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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
2章 単純迷宮エリア
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10話 謎の男?と『ダンジョン』の理由

 安元達がフログマンティスを倒してから迷宮探索を許され、迷宮ダンジョンを探索し始めてから既に一週間が経過していた。


  安元達は無事三回層、四階層を突破し、五階層の入り口にいた。


「早いな。もうあの奇妙なモンスターを倒してから一週間か」


 三階層、四階層も迷宮は単純で、出てくるモンスター達も一、二階層と大差は無い。だが、まだ五階層だ。下に行くにつれて敵は強くなる筈……そうなれば、更に今より攻略に時間がかかるのは間違い無いだろう。そして、俺の言葉に皆は各々の言葉を返した。


「まぁ、時間制限は無いのだし、死んだら元も子もないし、何が起こるかも分からん。だから安全第一で行った方が良いだろう」


 添島が少し神妙そうな顔つきで言った。確かにそうだ。死んだら元も子もない。添島は最初から慎重だった。だが、戦闘スタイルにおいては慎重と言うよりかは豪放磊落と言った方がしっくりくる。


「でも、出来れば元の世界に早く戻りたいよなぁ……」


 添島は歯軋りした。


  そうなんだ。元の世界の時間も同じ様に動いているかどうか分からないが、出来る事なら今すぐにでも戻りたい。


  だけど、それは言わないお約束である。それを口に出してしまうと一層帰りたくなる気持ちが増して、事故も増えてしまうだろう。


「ああ、俺もだ。妹が心配だ」


  ほら、言わんこっちゃない。


  添島には残してきた妹がいる。

  両親はもう居ない。


  学校に内緒で夜バイトをしていたのは俺も知っている。だから尚更添島は帰りたいと言う強い思いがあった。決してシスコンでは無い。


「だからこそ絶対に生きて帰る。そして、仲間を絶対に失わない」


 添島は唇をきつく縛った。もちろん俺達も同じ思いだ。こういった話をしながら俺達は五階層への階段を下りて行く。


  そこで、俺はある違いに気付いた。


「そういえば、五階層ってボス階層の筈なのに、二階層の様に直ぐ扉がある訳でもなくて普通に迷宮ダンジョンがあるんだな?」


 そう、この五階層はボスがいる。


  その筈なのに俺達の目の前には相変わらずの何も飾り気の無い薄茶色の土壁で覆われた広めの通路が続いていた。薄暗くはあるものの迷宮の壁は青白く光っていた為、最低限の視界は確保出来た。


  そして、何故か他の階層に比べてモンスターの気配があまりしない。


  これまでの階層との違いは今の所無い。


  四階層には人型のモンスターが出てきた。


  人間の子供程の大きさしかなく、浅黒く緑がかった皮膚に尖った耳、痩せこけた身体が特徴のモンスター。ゴブリンである。人間よりサイズが小さく、力も弱いが人間と同じ様に武器を扱う為、油断をすると俺達も怪我をしかねないモンスターだ。決して強くは無いのだが、俺達はモンスターが人型なだけで忌避感がある。


  出来れば人型のモンスターとは戦いたくないものだ。


  人間的に。


  だが、そんな事は言っていられない。


  斬らなければ斬られる故に仕方がない事だ。ゴブリンの力が幾ら弱いと言っても武器で殴られてしまったならば致命傷になり兼ねないのだ。





  五階層に入ってからモンスターと遭遇する事も無く、数分程歩くとやっとモンスターの気配がした。


「やっぱりそうだ。この階層に来てから明らかにモンスターが少ない」


  添島が悩んでいる様な顔で言った。いや、それ俺も最初から気付いていたから。


「お爺さんがボス部屋がある階層ではマナがボス部屋に集中しているから比較的他のエリアに比べてモンスターが少なくなってるって言ってたわね……」


 重光が答える。


  いつの間にジジイに質問してたのよ。


  突如としてモンスターの声が前方から聞こえ、浅黒く緑色の肌と頭に小さな丸い角と大きな耳が特徴の人型のモンスターが姿を現した。


「「グギャア!」」


 あれがゴブリンだ。しかも、一匹では無いとはな……。


  集団戦になると少し面倒だ。


  しかし、目の前にいるゴブリン。その中の一匹は色が少し燻んでいる気がした。装備も少し違う様だ。それを見た添島は肩を上げて警戒を露わにした。


「あれは、ゴブリンリーダーだ。刃物等を持つ個体もいるが、刃は大体錆びている事の方が多く、強さはそんなにゴブリンと変わらない。ただし、仲間を呼ぶから少し厄介らしい」


  添島が口を開いた。じゃあ、一番に奴を狙うのが良い感じか?


「分かった!あのゴブリンリーダーから仕留めるぞ!」

「おう!当然だ」


  俺の問いかけに添島が笑いながら答える。一週間も迷宮ダンジョンに潜っていれば戦闘もお手の物だ。大分慣れて来た。盾役兼火力特攻隊長の添島を先頭に俺達は駆け出した。


「グギャアアア!」

「ギィー!」

「ギィー!」


 ゴブリンリーダーが俺達の声に合わせるかの様に煩く叫び、気合いをいれる。すると、その声に呼応するかの様にゴブリンリーダーの背後から大量のゴブリン達が忙しく集まる。どこに潜んでいたのか、俺達の背後からもゴブリンは不敵な笑みを浮かべながら姿を現した。


