208話 変化
「がっ……!?――!内部圧縮属性付与 氷火」
「馬鹿ナ!」
俺は身体を貫いた衝撃に声を漏らしつつも、痛みを堪えて痛みが下方向へと全力でインプレスエンチャントを放つ。
(バキッ)
俺の脇腹からは嫌な音が響き俺の額からは大量の大粒の汗が流れ、俺は空中で体勢を整える事も構わず真っ逆さまに落下して行く。
俺の視界にはドラグーンをボロボロになりながらも地上に誘導するアクアと、俺のインプレスエンチャントを左手のクロスボウで受けて壊れたクロスボウを放り投げる一回り大きなドラグーンの姿があった。
クソッ!仕留められなかったか……!ドラグーンの鱗は非常に硬く防御力が高い。
だが、騎士が乗っているドラゴンは先程の俺の攻撃でかなりのダメージを負っており、左眼の部分に大きな傷が入り血が滴り落ちている。
そして、翼の翼膜にも薄い傷が多数入っていた。
俺の攻撃は無駄では無かったか?
このまま俺を追撃して地上に誘い出せれば下には添島達が待ち構えている。
だが、一回り身体の大きなドラグーンは標的をアクアに変え右手の槍に雷撃を纏い上空に向かって急上昇する。
アクアはもう一匹のドラグーンの相手で精一杯だが、それでも降下してきており、誘導していた。
しかし、それが逆に一回り大きなドラグーンとの距離を詰める事になってしまっていた。
空中戦が行える奴から仕留める作戦か!
「影騎士武者」
ん?亜蓮お前詠唱変えたか?亜蓮は俺達への指示が通りやすくする為に騎士型のシャドウウォーリアと通常のシャドウウォーリの敬称を区別した。
亜蓮の右手からは一本のナイフが飛びそのナイフは騎士を連想させるように形を変えてゆっくりと一回り大きなドラグーンへと向かって行く。
そして左手には五本のナイフが、真っ直ぐと時間差で同じ対象に向かって飛んで行く。
そして、添島のいる場所には最初に重光と俺が撃墜したドラグーンが騎士とドラゴン共に落ちて来ており、添島が落下地点に向かって物凄い速度で疾走している。
あちらは問題無いだろう。
俺はドラグーン二体の間にレゾナンスエンチャントを詠唱して導火線を繋ぐ。
そして、
「ムゥ!コレハーー!ソノ子竜ヲ蹴リ落トセ!竜之咆哮」
一回り身体の大きなドラグーンは仲間に指示を出して暴風の様な叫びを自身の正面に放ち、亜蓮のナイフを一瞬にして搔き消す。
その咆哮で一瞬アクアの動きが固まりドラグーンに首元を噛み付かれたま螺旋状に回転しながら共に地面に向かって急降下して行く。
そして、俺も地面にぶつかる直前にワイトキング戦でも体験したゼリー状の暖かい物体に着地する。
その物体がアクアの下にも形成されていふが、あの勢いで突撃されるとその物体が耐えられるかどうか分からない。
一回り身体の大きなドラグーンは時間差で来た騎士の姿をした亜蓮のシャドウナイトを雷を纏った槍で突いて吹き飛ばした。
だが、
「邪魔ダ!」
亜蓮のシャドウナイトは俺達にとって食らえばほぼ確実に致命傷となるであろう攻撃も耐える。
攻撃力は低いが、防御力はかなり高い。
ドラグーンは即座に二撃目の突きを放ってやや焦った様子で下に降下して行ったドラグーンを追う。
ドラグーンも地上戦に持ち込まれるのは不味いと思っているのか口調も次第に荒らいでいく。
アクアは既に反撃を諦めた様で身体を丸めオリヴィエで分厚い層を纏う。
添島は落下して来たドラグーンに向かって下から大剣を振り上げ直撃させる。
かなりの上空からかなりの速度で落下して来たドラグーンにとってその一撃は大きく大量の血飛沫が添島にかかり、添島の鎧が真っ赤に染まる。
そして、そのまま添島はドラゴンの首を切り落とし、上に乗っている騎士に向かって大剣を振り下ろす。
だが、上の騎士は辛うじて生きていたらしく槍を横向きに構えて添島の攻撃を受け、左手のクロスボウの矢を放つ。
しかし、添島は飛んで来た矢を身体を傾けて躱し、大剣の重量と力で竜騎士を吹き飛ばして首を刈り取った。
「あと二体か」
一方重光は標的を猛スピードで地上に向かってくるドラグーンに変えて次々とアクアランスを放つ。
「ソンナ攻撃ガ当タル物カ!」
ドラグーンは偏差で飛び、初速の遅いアクアランスを躱して行く。
アクアランスは威力が高く、範囲も広いがウォーターランスやフレイジングランスと比べると速度に劣り、連射速度も遅い。
そして、詠唱時の隙も大きい。
動きの素早いドラグーンとは相性が悪い。
アクアは形成された水の中に突っ込んで水を破裂させる。
俺は先程食らった攻撃が痛み走る事は出来なかった。
本来であれば場所を動かなくても発動出来るレゾナンスエンチャントを使いたかったが、今それを使ってしまうとアクアを巻き込んでしまう。
だが、もう一体の方ならばーー!
「共鳴属性付与 氷」
「何度モ同ジ手ニ掛カーー!?」
俺は一回り身体の大きなドラグーンが重光のアクアランスを回避するタイミングで回避地点に向かって導火線を伸ばした。
それを察知したドラグーンが槍に雷を纏って遠距離からレゾナンスエンチャントの誘爆を狙った瞬間ドラグーンの表情が変わる。
そう。
俺も何度も同じ手を使う訳が無いだろう?
空中で破裂したレゾナンスエンチャントは周囲に強い冷気を放出してドラグーンの全身に霜を貼らせ、一部分を凍らせる。
そこへ重光のアクアランスが直撃して、ドラグーンは騎乗していた騎士とドラゴンが分離する。
「シマッーー!」
空中で分離したドラグーンはお互いに身動きが取れずに地面に向かって急降下して行く。
「影騎士」
亜蓮はアクアと共に落ちて来たドラグーンに向かって騎士を放ち、アクアから注意を削ぐ。
アクアは地面で血だらけの状態で横たわっており動かないが、脳内で話しかけて反応がある事から間違いなく生きている。
そして、既に出血は止まっていた。
そこは流石のオリヴィエとアクアの種族の再生能力だと思った。
そこで俺達の身体から力が湧き上がって来た。
この感覚は!山西のバフか?これは体感的に五重強化か……?
山西は地面に膝をついた状態で指を立てて笑っていた。
ん?山西は最近のマナ量では五重程度ではマナは渇欠しない筈……そこで俺は理解する。
あの水のクッションは山西が作ったものだったのか……。
本来であれば水は圧縮する事は不可能だ。
だが、山西の能力でその性質を無視したという事になる。
今回はかなりの高所から落下したという事もあってかなり分厚くクッションを作っていた……それはつまり、マナの消費が大きいと言う事を意味する。
山西も役に立てて嬉しいのだろうか、笑顔だ。
以前は戦闘で傷を少しでも負えば焦りが募り、こんな笑顔は見せられなかったが……俺達も変わったもんだ。
俺も疼く脇腹の傷をオリヴィエで止血しながら口元を吊り上げる。
だが、戦闘はまだ終わってないぜ?
身体能力が上昇した添島は落下してくるドラグーンを。
亜蓮はアクアに覆い被さっているドラグーンを……
それぞれが、既に標的を定めて行動し始めていた。




