14話 反撃そして油断
対ゴリラ後半です。
周囲が眩い光に包まれる中、俺達は地面に向かって飛び込んだ。だが、不思議と身体にいたみはそして、目を開いた。
「一体何が……」
「間に合って良かった……」
重光は膝を地面に付けた。俺達の周りには俺達を守る様に透明なドーム状の壁が複数何重にも展開されており、重光は後方で焦った様子で息を荒らげていた。
「ありがとう」
「なんて威力なの……!?多重範囲防御壁の詠唱を前もって行っておいて助かったわ」
重光は固有スキルでマナ残量が回復したのか再び防御用の魔法詠唱を始めた。重光が何回でも防御魔法を放てるとしても、詠唱を待ってくれる程もうあのゴリラは悠長では無い。それに重光は固有スキルが発現した事を自覚し常に残りのマナを気にせずに全力の魔法を放てる様になり、それで全力で自身の持っているマナを全て防御に回したのにも関わらずもう少しで突破される威力の攻撃を奴が連続で放てるとしたら……。こいつ……ヤバイぞ。
あのゴリラの拳が光り出したら要注意だな。だが、あのゴリラも今はさっきとは違う。俺達がダメージを与えた事により俺達を脅威とみなしている。さっきの様な雰囲気では無い。これからはあのゴリラも本気でかかってくるだろう。これはどうするべきなんだ……。あいつに傷を付けるには俺の力が必要だ。
だが、今はあのゴリラにそんな隙は無い……ここにいれば重光のお陰で安全だがそのままではあのゴリラは倒せない。非常にもどかしい。どうすれば……。
「あのゴリラの拳の攻撃……奴の正面全体をカバーする様な範囲……広過ぎるぜ。それに加えてあの威力……!まともに食らったら即お陀仏だな」
そんな事は皆分かっている!それをどうするのかと言う話なんだよ!添島が何か話し出したと思ったら当たり前の事だった……だが、添島はそこまで話し言った。
「せめて目だけでも塞げれば背後に回り込んで攻撃でも出来るんだがな……っ!?そうだ!重光『閃光』と言う魔法は使えるか?」
急に添島が何かを思いついた様に重光の方を向いた。閃光か。名前からして目眩しの魔法か?確かにそれが使えれば目は塞げそうだ。流石に光までは魔法とは言っても遮断は出来ないだろう。ただし問題は詠唱時間か?
「無理ね。その魔法は使えるけど、今の私の実力では使った瞬間防御魔法の制御が乱れてしまうわ」
だが、重光が語る問題点はそこでは無かった。何てこった……。流石にバリアを解除までして目眩しをする勇気は無い。少なくとも後衛の重光とかはあの爆発する拳の範囲から避けられずにお陀仏になる確率が高い。詰みじゃないか!防御壁の外では俺達が作戦会議している間にゴリラが残った拳を懸命に振り上げて防御壁を攻撃し続け、大きな亀裂を入れていた。もうこのバリアも時間の問題だ。そんな中冷静を保っている亜蓮が俺に対して話しかける。
「少し良いか?俺に案がある」
何だ?
「元の世界で俺はダーツとかFPSゲームとかが得意だったそして、足にも自信がある」
何か急に語り始めた。いやその情報知ってるけどな……でもそれはゲームの話だ。嫌な予感がする。
「だから、もしかしたらあのゴリラの拳を避けて両目にナイフを投擲して刺す事が出来るかも知れない」
うん。やっぱりか。やめとけ。絶対当たんないからな。しかも最初の拳を避けてって所から自殺行為だ。
しかし、案が無いのも確かだし亜蓮の足だと拳を避ける事は可能な気がする。だけど危険な賭けなのは確かだ。
「おい!正気か?」
添島が亜蓮に言う。だがもう俺は誰にも止められないと感じていた。こう言う時の亜蓮は危険なんだ。暴走して自分の世界に入ってしまった亜蓮は止められない。
「ああ危険な賭けかも知れない……だがこう言う場面何か燃えるだろう?」
ああ、もう駄目だ。厨二病ゲーム癖が出て来たな……周りは亜蓮を止めるのを諦めた。だが、その分最大限の援護をしようじゃないか!今ゴリラは片腕を負傷して動きがぎこちない。それをチャンスに変えろ!しかし、それでもゴリラの拳を避けれるのは亜蓮だけなんだ。ここは亜蓮に任せよう。頼んだぞ!