  数は、大体十五匹位だろうか?思っていた以上に数が多い。


 だが、大丈夫だ問題ない。俺はそう自分に言い聞かせる。


  元の世界の俺達であったならば、即座に殺されていただろう。幾らゴブリンが脆弱とは言っても大人一人で三人もの武器を持った子供達を同時に相手取るのは中々厳しいだろう。


 


「囲まれた!」


  それを分かっているのか、亜蓮が少し焦った様子で右手を上げて俺達に合図する。


  機動力が売りの亜蓮は囲まれると戦い辛い。


  だが、少しでも助走をする事のできるスペースがあれば問題ない。つまりーー


「この程度の数か?これなら問題ない!亜蓮ちょっと待ってろ!」

「私がゴブリンリーダーを魔法で狙い撃ちするから周りの処理をお願い!」


  添島は周囲のゴブリン達を視認するや否や背中のホルダーから大剣を引き抜き、身体の内側に引き寄せながら横薙ぎの一撃を払った。


「グギャァ!!?」


  先陣を切った添島の攻撃を避ける事が出来なかったゴブリン達は纏めて胴体に強烈な一撃を受けて吹き飛ぶ。周囲に乾いた音が響き、ゴブリンの身体がへの字に曲がり、空中には黒く濁った血液が舞った。





「身体強化 スピード!」


  俺達の背後から助走をつける事に成功した亜蓮は山西の強化を受け、全身にエネルギーを纏って走りだし、ゴブリン達の上空を舞うように跳躍した。


射盾加速バックラーアクセラレート!」


  空中で身を翻しながら亜蓮はゴブリンの頭に剣を突き刺しゴブリンを仕留めると、次の目標に亜蓮は殺戮対象を変え、息を引き取ったゴブリンの頭を足場にして更に上空に跳び上がると盾に付いている火薬を爆発させその爆発の反動で空中で方向転換をしながらゴブリンを次々と葬っていく。


  カッコ良すぎだろ……。


  俺は自分に近づいて来たゴブリンを迎え撃った。刀のリーチは長く、ゴブリンを一方的に討つ事が出来た。何匹かのゴブリンが倒れ、周りが大分開けた。そこで重光の声が聞こえた。


「みんな!横に避けて!火球ファイアボール!」


 重光の魔法詠唱が終わり、重光の上空には拳大の火の玉が浮かんでいた。重光はそれを真っ直ぐとゴブリンリーダーに向かって放った。







「グギャァアア!」


 その火の玉はゴブリンリーダーの頭に直撃し、爆散した。


  頭を失くしたゴブリンリーダーは断末魔の様な悲鳴を上げながらその体を真っ直ぐと立つ場所を無くして地面に倒す。


  もう殆ど生き残っていないゴブリン達は自分達のリーダーがやられた事によって俺達を強敵と判断し、散り散りになって逃げた。俺達はそれを追う事は無い。深追いは禁物だ。これはほぼ俺達が蹂躙していたと言っても過言では無いだろう。


「う〝ぇぇえ」


  横で山西がキラキラを吐いていた。


  うん。キラキラにしておこう。やっぱり山西にはかなり厳しい絵柄の様だ。


「ううううぅ……」






体調回復キュア


 体調の悪そうな山西に対して重光が回復魔法をかける。


「ありがとう」


  顔色の悪かった山西の顔色が元の色に戻ると爽やかな笑顔で山西は礼を述べた。


 妙に表情が爽やかなのは内容物を全て吐き出した事も影響しているのだろうか?


「大丈夫。次第に慣れるわよ」


  山西が慣れるかねぇ……?その点は微妙だ。それにこの凄惨な光景を見て何ともない重光さんが異常である。




 


 ーーそこから何度か戦闘はあったものの支障は殆ど起こらなかった。気がつくと俺達は五階層の扉前まで来ていた。


  ほう、扉前の雰囲気はニ階層とさほど変わらないな。だが転移碑があって助かった。転移碑が無ければ此処に辿り着くのにもかなり苦労していただろう。


「転移碑って有難いよな。各階層にあってくれて助かるぜ」


 純粋に思ってしまう。


「最初の内はな」


 添島が言った。ん?どういう事だ?


「お前ジジイの話最後まで聞いていなかったのかよ?最後の方に小声で言ってたぞ」


  添島が呆れた様子で言った。本当に話聞いてない様で良く覚えてるな……。


  俺なんか三秒前の話忘れてる事も多いぞ?トリ頭かよとか自分でも思う。三秒は言い過ぎたとは思うが。多分な……。


「お前が人の話を聞かなすぎるだけだ」


  確かにそれは一理ある。


  それより早くボス部屋の扉開けたくてウズウズしてるんだが?そんな俺が足を踏み出した瞬間、亜蓮が真剣な顔で俺の前に手を出して制した。何だよ。


「待て、扉に罠が仕掛けられている。恐らくこれは毒ガスだろう」


 亜蓮は扉に手をかけ何かを弄り始めた。あいついつの間にあんな技能を?


  そんな俺達の視線に気付いた亜蓮が解除作業をしながら答える。


「ああ、俺がどうやってこの技能を身につけたか?って言う事か?」


  亜蓮さん俺達は良いから目の前の作業に集中して欲しいのだが……。


  まぁ、毒ガス出てきたとしても重光の魔法で解除は出来る筈だ。そんな俺の考えを他所に亜蓮は説明を始める。


「この技能はな、トレーニング部屋でトレーニングを楽にしようと機械弄ってたら何か出来る様になってた」


 何か一気に亜蓮に対する尊敬の気持ちが今の一言で冷めた。


  やっぱり亜蓮はどこか残念だ。確かに元々フィギュア作りとかしていただけに手先は器用だろう。


  いつも最初は熱心にやってるんだよなぁ。ただ、亜蓮は飽きやすい。


  ゲーム以外。


  陸上の監督の愚痴とかをたまに言っていたが、あれは監督の問題じゃない。


  お前だ。


  等と考えている間に亜蓮は罠の解除に成功してるんだよなぁ。こう言う所は純粋に評価しておこうか。


「亜蓮、ありがとな。じゃあ、みんな準備は良いか?」


 俺が尋ねるとみんな肯定の意思を示した。当然だ。ここまで来て帰るとか言ったら怒るぞ?


