15話 浜辺エリアでバカンス?いや馬鹿ンスか……?
遂に来ました!浜辺階層!
今日からまた迷宮探索の再開だ。俺達は拠点の椅子に座り体を解していた。また海に行けるとなったらテンションが上がるな。だが、どうも今日の朝から添島の調子がおかしい。話しかけても反応が鈍い様な感じだ。何か悩み事でもあるのか?もしかしたら昨日の事をまだ気にしているのかもしれない。
「添島、どうかしたのか?昨日の事を気にしているならお前は悪くないぞ?」
俺は添島の様子が気になり、声をかけた。
「いや、何でもない。ただちょっと考え事をしていただけだ」
返って来た答えは何処かぎこちない答えだっえ。やはりこれは俺の予測通り、絶対添島は何かを隠しているな。この空気はまずい何か話を切り変えるか。
「そう言えば昨日ジジイが俺達の新しい装備を作ろうとしていたけどもう出来てるのかな?」
昨日、ジジイは俺達からゴリラの素材などを受け取った筈だ。まぁ、今の装備が頭突き亀の素材でもある事だし、加工には時間はかかりそうだが、それに対して添島も笑いながら言った。
「まさか、流石にあのジジイでもそれは無いだろ?昨日の今日だ」
やはりそうだよな。添島も俺と同じ意見で一日で装備品が完成するとは思っていない様子だった。
「出来とるぞい」
「うわぁ!」
ジジイは俺達の背後からニヤケ顔で姿を見せた。急に脅かすなよ。びっくりして変な声出てしまうだろ?いや出したけどさ。無駄に隠密スキルの高いジジイだ。驚いた俺達を見たジジイは満足気に
「おお!すまない、すまない、まぁこれがお主らの集めた素材で改良した装備じゃ。感謝するのじゃぞ!」
と言い装備品をマジックバックから取り出した。馬鹿な……。仕事が早すぎる。改良する前は頭突き亀の素材が主でゴツゴツした岩の様な見た目だった装備品は一変してあのボスゴリラの素材を使い、毛皮のコートを鎧に貼り付けた様な感じになっていた。全体を黒い毛皮で覆っている為大きな雰囲気は纏まっている。ゴリラの毛質が針の様に硬質な為、ファーコートと言うよりかはレザーメイルに近い印象を受ける。
そして黒い毛皮から少し出ている緑色のフログマンティスの甲殻がワンポイント入っててお洒落だ。ジジイ中々凝ってやがる……これを一日で仕上げるとはどんな化け物だよ。まぁ着てみるまでは分からないがな……。俺は思わずジジイの能力の高さを信じたくが無い故に心の中で強がって見せた。
だが、その感情も直ぐに払拭される。
「……完璧だ」
添島は鎧を着て思わず呟いた。俺も例外では無い。これは……素材を色々組み合わせてあるのか!?ゴリラの毛皮と頭突き亀の素材が大半を占めているのかと思えばそれだと通気性が低くなる事も考慮されている……。重量も頭突き亀の素材を極力主要部分以外に使わない事で軽量化されており、装備品は俺達の事をよく考えて作られている。
中のインナー部分もクッション性を増やす目的もあり、ポイズンスパイダーの糸も紡いであるのか……そのお陰で肌触りは最高だ。武器に関しても一通り強化がされており、今まで通り頭突き亀の素材を主に使った武器の刃以外の部分はゴリラの素材で耐久面を強化されていた。
「一体どうなってやがる……」
「信じられない位着心地は最高ね」
「これが至高の鎧だ!」
おい、亜蓮そのネタ多分誰も分からないし、得しないからやめろ。あとサイド違うからな。それに、ごめん、ジジイ。感謝したいけど今は感動に浸らせてくれ。ジジイは何とも言えない表情で俺達を眺め、満足している感じで頷いている。
「ありがとな、ジジイ。じゃあそろそろ俺達は十一階層の探索に行ってくるぜ!」