「ああ分かった。その代わり最大限の援護をさせてくれ!山西!行けるか?」
添島も諦めて亜蓮に賭ける様だ。絶対にしくじるなよ?絶対にだぞ?決してフラグじゃないぞ?これでも命かかってるんだから。そう考えたら俺達は危機感が無さすぎる、勿論俺もだ。まだ現実として捉えていない、まだ亜蓮と同じゲーム感覚なのだろうな。
「次使ったら倒れるわよ?」
山西は今にも吐きそうな顔で援護を拒もうとするが、掛けてくれ頼むから。これ終わったらいくらでも嘔吐して良いから!?
「そうか、使ってくれ。ちゃんと回収する」
「はぁ!?私の話ちゃんと聞いてた!?使うわよ……もう知らないわよ?三重強化 速 防ーー」
添島の山西意思を完全にスルーした返事に怒る山西だったが、今はそんな事を言ってられない。その為山西は補助魔法を亜蓮に全力で掛けて倒れた。おい、そんなにかけろとは言ってないぞ!?てか、三重使えたのか!?まぁこれなら安心か……?多分これだけ身体強化をかければあのゴリラの拳を万が一にも食らったとしても死にはしないだろう。まぁまずこの速度なら当たらないだろうがな。
「亜蓮!任せたぞ!」
「任せとけ!」
添島の声かけに対して陽気に返事をした亜蓮は低姿勢になり野を駆ける天馬の様なスピードで駆け出した。
「ウォォオオ!」
「防御壁が割れたっ!?来るぞ!」
防御壁を砕いたゴリラは自らの元へと猛烈な勢いで駆ける愚かな人物に目線を移す。光る拳を上げて亜蓮を狙うゴリラだったが、ゴリラの拳が亜蓮に到達する前に、亜蓮はスライディングするようにゴリラの股をすり抜け体を捻って全力で腕の盾を地面にぶつけた。
「分かってら!射盾加速!」
ゴリラの攻撃によって辺り一面に爆発が起こり、轟音と光に包まれる。だが亜蓮は盾をぶつけた衝撃で破裂した火薬のお陰でゴリラの背後を取り、空中に舞っていた。ゴリラの攻撃も十分に力を溜められなかった影響か先程までの威力は無い。そして、亜蓮はニヤリと笑ってゴリラの背中を蹴りゴリラの注意を誘った。
「ウホォ!!」
ゴリラは亜蓮の思惑通り亜蓮の方を向いた。そのタイミングを狙っていた亜蓮はその瞬間にナイフをゴリラの目に向かって投擲する。
「くらえええ!」
「ウォ!?」
至近距離での投擲。その筈なのにゴリラは拳を振り下ろしたままの態勢で体を逸らして亜蓮のナイフを避けた。
「あっ……」
あ、じゃねえよ。馬鹿野郎!?あの至近距離で外す馬鹿がいるか!!!
「あの野郎外しやがった」
皆がそれぞれの感想を述べ、俺もやっぱり亜蓮か……と思っていたその時だった。外れたかの様に見えたナイフが空中でブーメランの様に曲がり、ゴリラの両目に突き刺さった。
「ウォォオオ!」
ゴリラは縦横無尽に暴れ回る。流石にバリアが有るとは言え、目はそこまでの防御力は持っていない様だった。
「これが俺の実力だ!」
「五月蝿え!」
「ええ……」
亜蓮のうるさい声を否定するや否や亜蓮の悲しそうな声が響くが、今はそんな時では無い!チャンスだ。チャンスを生かすんだ!
