21話 ゲームと現実
シャコ戦後半です。
「!?」
俺は霞んで行く視界の中山西が俺の方に走ってくるのが見えた。止めたかった、、、山西の力では鋏を開かせる事は出来ないだろう、、、俺はもうここで終わるんだ。だが、その俺の意思とは反対に山西は考える前に咄嗟に走り出した。身体が勝手に動いたのだ。
(私のできること!?)
山西は安元に言われた言葉を思い出し、山西は跳躍し、安元を挟んだまま暴れているシャコの様なモンスターの鋏に飛び乗った、、、そして、
「はぁぁぁぁあ!」
山西は全力で奴の鋏の関節に槍を突き刺した。だが、
(ギィィィィイン!)
山西の槍は硬い甲殻に阻まれる。
「お前じゃ、、、無理だ、、、山西、、、」
俺は出せる声を絞って出したが上手く声が出ない、、、俺は大丈夫だ、、、重光達が傷口を攻撃する準備を整えてるんだ、、、余計な手間増やすんじゃねぇ、、、よ、、、遠のく意識の中、俺は山西に対して考える、、、だが、
「無理じゃない!」
山西が目に涙を溜めながら叫んだ。山西から俺に向かって緑色の光が飛んで行き俺を覆った、、、その瞬間から俺の身体から少し痛みが和らぎ意識が少し覚醒した気がした、、、そして、
「仲間を信じろ!って言ったのはあんたでしょ!そのあんたが私を信じなくてどうするの!信じてるんでしょ!添島君でも私でも良いでしょ!?自分の言葉に責任持ちなさいよ!」
山西は大粒の涙を流しながら槍を奴の鋏に突き刺し続ける。そして、奴もその山西が鬱陶しくなったのか拳を構えた。危ない!
「山、、、西、、、後、ろ、、、だ」
「きゃぁぁぁあ!」
(ドン!)
俺が言葉を言い終える前に山西に拳が炸裂し、山西は吹き飛んだ。
「山西!(さん)!」
「私は、、、良いから、、、早く安元、、、を!」
山西はボロボロになりながらも叫んだ。そして、重光も詠唱が完了し、、、
「!?分かってら!射盾加速!」
奴も嫌な予感がしたのか尾の薙ぎ払いを繰り出したが亜蓮は唇を噛み締めながら盾の火薬を使い跳躍し尾を回避し、
「はぁぁぁぁあ!」
奴の背中の傷にククリを全力で突き刺した。
「キシキシキシ!」
奴は悲鳴を上げ、俺を捉えている鋏が少し緩んだ気がしたがまだ抜けない。
「亜蓮君!避けて!多重火雷槍!」
亜蓮か背中に刺したククリを抜かずに奴の背中から飛び降りる。そして、その傷口に大量の魔法が撃ち込まれ白煙をあげる。そして、、、
「ギシギシギシァァァァア!」
奴は今までにない様な濁った音を上げながら俺を解放した。
「がはっ、、、!」
俺は空中に投げ出され受け身も取ることが出来ず地面に激突する、、、何故か俺の身体から出血は無いようだ。重光に回復魔法をかけてもらうが少し痛みが引いた程度で、まともには動けない。山西も重光に治療された様だが腕と脚の骨が折れている。山西もほぼ戦闘不能状態だ。だが、、、俺は身体に鞭を打ち立ち上がる。自分の身体を見る、、、俺の腹部の辺りは全部紫色に染まっている。そして、肋骨も何本か折れているだろう。
「はぁ、、、はぁ、、、はぁ、、、ありがとよ、、、助かった、、、重光と山西のお陰で少しは動ける、、、」
俺が先程の攻撃で一人で暴れている奴の方を向き足を踏み出す。
「無茶だ!ボロボロじゃないか!俺が動ける!だから、、、」
亜蓮が俺の身体を気遣い話す、、、だが、その言葉を遮る様に俺は言った。
「俺がやらなきゃ誰がやるんだ!重光の魔法とお前のククリじゃ奴の身の表面しかダメージが通らない!奴のタフさは異常だ!それじゃあ決定打にはならないし、重光の魔法も詠唱に時間もかかる!だが俺の魔法付与は内側から奴の身体を焼く事が出来る!俺にやらせろ!」
俺は全力で言った。
「だが、、、」
それでも亜蓮は肯定的では無い、、、まぁそりゃぁそうだ。だが、、、
「分かってんだよ!無茶な事は!だがな、これからお前らだけで続けたとしても俺たちを守りながら戦える訳じゃない!待っているのは敗北だ!先に力尽きるのは俺達だ、、、だから今度は俺を信じろ!山西に言われたんだ、、、自分の言葉に責任持て!ってな、、、」
俺はあの時の山西の顔を思い出しながら言う。山西は俺の言葉を聞きまた涙を浮かべた。すると、亜蓮は笑いながら言った。
「そうか、、、信じてるぜ!安元!」
そして火薬を腕のバックルの隙間に詰めながら俺の足元に潜り込み俺を担いだ。そして、腕のバックルをセットし、、、
「射盾射出!」
亜蓮は俺を奴の方向に向かって火薬の勢いまで使って放り投げた。
「ぐっ、、、はぁぁぁぁぁぁあ!」
俺は身体に走る痛みに耐えながら二本の刀を空中で抜き、奴の傷口に深く刺し込み叫んだ。
「属性付与!雷火!」
(ギィィィィイ!)
