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20.帰還

 アウグストの城から戻ってきた俺たちは、サウスの宿屋で休んでいた。

 といっても疲れてるのは俺くらいみたいだったが。

 シェーラとダインはさっそくテーブルに地図を広げて話し合っている。


「強力な結界に、魔法無効化の壁。正門には不死の番犬と、かなり厳重な警備だったわね」


「余計な小細工をするから話がややこしくなるんだ。正面から堂々と全部ぶち破ればいいだろ」


「そんな無茶が押し通せるのはダインだけだろ……」


 思わずげんなりとこぼしてしまう。

 正直、正門のケルベロス一匹でもかなりしんどかったぞ。

 奥に進めば当然警備もさらに厳重になるだろう。1匹だった番犬も、2匹、3匹と増えてもおかしくない。


 テーブルの上に広げられた地図には、大きな城の見取り図が描かれている。

 俺の知らない地図だったが、みたところさっきのアウグストの城みたいだった。


「こんな地図いつのまに手に入れたんだ」


「マッピングの魔法でざっと作っておいたのよ」


 いつのまに。

 さすが旅慣れてる冒険者は抜け目ない。


「というか、魔法は無効化されるんじゃなかったのか」


「すべての魔法が無効化されるわけじゃなかったわ。ユーマのよくわからない合成スキルも使えたでしょ」


 そういわれればそうだな。


「そもそも、敵のアウグストってのはネクロマンサーなんでしょ。すべての魔法を無効化しちゃったら自分の魔法まで使えなくなるじゃない」


「確かにそりゃそうだ」


「すべての魔法を無効化するんじゃなくて、特定の魔法を妨害する結界が張られてるんじゃないかしら」


「おそらくその通りじゃの。でなければ魔力そのものである我も近づくのは難しくなる。まあ、無理矢理押し通ってもよいんじゃがの」


「それだと城そのものがなくなるだろ。とはいえなにか対策を考えないといけないのも確かだな。なにか方法はないか?」


「力づくでぶっ飛ばせばいいだろ」


「あたしも結界の解除までは詳しくないのよね」


 ダインはともかくシェーラでもだめか。


「アヤメはどうだ」


 たずねてみたが、申し訳なさそうに首を横に振った。


「そういうのはあんまり得意じゃないんだ。ごめんね」


「我にも無理じゃな。細かい操作は苦手での」


 うーん、みんなダメか。

 となると他に詳しい人に聞くしかないか。

 とはいえ他に知り合いなんていないけどな。


 サウスの仲間を当たってみようか。

 レジスタンスとして活動しているのなら、アウグストの結界について情報を集めているかもしれない。

 そのつてを頼ってみるのもありだろうな。


 とはいえ、そうすると俺たちの素性を明かさなければならなくなるか。

 人間界から来たなんていったところで信じないかもしれないが、アウグストと敵対しているということは伝えなければならないだろう。

 それは俺たちの旅に無関係の人たちを巻き込むことになる。

 せっかく小説とは違う道に進んでいるんだ。ここで巻き込んだら再び小説通りの展開に戻ってしまいかねない。


 やはりサウスたちには頼めない。

 自分たちだけで何とかするしかないか。

 とはいえシェーラやラグナにも解除できないとなると、よほどすごい魔法使いでなければならないだろう。


 めちゃくちゃレベルが高いとか、あるいは相当な魔法の天才とか。

 ……なんか、魔法の天才という言葉に聞き覚えがあるな。

 正直もう関わりたくなかったのだが、他に手も思いつかないのだから仕方ない。


「なにか思いついたの?」


「思いついたというか、他に手はないからしかたなくというか」


 とはいえそれはここではできない。

 一度人間界に戻る必要があるだろう。

 そこでゲートのスキルでいったん、人間界と魔界とをつなぐ唯一の道であったあの草原につなげる。


 ゲートは同時に二つを起動することはできない。

 そのため一度みんなで草原に降り立ち、その後改めて今度は人間界につながるゲートを開いた。

 ヤシャドラと戦ったあの暗くて広い洞窟だ。


「わざわざ戻ってきてなにするの?」


「まあ、シェーラも知ってる人を呼び出すんだよ」


 俺はいつかもらった魔法の水晶を取り出す。

 テレポートの魔法で戻るときに魔法の天才フォルテを呼び出すためのものだ。


 とはいえ、もう使い方は覚えていない。

 とりあえずそれを握りしめて何となく念じてみる。


 もらってからだいぶ経っているし、使い方もあってるかわからない。

 呼び出してもすぐにはこれないだろう。

 しばらくここで待たないとダメか。


 と思った直後に、空間にゆがみが発生した。

 それは光の渦となって人の形に変わり、やがて懐かしい姿になった。


「んもうあれからずっと待ってたのにぜんぜん呼んでくれないからお姉さん待ちくたびれちゃったよぉ!」


 現れた妖艶な魔道師姿のお姉さんがいきなり俺を抱きしめた。

 いろいろと温かくて柔らかなものが俺の全身を包み込む。


「焦らせるのがうまいんだからぁ~。でもそんなところもかわいいから許しちゃう。それでぇ、こんな人気のない暗がりに呼び出してぇ、今日はどんなイケナイことがお望み? もう、しかたないなあ。今日は特別にサービスしてあげちゃう!」


