い勝手悪そうだし」
超魔さんの再び炸裂した文句が、私の集中を途切れさせ、大分形を成していた火災旋風はその状態で崩壊する。
巻き込んだ破片を上空から途轍も無い速度でマシンガンの様にあたり一面にばら撒く。
不味い!また、前と同じ事をしてしまう!私は必死に制御し直そうとするけど、火災旋風は止まらない。
「絶対零度」
へ?
私の頰は霜が張り付いており、私が吐く息は白い。
空気は凍りつく様に寒く、真っ白に染まっている。
「ごめん。断熱の壁全部張れなかった」
超魔さんが少し申し訳なさそうに手を差し出す。
私達と他の仲間達の場所を区切る様に透明の壁が天高くそびえ立っており、そこから先は一切凍り付いていない。
私の真横では闘技場の観客席を巻き込む様にして巨大な氷塊が形成されており、火災旋風は氷塊の中で静かに凍り付いていた。
炎をそのまま凍らせた?
あり得ない。
それが私の率直な感想だ。
しかも、そんな魔法を一瞬で……。
「同じ魔法でも範囲や威力を絞れば短時間で詠唱出来たりする」
これでも威力を絞っていると言うの?
ちょっと目眩がしてきた。
目の前に起こっている事が凄すぎて私は何が何だかもう分からなくなっていた。
驚き過ぎて放心する私に超魔さんは眠そうな目を開いて言った。
「無理しない。もっと簡単に威力出す方法教えてあげる」
超魔さんは手を正面にかざして精製した巨大な氷塊を粉々に砕いてミスト状にしてから再び手を正面に翳して白くて丸い等身大の球を形成した。
その白い球からは白い湯気が出ており、少し離れた位置でも冷気を感じる。
「まず、魔法を滞空させる。それが、難しいんだったら慣れる。そこに魔法を撃ち込んで放つ。簡単」
超魔はそう言いながら白い球を維持しながら、反対の手で同じ色の球を形成して合成して、巨大化させた。
そして、説明を終えると両手をパンと合わせて跡形も無く消し去った。
「はい。やってみる」
超魔さんはとんでもない天才の様で、具体的な説明は一切しない。
取り敢えず、ウォーターボールとかの魔法から始めようと試みるけどウォーターボールは静止する事無く、そのまま落下して、辺りに水を撒き散らす。
「ダメ。しっかりとイメージを固めて滞空させて」
だから、どうやれば良いのよ!
私の心の中で突っ込みを入れるけど、文句言ってても仕方がないので、ひたすら空気中に滞空させるイメージを固めて水球を滞空させる。
少しずつだけど私は感覚を掴んで来た様で、球は少しの時間なら空気中に浮かせる事が出来るようになった。
「少しでも滞空させられれば、それにもう一つの魔法を合成するだけ」
やっている事は並立詠唱や、据え置き魔法と変わらない。
だけど、魔法を具現化した状態で合成するか、具現化していない状態で合成するかではかなり勝手が変わってくる。
据え置き魔法は出来る魔法が限られるし、手間と時間もかかる上に相手にも手を悟られやすい。
そしと、こちらの方がより正確な魔法コントロール能力が求められている。
超魔さんは感覚的に私の苦手な部分を悟り、適するトレーニングを積ませていた。
あの人に原理なんて物は関係無い。
あの人に通用するのは理由じゃなくて結果なのね。
私は魔法を滞空させながら、もう一つの魔法を発動させて、破裂する水球を眺めて無限の様に回復するマナに感謝して再び魔法を詠唱した。
心なしか少しずつ詠唱速度も上がっている気がするのは気のせいでは無い気もして来た。
「良いよ。その調子。あとでマナの共有も教えてあげる。あんたの固有スキルも何と無く分かったから」
超魔さんはそんな私の様子を見て私の固有スキルもマナを回復する物だと完全に見抜いて得意そうに笑みを浮かべた。




