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23.解決策

「家族を人質に、ね。確かに胸くそ悪いクズ野郎がいるみたいだけど、そこまでして冥府の谷を守らないといけない理由ってなんなの」


「影狼は何でもすり抜けられるっていったが、実は影狼族にも通れないものがある。それが、人間界と魔界の間にある結界だ。これだけは影狼族でも通れない」


「じゃあ、どうやってこっちの世界に来てるのよ」


「それを打破する唯一のスキルが『次元魔法』だ。あらゆる場所と場所をつなぐ『ゲート』を作り出すことができる。本来なら次元魔法を使ってもこっちとあっちは行き来できないんだが、一カ所だけ結界の薄い部分があって、そこでならゲートを開ける。それがこの冥府の谷ってわけだ」


 簡単にいえばどこでもドアだな。

 もしもこれが強制転移だったなら「石の中にいる!」ができるのだが、あくまでも道を作るだけなのでそれもできない。

 本当にただ移動するためだけの魔法だ。


「ここは魔界と人間界を行き来できる唯一の場所だからな。ここを取られるとたとえ次元魔法があっても魔族はこっちの世界に来れなくなる。戦略的にも重要な場所なんだよ。ここを突破されない限り妹には手を出さない、という約束になってるから、ヤシャドラとしてもここは絶対に死守しなければならない場所なんだ」


 だからこそ、ヤシャドラは自らの命を賭けて最強の召還魔法を使った。

 アヤメは知ってるから当然として、シェーラとダインも納得したようだったが、アメリアだけが驚いたように俺を見ている。


「ユーマ様を疑うわけではないのですが、どうしてそのようなことまで知っているのですか……。魔王軍が王都に侵入しているというだけでも機密情報なのに、さらに魔族側の事情にまで詳しいなんて、いったいどこでそのような情報を……」


