205話 果たし状
スパルタクスの身体は銀色の鎖で覆われており、一歩動く度にじゃりじゃりと嫌な音を立てる。
「共鳴属性付与 火」
俺はスパルタクスの周囲に地雷としてレゾナンスエンチャントを設置して相手の動きを拘束する。
「血之投射」
しかし、スパルタクスは笑いながら腕を振りかぶりながら俺が貼った地雷の中に自ら突っ込んで行った。
「ふがっ！？」
スパルタクスのいた場所は爆発を起こしてスパルタクスも爆炎に包まれる。
だが、それと同時に強烈な衝撃が俺の腹を伝って目の前が一瞬で真っ暗になる。
「チッ」
スパルタクスは俺の腹部に鎖を食い込ませながら斬撃の性質を持った血液を周囲に撒き散らしていた。
それで上手く距離を詰める事の出来なかった添島は軽く舌打ちをする。
スパルタクスは鎖を操りそのまま鎖を俺の首に回して胴体を捻って俺を地面に全力で叩きつけた。
「――！」
「危ねえな。危うくやられる所だったな」
俺は分身させた自分の叩きつけられて消滅した身体を眺めながら両手にマナを込めて刀を両方引き抜く。
こいつはスーパーアーマー持ちだ。
生半可な攻撃は通用しない。
そして、闘技場では他の階層と違ってマナの温存をする必要は無かった。
となれば、話は簡単だ。
「内部属性圧縮付与 氷火！！！」
「鎖壁 血之舞！」
俺の刀は片方は業火を放ち、もう片方は冷気を纏う。
スパルタクスは地面に鎖を撃ち込んで鎖の壁を形成する。
そして、俺や亜蓮や添島、重光や山西の足元から鎖が勢い良く射出され巻き付く。
アクアと亜蓮と添島は回避……添島は鎖を力付くで千切ったが、俺を含む他のメンバーは鎖で拘束されてしまう。
少し距離が離れているな……だが、媒体を刀にしておいて助かった。
そう思いながら俺は足を拘束されたまま両手を振り下ろした。
「藍水槍」
詠唱が完了した重光も俺の斬撃に被せる様にアクアランスを放ち、鎖の壁は俺の斬撃で斜めに傷が入りスパルタクスの姿が露見――
しなかった。
中から見えたのは赤い血の海で、赤い血は嵐の様に闘技場内を飛び交う。
重光のアクアランスは水を赤く染めながらギリギリと金属と擦れる様な音を立て、添島は後ろから集中連撃を発動させてスパルタクスを内部から破壊した。
「所詮ハ雑魚ハ集ッテモ雑魚ダ……」
スパルタクスの最後の言葉は俺達に言ったのか自分自身に言ったのかは分からない。
だが、最後に地面から勢いよく出てきた鎖は亜蓮のシャドウウォーリアに吸い取られて終わりを告げた。
「試合終了」
受付嬢のやる気のなさそうな声が響いてスパルタクスとの試合は終わった。
スパルタクスは俺達の攻撃で死んだと言うよりは自滅したに近い。
俺達は全身のピリピリと痛む切り傷と複雑な心境に眉を顰めながらスパルタクスの鎖を剥ぎ取った。
中にはスパルタクスの肉体は無く、残っていたのは脱け殻だけだった。
スパルタクスは、本当は汚い手は使いたく無かったのかも知れない。
そして、勝てないと踏んで罪悪感で自害した可能性も考えられる。
そう思えるほど今回の戦いは呆気なく、虚しかった。
その後、控え室で食事を取って少し仮眠を取る。
流石に今回は色んな意味で疲れた。
少し眠らして貰っても問題は無いだろう。
食事中にふと机の端に置いてある紙が気になり、文字を見る。
そこには日本語で闘技場の試合順が書かれていた。
日本語で書かれている事から何者かがこの紙を用意した事は間違い無い。
だが、ここが階層の狭間である以上異世界人以外は考えられなかった。
しかし、ここに先程まで人がいた気配は無い。
ここに来る転移碑は四十五階層の物か、五十階層と考えるとボスラッシュである闘技場エリアではゴリアテとスパルタクスを倒さないとここに来る事はできない。
しかし、ボスは普通に生きていた。
ボスモンスター復活のクールタイムはほぼ無いに等しい事からさっさとボスモンスターを倒して先に進んだ可能性が考えられる。
ジジイとかならば、その可能性も考えられるが、何の為にここに来たのかが分からない。
だが、少なくとも俺達を知っている奴なのは間違いない。
そこの紙には
三回戦 竜騎兵
四回戦 アキレスとペルセウス
五回戦 ヘラクレス
と書いてあった。
最後のニ体は神話の神様の名前が書いてある事からかなり強そうだ。
だが、その名前からも複数戦の可能性は低いと考えられた。
次の敵はドラグーン……か……対空中対策をしっかりと練る必要があるな。
全て真に受ける訳では無いが参考にさせてもらおうと思ってその紙を拾い上げる。
すると裏に小さい文字でこう書いてあった。
〈五十階層で待っている。早く来い〉
と。
――そして、俺はまたあの悪夢を見た。