「チャンスを逃すな!行くぞ!あの適当に動かしている拳に当たらない様に連携して一気に倒すぞ!安元!タイミング頼んだ!」
添島が大雑把に指示を出す。大丈夫だイケる。
「オーケー!」
「まずは足を後ろから狙って動きを止めるぞ!」
「「了解!」」
「はぁぁぁあ!」
「魔力壊付与!」
添島と亜蓮の攻撃に合わせて俺も無属性の魔力を放出してゴリラのバリアを相殺する。そして添島と亜蓮のコンビネーション攻撃がゴリラの足を後ろから抉った。
「グォオォォオ!」
ゴリラは血を足から噴き出しながら膝を突き足を斬られた方向に向かって、拳を光らせた状態で体を捻って殴りかかる。だが、甘い。動きは読んでいる。
「多重範囲防御壁!」
今度はゴリラの動きを読んでいたのもあり落ち着いた様子で重光がバリアを張り防いだ。当然だ。目の見えない状態で攻撃出来るのは音がする方向か攻撃された方向位しか無い。予測は簡単だろう。さぁ、そろそろ終わりにしようか。
「お前の攻撃なんてもうとっくに見切ってんだよ!安元!」
「おうよ!」
添島の指示に従い、俺達は全員でゴリラの背後にまわる。
「終わりにするぞ!」
「魔力壊付与!」
ゴリラの背中には大きな一の字型の傷が刻まれた。だが、ゴリラは倒れない。頑丈な奴め。
「グォオォォオ!」
ちっ、仕留められなかったか……背中に大きな傷を作ったにも関わらずゴリラはまた体を捻り拳を光らせた。だが、ゴリラは直ぐには動かなかった。何かが違う。俺の中で嫌な予感がした。
「はっお前の攻撃なんてバリアで防げるんだよ!次でトドメを刺すぞ。重光バリアを頼む」
添島ゴリラがゴリラを煽る。ちょっと待て。
「多重範囲防御壁」
重光がバリアを唱える。だが来ない……そう。あのゴリラの攻撃がまだ来ないのだ。先程より異様に溜めが長い。しかも光り方がまるで螺旋を描く様に拳から腕にかけて紋章の様な物が浮かんでいるのだ。これがただのタイミングズラしとは考えづらい。
「おい、やっぱり何か変だ!」
「俺もそう思う。とても嫌な予感だ。だが、バリアがあれば大丈夫だ。奴の攻撃一発では中まで攻撃が届く事は無い。だが、一応いつでもガード出来る態勢は整えとこう」
添島とそんな会話をしていた時だった。
「グォオォォオオオ!」
今までとは明らかに違う叫び声をあげゴリラは拳を俺達の声がした方向に向かって振り抜いた。
辺り一面に轟音と光が覆い、俺達は恐る恐る目を開けて、バリアの方を見た……しかし、バリアはヒビは入っているものの割れてはいなかった。やっぱり杞憂だった。そう思った時だった。
防御壁に大きな亀裂が入った。
「なっ!?」
外は白煙に包まれており様子を観察する事は出来ない。一体何が起こっているんだ!?バリアのヒビの部分には螺旋状の光の塊?というよりエネルギーの塊だろうか?その様な物がドリルの様に高速で回転して、唸りながら輝いていた。
あれがこの現象の正体か!俺達がその物体に気付いた瞬間の出来事だった。エネルギーの塊が歪み、破裂した。そのエネルギーは衝撃波を放ちバリアを数枚砕き、正面にいた添島を襲った。まだバリアが残っているにも関わらずそれを容易く貫通する衝撃波。その衝撃波の威力は想像するに容易い。
「ぐぁぁぁぁあ!」
「添島!」
「添島君!回復!」
添島はそのまま衝撃波の勢いに吹き飛ばされ、壁にぶつかった。重光が咄嗟に詠唱をした。お陰で止血は出来ている様だが、突然の状況に、俺も理解が追いつかない。重光もパニックになっているので、傷まで回復しているかは不明だ。俺達は添島に近づく。
「どうやら気を失っているようだな」
亜蓮は冷静に言った。
「どうしよう……添島君が……」
重光は完全にパニックになってしまっている。俺と亜蓮はあまりの事に思考が追いつかず逆に冷静になっていた。山西はまだ気絶したままだ。煙が晴れ、ボス部屋の全貌が明らかになる。ゴリラは地面に伏していた。もうその身体は息をしていない。最期の攻撃って所か。
そして俺は周りを見る。誰も動かない。
そうか、、、添島が今まで指揮してたのか……今指示出来るのは俺しかいない。重い空気の中俺は口を開いた。
「と、とにかく先ずはゴリラをマジックバッグに入れる。俺は添島を担ぐから、亜蓮は山西を担いでくれ!そして直ぐに転移碑まで移動して転移しよう!」
拠点に戻ればジジイがいる……ジジイならどうにかしてくれるかも知れないと思い、俺達は拠点へと転移した。
「やれやれ……今回もひやひやしたがワシが入るまでも無かったのう。そして一人固有スキルの発現か。なかなか育て甲斐があるわい。さてわしも直ぐに戻って添島を治療せねばいけんのう……」
ジジイはふと何かに気付き、ボス部屋の端っこの方を見る。そこに潜んでいた影はジジイがそちらを見た事に気付き姿を消した。
「あれは闇智の所の……。まぁそれはどうでも良いわい」
ジジイは口髭を触りながらゆっくりと転移碑に向かい、拠点に転移した。
「はぁっ!はぁっ!戻って来た……おい!ヒゲの爺さんいるか!早く来てくれ!」
俺は焦った様子で拠点に戻るや否やジジイを呼んだ。頼む……出来るだけ早く来てくれ!