俺は奴の体内で火と雷を発動させる。すると奴は物凄い音を出しながら暴れ始めた。
「ぐっ、、、」
何てしぶとさだ、、、体内に火をつけられ、雷を流されても暴れるなんて、、、もっとだ、、、
「はぁぁぁぁあ!」
俺は更に全力でマナを込める。それこそ魔力壊付与にでも使う量のマナを継続的に流す。俺が力を込めるにつれ火と雷は大きくなっていき俺が刀を刺し込んでいる傷口からは俺の上半身を覆う程の炎が上がりその炎の周りには稲妻がパチパチと音を立てている。もはや俺が行なっているのは付与とは言えないレベルだ。そして俺が全力でマナを込めて直ぐに奴の動きは鈍っていき、、、
(ドン!)
奴は力尽きた。そして、
(バタッ!)
俺も地面に倒れた。勿論俺が倒れると同時に炎と稲妻は消失した。
「おい!安元!大丈夫か?」
亜蓮が俺に近づくが俺は返事はしない。
「マナ切れで意識を失っているみたい、、、急いでボスをマジックバックに回収して三人を連れて帰りましょう!」
皆はボスを倒した喜びよりも俺達の心配の方が大きい様だ。そして重光が山西の方を向く。
「山西さん、自分で動ける?」
それに対して山西は
「無、、、理、、、」
と言いながら動こうとするが重光が制止する。
「無理に動こうとしないで回復一応もう一度回復魔法かけといたわ」
と言い、山西を背中に背負った。
「あり、、、がとう、、、」
山西は先程よりかは痛みが引いた様な顔をしている。それで重光は転移碑の方へと歩き始めた。そこで亜蓮が焦った様子で
「おい、おい、それにしてもこの意識失ってる二人はどうやって、、、」
「転移碑は体の一部が触れていれば転移出来る筈よ。前回も添島君を安元君が運んだでしょ?」
重光が亜蓮の言葉を遮る様に言う、、、
「いや、そう言う問題じゃなくてな、、、ってちょっと待て!」
重光は山西を背負いテクテクと転移碑の方へと進んでいく。
「はぁ、、、よい、、、っしょ!っと、、、お、重い、、、」
亜蓮は添島を背中に背負い足に手を通しその手で前方に安元を抱えて歩き出した。
「急いで!でも怪我人だから慎重にお願い」
転移碑に到達した重光が亜蓮を呼ぶ、、、そして、
「じゃあ転移するわよ?準備は良い?」
「ぜぇ、、、ぜぇ、、、おう、、、オーケーだ。全員身体は触れているぞ、、、」
亜蓮は息を乱しながら答えた。
「一人ずつ運べば良かったじゃないまぁ、、、」
重光が言い終わる前に亜蓮が答えた。
「急ぎなんだろ、、、」
「ありがとね、亜蓮君。転移!」
重光の声に合わせて重光達は拠点へと転移した。
「ふぅ、、、危ない所じゃったわい、、、もう少しで身体が行く所じゃったわい、、、全く心臓に悪いのう、、、さてと治療もせんといけん事じゃしさっさと拠点に戻るかのう、、、しかし添島のあの気、、、あれは固有スキルじゃのう、、、あれはしっかりと訓練をさせなければ危険じゃのう、、、」
「また、来とるわい、、、彼奴らは鑑賞資料じゃないぞい、、、全く、、、転移」
最後にジジイはボス部屋の端っこで微笑む金髪の女性の方を向いて言うと転移した。
「中々良いスキルですわね、、、これも闇智さんに報告っと、、、」
その女は転移碑も使わずに黒い何かに包まれ姿を消した。
「あ、お爺さん!お願い!怪我を、、、」
拠点に皆は戻りジジイに重光が治療を依頼しようとするがジジイは
「皆まで言うな、、、分かっておる、、、これはかなり酷い怪我じゃのう、、、ワシじゃなかったら治らん怪我じゃ。一体何があったんじゃー?」
最後の方ジジイは少し棒読みで言った様な気がしたがそれどころでは無いと思い亜蓮が説明する。
「いや、、、急に添島が光り出したと思ったら物凄い速度で飛び出して行って、大きな爆発が起こって気付いたらこの状態に、、、」