「行くぞ!」







  俺達はこうして五階層のボス部屋の扉を開いた。扉はそれなりに大きく、俺達が少し見上げる程の大きさを誇るが、模様は殆ど入っていない。単純に巨大な岩を削り出して作ったような形をしている。


  亜蓮が弄った部分は四角い取ってが付いており、その部分には小さな穴が空いている。その穴の中に針金などを入れて亜蓮は罠を解除した。







 扉を押すと見た目と大きさの割に軽い感触が腕に伝わり、扉が軋み、大きな音を出しながら開いた。扉が開き、中に入った俺達は恐る恐る目を開く。


  そこには数匹のゴブリンがいた。さっき戦ったゴブリン達より明らかに数が少ない。もっとボスっぽいのを期待していたんだが……期待外れか?


  そう思った矢先だった。そのゴブリン達を見た添島が目を見開いて叫んだ。


「気を付けろ!あいつらは只のゴブリンじゃない!鎧を着込んでいるゴブリン。あれがゴブリンタンク。そして後ろの魔法使いみたいな奴がゴブリンエレメンタル。そして、一番注意すべきゴブリンは周りにいる核が露出しているゴブリン!ゴブリンコマンドだ!あいつは自爆を兼ねた特攻攻撃をしてくる!それだけは絶対に食らうな!」

「了解!」


 その声に従ってもう一度ゴブリン達を良く見てみる。


  先頭にいるゴブリンタンクと言われたゴブリン達は俺達が知っているゴブリンよりも一回りは大きく、後ろにいるゴブリン達を守るかの様に鉄の鎧を着込み両手に大きなタワーシールドの様な物を持っている。鉄の鎧とタワーシールドは少し錆びており、決して名工品などでは無い。拾い物と言われても分からないレベルである。


  数は三匹だ。


  そして、後ろで待機しているゴブリンエレメンタルと言われたゴブリン。そいつは手に青い小さな手の平サイズの水晶が先っちょに付いた杖を持ち、ボロボロの霞んだ茶色と紫色の腰下まで丈があるローブを羽織っていた。如何にも魔法使いの様な格好をしているな。


  こいつは単騎のようだ。


  そして、添島曰く厳重注意のゴブリンコマンド。ゴブリンよりも一回り程小さく動きやすそうな身なりをしていた。特徴的なのは体内の宝石の様な核が胸部に露出しており赤く輝いており、その宝石を中心に血管の様な物が全身に向かって張り巡らされている点だろうか?


  見た限りでは数は五匹程である。そして添島が叫んだ直後俺達は自分から攻撃を仕掛けに行った。それに合わせて皆がそれぞれ動く。


「身体強化 アタック!」

属性付与エンチャントファイア!」


  山西はゴブリンタンクの方に走りだしながら魔法を飛ばして前衛全員を強化する。それに合わせて俺も添島と共に前方で盾を大きく構えているゴブリンタンク目掛けて駆け出し、前衛に火属性を付与した。前衛職の武器が赤熱し、熱を持つ。


「うおりゃあああ!」

「はぁぁぁあ!」



  俺と添島の武器は盾に阻まれた。





「なっ!?」

「くっ……」


  俺と添島は想定外のゴブリンタンクの硬さに苦悶の表情を浮かべた。



 何てことだ……。俺達の強化がかかった一撃でもゴブリンタンクを突破する事が出来ないだと!?大盾を構えたゴブリンタンクの脚はしっかりと大地を踏みしめており、俺達の攻撃をがっしりと受け止めた。俺はまだしも、添島まで……。


  だが、俺はすかさずゴブリンタンクに防がれた刀を地面に落とし、左手を腰に当てたまま鞘を後方に投げ捨て、刀を引き抜いた。そのまま突きの態勢に転じて視界を確保する為の盾の隙間に向かってもう一本の剣を突き出す。


「ギィ!」


  俺の刀はゴブリンタンクの頭の兜に阻まれた。だが、ゴブリンタンクは怯んで一、二歩程下がる。



「背後がガラ空きだぞ?」


 その隙を見逃さまいと後方から俺達を追い越した亜蓮がゴブリンタンクの後ろに回り込み、鎧の隙間に向かって剣を突き出そうとしていた。動きが遅いゴブリンタンクにとって亜蓮に背後に回られた場合、回避はほぼ不可能だ。ただし、それはゴブリンタンクが単体の場合に限る。


  その時だった。


「何!?」


 いきなり亜蓮の足元が泥沼に代わり、亜蓮は足を取られてバランスを崩した。


「ガァァァア!」


  動きの鈍った亜蓮に対してゴブリンタンクは振り向きざまに盾を振り抜き、亜蓮を盾で殴って吹き飛ばす。


  筋肉のついた人間程の体格を誇るゴブリンタンクの膂力によって振るわれた盾の攻撃は強く、吹き飛ばされた亜蓮の後方にいた山西はぶつかり転んだ。それによって山西もかなり大きなダメージを受ける。


  そして、盾の隙間に剣を突き刺していた俺も例外では無く、盾を振り回す勢いに負け空中に投げられてしまった。何て力だ!ゴブリンとは思えない。


「みんな!」


  重光が心配する声をあげて吹き飛ばされた俺達の方へと注意を逸らす。ダメだ!集中しろ!