 まあ、驚くのも当然だな。


「まあユーマだしね。いつものことよ」


「ユーマ君は物知りなんだよ」


 シェーラが一言で片づけ、アヤメが合いの手を入れてくれる。

 アヤメはもちろん、シェーラにも俺が現代から来てることを話してあるからな。

 その横でダインもうなずいていた。


 その様子に俺は少し感動してしまう。

 なんだかんだでダインも俺のことを認めてくれてたんだな、なんてちょっとうれしくなる。


「こいつはヘタレで度胸もなくてケンカも弱いが、こういうときだけは役に立つからな」


「おいフォローするならちゃんとフォローしてくれよ」


 俺の感動を返せ。


「本当のことだろ?」


 そりゃたしかに俺はステータス低いし、そもそもダインと比べたら人類皆度胸がなくてケンカは弱いと思うんだが。


「ふむ、ユーマ殿が皆に信頼されているのはわかりましたが、肝心の人質というのがどこにいるかわかっておるのですか?」


 レインフォール隊長の疑問ももっともだ。

 実際、人質を取られてるっていうのも俺の脳内設定だから詳細は決めてない。

 どこにどうやって人質を隠してるかも知らないんだ。


 場所がわからなければ助けようもない。


「なので、そこはそういう無茶ができそうな奴に頼んであります」


「うむ、我が頼まれておる」


 いきなり俺たちの中心に幼い女の子が現れたので、その場にいた全員が驚いた顔になった。

 透き通るような金髪に、整った顔立ちを持つ女の子のラグナだ。


「いきなり現れるなっていっただろ、心臓に悪いんだよ」


「ふむ、しかしこうして主等を驚かすのも面白くての」


 そういってカラカラと笑う。

 見た目は幼い女の子なのに、口調と態度のギャップに俺以外はみんな驚き固まっていた。


「その人質の件じゃが、我がなんとかしておる。しばし待つがよい」


「今日中になんとかなりそうなのか」


「とんでもない無理難題じゃったが、目処はついておる。あとは時間の問題じゃ」


 ならなんとかなりそうだな。


「え? ユーマ君、その子、誰……?」


 アヤメが驚いたようにたずねる。

 そうか。ラグナは小説にも出てこなかったから、アヤメも知らないんだな。


「えーと、なんと紹介したらいいかな。こいつはエンシェントドラゴンのラグナだ。訳あって協力してもらっている」


「エンシェントドラゴン……って、あの、山の上で戦ったあのドラゴンのこと……!?」


「うむ。そのドラゴンじゃ。あのときは世話になったの」


 ラグナが豪快に笑う。

 お互い死にかけたあげくに山ひとつ消し飛んだわけだが、ラグナにとっては「世話になった」の一言で済んでしまうらしい。

 絶句するアヤメの横で、ダインが目を好戦的に輝かせる。


「マジかよ、あのときのドラゴンが生きてたとはちょうどいい。一戦やろうぜ」


 いいながらすでに背中の「竜殺し」を抜きはなっていた。

 正体がドラゴンとはいえ、見た目は普通のいたいけな幼女相手でもためらいなく切っ先を向けられるとかほんとすげえな。


「見た目がなんであれ、こいつがヤバい奴だってのは肌で感じるんだよ。こんなに震えるのは久しぶりだ。それこそ、前のアンデッドドラゴン以来だぜ」


 愉悦に顔をゆがませて嬉しそうに語る。

 そりゃそのアンデッドドラゴンと同じだからな。

 むき出しの戦意を向けられたラグナは、カラカラと笑うだけだった。


「我とて闘争は嫌いではない。相手をしてやってもいいのじゃが、今は魔力の残滓で形を作っているだけにすぎぬのでな。今の我ではおそらく相手になるまい」


「マジかよ……。ラグナより強い人類なんているのかよ……」


「今の我は主から魔力を借りている身なのでな。我が力を使えば、主の魔力は一瞬で干からびてしまうぞ」


 なるほど。それはダメだ。


「オレはかまわねえぜ」


「俺がかまうんだよ!」


 まったくこの戦闘狂め。


「まあそういうわけじゃ。戦いはいずれの楽しみとして取っておくこととしよう」


「そうだな。どうせやるなら全力の方がいいしな」


 そう告げて剣を納める。


 安堵のため息をついてから気づいたが、もうアメリアにも俺たちの計画がバレてしまったんだし、無理して進まなくてもこのまま引き返してもいいんじゃないだろうか。

 そう提案したが、アメリアが首を振った。


「いえ、冥府の谷へ向かうのは今日しかありません。そう何度も王宮を抜けられないのです」


「べつにアメリアは無理してこなくてもいいのよ?」


 シェーラのその言葉はきっと優しさからだったのだろうが、アメリアはキッと瞳を吊り上げた。


「またそうやって私をのけ者にして! お姉ちゃんたちが危険な場所に行くのに、王女である私が待ってるわけにはいかないでしょ!」


「いや、王女だから言ってるんだけど……」


 シェーラがあきれた顔つきになる。

 確かにアメリアの命はアメリア一人のものではない。

 王女だから助けたいわけではないが、その影響が大きいのも確かだ。


 が、もちろんそんなんで納得するアメリアではない。


「私が魔界に行って魔王と話をするんだから、私がいかないと意味ないでしょ」


 それはまあそうなのかもしれないが。

 それにラグナが、人質をもうすぐ解放するといってるんだから、危険なこともないだろう。


 ちなみにそのラグナは、アヤメとダインに囲まれていた。

 アヤメが、ラグナの髪をうらやましそうになでている。


「うわー、髪の毛さらさらでいいなー。どんなシャンプー……とかは、ないんだよね」


「ふむ、しゃんぷーとやらはわからぬが、我の姿は自在じゃからの」


「あらほんとさらさらね。なにもしてないのにこんなになるなんて、あんたズルくない?」


「お姉ちゃんズルい、私にもさわらせてくださいー」


 女性陣にあちこちさわれまくるラグナ。

 そのあいだラグナは特に抵抗もせずにじっとしていた。


「ふむ、そうなのかの? 我は人間のことは詳しくないでの、そばにいたユーマの嗜好を読みとってこの体をつくったのじゃが」


 ラグナの言葉を聞いて、三つの視線が一斉に俺を突き刺した。


「えっ、ユーマ君の……?」


「ふうん。ユーマの好みがラグナちゃんかあ」


「ユーマ様はこのような幼い子供を……」


 軽蔑しきった冷たい目だった。


「まてまてまて! 誤解だ! まずは話し合おう!」


 あわてて言うと、シェーラがにっこりと笑ってくれた。


「ええそうね。いきなり決めつけるなんてよくないわよね」


 おお……! やっぱり話せばわかってくれるんだな!


「ユーマの好みに合わせて今の姿になったというラグナちゃんの話、ユーマと一緒にじっくり聞かせてもらうからね」


「………………あ、はい」


 これ言い逃れできないやつだ、と直感した俺は、潔くあきらめることにした。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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