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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
2章 単純迷宮エリア
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9話 罠と宝箱

今回短めです。

 昨日の祝勝会を終えて俺達は次の日の朝を迎えていた。


「「おはようございます!」」


 気持ちの良い目覚めをした俺達は俺達の昨日の戦闘で傷んだ武具などを鍛冶場で修繕兼強化をしていたジジイに挨拶をする。


 素晴らしい事を成し遂げた次の日は不思議と気分が良いものだ。


「おお!今日はワシが起こすまでもなかった様じゃの……」


 俺達の挨拶に対してジジイは驚いた様な顔で答えた。そんなに俺達が素直に起きて来てジジイに挨拶する事が不思議か?それはさておき、昨日二階層を突破し、二階層の転移碑に俺達は触れたから今日の迷宮探索は二階層の最後からになる。要するに三階層から探索を再開すると言うことだ。


「今日は三階層からだったっけ?確か俺達だけで行って良いんだよな?」


 俺がジジイに尋ねると、


「おお、そうじゃな。行って良いぞい。装備はこれを持って行け」


 ジジイは自分の足元を指差した。そこには昨日俺達が損傷させた筈の防具が綺麗に修繕されて置いてあった。有り得ない。たった一日で装備を修繕するなんて……ジジイが地球にいたならば国宝級の鍛治師になっていたに違いない。


 あれ?だが、さっき作業してたのは何だったんだ?もしかしたら昨日獲得した素材を使って新しい装備でも作っているのかも知れないな。


 でも有難い。じゃあ、行ってくる。俺は頭の片隅に浮かんだ疑問を残しながら足元の装備を担ぎ上げて仲間達に配る。


「みんな、準備は良いか?」


 最後に忘れ物とかの確認を施し、装備を着用した俺達は転移碑に触れる。


「「転移ワープ!」」


 俺達の声とイメージに合わせて俺達の身体は淡い光に包まれて転移し、二階層の最後……つまり昨日の最終地点に着く。そして、俺達は三階層に続く階段を降りた。






「おお!ここが三階層……か?」

「って何も変わらないな……」


 俺の大きな声が洞窟内で反響し、添島がすかさず突っ込む。俺達の目の前には今までと同じ様に何も飾り気の無い部屋が続いていた。


 ただ一つ違う点と言えば道が広い通路の様になっており、次の階層の階段がある場所が見えない程続いている事だ。


 つまり、一階層の様なモンスターハウスでは無く、探検できるという事だ。


 成る程、やっと迷宮ダンジョンっぽくなって来たな。とは言っても傍道などはあまり無いのだが。


 まぁ最初だし、こんなものか……。


 これは、本当に最後までこんなのが続くのでは無いかと俺は少し先を案じて不安な気持ちになった。


 なんかあまりワクワクしないんだよなぁ……。


「敵が変わっているかも知れないから、一応気を引き締めて行きましょう」


 重光が俺達に注意を促す。


 そして、少し移動すると目の前に何かが現れた。その得体の知れない物体は徐々に俺達に近づいて来る。


 なんだ?




 その得体の知れない物体が近づくに連れてその姿が明らかになった。


 薄く黄ばんだゼリー状の透明な体の中に丸い核?の様なものが埋まっている。目や口などは有るのかどうかは謎である。まず生命体なのかどうかさえ微妙だ。ゼリー状とは言ってもほぼ液状であり、原型は留めていない。大きさは大きなポリバケツ並みの容積はある。


「ん?あの透明なゼリーみたいなのは何だ?」


 気になったので取り敢えず添島に聞いてみる。


「ああ、あれはスライムだな。物理攻撃が通り難く、酸を吐いて装備を傷めてくる嫌な奴だ」


 え?スライムだ……と……?


 俺てっきりド◯クエのスライムみたいなのを想像してた。


 しかも、酸吐くとかアシッドスライムじゃ無いのかよ!?


 ふと横を見ると亜蓮も俺と同じような事を考えていたらしく、そんな……あれがスライムだと……!?