「呼んだかの?」
ジジイは背後に立っていた。
「うわっ……って頼む!この二人を治してくれ!」
単直に要件をジジイに頼んだ。有無を言わず先に治療をして欲しいのだ。説明はそれからだ。すると落ち着いた様子でジジイは言った。
「全く、ジジイ使いが荒いのぉ……まぁ大丈夫じゃよ、山西に限ってはただの魔力切れによる気絶じゃし、添島は内臓が損傷してるようじゃが、ちゃんと止血もしてある事じゃし急がんでもワシにかかれば直ぐ治るわい」
「本当に治るんだな?」
「勿論じゃよ、ワシを誰だと思っておるのじゃ」
治るならジジイに任せよう。ジジイが誰だと思っているに関してはいろんな意味で変態だとは思っている。
「謎の老人」
亜蓮それ事実だけど、今言うセリフじゃないぞ。
「酷い……まぁ見とれ」
ジジイは少し落ち込んだ後にニヤリと口を綻ばせ叫んだ。
「全快!」
ジジイが叫んだ瞬間、ジジイの周囲を巨大な魔法陣が浮かぶ。そして、津波のような緑色の光がジジイから出て来たかと思えば、その光は二人を覆い尽くし、竜巻のように渦巻いた。
「なんて魔力量なの……!?」
それを見た重光はあまりの魔力量に腰が引けている。そして、緑色の光の竜巻の渦が収まると
「まぁ、こんなものかの」
ジジイら疲れた様子で冷や汗をかいていた。そして何故かやっちまった的な表情をしている。失敗かとおもって二人を見てみるとジジイが傷を治す前に比べて肌の張りが良くなっている気がした。そして、微かに光っている。おいジジイなんだこれ?
「ジジイちょっと疲れてないか?」
本当にジジイは疲れた顔をしていた。
「そ、そんな事はないぞ……決して見栄を張って必要の無い大技を使ってしまったとかそんな事は……」
はい、お疲れ様。ジジイにも保ちたい面子が有ったのだろう。だが魔法のレベルが高過ぎて逆によく分からなかった。あとあれだけの大魔法を詠唱したにも関わらず何だあの詠唱速度。異常だ。
「ゴホン……まぁ、この後は暫く寝かしとけば目を覚ますじゃろう。ほれ、十階層のボスとでも戦ってその怪我を負ったのじゃろう?新しい装備でも作ってやるからボスの素材をワシに渡してくれんかのう?」
話を誤魔化すようにジジイは言った。ボスは傷跡から察したのだろうか?いや、ジジイも昔迷宮でゴリラと拳を交えたのだろうから知っているのは当然か?俺はそう思いながらジジイにマジックバッグを渡した。
「ゆっくりと休むんじゃぞ!」
ジジイが言って俺達は寝床に戻ろうとしたが俺はある事に気付いてしまった。食材がジジイの手に渡ってしまった。
俺は急いで食材だけは料理させない様にジジイの所に向かい料理の材料を取り戻した。それを重光が料理をしたのだった。ゴリラの肉は固く噛み応えがあり煮込むと牛すじの様な感じで、味はあまり美味しいとは言えない癖が強く大半は燻製にしてジジイの酒のつまみになった。オークの肉もジビエ料理に近くて、少しガッカリしたが、仕方がないだろう。普通に考えて品種改良もされておらず飼料もそれ用では無い肉が高級ブランド豚にも劣らない味をしていたら逆にビックリである。
だが、今までの食事の素材が素材であった為俺達の中ではオークの肉は好評であった。それに、普通に食っても不味くは無い。多少癖はあるが、美味い部類である。
「ん、」
どうやら山西が目を覚ました様だ。
「お、やっと起きたか……」
「あ、安元?ボスは倒したの?」
ボスは倒した事や添島の話をしていると目の前のドアが勢いよく開いた。
そこには添島の姿があった。
「!?添島!?もう動いても大丈夫なのか?」
俺は驚き思わず、椅子を立ち上がる。
「おう!そうなんだよな。寧ろ怪我する前よりも体の調子が良いくらいだな」
