12話 エリアの中ボス的存在
今回も短めです。
俺達はジジイに『自動地図』とか言うチートアイテムとこのエリアの強敵である頭突き亀とか言うモンスターに対する対策アイテムを貰い、それを懐にしまって再び迷宮六階層を探索していた。
「これ凄ぇな!絶対迷う事ないわ」
「ホントそれな」
ジジイがくれた地図のお陰か昨日とは違いまるでゲームをしているような感じだった。しかもこの地図、驚く事に罠の場所なども含めて発見した場所は記してくれるのである。これは本当にチートアイテムだ。これがあるのと無いのでは未開の地を探索する際にGPS機能を使用したグー○ルマップの有無程差がある。
それから俺達は何度か戦いはあったものの添島などが敵を用心深く警戒してくれていたお陰か想像以上にサクサクと進み八階層まで来る事が出来た。本当にこんなに簡単に進めて大丈夫なのだろうか……?そう逆に不安にもなってくる。
八階層に来たとは言っても景色などはあまり変わらない。ただ、出現するモンスターの種類は増えていた。その代表的な例がパラライズワーム……ワイヤーワームの亜種である。見た目はまるでファントムマスクと言ったら良いのだろうか?舞踏会に出ると言ってもおかしくない程に派手なマスクを被っているような頭部を持っている。色は黄を基調としており毒芋虫とは違い、麻痺毒を使う。
他のモンスター達と連携されて麻痺毒を撒かれると厄介だが、その麻痺毒も重光の魔法で解除出来るし、心臓が止まる程強力な物でもない為、割と対処は可能だった。
強いて言うならばこの八階層も変わり種は無かった為、俺達は特に苦戦する事も無く八階層を抜け九階層に来ていた。そして、そこで遂に奴が姿を見せた。
「思った以上に順調に進んだな」
俺の気が抜けた様な声が響く。これだけ順調に進むと気も抜けるものだ。
「殆どこの地図のお陰なんだがな。これだけ順調に進むと逆に怖くなってくる」
添島は兜を掻いた。まぁそれは俺も思っているのだが、やはり今の感じからするとイマイチそう言う危機感が湧かない。
「この階層を超えたらボスがいる階層ね」
重光が呟いた。そうか、もうこの階層超えれば十階層なのか次はどんなボスが待ち受けているのやら。
「くれぐれも気は抜くなよ?どんな事が起こるかわからねえからな……って!?来やがったな!」
添島の雰囲気が変わった。なんだ?と俺は思い添島の見ている方向を見ると大きな山の様なものが近づいて来ているのが見えた。なんだ?まだその物体とは距離もそこそこ離れており、その物体の移動速度も遅い。
「ヘッドバットータスだ!急いで罠を設置しろ!罠に土属性の魔力を込めれるのは?」
添島が叫び周囲を見渡し、俺の所と重光の所でアイコンタクトを取る。いや無理だから。俺の能力は『魔法付与』だが今の所他の人の表面にマナを纏わせたりする事は出来ても他の物体の内側には込められない。決して使えないとか思わないで欲しい。悲しくなるから。
でも何か自分に纏わせたりする時は内側から湧き出している様な気はするんだがな。だから俺は罠を設置出来ない。添島に対して首を横に振り合図する。するとそれを見ていた重光が頷く。
「私出来ます!」
「そうか、罠を使えるのは重光だけか。重光!俺達が時間を稼ぐ!その間に罠を頼んだ!」
添島の指揮に従い重光は罠の設置に向かい俺達は臨戦態勢に入った。すると先程から近づいて来ていた、大きな山の様な物……ヘッドバットータスが姿を現した。硬そうな尖った岩石の様な巨大な甲羅に鱗の様な物がついた太い手足、元の世界で言うガラパゴスゾウガメに近いだろうか?
