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26.業火

 鉄でさえ溶ける前に蒸発する摂氏1万2000度の太陽フレアが、ゲートを超えて俺たちに襲いかかった。


 ──ッッッギィィィイイィイイィイイン!


 赤い結界が周囲を包む。

 摂氏1万2000度の太陽フレアが、ルビーの加護によって弾かれた。


 俺たちこそかろうじて守られているが、辺り一面は太陽風の影響によって溶岩の海と化していた。

 さらには真空中に開けられたゲートのせいで、大気がものすごい勢いで吸い込まれていっている。

 激流の渦と灼熱の嵐が吹き荒れ、結界の外は生身の人間なら一秒も生きられないような地獄絵図と化していた。


 ルビーの加護様々だな。

 これがなかったらヤシャドラのいうとおり、骨の髄まで燃え尽きていただろう。


「ふん。やはりこれも防ぐか。つくづく信じられんやつらだ」


 ヤシャドラの声が響くが、ひどく聞き取りにくい。

 声は空気を振動して伝わるものだからな。その空気を吸い出されている状態だと声も響かないんだろう。


 そんな中でもヤシャドラは平然と歩いてくる。

 さすが影狼族、太陽風だろうか真空の渦だろうがお構いなしだ。

 なんて感心してる場合じゃない。


 ヤシャドラが結界の中に直接ゲートを開いてこないのは、おそらく結界がそれを防いでくれているからなんだろう。

 だけどヤシャドラ自身なら、結界すらもすり抜けて入ってくるだろう。

 結界内で再びゲートを開かれたら今度こそ防ぐ手段はない。


 くそっ、どうすればいい。考えろ。ヤシャドラを転移させてもすぐに戻ってくるだろうし、逃げたってもちろんすぐに追いかけてくる。

 太陽風の前にゲートを作っても、すぐ位置をずらされて再びゲートを開けられるだけだろう。

 むしろ攻撃が一瞬でも途絶えることでルビーの結界が消えてしまったら、今日一日はもう発動しない。そうなれば次の一撃で全滅だ。


 逃げることも防ぐこともできない。

 タイムリミットは着実に近づいてくる。

 その中でできる逆転の一手は……ひとつだけ。


 俺は覚悟を決めて相手を見た。


 ヤシャドラの狙いは俺だ。

 なら、俺が一人で逃げても俺を追ってくるはずだ。

 そうすれば、他のみんなを巻き込まずに済む。


「諦めないでください」


 俺の背中に触れたのは、アメリアの優しい手のひらだった。


「自分一人を犠牲にすればわたくしたちを助けられる、と考えていましたね」


「……よくわかったな」


「こう見えても<未来視>の継承者ですから。それくらいわかります」


 どこかイタズラっぽく笑うアメリア。


「自分だけ犠牲にするって、どういうことよユーマ!」

「そういうことはもうしないって、約束したのに……!」


 シェーラとアヤメが両脇から腕をつかんでくる。


「いや、そんなこといってもな、全滅するくらいなら、俺一人で犠牲になった方がいいに決まってるだろ」


 いや、俺だってもちろん死にたくないよ。めっちゃ怖いし。

 でもそれ以外の方法が思い浮かばないんだ。

 だったらしかたないだろう。


 だというのに、シェーラもアヤメもそんなことでは納得しなかった。


「あきらめてんじゃないわよ! どんなときでも最後にはなんとかしてきたじゃない。今回もなんとかしなさいよ!」


 んな無茶な。


「オレもその案には反対だな。逃げるってことは負けを認めるってことじゃねえか。どうせ死ぬなら戦って死ね」


「そうだよ! ユーマ君と一緒に帰るって約束したんだから、私だけ置いていくなんてやだよ。ユーマ君がいくなら私も行く。この手は絶対離さないからね!」


 アヤメまでそんなことを言って、小さな手にぎゅっと力を込めてきた。

 これではふりほどけそうもない。

 腕の力ではなくみんなの心が、俺の体を縛り付けてしまった。


「とはいっても、この状態から助かる方法なんて……」


「方法ならあります」


 そういったのは、意外にもアメリアだった。


「もう少しだけ時間を稼いでください。そのあいだに<未来視>の力でわたくしたちの未来を視ます」


 <未来視>で俺たちの未来を……?

 そうか、その手があったか!