 とか呟いてる。


 そうだよな。普通ガッカリするわな。


 ただ、あれに似てる……。


 そう。梅ゼリーだ。電子レンジでチンしてゼラチンが融解した梅ゼリーである。中の核みたいなものがより梅っぽくて美味しそうだ。


「そうなのか?でも梅ゼリーみたいで美味しそうだな」

「どこがよ!あんなのヘドロの塊じゃない!」



 え、そこまで言います?色も透き通っているしヘドロまではいかない気がする。あの色もタンパク質を融解させて出来た色だろうし。俺の梅ゼリー発言に山西が異論を唱えてるが気にしない。


「カマキリも食えたんだから変わらないだろ?」

「私はどっちも食べたくない!」





「おい!酸が来るぞ!避けろ!」


  そこへ添島の声が響いた。





 え?



 俺と山西はスライムの方を振り向いた。

 スライムは体を広げ黄色い液体を俺達に向けてスプラッシュしてきた。上空に飛散した液体は俺達を包み込むように広がり、周囲には気化したと思われる酸の強烈な臭いが漂った。


火球ファイアボール!」



 重光の手元から拳大の火の玉がスライムが放った液体に向かって飛翔し、ジュワリと言う音を立てながら液体を蒸発させた。


 気化したスライムの酸の匂いが更に濃度を増して空気中に漂い、俺は眉を顰めた。


 これプールの匂いの強化版か……?いや、吐瀉物の臭いとかに近いかも知れない。プールの臭いなどの様に優しい臭いでは無い。


「当たると人体にはそこまでダメージは無いが装備がやられるぞ!中心にある核が弱点だ!あそこを狙え!」


 添島が言った。あの酸は強酸か?


 だが、人体ダメージがそこまで無いが装備がダメージを受ける……少し薄めの塩酸っぽい感じなのか?


 この世界にも、同じ物質が働くのかはよく分からんが、取り敢えずあまり酸は強く無いのか?それであれば問題ないのだが……。


 分からぬ。


 それよりもさっきの重光の撃った魔法の感じからして普通に魔法でも倒せると思うのだが……。


 まぁいいや。

 と思ってたら、亜蓮がもう動いていた。


 早えよ。


「はぁぁあ!」


 亜蓮が素早くスライムの後ろに回り込み剣を突き刺す。


 スライムも必死に核の位置を移動させようとするが、無駄だ。液状の肉体は亜蓮の身体にまとわりついて、亜蓮の口を塞ごうと動いた。あのスライム!亜蓮を窒息させるつもりか!?エロゲームとかで良くある展開だが、あれだけの強酸のスライムの身体が呼吸器官を潰してしまったならば普通の人間であれば即死だ。


 だが、亜蓮の速度を甘く見てはいけない。到底スライムでは亜蓮の速度には敵わないだろう。


「ーーっ!」


  亜蓮は身体をスライムに包まれながらも腕を素早く突き出してスライムの核を貫いた。パリンッと言うガラスが割れる様な音が響き、スライムの動きが止まる。


 亜蓮に核を的確に砕かれたスライムは更に身体を融解させて溶けた。亜蓮は少し表面を損傷させた鎧を気にしているのか鎧を腕で摩っていた。


  今更だけど、この迷宮ダンジョンってモンスターの死体が消えないんだな……。あと思っていたよりもスライムがグロくて強い。スライムを倒した亜蓮が無言でこちらに近づいて来るが出来れば来ないで欲しい。臭いがキツイ。


  死体が消えないのはモンスター食ってたから分かってたけどスライムでこのつよさってなったらこの先結構厄介な敵が現れる可能性が高いな。

 

 そして、問題はこのドロドロした臭い素材をどうやって持って帰るかだ。


 これ、本当は要らないんだけどジジイなら何かに使ってくれるかもしれない。


「この素材どうやって持って帰ろう……?」






「「あ……」」


  俺の言葉に全員が一旦固まった。


「捨てるに決まってるでしょ?」

「いや、持って帰ろう。これには一応利用価値がある。しょうがない……俺の鞄に入れとくか……」


  山西の言葉に添島は異議を唱えた。そして自分の腰に付いている皮と金属で作られたポーチの中にドロドロした液体を入れた。


  添島がポーチに入れたと言う事は何かしら使い道があるのだろうな……。添島のポーチが溶ける可能性を危惧したが、そんな事はなかった。


  何か使い道があるとしても俺なら絶対にポーチに入れないけどな。


  因みにあのドロドロの液体には装備を溶かしたりする事は出来ないようで、スライムは体内にある液胞部分に酸を貯めているらしい。スライムは迷宮の掃除屋とも言われており何でも食べる。そのゴミなどが溶けて溜まっている部分が液胞部分だ。ゴミを溶かす際にもそこから酸を出してゆっくりと消化する。今回のスライムが食事から時間が経っていて良かった。