しかし違う点を言えばまず大きさだ。四つん這いで立っている時ですら背の高さは二メートルは超える。めちゃくちゃデカイ。尚且つ頭の前方にも硬そうな角の様に発達した甲殻が付いている。あんな角と質量でぶつかられたら終わりだ。その威力はオークの攻撃の比では無いだろう。
そして、ヘッドバットータスは俺達を見つけるや否や吠えた。
「クオオオォ!」
「来るぞ!」
叫び声を上げたヘッドバットータス。その体は先程までとは違い猛スピードで加速する。頭を甲羅の中に引っ込めて走るヘッドバットータスの身体は次第に俺達にも大きく見えて来た。速い!時速三十キロ近くは出ているだろうか?あの質量でぶつかられたらひとたまりも無いだろう。軽自動車……いや、並みのトラックにぶつかられる位の衝撃はあるかも知れない。
「身体強化 防!」
「属性付与! 土!」
俺達は罠に掛けるまで時間稼ぎをすれば良い。それを分かっている為防御を固める作戦を取った。山西は添島に対して防御を底上げし、俺は添島の身体に触れ、土をイメージしてマナを込めた。それにより添島の剣と鎧に岩の様な物が付着した。土属性のマナ……こんな感じか?
「さぁ、来い!」
添島が叫び、俺達の一歩前へと歩み出る。そして、ヘッドバットータスの前方で大剣を盾のように構えた。普通なら耐えられないだろう攻撃。だが、強化された添島なら多少のダメージで済みそうだ。そう思ったその時だった。添島にぶつかる寸前ヘッドバットータスは引っ込めていた頭を高速で撃ち出した。
「何っ!?ぐっ……!!!」
ヘッドバットータスの伸縮された首から放たれた強烈な頭突きは添島の大剣を軸から砕いた。大剣は芯から真っ二つに割れ、添島は後方へと吹き飛ぶ。逆に大剣が折れたのは幸運だったのかも知れない。俺は頭突きの威力を目の前にしてそう思った。
だが、今のでヘッドバットータスの動きは止まった。頭にも岩が付着した事で奴は頭を甲羅の中に収める事が出来なくなった。チャンスである。それにしても、生半可な鋼鉄すら凌ぐ硬さを誇るフログマンティスの鎌で作った剣があんなに簡単に折れるとは……正直あり得ない。それに良く吹き飛ばされた添島も無事なもんだ。
「はぁぁぁあ!」
吹き飛ばされた添島を横目に対象を翻弄する様に走る亜蓮が横から首を露出したままのヘッドバットータスの首筋に剣を突き刺そうとしたがそれは分厚い皮膚と甲殻に阻まれ、内部まで剣が突き刺さる事は無かった。
「おいおい、嘘だろ!?」
甲羅もない筈の伸縮自在の柔らかい首。その筈なのに亜蓮の剣が弾かれた。ヘッドバットータスの皮膚も鱗の様に硬い。それじゃあ、どこに攻撃したって有効打を与えられない。こいつを罠にかけた所でどうやって倒すんだ?俺はたじろいだ。そこへ重光の声が響く。
「罠の設置が終わりました!」
どうやら罠の設置が終わったらしい、俺達はそれを確認して一先ず罠の後ろに避難した。どうやって奴を倒すかは後考えよう。
すると、俺達が退がった事を確認したヘッドバットータスは真っ直ぐ俺達に向かって突進を繰り出す。突進と頭突き以外の技は持っていない様で安心した。だが、それでもこのエリアでこいつを狩れるモンスターは存在しないだろう。硬すぎる。こいつにとってはこの単純な技だけでこのエリアのモンスター達を蹂躙するには十分だと言うことを意味している。
「クオオオォ!」
甲高い叫び声を上げて走る亀。だが、俺達と亀の間には罠が設置してある。罠に亀の脚が触れるや否や、亀の重量に従って罠があった場所が陥没した。それによってヘッドバットータスは驚いた様子で陥没した穴に向かって落下していく。土魔術凄え!深さ五メートルはあるだろうか?そんな穴が先程まで平地だった場所に作られていた。やはり魔法は偉大である。
そこでヘッドバットータスは必死にもがいている。しかし、俺達は有効な攻撃手段を持っていない。穴の上空から安全に攻撃出来る方法が無い。例え近付けたとしても、最大火力を出せる添島の大剣は折れてしまっている。いや、魔法があるな。
「重光」
「分かった!多重雷火槍!」
重光の中でも威力の高い魔法を最大火力で叩き込む。下でもがいているヘッドバットータスに向かって炎と雷を具現化したかの様な槍が絶え間なく飛んで行き、爆炎をあげる。
「クオオオォ!」
「やっぱりダメか!」
「なんて硬さなの!?」
ほんとそうだよ。硬すぎだろ。魔法防御力とかそんなの幻想やったわ!そもそも魔法防御力ってなんやねん!そんなのゲームの世界でしか存在せんやろ!こんなのどうやって屠れば良いんだよ!俺が頭を抱えて悩んでいると添島がエゲツないがかなり有効的であろう手段を口にした。
「窒息させれば良いんじゃないか?」
本当にエゲツないがこれ以外に倒す手段が思いつかなかった。悪いなヘッドバットータス。恨むなよ?
