16話 浜辺エリアの食事情
お待たせしました(//∇//)カニ食べに行こうψ(`∇´)ψ
俺達は息を切らせていた。十一階層を突破するのにどれ程の時間走っただろうか。それが分からなる程、全身に巨大貝の水を浴び水浸しにになりながら俺達は次の十二階層へと逃げこんでいた。地味に巨大貝の攻撃は強く、全身を打ち身した様な痛みが俺達を遅れて襲う。
「あー!ちくしょー!あの貝地味にうざかったな。と言うかマジで身体痛ぇ!」
本当にあの貝は面倒だった。いくら走っても見えない地中から攻撃をしてくるわ、だからと言って反撃しようと思ったらさっさと地中に逃げ込むせこい奴だ。一回苛ついた添島が地面ごと抉って攻撃を仕掛けたが、貝の殻に阻まれダメージは通らなかった。その為、俺達は貝への攻撃は試すだけ無駄だと感じた。
だから俺達はノンストップで走り続けて十一階層を突破して現在に至る。本当に疲れた。そして、俺のその愚痴に対して添島が聞きたくない事を言った。
「ああ、だが、あの貝がこの階層にもいないとは限らんぞ?」
そうなのだ。この階層にも奴がいるかもしれないのだ。寧ろ階層が下に行けば行く程敵はより厄介になるだろう。既存の敵に加えて更に厄介な地形ギミックやモンスターが現れる。それだからマジで下に行きたくない。
その俺達の言葉はフラグとなって現れる。嫌な予感がする……。目の前の地面からは泡の様なものがぶくぶくと出浮上している。また地中からかよ。
「あー、そう言っているそばから目の前に変な泡の塊の様なものが見えるんだが……」
亜蓮が言う。うん知ってる。そんなの見たら誰でも分かるわ!問題は奴が居るかどうかなのだ。さて正体を現して貰おうか?そう思い、俺が武器の柄に手を掛けると添島が眉を顰めて一歩下がった。ん?添島が一歩下がるって事は無闇に近づかない方が良いのか?
「おい、添島?どうしたんだ?嫌そうな顔なんかして。あの泡に何か心当りでも有るのか?」
「ああ、あの泡か?多分アレは蟹に近い生き物のものだとは思う。蟹なら近づいたら姿を現す筈だ。少し近づいてみるか?」
添島が言った。成る程、アレがもし蟹だとすると浜辺エリアでの初めての戦闘になる可能性は高い。だが、このエリアでの戦闘経験が少ない状態で更に下の階層に進むのは少し不安だ。その為、添島は近づくかどうか悩んだのか。無闇な戦闘を避けるべきか、ここで少しでも戦闘経験を積むか。と言う意味で。
「経験を積むと言う意味でもここは一回戦ってみようぜ?」
「分かった」
添島は了解の意を示し、泡の出ているところに歩いて近づいて行った。勿論臨戦態勢でだ。
「うわっ!?って。ええ!?」
「こんなに居るなんて聞いてないぞ!」
おいおい、マジかよ。そこには大量の蟹がメキメキと音を立てながら出て来た。数多すぎだろ!
「だから嫌だったんだよ」
添島は眉を顰めて嘆いた。すまん完全に意味履き違えてたわ。そして、その蟹は元の世界のタカアシガニよりもサイズが圧倒的に大きい。だが、見た目は足が短く、まるで毛ガニの様だ。胴体がデカイ。あのカニの味噌は美味そうだ。よし決めた。アレは今日の夕食にしよう。絶対に逃すものか!俺が涎を垂らしながら夕食の事を考えていると添島は提案を投げる。
「おい、俺に補助魔法をかけてくれないか?気を試したい」
添島は早速気を試したいようだ。確かにこのカニはずっと口から白い泡を吐きながら威嚇をしており動きも速そうには見えない。気を試すには絶好の的だろう。
「いいぜ!属性付与火!」
「二重強化撃!」
山西と俺が添島に強化を掛け、添島は体内の気に力を集中させて、全力でカニに対して剣を振り下ろした。
「はぁぁぁあ!」
添島の周りの空間が少し歪み一瞬添島の動きが速くなった気がしたがそれも一瞬。剣を振り下ろした瞬間その歪みは消え霧散した。
「キィィィィィイ!」
蟹は甲高い声を上げて丸い胴体を地面に叩きつける。蟹の甲羅に剣がめり込み、蟹の甲羅は大きな破裂音を立てた。しかし、一刀両断まではいかなかった様だ。そして当然添島本人も納得はしていない。寧ろ、今蟹が倒れたのは添島の攻撃で、と言うよりかは山西による強化魔法の恩恵がデカイ。と言うかお前、マナの保有量少ないんだから二重強化なんか使うなよ!