多分添島の体の調子が良いのはジジイの魔法の所為だと思う。いや筋肉ゴリラだからか。すると、いつも以上にエネルギーの漲っている添島は少し次の階層の視察に行こうと言い出した。まぁ良いけど。それにやっぱり、山西もいつも以上に体の調子が良いみたいだ。絶対ジジイの魔法の所為だな。二人が元気な事に安心した俺は、それに付き合い俺達は次の階層十一階層に転移する事にした。
「おお、海だ!」
「あんた、はしゃぎ過ぎ!」
いや、だって海だぜ?テンション上がるだろう?そうここ十一階層には海というより浜辺……ビーチが広がっていたのである。まぁ浅瀬だな。
「人魚はどこだ!」
亜蓮……取り敢えず落ち着け。まぁ気にしない事にしよう……というより人魚どころかモンスターの気配も無い。これは不気味だ。海の方は鮫の様な生き物がいたが彼方には進めなさそうだ。この階層は海岸線に沿って進むことになりそうな気がする。少なくとも草原程迷う事は無いだろう。
「それにしても妙だな。目に見える限りモンスターが見えないな」
添島が言う。それは俺も思っていた。だが、亜蓮曰く地中に気配がある様だ。成る程地中か。亜蓮お前良く分かるな。そして、今日は時間も遅いし拠点に戻る事にした。添島も前面露出した防具じゃ嫌だろう。明日からがまた楽しみだ。
「くっ、俺が不甲斐ない為にみんなに心配をかけてしまった。せめてあのゴリラが使っていたマナ……恐らくあれが気と言うやつだろう。あれを俺が使えるようになれば……!」
添島は拳を机に叩きつけた。
何と無く体に撃ち込まれた時に感覚は少し掴めそうな気がしたんだが……クソっ!」
添島は一人苦悩していた。それをジジイはどこからか見守っていた。
「行き詰まったら直ぐ相談に来るのじゃぞ?」
添島は後ろも振り返らず答えた。
「もう少し自分で頑張ろうと思います……」
ーーその頃
「どうだ?あいつらの様子は?」
闇智は金髪の女性に対して話しかける。闇智の前の女は長い髪の先をカールさせており、どこかその場に合わない雰囲気を纏っていた。
「あら?情報をお求めですの?」
その女性が口から覗く八重歯を強調するかの様に笑う。
「ああそうだ、と言うより俺が頼んだんだな……」
闇智が早く言えとでも言う様に呆れ、頭を抱える。
「うふふ……相変わらず愛想が無いことですの。無事十階層を突破したみたいですわよ?」
その女性は速やかに情報を闇智に伝える。
「そうか、これからもあいつらの進捗状況を定期的に伝えてくれ」
闇智は口元を綻ばせた。
「まぁ、よろしくってよ。でもあなたはもう少し柔らかくなった方が良いとは思いますわよ?」
その女性は闇智の手を握ってはにかむ。
「余計なお世話だ。お前もその偽セレブ口調をやめたらどうだ?」
「残念ながらそれは許容出来ませんの」
女性は眉を顰め、闇智の手を離した。だが、機嫌が悪くなった感じは一つも無い。寧ろ、嬉しそうにも見える。そして、闇智達とその女性は黒い影に包まれて場所を移動した。
〜〜〜単語やスキルなど〜〜〜
気螺大猩々(オーラゴリラ)…十階層のボス。追記→気を扱い拳に気を纏い攻撃し大爆発を起こす。範囲と威力が凄い。必殺技は拳に螺旋状に気を纏い撃ち出す。シールドを貫通し、多段ヒット。
多重範囲防御壁…複数のエリアバリアを重ねてはる。一つが破られても次がある。
全快…ジジイの回復魔法。対象の傷を回復し、尚且つ能力に一定時間のバフをかけ一定の強さ以下の状態異常無効などヤバい回復技。部位欠損も回復する。ジジイでもこれを撃つと明らかに疲れる程の魔力を消費する。
迷宮十一階層〜…海、浜辺、浅瀬らしい。海岸線以外は行けなさそう。
謎の女…闇智と話していたセレブ口調の金髪をカールした八重歯が特徴の女性。名前はちゃんとつけてます。