ジジイはその声を聞きながら詠唱を完了させた。
「全回復!」
ジジイが魔法を唱えると前ほどでは無いにしろ緑色のオーラが添島達を覆い傷を治した。骨も元どおりになっており流石ジジイと言う感じである。そしてジジイはふぅ、、、と一息ついてから話し始めた。
「いきなり光り出して爆発的なエネルギーを生んで爆発したと?ふむ、彼奴はこの前まで気は上手く使えずその練習をしていた、、、それで今回も気を使おうとした、、、ここまでは間違ってない筈じゃ、、、だが普通気を使う時は気が身体を覆う為、ある程度の衝撃、ましてや自分の攻撃の反動程度ならばほぼ緩和出来る筈じゃ、、、例外はあるが、、、」
「それなら、どうして、、、」
重光が疑問に思ったようだ、、、
「恐らく、反動が相当な衝撃だったか、、、それとも、、、何らかの現象で気を身体に纏えなかったかじゃの、、、じゃが敵は首領貝盾蝦蛄(ドス シェールド マンティス)じゃろ?」
「名前は知らないが多分奴だろう、、、そうだあの古代生物みたいな奴だ」
「それなら奴の甲殻に亀裂を入れる位じゃ。前者の方が正しいじゃろ、、、そして気を溜められる量には限りがあるのじゃ、、、鍛えれば上限は上がる。じゃが、添島にあれだけの気があるとは思えんのじゃ。あの状況から判断するに添島は気を上限を超えて貯蔵しておりそれを一度に解放した様に見えたのじゃ。気と言うものは休んだりしてると魔力と同じ様に溜まる、、、じゃが、上限は勿論超える事は無い。じゃが添島は一種の固有スキルで、その気が上限を超えた気を蓄積する事の出来るスキルと見た、、、まぁワシが見た限り上限を超えてから溜まる速度はかなり遅くはなっているとは思うのじゃがな、、、その特徴から『気貯蔵』かと見た」
「気、、、貯蔵、、、?」
重光が固有スキル名を呟く。
「そうじゃよ、重光の魔力連動とは違って無限では無いが、上限を超えた威力が出せる固有スキルじゃよ。さて、お主らも疲れているじゃろうし、今日はゆっくり休むのじゃ」
「分かりました、、、」
重光達はマジックバックを持って部屋へと戻ろうとした。
「そこに素材を置いとけば新しい武具を作っておくぞい」
ジジイの声に反応し重光は素材を置く。
「気貯蔵の事は後で添島が起きた時にワシから直接伝えとくわい」
「ありがとうございます、、、」
重光は礼を述べ自室へと戻る。そして皆が目を覚ましてからあの蝦蛄の料理を重光が作り食べた。貝の様なシャクシャク感と蝦蛄のエキスが相り何とも言えない芳醇な香り、、、この浜辺階層の食材の中でもトップクラスに美味しい筈の食事なのに俺達はどこか元気が無いのだった。 それから皆は自室へと戻り呟いた。
「嫌だ、、、死にたく無い、、、」
俺達は初めて死と言うものを間近に感じ、恐怖を抱いたのであった。これはゲームなどでは無い、、、現実なんだ!それを尚更強く実感し身体の震えを落ち着ける様に布団に入り、俺達は眠りについたのであった。
〜〜〜単語やスキルなど〜〜〜
山西が使った緑色の光…補助魔法。対象の生命力を高める。状態異常耐性、身体のスペックの多少上昇、微かに自動回復、、、など後の話でまた使う可能性あり。
全回復…骨折や内臓破裂などの酷い怪我も治せる。全快とは違い身体強化や疲労回復効果などは付属しないがフルメディックヒールよりかは魔力消費量が大分少ない。だがジジイでも一息つくレベルではある。何発も連発してふぅ、、、で済んでるジジイは異常。
気貯蔵…添島の固有スキル。気を上限を超えた気を溜めることが出来る。いざという時に解放すれば絶大なパワーが手に入るが重光のように無限では無い。そして上手くコントロール出来ないと今回のように反動で大怪我を追う事もある。