「はぁ……やっぱり駄目か。あの蟹は魔法に弱い。重光後は頼んだ」
添島は気の扱いに失敗しかなり落胆した様子を見せた。残りのカニの処理は重光に丸投げだ。と言うよりただカニの数が多い。と言うかこの蟹は胴体が大きくハサミはそこまで大きく無い。行動も威嚇が多く、隙だらけだ。その為甲殻の硬さ以外に特出した点が見つからない。
他の蟹はもう地面に逃げようとしている。なんだこのエリア……好戦的な敵はいないのか?そして、草原エリアよりも明らかに探索もしやすい。イージーモードか?ここまでサクサク進むと逆に怖いぞ。まぁ楽なのに越したことは無いのだがな……。ただモンスターの硬さは半端では無い為、頭突き亀以前の装備品だった場合歯が立たなかっただろうな。そして、蟹が地中に逃げ込む前に重光の魔法詠唱は終わった。
「多重火球」
自身の周りに少し大きめの赤色魔法陣を浮かべた重光は多数の拳大の火の玉を形成し、蟹に向かって飛ばした。蟹に向かって飛んで行った火の玉は蟹にぶつかるや否や、爆散し辺り一面に香ばしい香りを広がらせる。これは、、、美味そうだ。そして、魔法強ぇぇえ!蟹の甲殻を魔法で破る事は叶わなくても、外部からの熱で蟹は内部を焼かれ、命の灯火を消した。
火球がぶつかり、爆破した時の威力も相当な物の為、蟹の甲殻を大きく抉る事はなくても小さな穴を開ける程度の威力はあった。その為短時間の高温でも内部にしっかりダメージを与える事が出来るのだ。
蟹を倒してから少し探索を進めた所で、俺達はもう時間も遅かった事もあり、拠点に戻る事にした。まぁ、次からはあの嫌味な貝ばかりが出てくる階層に行かなくてもいいのはかなり嬉しい。そして、今からは最高の夕食だ。そう、蟹鍋だ。多分。転移碑に触れて俺達は拠点に転移した。
「おお!帰って来たか!」
俺達が拠点に戻った瞬間ジジイが物凄いスピードで走って来た。どうした?そして口から滴り落ちそうな位涎が溜まっている。そして、なんだ……?そのキラキラした目は……。
「今日は何か美味しそうな食べ物があるのでは無いかのう?」
ジジイは早口だった。お、もしかして蟹の匂いを嗅ぎとりやがったか……?いやしかし、蟹はマジックバックに入っている為匂いはしない筈だ。なんて食い意地だよ!
「え?いや……べ、別に?」
俺だって蟹は死守したい。と言うか何故お前が飯を分けて貰える前提なんだよ!沢山あるが、そこだけは疑問だ。
「そこに蟹が入っとるじゃろう?蟹鍋をするならワシも混ぜてくれんかのう?」
ジジイは俺が持っているマジックバックを指差しながら言った。げっ、マジかよ……食材までバレているとは何てジジイだ。しょうがないな、ジジイにも世話になってるし蟹鍋一緒にするか、流石にこんだけ量があれば俺達全員でも一日では食べきれないだろう。
「いいぜ!一緒に鍋するか!でもあんまり食うなよ?」
「やったのじゃあ!」
五月蝿え!その変なキャラやめろ!みんなで食卓囲むと楽しいって言うけどあまり変わらねえよ。帰れ!
「美味いのじゃぁ〜」
「あ……それ俺の蟹!」
殆どの蟹はジジイの腹の中に収まり全ての蟹は完食したのであった。味は毛ガニの様な見た目なのに脚には濃厚なエキスがたっぷりと詰まっており噛むと凄い弾力で中々千切れず、噛めば噛む程味が出てくる。これは最高だ。そして、味噌もたっぷりと入っており美味であった。味噌自体は甘いと言うよりかは苦味が強い。地面に引きこもってる癖に何で身が引き締まっているのかはよく分からない。
俺達が脚の弾力のある食感を楽しんでいるうちにジジイは飲み込む様に蟹を食べて行き、俺達の分まで無くなってしまった。ジジイの腹は大きく膨れており、そこには何匹分の蟹が詰まってるのか分からない。蟹自体の肉は本体の大きさの割に少ない。分厚い甲殻が周りを覆っている為それを動かす筋肉は最低限である。普段から地面に引きこもっているのは甲殻が分厚過ぎて動けないからで、それでいて筋肉の弾力が凄いのは少ない筋肉でその大きな体を動かす為か?俺はそう考えを巡らせた。
勿論料理人は重光だ。ジジイなんかに料理はさせない。その後腹が満腹になった俺たちは部屋に戻った。その後広場には添島とジジイだけが残っていた。
「添島よ何か話があるのじゃろう?」
ジジイが添島に話しかける。
「ああ、気について俺が使える様に教えて欲しいんだ。頼む」
添島が頭を下げジジイに頼みを乞う。すると、ジジイは笑った。
「はっはっは!いいぞい!簡単な事じゃよ。まぁ先ずは頭を上げるのじゃ。まぁ、教えると言うよりは、実際に気をお主の身体に流し込んだ方が分かりやすいじゃろう?ほれ!」
そう言うと添島の腕をおもむろに掴み、少し力を込めた。ジジイの腕が淡く光りその光が添島の身体に流し込まれる。
「!?」
添島の方に何かが流れ込みジジイとの間で循環する。その動きに添島も目を瞑りひたすら何かコツを掴もうとしている。そして、何回か循環した所でジジイは気を循環させるのをやめて言った。
「少しは役に立てたかのう?」
すると添島は目を開き何かを掴んだ様な顔をして言った。
「あ、ありがとうございます!」
「そんなに畏まらなくても良いわい。ワシもお主が出来るだけ早く気を習得するのを楽しみにしておるぞい?では、また分からなくなったらワシの所に来るのじゃぞ?」
添島は頷き自室に戻って行った。
「若いモンは元気じゃのう。フォッフォッフォッフォッ……!」
ジジイは一人で口元を綻ばせて笑った。
〜〜〜単語やスキルなど〜〜〜
巨大蟹…二メートル近くある大きさの蟹。だが見た目はずんぐりとしており毛ガニの様な見た目。普段は地面に隠れている。音がすると出て来て威嚇をする。甲羅は硬いが貝程の硬さは無い。非常に美味。固めの身で噛めば噛むほど味が出る。味噌も美味い。