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18.門番


 正門前の地面を突き破って現れたケルベロスが、俺たちに向けて三つの首で吠えた。

 それは犬のような遠吠えではない。ほとんど化け物じみた声を轟かせる。


「ぐうううううがああああああああああああっ!!!!!!」


 大音量が周囲を震わせる。

 こいつは地獄の番犬ケルベロス。

 三つの首と地獄の障気をもつ凶悪な魔獣だ。


 ビリビリと空気が鳴動する中で、我がパーティーの二大戦力が同時に剣を抜いた。


「なかなか骨のありそうなのが出てきたな!」


「燃え尽きろ、<フレイムインパクト>!」


 ダインが竜殺しの大剣を構えて突撃し、シェーラが火炎魔法を放つ。

 巨大な爆炎が漆黒の体躯を飲み込み、まだ炎が晴れないあいだに巨大な剣が振り下ろされた。


 馬鹿でかい剣の風圧が炎を吹き散らす。

 現れたのは、シェーラの炎でも焦げ痕ひとつつかず、ダインの剣を額で難なく受け止めた獣の姿だった。


 ケルベロスが三つの口を同時に開く。

 それが、ニヤリ、と笑ったように見えたのは俺の目の錯覚だろう。

 三つの口から赤黒い火炎が同時に吐き出された。


 触れた物を焼き焦がし、魂を凍らせる地獄の炎だ。

 いくら肉体的には鉄よりも固いダインといえども、まともに浴びればただではすまないだろう。

 即座にアヤメが反応した。


「……っ! <ホーリーシールド>!」


 光の膜がケルベロスの正面にいたダインを包んだ。

 直後に地獄の火炎がダインを焼き焦がす。


「さすがはオレの妹だな」


「ぐるうっ!?」


 炎の中から現れたダインを見て、今度はケルベロスが驚く番だった。

 さすがアヤメの白魔法に守られただけあって、ダインもまた無傷だった。


「礼は倍にして返してやるから感謝しろよ!」


 ダインが竜殺しを大きく振りかぶる。

 その剣に青い魔力の光が渦巻きはじめた。


「凍って砕けろ! <アイステンパランス>!」


 氷の魔力を帯びた一撃がケルベロスの頭部に振り下ろされる。

 さすがの番犬もダインの本気の一撃は耐えきれなかったようだ。

 三つ首のうちの真ん中の首がまっぷたつにかち割られ、さらに傷口から凍り付いて首元まで粉々に砕け散ってしまった。


「ぐあああああああああああああああっ!!!!」


 残った二つが苦悶の声を上げる。

 そのまま両側からダインに向けて噛みついた。

 人間の倍以上の巨躯を持つケルベロスは、その牙もまた巨大だ。ひとつひとつが人間の拳大くらいの大きさがある。


 そんな凶悪な牙が、細身の体に次々と食い込んだ。


「お姉ちゃん!?」


 アヤメの悲痛な悲鳴が響きわたる。

 が、ダインの口元はさらに好戦的な笑みを深めただけだった。


「どうした、その程度か?」


 鉄すら噛み砕きそうな一撃を受けても傷ひとつついていない。

 そういやもっと巨大だったアンデッドドラゴンに噛みつかれたときだってほとんど無傷だったもんな。

 この程度じゃダメージにもならないのか。


 ほんと、つくづく人間やめてるよなあ。


 ダインが左右の手を伸ばし、ケルベロスの喉元をつかむ。

 細身の美女であるダインの腕は俺と同じくらいの太さしかないのに、細い指先は漆黒の獣の中へめり込んでいった。


「ぐるがああああああああああっ!!!!」


 ケルベロスがたまらずに声を上げ、逃れるように二つの首を大きく振りまわす。

 しかしダインの腕はピクリとも動かず、指先がどんどん沈み込んでいった。


「おら、どうした。このままだと喉笛がちぎり取れちまうぜ!」


 恐ろしいことを平気で言うが、脅しじゃなくてきっと本気なんだろうなあ。

 剣士のくせにもはや剣もいらないとかレベル上げすぎじゃないだろうか。剣士(握力)。


 暴れ回る獣もこのままではふりほどけないと判断したらしく、前足を大きく地面にたたきつけた。

 轟音と共に地面が割れて崩れ落ちていく。


「ちっ、さすがにこれはマズいか」


 ダインは素早くその場を飛び退き、崩落する地面から距離をとった。

 崩れ落ちた地面の底で、ケルベロスが小刻みに全身を震わせる。その喉元から真っ黒な液体があふれ出し、地面をドス黒く染めていた。

 低いうなり声を上げながら、警戒するようにこちらをにらみ上げてくる。


 なにしろ一撃で真ん中の頭を砕かれ、左右の喉もダインによってえぐり取られてしまったんだ。

 すぐには上がってこないだろう。