  その時ゴブリンタンクの後ろから何かの影が飛び出した。そう、ゴブリンコマンドだ。そして体外に露出した核が物凄い勢いで点滅を始める。


「ーー!?」


  それを見た添島が重光に何かを叫んだ。


  そして、添島の声を聞き取った重光は即座に意識を集中させる。重光の周りに青い魔法陣が浮かび、重光は仲間を守る為に詠唱していた魔法を解き放った。


範囲防御壁エリアバリア!」


  重光がそう唱えるや否や、周りに物凄い轟音が鳴り響き、赤い光と煙に周囲は包まれた。


  そして、煙が晴れた時俺達は薄い透明な円状の壁に囲まれていた。その円状の壁には大きな亀裂が入っており、そのまま壁は崩れる。


  重光が息を切らしながらもう一度詠唱を始める。魔力残量は少ないのか!今の魔法は一発でかなりの魔力を消耗するみたいだ。この壁も後何回張れるのか分からないし、この様子だと重光の攻撃参加は不可能と見ておいて良いだろう。


  だが、敵も今の爆発でダメージを負った筈だ。だから、今がチャンスだ。そう思い、敵の方を見るーーゴブリンエレメンタルの杖が淡く光り足元に緑色の魔法陣が浮かぶと、俺達の目の前で自爆し瀕死状態だった筈ののゴブリンコマンドを緑色のオーラが包んだ。


  それを見た添島が叫ぶ。


「おい!ゴブリンエレメンタルを早く倒すんだ!じゃないとまたゴブリンコマンドを回復されてしまうぞ!」


  それは不味いな。ゴブリンコマンドが復活してしまうとまたあの大爆発が来る。あれを耐えるのはもうゴメンだ。


「たしかに回復されるのも不味いがゴブリンエレメンタルを倒せばかなり俺達が有利になるな……ただし、あのゴブリンタンクが邪魔だ」


 地面から起き上がりながら亜蓮が言った。確かにそうだ。まずあの盾ゴブリンをどうやって突破するかだ。あいつを突破しないとゴブリンエレメンタルには攻撃出来ない。攻めてもの救いはゴブリンタンクが守りに特化しており、自ら攻めて来ない点だ。カウンターは強力ではあるが、足も遅く攻めて来ない盾ゴブリンは俺達の行動を妨げない。


「ああ、だが勝機はある」


 添島は落ち着いた声で語る。どうした?何か策でもあるのか?


「連携……だろ?」


 おい、亜蓮さんや。なんか元から打ち合わせしてた様な感じで言うなよ。だがさっきも連携してゴブリンタンクに攻撃したが呆気なく遇らわれたじゃないか。


「そうだ。さっきまでのあいつらにはあって今は無いものだ」


  俺は添島の言葉でハッとする。そうか!今の相手は防御に回るので精一杯だ。今攻めるしか無いってか?しかし、タンクは固いぞ?すると添島が俺に向かって指示を出した。


「安元!属性を雷に変えられるか?」


 雷……?俺は添島の指示に疑問を抱いたが、即座に理解する。そうか!分かったぞ!添島のやりたい事が!確かにこれが上手くいけばゴブリンタンクを突破出来る!


「分かった!属性付与エンチャントサンダー!」


 俺は添島の指示通り前衛に雷属性を付与して大地を添島達と共に駆ける。


「亜蓮!俺がゴブリンタンクに斬りかかった時に射盾過疎バックラーアクセラレートで盾ゴブリンを飛び越えてゴブリンエレメンタルを斬り捨てろ!」

「うおぉぉぉお!」


  添島はそう言いながら雷を纏った大剣でゴブリンタンクに斬りかかり、それに続き山西と俺も後ろから追撃する。


「「はぁぁぁあ!」」


  ゴブリンタンクの盾に阻まれた俺達の剣は先程と同じ甲高い音を立てる。


「ギィィィイ!?」


 だが、ゴブリンタンクの様子がおかしい。そう、金属鎧を着ているゴブリンタンクはその身体に纏っている金属鎧を俺が付与した雷が伝わって身体に電気が回ったのだ。その影響で痺れが生じてゴブリンタンクの動きは明らかに先程より鈍くなっていた。


「亜蓮!今だ!行け!」


  亜蓮は動きの鈍いゴブリンタンクの上空を盾の火薬を爆発させて跳び、ゴブリンエレメンタルに斬りかかる。その間に隙の出来たゴブリンタンクの中の一匹を俺は右手の刀で切り裂いた。


「ギィィィイ!」


  鎧の隙間から貫いた俺の刀はゴブリンタンクの身体を貫く。体には血が滲んでおり、ゴブリンタンクは悲鳴を上げて膝をついた。ジジイが作った刀の切れ味は素晴らしく、鎧の関節部分であれば内部の肉体を断つ事も容易だった。鎧の内部にインナーを着込んでいないのがお前の敗因だ。


  ゴブリンエレメンタルは頼んだぞ。亜蓮!


