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7.準備

 アメリアと魔界についていろいろと話をした次の日。

 俺とシェーラとアヤメ、ダインの四人は、俺の部屋に集まっていた。


「みんな準備はいいか?」


 これから魔界に向かうことになる。

 一歩足を踏み入れるだけで毒にやられるようなとんでもない場所だ。ヤシャドラたちにも話を聞きたかったんだが、何しろどこにいるかもわからないし、こっちから会いに行くのは難しいんでな。話は聞けずじまいだった。


 なので、魔界の奥にはどんな危険が待っているか俺にも予想がつかない。

 しれでも、みんなは力強くうなずいてくれた。

 ダインがさっそく好戦的な笑みを浮かべる。


「おう、任せとけ。『竜殺し』もバッチリ新調してきたからな。今度こそあの魔王とかいう野郎をはっ倒してやる」


 闘志をむき出しにして拳を打ち鳴らす。


 あの馬鹿でかい剣をたった一日で新しく作り直したってのか。

 信じられないが、しかしよく見ればダインの背中にある巨大な剣は新品同様の真新しい光を放っている、気がしなくもなくもないような……。

 いや、やっぱよくわかんないわ。俺には同じ馬鹿でかい剣にしかみえん。


「武器自体は前から注文してあったからな。昨日少しだけ完成を急がせただけだ」


「……危ないことはしてないだろうな」


「心配するな。丁寧に頼んだら向こうも快諾してくれたよ」


 そういって豪快に笑う。

 ダインのいう「丁寧に頼む」ってのが俺の考えるものと同じ丁寧だという自信がまったくないな。

 握りしめた拳を相手の前に差し出したとか、そういうのじゃないといいんだが。


 心配する俺に対し、ダインのとなりに立つアヤメが控えめに微笑んだ。


「私も一緒に行ってお願いしたから大丈夫だよ」


「なんだ、アヤメも一緒だったのか」


「うん。私も買いたい物があったから」


 うなずくアヤメの腰には、確かに見たことのない物がぶらさがっていた。


「魔法のロッドか」


「これがあると回復魔法の力が強くなるって聞いたから」


 ロッドには所有者の魔力を高める力が込められている。

 もともとアヤメの回復魔法の威力はすさまじいが、このロッドがあればさらに強化されるだろう。

 前から、もっとみんなの役に立ちたい、といっていたからな。これはその決意の証だろう。


 とはいえ、アヤメの話だとこのロッドは店で買った物のようだ。


「ちょっとそれ貸してくれないか」


「え? いいけど……」


 渡されたロッドを手に持つ。

 俺には魔法の心得なんてないから、ロッドの良し悪しなんてわからない。

 けど、店売り品が大した物ではないのは、あらゆる小説やゲームの常識だ。


 アヤメの力を考えればそれで十分という話もあるが、せっかくだ。もっと強化しておいてもいいだろう。

 俺は両手を開き、右手にロッドを、なにもない左手には意識を集中して、そこに魔力が集まるイメージを作り出した。


 ロッドに込められた魔力が多ければ多いほど、所有者の魔力を増大させる力は大きくなるはずだ。

 それに俺の体は、魔力そのものであるラグナと一部混ざっているという。

 ならば俺自身にもそれなりの力が宿っているはずだ。


 手に込める魔力のイメージを少し修正する。

 俺の魔力ではなく、俺とラグナの力が混ざった、より強力な魔力を抽出する。

 そのイメージを保ったまま、スキルを発動した。


「合成。<魔法のロッド><竜の魔力>」


 両手が光に包まれ、俺の正面で黄金色の新たな光を作り出す。

 そこに現れたのは先ほどのロッドだった。


「ユーマ君、いまのは……?」


「ほら、これを持ってみてくれ」


 合成したロッドをアヤメに渡す。

 見た目はなにも変わっていない。

 しかし受け取ったアヤメは驚きに目を見開いた。


「すごい……。さっきの何倍も力があふれてくる……!」


「それって、あの魔王が使ってたスキル? そんなものまで覚えられるなんて、やっぱユーマは普通じゃないわね」


 シェーラも驚いたように目を見張っている。


「魔王がやってみたいになんでも合成、ってわけにはいかないんだけどな」


 あれができればまさに最強だったんだけどな。

 ただ、理屈を知った上でも意味が分からないからな。

 使えたとしても、俺には使いこなせそうもないだろう。


「それでも十分強力だと思うけどね。それってなんでも合成できるの?」


「試した感じでは俺が触れるものならなんでも平気だな。魔王みたいなことはできないが、スキルの合成ならできるぞ」