 それにしても、あの巨体がまるまる入るほどの大きな穴なんてどこにあったんだろうか。

 地面に空洞があったわけでもないのにこんな馬鹿でかい空洞ができたのは、きっとケルベロスの能力なんだろうな。

 出てきたときもいきなり地面から這い出てきたくらいだし、地獄の番犬なんだから地下に関する能力くらいあってもおかしくない気がする。


「ふむ。どうやらこの辺りの濃い魔素の原因はこいつのようじゃの」


 ラグナが興味深そうに見下ろしながらつぶやく。


「地獄とやらが本当にあるのかは我も知らぬが、この辺りで生まれた魔物ではないの。どこか次元の狭間で生まれたか、はたまた何者かが作りだしたか」


「アウグストはネクロマンサーだからな。合成獣を造る技術も持ってるだろう」


 アヤメもいるので口には出さなかったが、死体を継ぎ接ぎしてより強力な新しい生命を作り出すのはネクロマンサーの得意とするところだ。

 レベルの高い獣型のモンスターを三体くっつけて仮の命を与えれば、こんな三つ首の異形のモンスターが生まれるんだろう。


「こいつを配置してたから正門には見張りがいなかったってわけか」


「かもな」


 といっても、ケルベロスに高い知能があるようには見えない。

 見張りが必要なかった、というよりは、見張りも襲われてしまうから配置していなかった、といった感じだろうか。


「なんだかわからないけど、要は倒せばいいんでしょ。穴の底なら逃げ場はないしこれで終わりね」


 シェーラの体が魔力の光で包まれる。

 淡い光と共に、金髪が舞い上がるように浮き上がり、周囲の魔力が高まっていく。

 高めた魔力を切っ先に集め、剣を掲げると共につぶやいた。


「燃え尽きなさい。<プロミネンスシャワー>」


 ケルベロスのいる穴にふたをするように巨大な魔法陣が描かれる。

 陣が赤く輝くと、穴の底に向けて無数の炎の矢が大量に降り注いだ。


「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」


 逃げ場のない穴の底に向けて、一切の容赦もない文字通りの絨毯爆撃。うわあこれはえっぐい。燃え滓のひとつも残らないだろう。

 吠える声が一瞬だけ聞こえたが、連続する爆撃音によってあっというまにかき消されてしまう。

 深い穴の底にも関わらず、爆撃の振動によって地面が地震のように揺れ動いた。


 中の様子は見えないが、穴を越えて地面にまで舞い上がってくる燐光と熱気だけでその威力は十分に伝わってくる。

 これは確実にオーバーキルですわ。


 降り注ぐ炎の矢は実に10分以上も続いた。

 やがて魔法陣が消え爆撃が止まると、穴の底から黒煙がもうもうと立ちこめる。

 ケルベロスの声はもう聞こえなかった。


「ちっ、オレの楽しみを奪いやがって」


 ダインが悪態をつく。

 やがて周囲がざわめきはじめた。

 どうやら周囲の見張りが正門での騒ぎに気づいたらしい。


 というより、気づかない方がおかしいか。

 たぶんケルベロスが暴れてるあいだは近づかないようにしてたんだろう。

 だがどうやらその決着が付いたらしいので様子を見に来た、というところか。


「おいユーマ、雑魚どもが集まってくるが、まさかここで帰るなんていわねえだろうな」


 一瞬迷ったが、俺はダインにうなずく。


「そうだな。帰るにしても、まずは城の中の様子を見てからだ」


 城の内部の様子を知っているだけでも、今後の作戦の立て方が違ってくるからな。

 そこまでの考えが伝わってるのかどうかはわからないが、ダインが笑みを深めた。


「さすが、わかってるじゃねえか。それじゃあさっさと行くぜ!」


 背中の大剣を鉄門へとたたきつける。

 その一撃で巨大な門は蝶番ごとあっさりと吹き飛ばされた。


「さて、さっそく内部の様子を……」


「む。少し待て主よ」


「ぐえっ」


 歩きだそうとした俺の襟首をラグナが後ろからつかむ。


「なんだよラグナ。止めるならもっと優しく……」


 俺のその言葉を言い終えるよりも先に。

 地面が大きくひび割れ、大量の土砂を舞い上げる。

 この展開は覚えがある。ほんのついさっき見たばかりだ。


「嘘だろ……。あれを食らって生きてるのかよ……」


 地面を砕くようにして、漆黒の獣が姿を現した。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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