「はぁぁぁあ!」


  俺達がゴブリンタンクを足止めしている間に亜蓮はゴブリンエレメンタルの所に行き空中で身体の回転を加えながら剣を振り抜く。


  だがーー




「何!?」


 ゴブリンエレメンタルは亜蓮を見て口元を綻ばせた。亜蓮の剣はゴブリンエレメンタルの手前で止まり、ゴブリンエレメンタルの周りには先程重光が俺達に貼ったバリアと同じ様な壁が形成されていた。さっきからゴブリンエレメンタルが攻撃して来ないと思ったら防御ガン振りかよ。


「ギィィィイ!」

範囲防御壁エリアバリア!」


  そして、再びゴブリンコマンドの鳴き声が響く。くそっ!?あの野郎自分の身は守ってゴブリンコマンドに自爆させて俺達を消耗させるつもりか!ゴブリンエレメンタルの保有する魔力の量は多いのか、一切防御魔法が緩む事は無い。


  また先程と同じ様に大爆発が起こり俺達を重光のバリアが包む。重光はその状況を確認してもう一度詠唱を始めた。完全に重光は防御に回っている。


  そして、煙の中ゴブリンエレメンタルが飛ばした緑色の光がゴブリンタンクとゴブリンコマンドの方に向かうのを見て、俺は焦るが、瀕死状態のゴブリンタンクと距離が離れている為、焦る。だが、その近くに山西がいる事に気付いた俺は声を張り上げた。


「山西!タンクにトドメ!」

「了ーー解!」


 俺の指示に従って山西は膝をついたまま添島の剣を受け止めているゴブリンタンクの首筋に槍を突き立てる。それによってゴブリンタンクは命の灯火を消して真っ直ぐ地面に向かって倒れこんだ。


  そして、ゴブリンエレメンタルの放った緑色の光がゴブリンタンクとゴブリンコマンドに当たるが倒れたゴブリンタンクは立ち上がらない。


  やはり、そうだ。完全に死んだモンスターは回復させる事は出来ない!だがゴブリンコマンドは復活させてしまった。だけど、あとゴブリンタンクは二体!このまま続けて行けばーー


  そこで後ろで何かが倒れる音がした。見ると重光が大量の汗を垂らしながら息を荒らげていた。


「ごめん……どうやらマナが結構限界みたい……多分あと一回バリアを張れるか分からないわ」


 重光が言った。俺はその状況に危険を感じた。俺達の中でゴブリンコマンドに耐えられる方法を使えるのは重光だけだ。


  これは非常に不味い状況だ。敵にはゴブリンコマンドがまだ生きている。次あの大爆発が来たら耐えられないかもしれない。ゴブリンコマンド自身に攻撃してもする直前に自ら自爆するだろう。


  どうすればーー


  すると添島が汗を滴らせながら言った。


「分かった。それならば作戦変更だ!一気に攻めるぞ!俺が無理矢理間を作るからその隙間から全力でゴブリンエレメンタルを攻撃してくれ!山西!身体強化が切れそうだから掛け直せ!そして、一応重光も一か八かでバリアを詠唱しておいてくれ!」


 おい!?大丈夫か?添島一人でゴブリンタンク二体を相手に出来るとは思えないぞ。警戒すべきは勿論ゴブリンコマンドだが、それを邪魔しようとするゴブリンタンクはまだ二体健在だ。亜蓮は未だにゴブリンエレメンタルに張り付いているが、火力が足りず、ゴブリンエレメンタルのバリアを突破する事が出来ない。


「身体強化 アタック!」


 山西が身体強化を添島にかけた。すると添島は何かに驚いた顔をしていた。


「そんな、馬鹿なーー確か強化魔法は重複しない筈!?」


 添島が何かを呟いたが聞こえなかった。どうした?そして、山西が何故か苦しそうだ。


「行くぞ!うおぉぉお!」


 添島が大剣を下段に構えると、大剣で二体のゴブリンタンクを纏めて弾き飛ばす様に薙ぎ払った。すると俺達の目の前でにわかには信じられない現象が起こった。


「グギャァァァア!」


 盾を構えたゴブリンタンク二体が盾をくの字に曲げて悲鳴を上げながら反動でかなり後ろまで吹き飛ばされ、体制を崩した。そんな馬鹿な。添島にあんな火力は出せない筈だ。それなら山西の強化魔法か?強化魔法は重複するのか?それは分からない。だが今は俺達は役目を果たすだけだ。


「「はぁぁぁあ!」」


 添島がゴブリンタンクを二体とも足止めしている隙に俺達はゴブリンエレメンタルに向かって足を進めた。






「破れた!」


  亜蓮の声と共に、ゴブリンエレメンタルのバリアに亀裂が入る。そこで焦ったゴブリンエレメンタルがもう一度バリアを詠唱して、俺達の攻撃を防ごうとしたが無駄だ。亜蓮は再生するバリアを再びかち割った。ガラスが割れる様な音が周囲に響き、ゴブリンエレメンタルも焦りの表情を浮かべる。詠唱時間が短かったのもあって防御性能はイマイチだ。


「ギィィィイ!」


  しかし、そこでゴブリンエレメンタルも抵抗を見せる。ゴブリンエレメンタルが色んな色……恐らくは火、水、雷、土属性の球だろう。それを周りに浮かべると、それを距離を詰めようとする俺達に向かって螺旋状に放った。



  最初の火属性の球を避けきれないと思った俺は刀を縦に振り下ろして真っ二つに火球を断ち切る。


  しかし、断ち切った瞬間爆発が起き、俺は吹き飛ばされた。恐らくは水蒸気爆発だ。背後から飛んで来ていた水の玉と合わさり更なる爆発を産んだのだろう。位置を被せ、魔法の射出速度を変えて着弾点で爆発させる技量は評価しよう。だが、詠唱時間が短い事もあって威力は低い。金属鎧があれば十分に防げる火力だ。