 そういって俺は<クリエイトウォーター>と<ヒール>を使って回復水を作って見せた。

 それをみたシェーラがにやりと笑う。


「ふうん。それはなかなか面白いことができそうね」


 あ、すごく悪い笑みを浮かべている。

 またろくでもないことを思いついたな。




 準備が整ったことを確認した俺たちは、ゲートを使ってまずはヤシャドラのいた場所にやってきた。

 ちなみにラグナはいない。別のことを頼んであるからな。どうしてもラグナにしかできないことだったんでな。

 真っ暗な洞窟にシェーラが明かりの魔法を灯す。


「よし、いくぞ」


 俺は意識を集中する。

 誰からともなく、緊張でのどの鳴る音が聞こえた。

 もっとも、ダインもシェーラも緊張とは無縁の性格だろうから、たぶんアヤメだろう。


 シェーラは真剣な表情をしているし、ダインもうっすらと笑みを浮かべながらもその目はまっすぐに前を見据えていた。


「スキル発動。<ゲート>」


 意識を集中し、ゲートを開く。

 昨日は魔界への道はなかなか感じられなかったが、今日は割とすぐに開くことができた。

 どうやら一度行ったことがある場所にならゲートはすぐに開けるらしいな。


「これが、魔界……」


 シェーラが興味深そうにゲートの奥を見つめている。

 すぐにも足を踏み入れないのは、やはりなにがしかの感慨があるからだろう。

 アヤメも同様にゲートの奥を見つめている。


 アヤメは小説を知っているし、魔界にもシェーラほど特別な思いはないだろうけど、それでもやっぱりゲートの奥を見つめている。

 手にした魔法のロッドを両手でぎゅっと握りしめていた。

 俺の小説でも、魔界編に入ると戦闘もより激しくなっていった。不安を覚えるのは当然だろう。


 しかし中にはそんな感傷とは無縁のやつもいる。


「こいつが魔界か。どんなもんかさっそく見せてもらうぜ」


「あ、ちょっと待てダイン!」


 俺の制止も聞かずにさっさとゲートを乗り越えてしまう。


「魔界には魔素とかいうヤバいのがあるんだよ! なにも対策なしに入ったら倒れるぞ!」


「へえ、そいつは楽しみだな」


 俺の忠告にダインはむしろ楽しげな表情を浮かべる。

 これだから体育会系冒険者は……!

 冗談抜きにヤバいはずなのだが、しかし魔界に足を踏み入れたダインには倒れるような気配はなかった。


「なるほど。たしかにちょっと息苦しい感じはするな」


「……なっ、大丈夫なのか……?」


「この程度ならどうってことないな。こんなもの気合いだ気合い。根性足りねえから倒れるんだよ」


 ええ……。

 俺なんか入ったとたんに倒れて這うこともできなくなったんだが。根性でどうにかなるレベルじゃなかったぞ……。

 ダインはきっと毒の沼とかあっても、毒消し草なんて用意せずに薬草だけで渡りきるタイプなんだろうな。


 とはいえそんな根性論が通用するのはダインだけだ。

 いやひょっとしたらシェーラも根性でどうにかなってしまうかもしれないが、どちらにしろ俺とアヤメには無理だろう。

 なのでアヤメにとあることを頼むことにした。


「アヤメ、一つ頼みたいことがあるんだがいいか?」


「うん。私にできることなら」


「この魔界には魔素っていう、魔力の変異版みたいなのが満ちていて、それが普通の人間には毒なんだ。だから俺たちはそのままだとは入れないんだ」


「えっ、そうだっけ……?」


 驚いたように言葉を止める。

 それから何かを問いかけるようにじっと俺を見つめた。


 そういえば小説にはそんな設定はなかったからな。

 アヤメも初めて聞くはずだ。なので驚いているんだろう。


「ああ、こっちの世界ではそうらしいんだよ」


「そう、なんだ……。でも、そんなことどこで知ったの?」


「えっ!? いや、まあ、なんだ。ラグナにたまたまそんな話を聞いてな」


 昨日一人で魔界に来てしかも倒れた、なんて知られたらまた怒られてしまう。

 なのでとっさにラグナのおかげということにしておいた。

 実際助かったのはラグナのおかげだからな。大体あってるだろう。


「そうなんだ。ラグナちゃんってすごいんだね。それで私に頼みたいことって?」


「そのラグナがいうには、魔素はウイルスに近い性質を持つらしい。だったらアヤメの魔法で何とかできるんじゃないかなと思ってな」


 それでなんとかできれば、魔界でも自由に行動できるようになるはずだ。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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