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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
11章 闘技場エリア
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218話 ヒュドラの一矢

山西は両手を腰のポーチの中に突っ込んでヘラクレスを睨む。


ヘラクレスは視線を山西に向けながらも武器を添島の武器に押し付け、逃がさない。


螺旋衝撃波ヘリカルショック!」

「ぬ?」


添島は武器を密着した状態で螺旋状の衝撃波を放ってヘラクレスの領域からの離脱を図る。


本来ならば、僅かにでもヘラクレスに隙ができる筈だった。


衝撃波を受けた瞬間ヘラクレスは眉を一瞬顰め、視線を添島の方へと向けて身体の肢重を軽くずらして衝撃波を受け流した。


たったそれだけだった。


添島は予想以上の反撃が出来ずに少し表情が歪む。


だけど、それでも絶望という表情をせずに次の一手を考えている辺り添島らしい。


だが、その一瞬。


その一瞬ヘラクレスの視線が添島にズレたのを山西は見逃さなかった。


再び左手で粉を撒き、即座に金属の槍を空中で形成。

そしてその槍は連なったままヘラクレスに向かって猛スピードでまるで生き物の様にウネウネと独特の軌道を描いて襲いかかる。


その金属の槍に向かって山西は沿う様に右手の両刃槍を当てて空中で金属の柱を増やしながらヘラクレスに近付き突きを放つ。


その速度は、オーラタンクで強化した添島にも劣らないスピードだ。


それを見たヘラクレスは少し面倒くさそうな顔をして添島に当てていた棍棒を添島から離して後ろに振り返して添島を蹴り飛ばす。


ヘラクレスの肩甲骨の辺りの筋肉が大きく膨らみヘラクレスの背後には大きな衝撃波が生まれる。


添島は大剣でガードを取ったものの壁にぶつかり地面に手をついて息を荒らげた。


衝撃波に包まれた金属の柱は全て風船の様に膨らみ、破裂音を響かせて吹き飛んだが、山西の口元は笑っていた。


あいつ……意識がある?


そして、ヘラクレスは返した棍棒に従って腰を回転させて、山西の槍の一撃を受け止めようとして何かに気が付き後ろに飛び退いた。


「二重の攻撃か?」


そして、山西が形成して吹き飛ばされた金属片が再び形を作って偏差でヘラクレスを襲う。


しかも、その偏差で飛ばした金属片の後ろからは重光のアクアランスとアクアの水球も襲って来ており、このままぶつかれば金属は固まり、ヘラクレスは何らかの攻撃を食らってしまいかねない。


「はぁ……既にバレてるかも知れねぇからもう問題ねぇか……炎之武技フレイム・マーシャルアーツ!!!」


再びヘラクレスの身体のラインが紅色に輝き、ヘラクレスの身体の右半分が炎に包まれて棍棒に収束して行く。


正に紅蓮。


その言葉が表すに相応しい炎の色だ。


棍棒は再び炎の斧に姿を変え、ヘラクレスは全身に炎を纏う。


「行くぞ」


ヘラクレスは短く一言呟いて大地を蹴った。


ヘラクレスの踏み込みは今まで以上に速く、その速さは俺たちの比では無い。


心無しか纏っている炎も最初よりも強く感じる。


山西はそれでも笑う。


既にヘラクレスとの距離はヘラクレスの攻撃の射程内だ。


ヘラクレスは右足を踏み込み、大地を揺らす。


一瞬ヘラクレスの動きが止まり炎が更にヘラクレスの身体から立ち上る。


ほんの一瞬だった。


ヘラクレスの全身の筋肉が隆起し、あたり一面に熱風が吹き渡り、一瞬にして蒸発した高熱の空気が辺りを覆ったのは。











ヘラクレスは肩を揺らして、炎に包まれた闘技場の地面とドロドロに溶けた金属片を一蹴すると、後ろから向かってくる添島を捉えて炎の斧をぶっきら棒に斜め上に振りかぶった。


「何?」


だが、ヘラクレスは攻撃を行う直前に自信から見て左側に右足を引いて二人の攻撃を受け止めていた。


山西と添島二人の攻撃がヘラクレスの巨大な斧を押し付けて、ギリギリと金属の嫌な音を立てる。


そして、山西の身体が二重にブレる。


「ふんっ!」


ヘラクレスはそれでも強引炎の斧を振るって二人を弾き飛ばした。


ヘラクレスの肉体には薄い火傷跡が付き始めており、肩も揺れ始めた。


行ける。


しかし、山西も限界だった。


ヘラクレスに吹き飛ばされた山西はそのまま起き上がる事は無かった。


あれは覚醒モードの副作用みたいな物で意識を失っているだけの筈だ。


一方で重光も炎の攻撃を食らっていたのか火傷跡を作って痛そうに顔を歪めており、アクアランスの詠唱も停止していた。


まともに戦えるのは、アクアと……ヘラクレスの攻撃を受けて尚立ち上がる添島……いや、添島もかなり限界が……。


「おい、ヘラクレス」

「何だ?」

「お前、そろそろ限界来てんじゃねえか?」

「何を……?それはお前の方では無いか?」

「来いよ」

「?」

「まだ隠してる技があるんだろ?俺もだ」


添島は、ヘラクレスに呼びかける。


ヘラクレスは不審そうな目で添島を見てその挑発を嘲笑う。


添島……遂に使うんだな……オーラドームを。


普段通りならば、ヘラクレスもそんな安価な挑発には乗らなかっただろう。


だが、戦闘で熱が入っていたヘラクレスは身体の炎をメラメラと燃やしてニヤリと笑い言った。


「良いぜ?だが、死ぬなよ?」

「お互いなっ!気円蓋オーラドーム!集中連撃(C・Cショック)!!!」


向かい合った二人は、同時に見えない程の速度で急加速した。


そして、押し負けたのは……。






「ぬぅ!?」





ヘラクレスの方だった。


だが、押し負けたとは言ってもヘラクレスは大地を踏みしめて地面にしっかりと立っている。


多少後ろに後退したが、再び体勢を整える。


添島は、ヘラクレスを後ろに後退させたものの、全身に酷い火傷を負っており、被害は添島の方が大きい。


単純な火力で打ち勝ったと言う事にしか過ぎなかった。


しかし、ヘラクレスも動きが明らかに鈍い。


添島の集中連撃は骨の芯や内臓にも大きなダメージを与える。


それが響いているのだろう。


添島は自信のオーラドームの硬直が来る前に決着をつけたいのか無理をして更に足を踏み込んだ。


だが、今踏み込まなければ間違い無く負けだ。


「そうか……そうか……お前ならばあの一撃を叩き込むのに相応しい相手だ」


ヘラクレスは笑っていた。


そして、弓を手に取って言った。


「これが俺の最後の一撃だ」


そのヘラクレスの言葉は本当に最後を思わせる様な狂気を含ませていた。







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