226話 柔軟且つ剛健な攻撃
――添島視点
「はぁっはぁ……」
俺の身体から汗が噴き出て、大きく肩を揺らして息をする。
俺が剣を交えてどれくらいの時間が経っただろうか?
それは分からない。
剣を交えた相手である、いや、正確には剣を全ていなされたと言っても良い。
尚武は息を一切荒らげずに淡々と俺の攻撃をいなして、鋼で出来たタワーシールドには未だ小さな傷さえも付いていない。
とんだ化け物だ。
本人曰く、特定状況下でこれよりも身体能力が上がると言うのだから驚きだ。
どうやっても敵う気がしねえ。
だが、俺もこれだけ長時間気を身体の中で回し続けるってのはあまり無い為に少しずつ感覚を掴んできた。
今まで即座に気を練って高速かつ強力な攻撃を放つ事を主として来たが、尚武と戦ってみて分かった。
このままだと格上に勝てないってな。
今の俺は柔軟さに欠ける。
ただ単純に強いパワー勝負じゃダメなんだ。
だが、ゆっくりと気を練る時間は実際には無い。
柔らかくかつ強く。
そして、相手の身体の奥底に響かせる重低音の様に重い攻撃!
俺はヘリカルショックの様に螺旋状に絡めた気を全身に行き渡らせてゆっくりとバネの様に形成した状態で尚武の構える盾に向かって攻撃を繰り出し続ける。
「良いざ。その調子ざ。それならば、更なる威力の攻撃にも君は耐えられるざ!」
尚武は口調を強めて俺の士気を存分に高めて、少しずつシールドバッシュのカウンターの威力を上げて俺を弾き飛ばす。
しかし、俺の体内でバネの様に形成した気は伸縮して、その衝撃を受け流して更に自分の力に変える。
その力を持って踏み込んだ俺の速度は今までーー
尚武と初めて剣を交わした時とは比にならない。
そして、俺の速度は踏み込めば踏み込むほど上昇して行った。
凄え。これが俺の新たな力か!?
「いや、それは君の新たな力では無いざ。進化した既存の力ざ」
「気爆破」
俺は気をバネの様に練って蓄積されたエネルギーを一気に凝縮し、身体を地面に着地すると同時に伸縮させて大剣を下段に構え、全身の筋肉を隆起させる。
正にそれはバネの如く。
正面から見るとほんの一瞬で俺が目の前に現れたかと錯覚する様な感覚すら覚えるだろう。
それで距離を詰めた俺は尚武に向かってその強烈なエネルギーを込めた大剣を振り払い解き放った。
「良い攻撃ず。だがーー」
「――!?」
馬鹿なっ!?
俺の視界は地響きと共に後ろに高速で流れていき、地面につけた足に力を込めて杭を地面に打ち込む様に気を発射して何とか止まる。
俺の額からは大粒の汗が流れており、目を見開いたまま固まる。
こいつーー!?
マジで言ってんのかよ!?
せめてこう言うのは冗談にして欲しいものだぜ。
俺は額の汗を左手で拭き取り、遠くでタワーシールドを地面に突き立てた体勢のまま動いていない尚武の方を見る。
尚武はゆっくりと盾を上げて長槍を持っている方の手から槍を肩にかけて俺を手招く様に来い来いと合図する。
何だ?
罠かと思って近づくが、尚武の性格や目的からして不意打ちはほぼあり得ない。
そう思って俺は近づくと尚武は鋼のタワーシールドを指差して言った。
「少し曲がった。君の攻撃は素晴らしいざ。もう一度来るざ」
尚武の言った通り、鋼のタワーシールドは少し俺の攻撃で湾曲しており無傷とは行かないにしろ言われれば曲がってる程度には曲がっていた。
だが、所詮その程度だ。
タワーシールドの湾曲は近くでみてやっと分かるレベルであり、遠目では確認出来ない。
あの時尚武は鋼の盾を地面に突き立てるのと同時に自身の身体を微量に揺らしながら重心を変えて、体幹での衝撃波を起こしながら盾を引いた。
あれはシールドバッシュじゃねえ。
純粋な身体で巻き起こした衝撃波だ。
尚武はそれだけで俺の全身を使った攻撃をほぼ完全に無効化した訳だ。
その二つの衝撃波がぶつかり合っているにもかかわらず鋼の盾がこれだけの損傷で済む事は普通は有り得ねえ。
と、なると残された俺の技はただ一つ。
オーラドームだ。
あれを螺旋状に練った気を全身にゆっくりとバネの様に行き渡らせて行えば長時間のオーラドームの使用も不可能じゃねえ。
良いぜ?やってやろうじゃねえか。
尚武も試合で俺のオーラドームを見ている筈だ。それを完成させる事を望んでいるに違いねぇ。
このバネの様に気を練るのは少し時間がかかるが待ってくれるよな?
「ん?大技ざ?準備出来たら言うざ」
は?
尚武はそう言うとその場で座禅を組み、動かなくなりイビキをかき始めた。
寝るんかい!
いや、そんな事はどうでも良い。
俺は自分の技を完成させるだけだ。
尚武は寝起きでも俺の攻撃なんて余裕で受け止めるんだろ?
なら受け止めてみろよ。
絶対に叩き起こしてやんからよ!
尚武の最後の態度は俺の闘争本能に火を付けた。