 ぐりぐりといろんなものを押しつけながら耳元でささやく。

 女性特有の甘い香りが鼻をくすぐると同時に、つんとしたアルコール臭も漂ってきた。

 この人また酒飲んでたな!


「ちょっとちょっと、アンタいきなりなにしてんのよ!」


 シェーラが俺とフォルテを引きはがす。

 フォルテは抵抗するそぶりもなくあっさりと離れた。


「あら、お姉さんもいたのぉ? こんな暗がりで三人でなんて……、あらぁ? まさかの六人? そんな激しいプレイお姉さんも初めてだわぁ」


「相変わらず頭の中がピンク色だなこの人は!」


 いくら酒に酔っているとはいえブレなさすぎる。


「今日呼んだのは頼みたいことがあったからですよ」


 俺が本題に戻すと、フォルテも若干だらしない表情のままうなずいた。


「うん、もちろん知ってるわよぉ」


「え? そうなんですか」


 まだなにも話してないのにわかってるとはさすがだな。

 さすがは千年に一度といわれる魔術の天才だ。いや、百年に一度だっけ? まあどっちでもいいか。


「もちろんよぉ。お姉さんとイケナイことしたいんでしょ?」


「だからちがいますって!」


「んふふ~? 本当?」


 フォルテがかがみ込んで胸を強調するような体勢になりながら俺を見上げてくる。


「王都を救った勇者様は旅に出たって噂だし、今になって私を呼び出すなんて、よっぽどのことなんでしょう~? 前はドラゴン退治だったから、今度は魔王退治かしらぁ?」


 思わずぎくりとしてしまう。

 常に酔っぱらってこんな言動ばかりだから誤解しそうになるが、やっぱりこの人は天才なんだよな。


「よくわかりましたね。実は魔王退治の手伝いをしてほしいんです」


「あらあら、まさか本当にそうなのぉ?」


「ええ、口で言ってもわからないと思いますので、実際に来てもらった方が早いかと」


「行くって、魔王のところ?」


「ええ、魔界です」


 そういって俺はゲートのスキルを発動する。

 はじめはおもしろ半分だったフォルテの表情も、魔界に足を踏み入れたとたん真剣な顔つきに変わった。


「あら、本当なのね。ふうん。ここが魔界か……」


 興味深そうに周囲を見渡す。

 世紀末じみた空を見ても特に驚いた様子は見せず、冷静に分析していた。


「ずいぶん崩壊が進んでるわね。……いや、ちがうか。これは、世界はもうとっくに崩壊してるのか。それを何者かが押しとどめている……。それにしても、こんなこと神様でもなければ無理なんじゃないかしら。それに魔力とは別のこれはなにかしら」


「ここでは魔素と呼んでおるの」


 ラグナの答えにもフォルテは話半分でうなずくだけだった。


「魔力がなにか他のものに変質している。なにかしらこれは。こんなことどうやったらできるの。自然発生したとしても、まともな方法じゃエネルギーが足りない。これじゃまるで……世界が滅んだ後に残された残滓みたいだわ」


「ほう。お主はなかなかわかるようじゃの。そのとおりじゃよ」


 そこではじめてフォルテがラグナの方を振り返った。


「あら、あなたにも興味があるけど……、ふうん、なるほど。そういうことなのね」


「うむ。そういうことなのじゃよ」


 なにやら高次元の会話で分かり合っている。


「そういうことって、なにがそうなんだ」


「そんなの、空を見ればわかるでしょう」


 フォルテがさも当たり前のようにいう。


「空を見ればわかるっていってもな……。たしかに魔界は今にも滅びそうだけどよ」


「うんうん、そうそう。さすがじゃない」


 そういって優しく頭をなでてくれる。


「でもぉ、ちょっとだけちがうかなぁ。魔界は滅びそうなんじゃないわ。もうとっくに滅んでいるのよ~」


 俺は耳を疑った。


「…………………………は?」


 魔界が、もうとっくに滅んでいる?

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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