添島がジジイに感謝の気持ちを述べる。そうだ、危ない危ないジジイ作の装備に感動し過ぎて本来の目的を忘れかけていた。俺達は今日から十一階層に足を踏み入れるのだ。
「気をつけるんじゃぞ!」
ジジイは俺達に向かって手を振り、俺達は転移碑へと歩みを始めた。そして、添島がジジイとすれ違う瞬間だった。
「――――――」
「!?」
ジジイが添島に対して何かを話した。それに対して、添島は目を見開いたが何も言わずそのまま俺達は転移した。
「やれやれ……一人であんなに抱え込まなくても良いのにのう。まぁワシもいつも通り付いて行くから関係無いのじゃがの……フォッフォッフォッ!」
海に到着するや否や俺は息を全力で吸い込んで叫んだ。
「到着ぅ!やっぱり海は最高だな!」
そう、海は最高なんだ……妄想の中ではな。しかし、現実は違うんだ。今俺達が見ている光景には水着の美少女なんて物は見えていない。え?山西と重光がいるって?まぁあの二人のルックスはどちらかと言うと美少女になるだろう。しかし、普通モンスターとかが出る危険な場所でアニメとかモ◯ハンみたいな露出多めの女装備なんか着るわけがない。しかし、俺はあのジジイの事だからと淡い期待は抱いてはいた。
だが、あのジジイ!きちんと実用性重視の装備を作ってくるから大した物だ。以外と彼は現実主義なのかもしれない。しかも、それでもデザインはそれなりにお洒落に仕上がっているのだから凄い。ただ、露出が少ない。以上だ。
結局俺が言いたかった事はファンタジー世界に夢見るだけ無駄だと言う事だ。と言うかここはファンタジーの世界だが人物は元の世界と変わらない。エルフとか獣人とかは当然いない。
「そ、そんな……」
「男って馬鹿ね」
ジジイから装備品を受け取った直後から何かに絶望している亜蓮に山西達は冷ややかな目線を向ける。やめろ。亜蓮のせいで風評被害俺達も受けたく無いから諦めろ。
「さぁて、確か道は海岸線にしか無かったんだっけな?行くぜ!」
いつも以上にテンションの高い様子で俺は亜蓮が作った気まずい空気をぶち壊す為に叫ぶ。まぁ、露出多めの絵になる光景は無くても殺風景な通路とか景色がずっと同じの草原よりかは飽きないだろう。
……。
これ草原に初めて来た時も言ってた様な気が……。まぁ、気のせいだろう。それにしても添島の様子がやっぱり変だ。さっきから全然喋らないし、何処かソワソワしている。何処かで話しかけた方が良さそうだ。戦闘に支障が出たら困る。そう思いながら俺が一歩を踏み出した時だった。
「安元!地面から何か来るぞ!」
「へ!?」
亜蓮の声が聞こえ足元を見る……すると足元が盛り上がり大きなマカロニの様な物が姿を見せた。
「ん?なんだ?」
「うわっ!」
空気圧によって威力の上がった水が物凄い速度でマカロニから射出される。それを見た俺は咄嗟に身体を翻して水を避けた。
「ぐわっ!」
俺が水を避けた事によって後ろにいた添島に水が当たって添島は少し吹き飛び尻餅をつく。人間を吹き飛ばす程の威力……。かなり強いな。あと亜蓮お前、切り替え早すぎな。
「大丈夫か?添島……?」
「……」
添島は尻餅をついたまま水が当たった場所を見ている。俺はその態度に腹が立った。何か返事位返せよ!その為、俺は添島の胸ぐらを掴み揺さぶった。
「おい!今日のお前なんか変だぞ!何かあるなら言えよ!それとも俺達にでも言えない話なのかよ!」
俺が詰め寄ると添島は頭を振り、兜を外し気まずそうに言った。
「すまない。実は昨日あのゴリラが纏っていた魔力なんだが……あれを食らって感じたんだ。あれは魔力では無くこの前ジジイが言っていた『気』と言う物ではないかと……そして、あれを食らった時に俺にも使える気がしてな。その事をずっと考えていたんだ」