「っ!?」


  立ち上がって追撃に行こうとした俺は体の異変に気付く。身体が動かないのだ。雷撃も混ぜていたのか!?身体が鈍いそんな俺に対して危機は訪れる。


「ギィィィイ!」

「ぐっ……!?そんな……!?」


  痛みに顔を歪ませて俺が正面を見ると目の前には体から露出した核を物凄い勢いで点滅させているゴブリンコマンドがいた。


  こいつが爆発したら俺は只では済まないだろう。そう思ったその時だった。





「うっーー範囲エリア防御壁バリア!」


 自分の周り。空気中からエネルギーを吸収する様にマナが重光の体に吸い込まれていき、重光はバリアを詠唱した。そして、俺達の周りに薄い透明な壁は再び貼られた。





「何だ……今のーー」


 そして、大爆発が起こった。そして、重光は力を失ったかのように倒れる。その瞬間俺は無我夢中でゴブリンエレメンタルに向かって走る。


「行けぇぇぇ!安元!」


 ゴブリンタンクと未だ交戦中の添島の応援を受けながら俺は走る。


「はぁぁぁあ!」


  亜蓮に追い詰められ、他を気にする余裕が無くなっていたゴブリンエレメンタルは俺に気が付かなかった。距離を詰めた俺は全力でゴブリンエレメンタルを叩き斬った。だが、もう既に俺の刀は切れる状態では無かった。幾ら業物とは言っても、剣とは違い、雑な扱いをしていると直ぐに刃はかけてしまう。だが、ゴブリンエレメンタルを倒すのには刃が潰れた状態でも十分だった。それだけそれはジジイの鍛治の腕が素晴らしい事を示していた。


「ギィィィイ!」


  ゴブリンエレメンタルの首から腰にかけて大きな傷が入り、ゴブリンエレメンタル大量の血を流しながら叫び声を上げ、息絶えた。


  これでもう仲間を復活させられる事は無いだろう。


  それにしても、これが前の刀だったらゴブリンタンクと戦っている途中で折れていても不思議では無い。これはジジイに感謝だな。そして、俺がゴブリンエレメンタルを仕留めた事を見届けた添島は指示を出す。


「亜蓮は重光を安全な場所へ!安元と山西は俺の援護を!」


 亜蓮は返事を返して重光を担ぎ安全な場所へと退避した。そして、守るべき対象が居なくなったゴブリンタンクはオロオロしている。


「お前の守るべき者はもう居ない!」

「はぁぁぁあ!」


  そして、俺達三人の連携に敵うはずもなくゴブリンタンクは敗れた。


「ふう〜やっと終わったか」


 相変わらず横で顔色の悪そうな山西がキラキラを吐いていた。重光さんはただ気を失っているだけの様だった。


  良かった。それにしても重光さんの最後のあの力、そして添島が一気にパワーアップした様に見えたあれは何だったんだろう?それは良いとして山西、いつまで吐いてんだ?


「一先ず、五階層突破だな。ただ、気になった事もあるし、今日はこれで終わりにするか。疲れたしな」


 添島の言葉に相槌を打ちながら、俺の怪我について一切触れない点について俺は愚痴を心の中で零す。俺火傷してんだけど?そこにはノーコメントかな?


「おい、いつまで吐いてんだ。さっさと使えそうなアイテムは回収して帰るぞ!」


  山西のキラキラにはコメントするのね。若干イライラしている添島を眺めながら俺は一息吐く。まぁ何だかんだで勝ててよかった。


  こうして俺達は五階層のボスを突破し、一旦転移碑に触れ、帰還するのであった。






「ああー疲れた」


 本当に疲れた。そして、重光も目を覚ました様だ。


「お、重光も起きたか。ん?何かあっちの方から何か来てないか?ジジイではないみたいだが?」


  確かに向こうか……ら!?トンデモナイ速度で何かが距離を詰めて来ていた。なんだ!?敵か?俺達が逃げる前にその何かは俺達の目の前で止まった。


「「!?」」


「あ〜らぁ〜良かったわぁ〜こんな所に人がいて……ちょっと道に迷っちゃったのよねぇ〜今ココは何処なのかしらぁ?」


  目の前には筋骨悠々としたオネェが立っていた。身長は俺達の中でも一番高い添島より高く、顔には剃り残した髭が青く残っている。これ絶対ヤバい人だ。だが今の所はどんな人かは分からない。取り敢えず親切に答えておくか。


「あ、一階層の手前の最初の所です」


 そう親切に俺達が教えてあげるとそのオネエは衝撃の発言をした。


「あらぁ〜そうなの〜?おっかしいわねぇ〜さっきまで七十五階層の辺りを探索していたと思うのだけどねぇ〜」


 !?な、七十五階層だと!?こいつ、かなりの実力者か?横で添島が完全に不審者を見る様な目つきでオネエを見ている。


「そこの君?今なんか失礼な事を考えなかった?」

「い、いえ」


  添島が一歩退きながら答える。このオネエ地味に勘が良い!?


「なら良いのだけど……そうねぇ〜頼みがあるのだけど良いかしら?」


 良いんかい!いやいやそうじゃなくて、頼み、だと!?オネエの頼みとか怖いんだけど、俺達に変な事とかしないよね?え?しないよね?


