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6.魔素

 とりあえず否定しておく。

 ラグナは見た目美少女といっても、年でいうなら十歳くらい。つまり小学生だ。

 小学生とキスをしているなんて知られたら、たぶんこの世界でも犯罪だろう。


 アメリアももちろん軽蔑のまなざしで俺を見る、と思ったのだが、意外にもうっとりとした顔をしていた。


「キスで治るなんて、とてもロマンチックですね。もしわたくしでお役に立てるのなら、いつでもおっしゃってくださいね……?」


 ちょっと上目使いにそういわれて、思わずドキリとしてしまう。


「いつユーマ様の身に危険が及ぶかわかりません。いざというときのために予行演習をしておくべきではないでしょうかええそうすべきです」


 そしてそのまま近づいてくる。


「あ、アメリア……?」


「ユーマ様はお姉ちゃんのことが好きなんですよね?」


「え!? いや、えっと、その……」


 アメリアも妹だけあって、顔立ちはよく似ている。そんなアメリアが、拗ねるような表情でせまってくる。


「自慢するわけではないのですが、これでもわたくしは一国の王女。見た目ならお姉ちゃんにも負けていないと思うのですが、いかがでしょう」


「いかが、といわれても……アメリアも十分かわいいと思うけど……」


「ふふっ。ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」


 もちろんお世辞なんかではない。だけどそれ以上言葉が出てこなかった。

 目の前のアメリアから目が離せなくなる。


 姉妹だけあってシェーラと似ている、という理由を抜きにしても、アメリアは十分にかわいい。

 さらには王女としての時間が長かったおかげか、清楚で気品あるれる美しさにも満ちている。

 シェーラが快活で燃える火のような美しさだとしたら、アメリアは水のように輝く静謐な美しさだ。


 それらは両極端であり、まったくちがう美しさだ。

 ようするに、アメリアはかわいい。それだけは間違いない。そんなアメリアがさらに近づいてくる。


「今だけでかまいません。お姉ちゃんではなく、わたくしだけを見てください。シェーラの妹ではなく、一国の王女としてでもなく、ただのアメリアとして。ただの一人の、恋する乙女として……」


 小さなテーブルを乗り越えてアメリアの唇が近づいてくる。瑞々しくて柔らかそうな、少しだけ震えた唇が。

 ふりほどくのは簡単だ。顔を背ければそれでいい。

 だけど俺にはできなかった。俺は、俺は……。


「ほう、人間とはそうやって口説くのか。なるほど面白い」


「「!!!???」」


 俺とアメリアがあわてて飛び退く。


「む、どうした。続きをせぬか。我のことは気にせずともよい。人の交尾に興味があるのだが、見せてくれと頼んでも誰も見せてくれぬのだ」


 そりゃあそうだろう。いきなりそんなこといわれて応じるやつがいたら危なすぎる。


「ちょうどいい機会だ。我に人の交尾というものをみせてくれ」


「というか交尾とかなんてしないぞ!」


「そうなのかの? そのわりにはずいぶん興奮しておったではないか」


 ぎくり。


「いやだなあラグナなに適当なこといってるんだよ!」


「適当ではない。いうたじゃろう。我は主と一心同体。考えてることも感じていることもすべてわかる。今お主は目の前の女に対して性的興奮を覚えておる」


「えっ」


「まあ、ユーマ様……」


「わかりやすくいうなら、今お主は目の前の女とセッ……」


「だらっしゃああああああああああああああああ!」


 ラグナの口を大慌てで黙らせる。

 おおおお前は今なにを言い出そうとしやがったんだ!


「じゃが本当のことじゃろう?」


 だとしても口に出したらいけないことっていうのが人間にはあるんだよ!


「ほう。そうなのか。人というのはややこしいの」


「ゆ、ユーマ様は、わたくしと、そのようなことがしたいと……」


「いや、ちがう、そんなことはないぞ!」


 全力で否定すると、アメリアがしゅんとうつむいた。


「そうですか、わたくしには女の子の魅力はないということですね……」


「い、いや、そんなことは全然ないが……」


「本当ですか? でしたら、わたくしとお姉ちゃん、どちらがお好みですか?」


「い、いや、それは……」


 そんなの答えられるわけがない。

 俺が返答に困っていると、アメリアが小さく笑みをみせた。


「ふふっ、冗談です。すこしだけユーマ様を困らせてみたかっただけですから」


「そ、そうか」


 ほっとため息をつく。

 アメリアはたまにこういうイタズラ好きな一面を見せるよな。

 普段は王女として気を張っているが、素の部分は割と普通の女の子なのかもしれないな。


「ともかく、おかげで魔素の対処法はなんとなくみえてきたよ。これならなんとかなりそうだ。ラグナとアメリアのおかげだな」


「ふふっ、ユーマ様のお役に立てて何よりです」


 アメリアがうれしそうに微笑む。

 見る者すべてを優しくさせるような、やわらかい笑顔だ。

 小説でも第二のヒロイン的ポジションだったしな。かわいくて当然だ。


 だからこそ、そんな彼女が命を落としたときの衝撃が……いや、この話はやめよう。

 その未来は回避された。この笑顔は守られたんだ。それでいいじゃないか。


「困ったことがありましたら、いつでもわたくしを頼ってくださいね。ユーマ様の頼みでしたら、なんでもお引き受けいたしますので」


 アメリアの笑みに思わず見とれてしまう。もう何度目だよって話だが、それでもやっぱりかわいいものはかわいいんだ。

 さすがのヒロイン力だな。


「なるほど。これがヒロイン力というやつか。勉強になるの」


 やっべまたラグナが変な言葉覚えちゃったよ。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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