207話 竜騎兵
「それでは、試合開始!」
受付のおっさんの太い声が響き試合が開始される。
夢から目が覚めた俺は、次の試合に向けて気持ちを切り替えて仲間と四十七階層へと向かった。
今回は受付嬢は身長二メートル程ある大男に変わっており、ガッシリとした体躯は寧ろお前が選手じゃねえのかよ!って突っ込みを入れたくなるほどだ。
勿論大男の頭は甲殻で覆われており、目は見えない。
背中も甲殻が多い背中からは蟹の足の様な物が出ている。
浅黒い皮膚に真っ白な甲殻の対比は大男の身体をより一層強そうに見せた。
そして、対戦相手のドラグーンは三体いた。
全員赤い皮膚に大きな翼を持った竜に乗っている。
竜の姿は鱗がぎっしりと詰まっており、リーダーと思われる中心の竜以外は二本の足で立ち上がり、腕は翼と一体化している。
リーダーと思われる一回り大きな竜は四本の四肢と大きな翼を持っている。
上に乗っている戦士は身長百七十センチメートルと、小柄な方だ。
全員が青を基調とした頭まで覆われた鎧を身に纏っており、左手には飛び道具であるクロスボウが備え付けられておりリーダーの物だけ紋章が刻まれている。
右手には長槍を構えている。
「「どんな相手でも負けるつもりは無イ」」
左右の竜騎兵の戦士も最初から喧嘩腰なのはさながらドラゴンは試合開始前からと共にアクアと睨み合って唸り声をあげていた。
そして、その左右の竜騎兵の戦士の言葉が重なりお互いがそっぽを向く。
あの二人は仲が悪いのか……?
「よろしく頼む」
リーダーは少し申し訳なさそうに誠実に俺と手を交わした。
サイズは多少ドラグーン側の方が大きいが尻尾のサイズを含めるとアクアと大きさは然程変わらない。
そう考えるとアクアも大きくなったものだ。
今となっては二人を乗せて飛ぶことも出来る。
「試合開始!」
そして、受付のおっさんの太い声が闘技場に響いた。
試合前に対策は立てていた。
俺は試合開始と共にドラグーン達の上空をレゾナンスエンチャントを発動させて覆った。
実際に使ってみるとレゾナンスエンチャントの使い勝手はかなり良い。
置き地雷として機能する上に、爆発させた際のダメージはゼロ距離のインプレスエンチャントには及ばないもののかなり高い。
だが、置き地雷と言ってもバイパスを常に繋いでおく必要がある為に、俺がレゾナンスエンチャントを発動させている間は素早く動けない。
ましてや、レゾナンスエンチャント発動中に攻撃でもされようものならば俺は反撃する事は出来ない。
つまり、地雷を張った所以外は完全に無防備になってしまうのだ。
レゾナンスエンチャントは強力な技だが、そんなデメリットもある。
マナの消費に関してはレゾナンスエンチャントを発動させる範囲にもよるから、上手く言えないが、俺の技は基本的にどれも燃費が悪い為殆ど関係無い。
さて、機動力が重要なドラグーン達にとって初手から動きが制限されるのは困るんじゃ無いか?
山西も俺が作ったレゾナンスエンチャントの壁の周りに黒い壁をドーム状に形成する。
しまった。
山西……それは愚策だ。
俺は作戦としてドラグーン達を初手から拘束して重光の詠唱時間を稼ぐと共に近距離職が距離を詰めると言う作戦は提示したが、具体的には示していなかった。
山西の黒壁は相手の動きを拘束するのは間違いないのだが、この場合黒壁は視界を遮り、中にいるドラグーン達の動きが見えなくなってしまう。
更には黒壁の爆発の威力は俺のレゾナンスエンチャントに比べると微々たる物だ。
まだ、それをするくらいならば強化魔法で前衛の速度と火力を盛ってくれる方が有難い。
添島は正面から真っ直ぐとドラグーンに向かって背中の大剣の柄に手をかけて走り出す。
亜蓮は添島と位置をずらして右手に三本のナイフを構えて円を描く様に旋回した。
(アクア。俺をドラグーンの上空に運んでくれ)
(了解)
俺は遠隔でアクアと交信を取ってアクアに上空に運んでもらう。
俺はドラグーン上空でバイパスを展開したまま待機する。
だが、いくら時間が経ってもドラグーン達が飛び出してくる様子は無い。
何が起こっている……俺は思わず動揺する。
ドラグーン達が飛び出して来ないせいで無闇に地雷の中に飛び込む事が出来ず、添島と亜蓮の動きも止まる。
不味いな。タイミングを完全に外した……こちらとしてはテンポが悪く、前衛職の動きも流れを背き、動きが悪い。
これは予想外の事態だ。
「雷槍突撃」
「っ!?」
展開は突如として起こった。
俺が作成したレゾナンスエンチャントが爆発を起こして一体のドラグーンの姿が見える。
それと共に黒煙が舞い上がって視界は遮られた。
一体の輝く槍の様に空中の俺を狙って突撃してくるドラグーンに対して俺は空中でアクアに離して貰って両手にマナを込めた。
重光もアクアランスの照準をこちらに合わせている。
そして亜蓮のナイフがこちらに向かって飛んでくる。
今回はワイトキング戦で使ったシャドウウォーリアでは無い様だ。
ワイトキング戦で使ったシャドウウォーリアはあまり数を撃てない上にマナの消費が大きい。
更にナイフの投擲速度は従来の物に比べてかなり落ちる。
耐久力は高く継戦能力もあるが、少数先鋭の相手には効果が薄い。
それでもワイトキングの四列詠唱の攻撃を受け切った事から耐久力はかなり高いと推測出来る。
ワイトキングは、一撃一撃の攻撃の威力は小さいが、範囲と狡猾な魔法の使い方が厄介だった。
その特性のお陰で俺達は助かったとも言える。
まだ亜蓮は温存すべきと考え、ドラグーンへのナイフの到達速度も考慮した上での攻撃だったと考えられた。
輝く槍となったドラグーンは一瞬下を向き、亜蓮のナイフに注意が逸らされる。
そして、重光がドラグーン目掛けてアクアランスを撃ち出し、俺も両手に力を込める。
「ギュイイ!」
しかし、そこでアクアの悲鳴が聞こえて上空を見るとアクアはドラグーンの槍を脚で受け止めていた。
アクアの脚からは薄く血が滲んでいる。
そして、
「視野を広ク持た無イ者二勝期は無シ」
俺の耳元で低い声が聞こえて身体を鋭い痛みが貫いた。