  時間が経っていなかったら体内に見てはいけない様な物があったと思われる。身体の構造は単純で、胃袋の様な物は存在しない。地球の生物や植物の液胞とは全く仕組みも役割も違うみたいだ。


  亜蓮が剣を突き刺す時に液胞部分を貫いて無くて助かった。



  スライムの謎の液体を処理した所で俺は遠くに宝箱?の様なものをみつけた。薄暗い洞窟の中でもその宝箱は銅色の輝きを放っていた。


「おい、あれ見ろよ!宝箱じゃねえか?」


  俺は初めて見た宝箱にテンションが上がった。


  そして、近くで見たくなった……。


「じゃあ、ちょっと見てくるわ!」

「おい!待て!」


  添島の静止も振り切って俺は宝箱の方へ走り出す。


  だって宝箱だぜ!男のロマンだろ?




  すると、足元で何かを踏んだ様な感触がした。





「うわぁぁぁあ!」


  俺は目をひん剥いた。罠か!?


「どうした!って……大丈夫……か?」

「だ、大丈夫そうね……」

「うわ、これは需要ないな……」


  大量のスライムが天井から降って来た。何だこれ!?


  めっちゃ気持ち悪い!しかも痛い。天井から降ってきたスライム達は俺の体を伝い、頭部を目指す。みんなは急いで俺の所に走って来たが助けもせずに呆れている。皆だから言わんこっちゃない。自業自得だ。とでも言いたそうな顔をしている。


  おい!?早く助けろよ!


  体がヒリヒリする!痛いし、俺が窒息死してもいいのか?


「ぼーっと見てないで、早く助けろよ」

「火属性付与したら良いだろ?」


  そう言う事か。確かにそうだ。添島の声に俺は少し冷静さを取り戻す。


  スライム火に弱そうだもんな。


属性付与エンチャントファイア!」


 俺が火属性を防具に付与すると俺から発せられた熱気を伝い、スライムの身体は核から分離する様に融解を始めた。そして、最終的に核だけが残った。ふー……何とか助かったな。


「あー。その装備はもうダメだな。あとスライムは燃やした場合魔石しか回収出来ないのかよ……」


 添島の残念そうな声が聞こえ、それに従い俺の装備を見てみるとスライムの酸にやられてボロボロになっていた。金属部分はメッキが剥がれている様に薄く爛れ、表面の皮は少しふやけていた。


  まだ使えるには使えるが、戦闘が何度もある事を考えたらこのままだと数日と保たないかもしれない。そして、鎧の隙間からスライムの酸が侵入したのか俺の皮膚も少し爛れ、赤く腫れていた。おい、事前情報と少し違うぞ。


  あと、あのドロドロの液体よりは魔石の方が需要あると思う。重光さんも魔石の価値を推している。


  魔法使うもんな。


  重光にとっては価値高そうだ。


「スライムの攻撃で受けた傷もあるし、一旦拠点に戻るか。次から勝手に一人で動くなよ?」


  添島に釘を刺された。


  はい、次から気をつけます。明らかに早い撤退。だが、これは治療の意味も込めての事だった。


「それで、さっきお前が走っていった所に宝箱が見えたとか言っていたがあれか?」


  添島が指差した先には銅色に輝く綺麗な箱が置いてあった。そう。俺が見たのはあれだ。すると山西が分かっていない様な顔で添島に聞いた。


「宝箱ってテレビとかでよく見る宝石とかが入ってる箱?」


 何当たり前の事聞いてるんだ。


  それにしても中身が、気になるな。


  宝石か?金か?


  まぁ、この世界に限ってそれはないと思うが……思うが吉日!確かめるしかないな!


