202話 決闘
食糧調達及び、装備改良が終わった俺達は転移碑で四十五階層のボス部屋の先に転移する。
ボスモンスターが日本語を話す理由は知識を輪廻させている影響と知能が高い事からこの迷宮が存在している間に覚えた可能性が高い。
ワイトキングとか露骨にコミュニケーション取りたそうだったしな。
四十五階層の狭間を潜った途端俺達は大きな歓声に包まれる。
「闘技場へようこそ。エントリーは既に済ましておりますので試合を楽しんで下さいね」
入り口に立っていた頭に亀の甲羅の様な甲殻で目まで覆った受付嬢の様な人型のモンスターが手を差し出して俺達を中に案内する。
中はドーム状の階層型闘技場が広がっており、まるでそこはローマのコロッセウムの様だ。
大きさは中々広くそれなりに走り回っても問題が無さそうなくらいには広い。
その闘技場の中心には身長三メートルは有ろうかと言う大きさの屈強な戦士が立っていた。
「この階層の闘技場はどなたか一人しかお入り出来ませんのでその点をご了承下さい。参加なさらない方は観客席に移動して下さいね」
受付嬢は丁寧にこの闘技場のシステムを解説して、口の端を吊り上げて準備が出来たらお申し上げ下さいとだけ言って下がった。
恐らく敵はあの屈強な戦士一人。
そうなると、俺達から出す戦士は彼しかいない。
「添島。任せた」
「あ?俺か?」
添島は、自分に来る事は分かってたが行きたく無さそうな表情をして眉を顰めた。
いや、分かるぞ。
行きたくないのは分かるんだが、どう考えても適性はお前だろ。
個人の戦闘力は俺達の中では添島が間違い無く最強だ。
亜蓮でヘイトを取る事も考えたが、決定打が無い上にここでの消耗は抑えたい所だった。
そして、後衛職は言うまでも無く論外だ。
そうなると添島くらいしか無いだろう。
「かったよ……行ってくるわ」
添島はぶっきら棒に大剣を引き抜いて肩に構えて闘技場の中に入って行った。
「出場者はお決まりになりましたか?それでは不参加者はこちらの観客席へどうぞ」
俺達は受付嬢に促されるままに観客席へと向かう。
観客席では乾いた黒パンや飲み物が配られており俺もそれを頂く事にする。
「俺ノ名ハゴリアテ!名前ヲ名乗レ!」
闘技場全体に図太い声が響き、ゴリアテは右手の長槍を回して地面に柄の部分をズドンと叩きつけて大地を揺らす。
それに従って観客達は歓声を上げた。
ゴリアテと名乗った添島と対峙する戦士は銅色の鎖帷子の鎧を身に纏っており右手に長さ四メートル程は有ろうかと言う巨大な長槍と左手には自身の大きな体躯の半分を覆い隠す様な大盾を持っている。
そして、左手の腰には刃渡り一メートル程の長剣が鞘に収まっている。
「ったく騒がしいな。俺は添島康ただの人間だ」
ゴリアテの名前を名乗れと言う発言に対応し、添島が面倒くさそうに大剣をラフにぶら下げて名前を名乗る。
(ゴン!)
二人の自己紹介が終わった瞬間ゴングの音が鳴り響き、ゴリアテが大地を揺らしながら長槍を構えて添島との距離を詰める。
「ウラァ!」
「ぐっ!?」
添島は半身を引いてゴリアテの突きを躱そうとするが鋭い突きは空気をも切り裂き添島の頰を切り裂いて鮮血が舞う。
「遅ェナ!」
「気貯蔵!」
ゴリアテが添島が躱した長槍を力のままに強引に横に薙ぎ払うが添島はオーラタンクを発動させて大剣を左下から斜め上に切り上げて反撃する。
(ガキンッ!)
金属音が響いて添島の身体が宙に浮く。
「盾殴打!」
「気爆破!」
「ムゥッ!?」
ゴリアテは添島の身体が宙に浮いた隙を見逃さずに赤いエネルギーを纏って盾を構えて勢いよく足を踏み込んだ。
だが、添島も空中でオーラブラストを発動させ、ゴリアテの盾に衝撃波をぶつけて空中で回転しながら後ろへと退避する。
「ヤルナ」
「お前もな」
添島とゴリアテは互いに口の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべ武器を構えて睨み合う。
単純な力やリーチではゴリアテに分があるか……。
生半可な力じゃゴリアテを倒す事は出来ないぞ……?
今の所戦況は五分五分だ。
「「うおおおおおぉ!!!」」
「同じ手に何度も引っかかるかよ!」
睨み合ったお互いの緊縛は直ぐに解けお互いが走りだす。
先程と同じようにゴリアテが長槍を突き出すがそれを予測していたのか添島はスライディングでゴリアテの下に潜り込む。
そして、そのままゴリアテの後ろに回り込んで足を踏み込んで上段からの強烈な一撃を放つ。
(ガキンッ!)
「侮ルナ!」
しかし、添島の大剣は腰を捻ったゴリアテの盾に阻まれ甲高い金属音を再び響かせる。
ゴリアテはそのまま身体を捻った勢いで腰から下も反転させて、槍での突きを繰り出す。
「ぐわっ!?」
それを添島は身体を捻って避けようとしたが攻撃を弾かれたばかりの添島はゴリアテの攻撃を避け損ねて後ろに吹き飛ばされる。
「マダ行クゾ」
ゴリアテは唸り声をあげて吹き飛んだ添島を追撃する。
ゴリアテの攻撃は相当重かったらしく、添島は額から大粒の汗を大量に流しながら眉を顰めて大剣を杖にして立ち上がる。
ゴリアテは既に距離を詰めて来ていたが添島は杖にした大剣を強く地面に押し込んで立ち上がった勢いでエネルギーを螺旋状に練りこんで大剣を下から上に切り上げた。
まさか!あの技は!?
「無駄ナ事――!?」
「螺旋衝撃波!」
「腕ガッ!?痺レル!」
ゴリアテは盾を持った手を後ろに大きく逸らして叫ぶ。
いや、違う!あれはオーラゴリラが使っていた攻撃に似ているが違う。
オーラゴリラの攻撃は螺旋状に練り上げた気を放って内部組織にも大きなダメージを与える技だ。
今まで添島がこの技を使って来なかった理由は相性が悪かったからだ。
甲殻が硬い相手や、人型のモンスターに対してはかなり有効な技ではあるが痛覚を持たないアンデッド系モンスターや、普通のモンスターには効き目が薄い。
今回添島が放った攻撃は螺旋状の気がゴリアテの盾を伝って腕の内部で激しく渦巻いている。
添島も影でこの技を練習していたのか……?
そうなると、亜蓮のシャドウウォーリアに関しても砂漠で言っていたやりたい事ってのがワイトキング戦で放ったシャドウウォーリアだった可能性が高い。
山西もだが、自分が活躍出来ないことを悔しく思っていた……。
努力無しに強くなろうなんて馬鹿げている。
俺は何故か、添島の試合を見て自分が悔しくなった。
「食らえ!」
添島は大きく仰け反ったゴリアテの動きを見逃さずに大剣を切り返してゴリアテの胴部分を狙う。
「残念ダッタナ」
だが、そこに舞った鮮血はゴリアテの物では無く添島の物だった。