ほぉ、あのゴリラの気か……。俺は添島の言葉を聞いて手の力を緩める。足元のマカロニはそんな俺達の様子を見守る様にユラユラと揺れていた。確かにあれを使えれば確実に戦力増強には繋がる。だが、その程度の事で黙る様な事だろうか?恐らく責任感が強い添島の事だ。自分の為に自分勝手な行動は俺達の探索に支障が出るとでも思い、完全に使える様になるまでは黙って一人で練習でもしようと思ったのだろう。
「おい、添島!俺達はその程度の事で自分勝手とは思わないぞ?俺達を信じろ!存分に俺達を巻き込んで習得しろ!」
「そうか、ありがとな。ジジイにも言われたさ。自分一人で抱え込むな。ってな。それなら俺も迷惑はかけるだろうが、この技を習得してやるよ!これでもっとお前達の役には立てるしな!」
添島は暗い表情からは一転して笑顔で答えた。
「それで、それは本当に使えそうなの?」
山西が添島に尋ねる。
「昨日少しゴリラに殴られた時の感触を元に感覚が霧散しない内に試して見たんだが、気を纏おうとすると気を纏う前に何故か気が霧散してしまって纏えないんだよなぁ……」
成る程、まだ実戦で使えるレベルじゃないのか。まぁ一日で使える様になれば相当な化け物だとは思う……ん?そう考えると俺達が初めてこの迷宮に来てからジジイの指導で色々使える様になったのは相当凄い事なのではないか?それとも単にジジイの指導が凄いのか?それは分からないが添島なら直ぐに習得しそうな気がした。ゴリラだし。
「まぁ大丈夫だろ、同じゴリラだし」
「おい……。まぁいい。実戦も交えて慣らしていこうとは思う」
添島は苦笑いで答えた。
「まぁ、そんなにくよくよすんなよ!行くぞー!」
「それはお前のせいじゃないか!」
「ゴリラって言った程度でくよくよするならお前はゴリラ以下だ!ってうわっ!?」
俺達がやり取りが終わるや否や、巨大マカロニは水を噴出して来た。
「一体何だってんだよ!?」
「そんなん、俺に言われても知らんわ!」
「とにかく走るぞ!」
俺達は強烈な水鉄砲を受けながら走り出した
「おい!この階層地中に埋まった変な生物しか出ねぇじゃねぇか!」
「おりゃぁ!」
姿を現さない謎の生物に苛ついた様子の添島はその地面に向かって剣の手元を全力で突き立てた。良し。いつもの調子ご出て来たな。それでこそ添島だ。添島の剣が地中中程で止まり、そこを見ると大きな二枚貝が存在していた。
「おいおい、謎の生物の正体は貝かよ。しかも無茶苦茶硬ぇな」
「あっおい!」
姿を現した貝は再び俺達がよそ見をしている間に地面に向かって逃げ出して姿をくらました。
「うわっ!」
別の所から水が飛散し、俺は思わず仰け反る。あの巨大なマカロニの正体は貝の出水管か!
「チッ。腹立つな……だがこいつは戦うだけ無駄だ!一気に走り抜けるぞ!」
添島が舌打ちをし、腹が立った様子で背中の鞘を前方へと回して大剣をホルダーに仕舞う。
「うぇい!神回避!」
「亜蓮!お前は黙ってろ!」
「きゃあ!」
どこに潜んでいるか分からない二枚貝による水流噴射攻撃。それをひたすら避けながら俺達は次の階層目掛けて走った。当たっても致命傷にはなり得ない攻撃。その為俺達は危機感の無い叫び声を上げながら走る。有効打しかない。その為俺達はただ走る事しか出来なかった。
〜〜〜単語やスキルなど〜〜〜
巨大貝…人間の子供程のサイズがある二枚貝。浜辺階層に生息しており、普段は地面に隠れている。出水管と思われる場所から水を噴出して敵を攻撃する。威力は人間を吹き飛ばす威力だが鎧を着ていれば打撲程度で済む。この貝の貝殻は非常に硬く、物理耐性は高い。火に弱い。