「まぁ、そうだな、宝箱には大体の場合中にアイテムが入っている。ただし、宝箱自体に罠が仕掛けられている事もあるから注意ーー」



「お、開いた」


  添島の話が終わる前に俺は宝箱を開けていた。


「おい!お前は人の話を聞け!」


 添島は若干イラついた様子で俺に怒鳴った。だが、気にしない。添島が勝手に行動するなと言うのはもっともな理由だった。次からは気をつける事にしよう。


  宝箱の中を早速覗いてみると、ラグビーボールよりも一回り小さい位の皮袋みたいな物が入っていた。

  これはハズレか?と思い、袋の中に何か入っていないかと手を袋に入れてみて俺は驚く。




「すげぇ!この袋中に手を入れたら手が吸い込まれそうだ!」


  そう、手が吸い込まれるのだ。これは驚きだ。すると添島が嬉しそうな顔で俺を抱きしめた。


「おお!ナイスだ安元!それはマジックバッグだ。見た目より沢山物が入るから探索が捗りそうだな」


  ほぉ、マジックバックか。俺のお陰だからな?感謝しろよ?なんて横暴な事は言わない。





  だが、これはバッグ……なのか?見た目的にどう見てもバッグでは無い。


  まぁ、それは良いんだが物が沢山入るって事は取った素材で荷物が嵩張る事も無いって事か。


  これは便利そうだ。


「要するにド◯えもんの四次元ポケットみたいな物か?」


 亜蓮が言った。


  もし、そうだとしたらとんだチートアイテムだ。


「いや、多分この階層で出るものだからそこまで容量は大きくない筈だ」


 それでも便利なアイテムには違いない。


「それでだ。まぁ、今日は早いんだが、一旦引き返して装備を整えて来た方が良いと思う」


  添島が言った。

  ええ、今日ちょっと進んでスライム倒して、アイテムゲットしただけじゃん。俺はそう思ったが戦犯なので文句は言わない。


「アンタのせいだからね」

「分かってるよ」


  山西は俺がトラップに引っかかったりするから先に進めなくなったんだと皮肉の様に愚痴を言っているが、それは周知の事実なので俺は軽く流した。それでも山西はまだ先に進みたい意思を示しているが、添島は良いアイテムも手に入ったし、良いと言った。要するに今回は下見だ。慎重なのは良いことなのだ。


  俺達は二階層の転移碑まで戻り拠点へと戻った。


  余計なお世話だ。


  次はもう罠にはかからない……様にしたい。






  何故かまた俺は罠にかかる気がして仕方がなかった。








「どこまで順調に進むかの……何処かで行き詰まる時が来る筈じゃ。その時はワシが鍛え直してやろう」


 安元達が去った後に老人はニヤリと笑って呟き、転移碑に触れた。








 〜〜〜 迷宮ダンジョン九十階層付近〜〜〜


「最近、敵の数が増えて来ている気がするな」


 闇智は槍を突き出して機械の奴な敵を貫いて呟いた。


「大丈夫ッス。リーダーが勝てない奴は、あのジジイか、あの化け物位ッスよ?」


 特徴的な話し方の全体的に活発そうな印象を受ける褐色肌のポニーテールの女は皮膚の一部を鱗の様に変形させながら笑った。


「そうだな。だが、どうも嫌な予感がする。近いうちに何かが起こる様なーー」


 闇智がバツの悪そうな顔で答えた。


「まぁ、きっと気のせい……。多分……」


 大人しそうな髪の長い黒髪の女が巨大な魔法陣を大量に周囲に浮かべ、眠そうな瞼をゆっくりと開きながら闇智に対して声をかける。



 そして、横にいた大きな身体と二つの巨大な盾を構え、鎧を着込んでいる男が頷いた。


「そうだと良いのだがなーー」


 闇智は遠くを見ながら腕に水を纏わせその水を龍の様に唸らせて遠くの空を眺めた。








〜〜〜単語、スキルなど〜〜〜

スライム…ド◯クエとかのスライムと違って、可愛くない。黄ばんだ透明なゼリーの中に丸い核がある。火属性に弱く、核を破壊してもやられる。酸を飛ばす。酸の威力は金属をダメにする。人体にあたるとヒリヒリして軽い炎症を起こす。酸は液胞部分に貯めてある。

罠…迷宮ダンジョンには多数の罠が仕掛けられており、起動すると何かが起こる。今回はスライムが大量に降って来た。

宝箱…何かアイテムが入っている。罠が仕掛けられていたり鍵がかかっている事もある。下の階層の宝箱程中身が良いことが多い。

マジックバック…ド◯えもんの四次元ポケットみたいな物。見た目より物が沢山入る。今回の物は中身の時間は進む。容量には限りがある。



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