225話 闇智 龗牙
――安元視点
「さぁ、全力で来い。手加減したら死ぬと思え」
闇智は漆黒のローブをひらひらと舞わせながら俺を不敵な笑みで挑発する。
「ちょっとタンマ。その如何にも強そうな防具反則じゃねえか?」
俺は闇智の服にいちゃもんを付ける。
実際に闇智の防具は俺達が見た事も無い素材で作られており、全てが魔道具だと言ってもおかしくない感じだった。
「チッ。うっせえな。合っても無くても結果は変わんねぇよ」
闇智は眉を顰めて舌打ちをして、文句は言っているものの、防具を脱ぎ捨ててただの皮の迷彩柄のカーボパンツとコートに着替えた。
下着もただの布で出来たタンクトップだ。
「これで文句は無いな?」
闇智は武器も持たずに地面の石を持ち上げて手の平で小さな水流を起こしてぐるぐるとかき混ぜて粉砕させる。
ああ、文句は無いけど、さっきの動き意味あったか?
俺は首を縦に振って、肯定の意を示して二本の刀の柄に手をかける。
俺はギャンブラーだ。
先程闇智との戦いで俺の技はどれも通用しない事は既に分かり切っている事だ。
俺に死なれては困るってさっき言ったな?
ならば、止めてみろよ?
止めなきゃ俺は死ぬかも知れないぞ?
俺は一応保険にアクアに強力なオリヴィエを俺自身にかけるように促して全身にマナを込める。
直進しか出来ない技ならば、別々に放射すれば、動ける筈だ。
右に炎。
左に氷。
俺はアクアのオリヴィエが掛かったのを確認するや否や全身のマナを身体の左右に分割して別々の属性を圧縮して込め始めた。
俺のその様子を見た闇智は眉を顰めてはいるものの一切の動きを見せない。
「全身内部圧縮属性付与 曙光!」
俺の身体の右半分が燃え盛り左半分が凍結し、マナを込めれば込めるほどその威力は強まり熱の温度差から新たな衝撃波が生み出されて俺の身体はキシキシと悲鳴をあげる。
今からマナを一気に圧縮して吹き込めば、俺の身体は爆散するか、高速回転して斬撃を叩き込むかのどちらかになる。
さぁ、どうする?
俺の賭けに付き合うか?
それとも、俺の可能性に賭けてみるか?
「馬鹿か」
え?
闇智はそんな俺を見て一言だけ呟いて片手を前に出す。
俺が全身にマナを一気に圧縮させた瞬間俺の中で時が固まった様に留まり、マナが動かなくなった。
それと同時に俺は崩れ落ちて地面に屈服する。
だが、俺の体内に圧縮されたマナは消える事無く、常に渦巻き、俺の身体に形成された炎と氷は未だ輝きを放っている。
「しばらくそのままでいろ。マナコントロール出来ない技をいきなり放つのは馬鹿がやる事だ」
は?嘘だろ!?ちょっと待て!
いや、自分が悪いのだが、全力で圧縮したマナが常に自分の体内で暴れている感じ分かるか?
マジでヤバいから!これ真面目に常に圧力鍋で煮られている野菜みたいな感じだから!
俺はそのままの状態で体内の暴れているマナをぐるぐると掻き回して落ち着かせようとするが、そのマナは全身を駆け巡り、コントロールが効かない。
何処かに収束させて……。
ダメだ。
全身に既にマナを送り込んだ以上は一部に収束させる事は出来ない。
もし、そんな事をしてしまえば、一部に流れ込んだマナに引火して収束させた部分を中心に俺の身体は爆散するだろう。
周りでは既に戦闘が始まった様で獣の様な遠吠えや、巨大な氷塊、地響き、悲鳴などが視界に映ったり音が聞こえてくる。
それに比べたら俺のトレーニングは地味な物だが、これをコントロールする事が出来れば俺は自由にオーバーインプレスエンチャントを使える様になるだろう。
そうなれば、俺の戦闘力は格段に上がる。
それこそ、添島以上にな。
燃費の悪さは相変わらず付き纏うが、最近はマナ量も増えてきて大技を連発しない限りはそんなに気にならない程度にはなった。
次第と俺の体から揺らめく炎が形を作り出して行き、落ち着いてくる。
体内のマナもぐるぐると回るのをやめて全身に巡回しだした。
「ほう?自業自得とは言え上達が早いな。じゃあ、解くぞ」
え、ちょっと待て。
まだ早いーー
「がぁぁあ!」
俺の身体から一気に炎と氷が放出され、俺は空中に吹き飛んだと思った……だが、俺は水中の中に居た。
何故だ……これが闇智が創り出した物だとすれば、間違い無く水蒸気爆発を水中で起こしている筈だ。
だが、水は冷たく静かだ。
まさか!?
嘘だろ?
俺は闇智が笑いながら指を細かく動かしているのを見て驚き固まる。
「ほれ、マナポーションだ。習得出来るまで俺は止めさせねぇぞ?」
「どうした?」
「お、おう」
闇智がやった事の凄さを理解して俺はしばらく静止していたが闇智は水を解除して落下したびしょ濡れの俺にマナポーションを渡し、訓練を続行する事を告げた。
闇智は細かな水流操作と水を消失と創造を瞬時に行って俺が放った攻撃を全て無効化したのだ。
闇属性魔法でも吸収は出来るがそれとはまるで難易度が違う。
闇智は俺に技を出す感覚を覚えさせる為にも技を発動させ、吸収では無く、消失と言う手段を取ったのだ。
しかし、これで分かった闇智は素直になれないだけでかなりお節介な性格だと言う事に。
俺もその思いに応えようとニカっと笑い再び体内にマナを込めた。




