204話 飢血の戦士
唐突に首に回された手に俺は一瞬死を覚悟する。
だか、俺の首は胴体と分離する事は無かった。
スパルタクスは肩に傷跡を負っており、その傷痕から何が起こったかを一瞬で俺は理解して、オリヴィエで毒霧を払う。
だが、不思議だ。
スパルタクスは先程亜蓮の攻撃を食らったのだろうが、亜蓮のナイフが破壊された後はどこにも無かった。
だが、スパルタクスの身体には鉄錆の様な物が付着しいる事が窺えた事から亜蓮のナイフはスパルタクスに溶かされたと推測出来た。
スパルタクスは自身の身体に付着した鉄錆を長い舌で舐めて不気味に笑う。
「ヘッヘッヘ……避けられたカ?だが、鉄の味は良かったぜ」
俺は正直何を言っているんだ?と言うのがスパルタクスに対する印象である。
亜蓮は元から奴が急所を狙ってくる事は予知していた可能性が高い。
似た役職として。
相手の戦力は、姑息な手を使ってくるものの正直大した事は無い。
スパルタクス以外の戦士はスケルトンと比べても然程大差が無いレベルだ。
しかも個人が名誉を優先し、連携もクソも無い。
「死ねぇ!あがぁ!?」
そして、俺の背後から鉈を持って飛びかかった戦士も亜蓮に頭蓋骨をナイフで貫かれて命を散らす。
スケルトンと違って痛覚があり、物理攻撃もそれなりに有効な為にスケルトンよりも幾分か楽なレベルだ。
ワイトキングのスケルトン達の方が統率も取れており厄介だった。
しかし、蹂躙される仲間を見てもスパルタクスは腕をぶらりと垂らしたまま不気味な笑みを浮かべている。
それどころか、殺されていく仲間を見てどこか楽しそうだ。
そして、残りはスパルタクス一体のみとなって俺達も攻撃の準備を整えて武器を構えるとスパルタクスは言った。
「ヒャッヒャッヒャ!血はやっぱり良いなぁ?」
スパルタクスは近くに倒れている戦士の首にナイフを突き立ててナイフを舐めて目を細めた。
そして、声のトーンを低くして背筋が凍える様な冷たい目でスパルタクスは言った。
「あの雑魚共じゃ相手になるとは思っていねぇよ。信用トハ裏ギル為二有リ。飢血之導」
そう叫んだスパルタクスの手足から伸びていた鎖が伸びて地面に突き刺さる。
そして、スパルタクスの肉体には鎖を伝ってエネルギーが吸入されて行く。
俺は危機感を感じて両腕にマナを込める。
「内部圧縮属性付与 火!」
「ガァァァア!良イゾ!モットヤレ!」
スパルタクスは俺のインプレスエンチャントを食らってもエネルギーを吸収し続ける。
全身に大火傷を負いながらも笑って痛みを求める姿に俺は底知れぬ恐怖を感じた。
だが、それも首を切り飛ばせばそれは終わる事だ。
俺はそう思い笑い声をあげるスパルタクスの正面で腰を落として刀に手をかけた。
(ギンッ!)
「なっ!」
最近、多少の事では驚かなくなった俺だったが、今回は驚きの声をあげる。
俺が放った居合斬りはスパルタクスの首元に吸い込まれる様に刃が入った筈だった。
だが、俺の放った刀はスパルタクスの首の中程で金属音の様な音を立てて止まっており、俺がいくら力を入れても刀が動く事は無い。
「信ジル事ガ出来ルノハ己ノ力ノミダ」
首の中程まで俺の刀が入ったスパルタクスは目だけをギョロリと動かして俺を睨む。
その目には既にヘラヘラとした最初の様な笑いは無かった。
「どけ!気貯蔵!」
添島が俺の後ろから猛スピードで助走を付けて俺の刀が首に刺さったままのスパルタクスの顔面を上段から斬りつけてスパルタクスを吹き飛ばす。
スパルタクスの頭はザックリと切れており、鎖を地面に埋めたまま後ろに吹き飛び、俺の刀も首から抜けて地面に転がり落ちる。
「準備ハ整ッタ。コレが俺ノ本当ノ姿ダ」
吹き飛ばされたスパルタクスは鎖を体内に回収する。
すると、全身を鎖で覆われた様な厳つい見た目に変化する。
だが、先程添島が切り裂いた部分である頭は鎖がヒビ割れており、相当なダメージが入った事が窺えた。
そして、スパルタクスの足元には血溜まりが出来ており、スパルタクスの身体からもポタポタと血が流れている。
「民衆ヨ血二飢エロ!ソシテ狂気シロ!」
自らの仲間を犠牲にしたスパルタクスは既に異形となって、目は狂気その物だった。
普通の人間だったら死ぬ程の重症を負って尚、血を求めるスパルタクスに俺達は恐怖の感情が止まらなかった。