「私極度の方向音痴だから一緒に案内をして欲しいのよね〜」


  出たー!良くこんなキャラいるよな……極度の方向音痴設定のキャラ。それはそうとして、俺達なんかに案内出来るのか?まだ五階層突破したばかりだぞ?


「私達まだ五階層突破したばかりですよ?」


 重光が言う。そうだ。俺、オネエと旅なんかしたくない。(偏見)絶対俺色々失いそうだもの。これはさっさと断ろう。うんそうだ。


「良いわよ〜?あなた達が育つまで待つわよ〜」


 ゲッ余計嫌な予感しかしないぞ。俺は早急に断るぞ!


「え、い嫌……「あんたは七十五階層辺りを探索しているって言ったな?それなら強いのは確かだ。だから普段の探索には関わらず俺達が死にそうになった時だけ助けてくれ。それで良いか?」」


  俺の声を遮る様に添島が口を挟む。添島もやはりオネエについて行かれるのは嫌らしい。だが断ると何されるか分からないからな。真っ先に断ろうとしていた俺が言えたことでは無いがな。


「契約成立ね!」


 オネエが嬉しそうに体をクネクネさせながら言った。俺達は嬉しくねえよ!


「ああ、だが今日は少し六階層の様子を見に行くだけだ」


 ええ、今日早速行くの?俺疲れてるんだけど……。添島さんも疲れて……無さそうだな。うん。


「分かったわ」


 こうして俺達はさっきのボス部屋の転移碑に転移した。が、問題が起こった。


「よし、着いたぞ。ってあれ……?あのオネエが居ないぞ?」


 そう、あのオネエが消えたのだ。何だったんだ?あの男?は。


「まぁ、気を取り直してちょっとだけ六階層を見てから帰るか……?折角来たんだし」



  そうだな。それは興味があると言うわけで俺達は六階層への階段を下りた。









「うおぉぉお!スゲェェエ!」


 俺はオネエの事など既に忘れて無我夢中で叫んでいた。そこには広大な草原地帯が広がっていたのだ。何で迷宮ダンジョンの中にこんな草原が……?にわかには信じられない。だが実際に目の前には広大な草原が広がっていた。


「おお、これは凄いな……ん?遠くに何か見えるな。あれは、オークか……これは装備を整えてくる必要がありそうだ。帰るぞ!」


 添島の声によって俺達は転移碑まで戻り拠点に帰った。


「おお、遅かったのう?六階層の視察にでも行ってきたのかのう?」


 ジジイが帰って来た俺達に声をかける。当たりだ。まるで俺達の行動を把握している様だ。相変わらず恐ろしいジジイだ。


「まぁ、そんな所だ。だが、何で俺達が今日五階層のボスを倒して六階層に行って来たって知っているんだ?」


 そうなんだよなぁ、っぱりジジイは何か色々隠してる気がする。


「ゴ、ゴホン!何と無くそろそろじゃろうなーとは思っておったのじゃ」


 ジジイは誤魔化した。怪しいな。


「それはそうと、さっき変なオネエ口調の男?がここにいて急に居なくなったんだが、そいつに心当たりは無いか?」


 そうだ。ジジイなら何か知っているかもしれないな。するとジジイは困った顔で言った。


「ああ、あいつが来たか。あいつの名前は尾根枝おねえ つよし。お主らとチーム闇龗との間にここに来た者じゃ。あいつは固有スキルが少し特殊での筋肉増強マッスルビルドという筋肉を肥大化させて身体能力を底上げするスキル持ちじゃ」


 ええ、あのオネエこの前の黒服の闇智とかいう奴より若いのか!?そして、筋肉を肥大化させるスキル?余計に化け物感ヤバいんだが……。


「極め付きは神出鬼没アンイルシーヴシーフという姿、気配を完全に消すのも自由自在と言うスキルを持っているのに加えて極度の方向音痴なもんじゃから、ワシでも追えぬ。良く分からん奴じゃ」


 成る程、ジジイでも気配を追えなくなるスキルか、、、筋肉増強のスキルと組み合わせれば無限に相手の視認範囲外から強力な威力で殴り続けるとかいう事も出来るのか、とんだ化け物スキルだな。


  ただし、敵も殴られてるのは分かるだろうから全体攻撃でもされたら別なんだろうけどな。それでも変態的な強さだ。


「そうか。それはそうとちょいとジジイに聞きたい事がいくつかあるんだが良いか?」



  添島が尋ねた。またオネエの事についてか?多分もうあのオネエについて知っている事は殆ど無いと思うぞ。ジジイが許可を出すと添島は話し始める。


「同じ強化系魔法って普通効果が重複すもんなのか?」


 確かにそれは俺も気になっていた。ゴブリンタンクと戦っている時にいきなり添島の力が上がった様な気がしたもんな。じゃないとゴブリンタンク二体を吹き飛ばす何て芸当は今の実力では不可能に近い。


「いや、基本的に同じ強化系魔法は効果は重複しないぞ?効果時間延長になるくらいかの?」


 ジジイが答えた。じゃあ、あの時何が起こったんだ?確かに山西の強化魔法は重複していた。


「ボス戦中に山西に効果が切れる前にもう一度強化魔法をかけてもらったんだ。そうしたら、更に能力が上がった気がしたんだ」

「それに何か一度目より掛ける人数は減った筈なのに倦怠感が強く感じたの」


 添島と山西が答えた。それに対してジジイは少し考えた素ぶりを見せる。


「そうか、そこから思い当たる節と言えば……恐らくそれは固有スキルが発現したのでは無いかの?その効果から言うと恐らく『相乗上昇マルチアップ』じゃろうな。同じ強化魔法を何重にもかけられるがその倍率に比例してマナを消費するという物じゃの」


