212話 試合前の一息
どれが本物だ?
大量に分身を生成したアキレスを見て俺は肩を抑えながら困惑する。
「どれが本物か……?みたいな事を考えている顔をしているな……?残念ながら全部本物――」
「うっせえよ。どれが本物だろうが全部殴れば良いんだろう?気爆破」
アキレスが好戦的な笑みを浮かべて分身させた身体を一斉に動かすが、添島はそれを一蹴し、大剣にエネルギーを纏わせて回転し、そのままの勢いでアキレス達を強烈な斬撃で吹き飛ばす。
「――っ」
しかし、ペルセウスがアキレス達の間に隠れていたのか添島は咄嗟に剣を盾にして後ろに吹き飛ぶ。
そうか、確かに全部殴れば良い話だ。
何も考える必要は無い。
(アクア、上空からペルセウスの位置を伝えてくれ、空中からの援護も出来れば頼む)
空中から状況を確認させていたアクアにも指示を出して俺はペルセウスの位置を把握する。
亜蓮の方に向かってるな……。
「共鳴属性付与!火!」
「む?」
俺は亜蓮の近くにいたペルセウスの進路上に地雷を設置してペルセウスを誘爆に巻き込む。
それで亜蓮はペルセウスに気が付き狙いを定める。
ペルセウスは誘爆からステップで逃れたものの、亜蓮にマークされた事が気に入らない様で少し不快感を示す。
亜蓮は複数相手や、対象が発見できていないと能力が生かせない。
亜蓮がペルセウスにマークを付ける事が出来たという事はヘイト管理が一気に楽になる事だろう。
だが、亜蓮はヘイトを稼ぐのは得意だが一人で耐えれる耐久力や相手を倒す攻撃力は持ち合わせていない。
誰かが援護に行かないと厳しいのは確かだ。
「――がっ!」
「おいおい、他の奴を援護している余裕があるのか?」
亜蓮の方を見ていると唐突に俺の胸部に痛みが走り、ほぼゼロ距離で笑うアキレスの姿があった。
いつの間に!
「内部圧縮――」
「急所は外しちまったか……よっ!」
「属性付与!火!」
俺の胸には短槍が刺さっており、アキレスはそのまま短槍を右手で持ったまま足で蹴りを入れて俺を吹き飛ばした。
短槍が俺の身体から抜けて血が噴き出す。
渾身の力で放ったインプレスエンチャントも空に消える。
俺は痛みを堪えながら空中を舞う。
もう一度……翼を生やすか……?
俺はオリヴィエで止血を行いながら、視界がスローモーションになるのを感じた。
重光はアクアランスで大量のアキレスを近づけさせないーーん?
明らかにおかしい……。
俺を先程まで追っていたアキレスは口元の血を拭いながら俺の着地点目指して既に走り始めている。
その速度は速く、誰も追いつく事は出来ない。
しかし、アキレスの速度ならば重光のアクアランスには当たる事は無い筈だった。
判断能力が落ちている?
アキレスは全て分身は本物だと言っていた。
そして、アキレスは既にかなりぼろぼろだ。
亜蓮は影騎士を二体程出して、ペルセウスと応戦中で添島が援護に入った。
やるしかねぇな!
俺は背中にマナを集中させ、刀を持つ手に力を込めた。
今回は俺が持つ刀は一本のみだ。
そして、刀を持たない反対側の手にも力を込めた。
「内部圧縮属性付与 火ァァア!!!」
「見事だ」
俺の背中からは炎が噴き出して、空中で加速する。
そして、俺の刀はアキレスを切り裂き地面に着地する瞬間に刀を持っていない方の手で地面に向かってインプレスエンチャントを放射して再び空中に俺は打ち上げられた。
そして、俺の着地点には水のクッションが形成され、安全に着地する。
「ペルセウス。こちらも最後にしようじゃねえか!気円蓋!集中連撃(C・Cショック)」
「――っ。アキレス……すまない」
ペルセウスはアキレスの分身が消滅したのに気が付かずに添島の渾身の一撃を食らって後ろに衝撃波を多段に食らいながら吹き飛ぶ。
そして、空中からアクアの追撃の水球を受けて地面にひれ伏した。
「試合終了!勝者挑戦者!」
受付嬢の声が響き、試合終了が告げられる。
俺は体が動かなかったが喜びの表情を浮かべて喜んだ。
ペルセウスとアキレスの装備は回収して死体は焼却した。
そして、控え室には懐かしのあの人物とその仲間達が立っていた。
「よお、遅かったな?行くぞ」
その人物はぶっきら棒にポーションを俺達に投げ、俺達に五十階層に早く行く様に促した。
俺は試合終わった直後なんだけどな……とか思いながらその人物に逆らう事も出来ないので直ぐに次の試合へと向かった。




