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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
11章 闘技場エリア
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216話 タキサイキア現象

ああ、ここはどこだろうか?


確か俺はヘラクレスに……いや、今も戦っているんだな。


俺はゆっくりと首を上げると白く濁った世界でヘラクレスがゆっくりと腕を振りかぶり炎を纏う姿が見えた。


これが、俗に言う死の直前は周りがスローモーションに見えるって言う奴か……?


もしも、時間を制御できる魔法があるとしたらこんな感じなのかな……?


だが、俺はまだ死んでいないらしい。


もう一撃先程の攻撃を食らってしまえば、俺は即死は免れない。


せっかくスローモーションに見えているんだ。

俺はここで死ぬ訳には行かない。


だが、都合良く身体から力が湧き上がってくる事も無い。


取り敢えずオリヴィエで身体の傷を死亡しない程度には癒すのは最優先事項だ。


ヘラクレスはこちらに向かってきつつも表情は怒りとも悲しみとも取れる表情をしていた。


ヘラクレスは言っていた。


『俺の炎は自らを殺める炎と何か大切な物を殺める炎だ』

と。


そして、最初の炎を解除したのも不自然だ。


燃費が悪い為に常に継続して出せないって事は俺は考えた。


だが、今のヘラクレスの体力の消耗を考えるとその可能性はあまり考えられない。


ヘラクレスの性格は大雑把な様に見えるが実は慎重だ。


明らかな格下の俺達の攻撃に対しても一切の手を抜かない上に、全てに対して防御行動を取っている。


ヘラクレスの言っていた炎とは今のドス黒い炎と最初の巨大な斧を作り出した炎の事だと予測が出来る。


そして、ヘラクレスは未だ背中の弓を使っていない。


更に俺のオーバーインプレスエンチャントに対しての反応も、初見だったのはあるだろうが今までの戦闘でヘラクレスが反応した速度を見る限り木の幹を形成するあの技を使えば身を守れた筈だった。


ドス黒い炎を形成する時に一瞬ヘラクレスは戸惑った様に見えた。


あのドス黒い炎を使うのは忌避感があるみたいな感じだった。


そして、その炎を使った瞬間口調が荒々しくなり、目が虚になったのだ。


俺はその目でしっかりと睨まれたのを捉えていた。


恐らく、それが何か大切な物を殺める炎と言う事なのだろうな。


木の幹に関しても攻撃するタイミングで発動させれば速度を落とさずに火力を底上げして、添島相手でも容易に瀕死に追い込む事ができる筈だ。


だが、ヘラクレスが俺達を舐めている様子は一切無い。


武人として、対戦相手として正々堂々と戦う意思をヘラクレスは貫いた。


それが背中の弓と関係があるのかどうかは分からない。


それを考えるとヘラクレスのスキル?は何を行うにしてもデメリットが付き纏っていると言う事が予想出来る。


例えば、一回使うとクールタイムがしばらく必要とか、使っている時に自身が継続ダメージを受けるとかだ。


後者は自身を殺める炎とヘラクレスが言っていた事から可能性は高いが、最初の炎を使った際にヘラクレスが火傷の傷を負っているのは確認出来なかった。


もしかしたら、確認させなかったのかも知れない。


俺は多少ならばヘラクレスの神話を知っている。

それに忠実かは分からない。


実際にアキレスとペルセウスは神話に忠実かと言われれば微妙だった。


アキレスは動きが速い特徴とアキレス健以外は無敵と言う部分。


いや、後者は分身で無敵を思わせていただけだったな。


ペルセウスに至っては神話は殆ど関係無かった。


強いて言うならば空を飛ぶサンダルの代わりに魔力の翼で空を飛んだと言う事位だらうか?


まぁ、そのおかげで俺は新しい技を開発する事に成功した。


そう考えるとかなり設定がガバガバだ。


だが、ヘラクレスの神話を考えてみる。


大きな部分は省略するが、自らの子供を炎で殺した所や、最期は騙されて毒に侵されて、炎に焼かれて死んだと言う事を考えるとヘラクレスが言っていた言葉は大体辻褄が合う。


ん?毒……?


俺はそれでヘラクレスの背中に背負われている弓を理解する。


ヒュドラの毒弓!?


ヒュドラとは九つの頭を持つ巨大な龍でその毒は触れただけで身体を腐敗させ、強靭な肉体を持ってしてもそれを阻む事は出来ないと言う。


そして、ヒュドラは首を切っても再生力が高く一瞬にして新たな首を生やす化け物でもある。


そして、ヘラクレスの持っている棍棒はオリーブの棍棒だ。






全てが繋がった。


オリーブは今では平和の象徴の木として祀られている。


そして、薬草オリーブと言う物がある。


薬草オリーブは直接的な肉体への癒しなどとは関係が無いが、オリーブの実は身体血液のコレステロールを下げたりする効果があり、身体の調子を整える効果がある。


神話とは関係ないが、それならばヘラクレスの纏った木がオリーブだとしたらならば治癒力……つまり、異世界のヘラクレスが扱った木材には肉体の再生力をあげる特殊効果があってもおかしくは無い筈だ。


いや、これは飽くまで俺の仮定だ。

そうとでも考えないとヘラクレスの炎の効果を俺は説明できない。


飽くまでこれは全て俺の憶測でしかない。


ヘラクレスの最初の炎に自傷効果があったと考えた際に、ヘラクレスが火傷を隠す為に不自然の無いタイミングで炎を解除して木を纏ったと考えられる。


そして、治癒効果は纏った木を解除しても継続するが、そこまで効能は高くなかった。


それで炎の使用をしばらく抑えて、別の炎を使った。


それが俺の見解だ。


白く霞んだ視界にはヘラクレスが徐々に腕を振りかぶって来ており、あと数十センチで炎が俺に到達しそうだ。


高鳴る鼓動。


迸る汗。


そして、ヘラクレスの熱気。


俺達が勝つ手段は一つしか無い!


俺はスローモーションになった世界で高鳴る鼓動とは裏腹に落ち着いていた。


ヒュドラの弓をヘラクレスから奪う!


俺はオリヴィエを発動させて身体の表面の傷を癒し、ドーム状に展開してヘラクレスの炎の勢いをも削いだ。


やっぱり、俺は賭けが好きの様だ。


後は任せたぞ……!


もう一度俺は全身にマナを収束させる様に集中させて、ゆっくりと腕を振り下ろしている様に見えるヘラクレスの方向にエネルギーを照射するイメージを固めた。









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