 それは強いのか?いや使い方によってはチート能力だな。例えば百二十パーセントの倍率がかかる魔法をかけたとする。二回かければ百四十四パーセント。三回かければ1百七十三パーセントだ。もっと倍率が元から高ければかなりのステータスの上昇になる。まぁ、山西のマナ量が分からないから何とも言えないけどな。


「じゃあ、私もマナが切れそうになった時に空気中から微かにマナが流れているのを感じたのですけどそれも固有スキルなのですかね?」


 重光が言った。確かにそうだ。あれも不思議な現象だった。それにあの量は微かにでは無い。重光の範囲防御壁エリアバリア詠唱に使うマナの量は重光の保有する魔力量の約四割だ。つまり重光の全魔力了解の二割も空気中から吸収した事になる。俺達の中でも魔力量の多い重光だ。決して微量ではないだろう。


「ふむ、それも固有スキルじゃの。恐らく『魔力連動マナリンク』じゃろう。空気中のマナも自分の力として使う事の出来ると言う強力なスキルじゃよ」


 いやいやいや、チート過ぎるだろ!?俺なんて属性付けるだけだぞ?一応主人公的ポジションだと思うんだが何なんだこの格差は。一番最初にスキルが発現して喜んでいたが、微妙になって来たぞ。


「だが、勿論デメリットもある。自分のマナの上限を超えた威力の魔法は撃つ事は出来ぬ。そして、空気中のマナを使いながら魔法を唱えるのは制御が難しくなる。まぁ、魔力身体に流れて来るまでの間じゃが。お主に限って無いと思うが魔法の暴発には気をつけるのじゃぞ。」


 ちょっと待て。それ大したデメリットじやなくね!?だってド◯クエで言う毎ターンMP全回復みたいなもんじゃん!重光さんチート過ぎるだろ!羨ましい。そこで重光が変な質問をジジイにした。


「分かりました。ところでお爺さん私ずっと気になっていたのですが、いつもお爺さん迷宮の事を『ダンジョン』って呼んでいますよね?普通に読んだら『ラビリンス』だと思うのですが、何か『ダンジョン』と言う言い方には何か意味が込められているのでしょうか?特に無かったのならごめんなさい」


 え、いきなりどうした?確かに英語読みだと迷宮はラビリンスとかメイズだがダンジョンでも別におかしく無いと思うぞ。重光が真面目なのは分かるが、これだけはニュアンスの違いだと思うぜ。その質問は野暮じゃないか?


「ああ、そうじゃのう。うん、そうじゃ!何と無くそう言う気分だったのじゃよ。ほれ、早く次の階層の準備でも整えたらどうじゃ?」


 ジジイは辿々しく答えた。何を動揺してるんだ?これだけは本当に意味は無いと思うんだが……。あのジジイはまだ何かを隠しているようだ。だが、それを俺達は知るよしは無い。


  こうして、俺達は次の六階層攻略に向けて準備を進めるのであった。この迷宮を『ダンジョン』と呼ぶ事に重要な意味が込められている事を俺達は知る事は無かった。







〜〜〜単語とかスキルなど〜〜〜

迷宮ダンジョン四階層…三階層と違う点は敵にゴブリンやコボルトが出る。

ゴブリン…人間より小さな人型のモンスター。武器を使う為油断してはいけない。小さな角がある。皮膚は緑がかっている。

コボルト…ゴブリンの様なモンスターだが、犬の様な顔をしておりゴブリンより知能が低く力も弱いが常に集団でいる為注意が必要。だが臆病な為中々姿を現さない。

ゴブリンリーダー…ゴブリンより燻んだ色をしている。ゴブリンを呼ぶ事ができる。強さはゴブリンとさほど変わらない。

体調回復キュア…回復魔法。毒などを解除する。

扉前の罠…時々仕掛けられている。下の階層に行く程強力になっている場合が多い。

ゴブリンタンク…ゴブリンより一回りは大きな身体に鎧を纏っており、両手にタワーシールドを持っている。かなり固い。

ゴブリンエレメンタル…いかにも魔法使いっぽい格好のゴブリン。基本の四属性と、回復魔法、防御魔法、並立詠唱など色々能力は万能である。

ゴブリンコマンド…特攻ゴブリン。核が露出しており、素早い動きで特攻してきて自爆する。自爆する時は核が素早く点滅する。そして、大爆発をし、自らは瀕死になる。

範囲防御壁エリアバリア…バリアと違い全体を覆う事のできるバリア。勿論バリアよりマナの消費量も多く、詠唱にも時間がかかる。

迷宮ダンジョン五階層…ちゃんと探索しないとボス部屋には行けない。敵は四階層にゴブリンリーダーが追加された程度。

迷宮ダンジョン六階層…今分かっているのは広大な草原が広がっている、、、と言う事だけ

筋肉増強マッスルビルド…謎の男?が持っている固有スキル。筋肉を肥大化させ力を底上げする。

神出鬼没アンイルシーヴシーフ…同じく謎の男?の固有スキル。気配などを自由自在に操れる。それはジジイでも感知出来ないレベルにも、、、

相乗効果マルチアップ…山西の固有スキル。強化魔法の効果を重複させられるが、使用するマナの消費量も増える。

魔力連動マナリンク…重光の固有スキル。空気中のマナも使用できる。ただし自分の上限を超えた威力は撃てない。



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