「良し。その作戦で行こう。重光頼んだ」
「岩石壁!」
「大水球!」
重光は少し申し訳無さそうに魔法陣を描き、二つの魔法を交互に詠唱した。一つ目の魔法は岩石の壁を作り出す魔法である。その魔法で罠全体を岩で覆い完全に蓋をして、二つ目の魔法を詠唱した。蟷螂蛙が使っていた水弾に似ている魔法だ。重光は完全に密封した罠の中に大量の水を生み出した。
「クォォオオ!ォォ……!」
時間経過と共に満ちていく水と徐々に苦しそうになる亀の悲鳴。
ヘッドバットータスは激しく暴れた。だが、深い穴に落ち、更にその上から岩石で密閉されているのだからそこから逃れる事は如何に草原エリア最強の捕食者とは言え不可能だった。長時間暴れ続けたヘッドバットータスだったがその声はやがて小さくなっていき、聞こえなくなった。
「やったか……?」
どうやらやったようだ。しかし、武器も壊れてしまった為これ以上の探索は困難だ。
「装備も壊れちまったし、一旦態勢を整える為にこいつの素材を回収して戻るぞ。今改めてマジックバックがあってよかったと思ったぜ。こんなん手では持ち歩けないからな」
添島が言った。確かにこの亀を持ち歩くとか無理ゲーだ。俺に感謝しろよ?
「俺のお陰だな!」
「今回は素直に感謝したくは無いが、感謝しとくわ」
え、なんだそれ。素直に感謝してくれよ。俺の表情に気が付いたのか添島は
「まぁマジックバックを引き当ててくれてありがとうって事だよ」
俺に感謝の言葉を述べた。素直じゃねえな。
それから俺達は素材を回収して拠点に戻った。
それから一日の休息を取り、ジジイに新しい装備を取り繕って貰った。やはりジジイは予め倉庫に武具を貯めているのでは無いか?そう思える程武具製作の速度は異常であった。
それからボス戦の準備をした俺達は再び、九階層に下りて探索を続け無事突破し、十階層に来ていた。そこは予想通りと言うべきか、最初のボス部屋階層とは違い、まだ迷宮が続いていた。
「ほう?ここも五階層と同じ様にボス部屋だけじゃ無くて迷宮探索してからボス部屋って感じなのか……もしかしたら二階層だけがあんな感じでボス部屋だけの階層なのかも知れんな」
添島が言った。確かにそうだ。俺も直ぐボス部屋かと思ってたが違ったな。添島の言う通り二階層が逆に特殊なのかも知れない。まぁ良いや。
あと少しでボス部屋なのには変わりは無い。俺達が十階層に入って直ぐの事だった。遠くから金属音が響く。ガチャガチャと鎧がぶつかり合う音だ。しかし、正体は直ぐ分かった。オークだ。金属鎧を着ているが問題無い。
俺達の装備も今となっては頭突き亀製だ。流石はジジイだ。この装備品の硬さは以前の戦闘で保証されている。錆びた金属装備の比では無いだろう。添島の力であれば金属鎧の上から強引に殴っても錆びた鎧は裂け、相手の肉体にダメージが入る位の代物だ。オークが鎧を着ているとは言ってもそれが業物でない限り、オークが単体であれば然程苦戦する事は無いだろう。そもそも、オークが集団でいた場合鎧を着ていなくても戦闘を避けるべきだ。
その為この階層も今まで学んだ事をそのまま活かせば亀以外は案外どうにでもなった。
そのまま俺達はボス部屋まで戦闘を避けて移動した。出来れば戦闘はしない方が良い。今の俺達の実力を考えると複数体の敵相手の戦闘はマジできつい。ここのボスは何だろうか?五階層がゴブリンの亜種みたいなのだったのを考えるとオークの亜種だろうか?それは気になる。だが、オークの亜種であった場合相手は複数体。その場合はそれ相応の覚悟をする必要がある。
敵は出来れば単体でお願いしたい所だ。俺達はそんな思惑を浮かべながらワクワクする気持ちを抑え、十階層のボス部屋の扉を開けた。