 アメリアもニコリとほほえんだ。


「そうです。もしわたくしたちに助かる方法があるのなら、その未来が視えるはず。それを探します。ですので、それまでのあいだどうにか時間を稼いでください」


「そういうことなら、やるっきゃねえな……!」


 希望が見えたとたん、胸の中に炎がともった。

 今の状況を逆転する方法は思いつかないが、時間を稼ぐだけならいくらでもやりようはある。

 俺はすぐに次の手を指示した。


「シェーラ、ダイン、頼みがある。俺たち全員を抱えられるか?」


 二人は一瞬ぽかんとした顔になり、すぐに不適な笑みになった。


「なるほど、そういうこと」


「はっ、逃げるのは性に合わねえって言ったばかりなんだがな。リーダーが言うなら付き合ってやるぜ」


 ダインが俺とアヤメを左右の腕で一人ずつ抱える。

 体の小さいアヤメはともかく、俺まで片腕でかかえるとは、さすがの腕力だな。

 男としては情けない格好だが仕方ない。ステータスだけなら俺はアヤメ以下だからな。


 シェーラはアメリアを背中に背負った。


「あ、ありがとう、お姉ちゃん」


「気にしなくていいわよ。それよりアメリアは<未来視>のほうをお願いね」


「わかった。任せて」


 シェーラの背中で力強くうなずく。それを見てシェーラもほほえみ混じりにうなずき返し、それからレインフォール隊長を振り返った。


「隊長まで抱えるのはちょっと無理そうだけど、ついてこれるわよね?」


 レインフォール隊長が豪快な笑みを見せ、金属鎧の胸板をどんと叩いた。


「これでも王宮近衛隊隊長ですからな。シェーラ様に遅れはとりません」


「そう。まあ心配はしてないけどね。じゃあ、いくわよ!」


 そういうやいなや、近づくヤシャドラに背を向けると、シェーラとダインは同時に地面を蹴った。

 相変わらずの爆発的な加速で、少年の姿があっというまに小さくなる

 早すぎて、ダインの体にしっかりしがみついていなければあっというまにふり落とされてしまいそうだ。


 戦闘狂の腕力バカなダインだが、体つきは細くて柔らかい。見た目だけならスタイルのいい超絶美人だからな。

 ああ、こんな状況じゃなきゃ、美女に思い切り抱きつくというステキなシチュエーションを楽しめるのにな。

 現実じゃ、わずかでも力を緩めた瞬間に落っことされてしまいそうなので、とてもそんな余裕なんてなかった。


 時間を稼ぐだけなら方法なんていくらでもある。

 最も簡単な方法は、逃げてしまうことだ。

 とはいえ、それはやっぱり時間稼ぎにしかならない。


「ダインお姉ちゃん、前!」


 アヤメが叫ぶ。

 前方の空間が切り取られたように丸く開くと、中からヤシャドラが現れた。

 まあそうだよな。こんなんすぐ先回りされるに決まってる。


 シェーラとダインが急ブレーキをかけ、方向転換して走り出す。

 しかし向かう先に再びゲートが開いた。

 現れたのはヤシャドラではなく、燃えるように赤い炎の世界。


 太陽風がゲートを超えてあふれ出した。

 ルビーの結界があるため俺たちに直接影響はないが、辺り一面が溶岩の海となって燃え上がった。


 さすがにこの上は走れない。

 たまらずにシェーラが足を止めた。


「っ! これじゃあ進めないわよ!」


「オレに任せな!」


 ダインは抱えていたアヤメを肩に乗せると、あいた腕で「竜殺し」を構えた。


「吹っ飛びな! フルクラアアアアアアアアッシュ!!」


 バカでかい剣が地面を叩く。

 衝撃で大地がめくれあがり、溶岩ごと吹き飛ばした。


「相変わらず強引なことするわね」


「こういうときはゴチャゴチャ考えるより、シンプルにぶっ叩くのが一番なんだよ!」


 なんつー脳筋理論だ。こいつきっとパソコンが動かなくなっても叩いて直すんだろうな。

 でも今はそのおかげで助かったのは確かだ。

 むき出しになった地面を駆け抜ける。


 とはいえそれはやっぱり一時しのぎだ。

 逃げる先にすぐゲートが開くし、吹き飛ばした地面もあっという間に燃え上がる。

 決定打のない俺たちは逃げて時間を稼ぐしかない。そのあいだにアメリアが打開策を見つけてくれるはずだ。


 と、そのとき、祈るように目を閉じていたアメリアが勢いよく顔を上げた。


「一瞬だけ未来が視えました! どこか荒野のようなところに立つわたくしたちの姿が……。あの影狼族もいましたが、そこでならわたくしたちはまだ無事なようです」


 無事でいるってことは、この状況から助かる道があるってことだ。

 だったらあとはその方法を見つけるだけ。

 正直見当も付かないが、いいぜ、やってやろうじゃねえか!


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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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