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13.密会

 訓練も終えた夜遅く、俺は隊長に教えてもらったフォーエンタール家の館の前に来ていた。

 王女様に推薦してもらったお礼がしたい、といったらすぐに教えてくれたよ。

 お礼がしたいってのも嘘ではないしな。


 アメリアも命を狙われているといってたように、王宮内にも色々な陰謀が渦巻いている。

 ここで対応を間違えるとやっかいごとに巻き込まれて王宮編が始まってしまうんだよな。

 大抵のなろう小説にあるように内乱に巻き込まれたり、別の戦争が始まったりで、いつまでたっても終わらないことになる。


 小説なら人気がでるからそれでもいいんだが、現実でまでそんなことをする必要はない。

 なにより、タイムリミットは半年しかないんだ。王宮内の陰謀は数年越しの計画なんて珍しくもない。貴重な時間をそんなことで浪費するわけにはいかないだろう。

 面倒なことはさっさと終わらせてしまうに限る。


 館は二階建てのかなり大きな建物だ。

 周囲は高さ3メートルくらいの柵で囲まれている。上部が外側に折れ曲がっているから、登って入るのは難しそうだ。

 忍者スキルとかがあればジャンプで飛び越えられるのかもしれないけど、残念ながらそんな便利スキルは持っていない。


 やっぱり正面から入るしかなさそうだ。

 しかし当然ながら、正面の入り口には見張りの兵士が立っている。

「俺は伝説の勇者なんですけど」といったら入れてくれるだろうか。


 ……うさんくさいよなあ。俺だったら通報するよそんなの。

 しかたない。こっそり忍び込もう。


 まずは外から館を観察する。

 明かりのついている窓は一カ所だけか。


 フォーエンタールは王都でも古くから続く名門貴族だ。

 敵対貴族を詐欺同然の計略で没落させ、その領地を奪って力をつけているなど、黒い噂が絶えず、敵も多い。

 そういう噂だけを聞けば私腹を肥やす典型的なダメ貴族に思えるが、実際浜逆だ。


 真に悪いやつは別にいて、王宮を裏から操るバラキス家を潰すために暗躍している正義の一族でもある。

 噂のすべてがウソというわけでもないが、敵に悪い噂を流されていて、やや劣勢気味なのは変わらない。


 そんな訳なので領主はとても忙しい。

 皆が寝静まったあとも一人黙々と権謀術数に頭を悩ませている、どこぞの大企業も真っ青な超ブラック企業だ。


 明かりがついている部屋の位置を覚え、俺は屋敷の裏側に回った。

 人の気配がない路地に身を潜ませ、先に取得しておいたスキルを発動する。


「スキル発動。<隠密スキルLV.10>」


 こっちの世界にきたばかりのとき、ゴブリンたちが使っていたスキルだ。

 スキルを発動した状態で門の前に戻る。

 目の前にいても気づかないほどの隠密スキルだ。これなら門番の横を通り抜けても気づかないだろう。


 しかしこのスキル、自分だと相手からどう見えてるのかわからないんだよな。

 スキルが発動してるってのは、感覚でなんとなくわかる。

 でもそれが相手に効いてるのかどうかまではわからないんだよな。


 もし隠密スキルを無効化するスキルを持ってたりしたら、向こうから俺は丸見えってことになる。

 ドキドキと鳴る心臓の音を聞きながら、両脇に立つ見張りあいだを堂々と歩いて侵入した。

 ……ふう。なんとか平気だったみたいだな。


 後は屋敷内に入るだけだ。

 正面玄関は目の前にあったが、さすがにそこから中には入れないだろう。

 屋敷の裏手に回って入口を探す。


 どこかに兵士たちが出入りする裏口があるはずだが……。

 ぐるりと回っていると、すぐにそれっぽい扉を見つけた。

 しばらく待つと、扉が開いて二人組の兵士が出てくる。


 ちょうど交代の時間だったみたいだな。ラッキー。

 出てきた兵士たちが遠ざかるのを待ってから、扉を開ける。

 鍵はかかっていなかった。すぐに交代の兵士が戻ってくるからな。いちいちかけなかったんだろう。


 逆に言うと、交代の兵士はすぐに戻ってくるということだ。

 物音を立てないようにしながら急いで中に入る。


 中は兵士たちの休憩所のようなところだった。

 仮眠用の二段ベッドがあり、反対側には手入れされた武器類が並んでいる。


 ここに用はなさそうだな。

 さっさと通り抜けて屋敷内に入る。

 廊下は薄暗く、人の気配はなかった。使用人たちも寝静まってるんだろう。


 明かりのついてた窓は二階だったよな。

 足音をたてないようゆっくりと階段を上がり、目的の部屋の前へとたどり着く。

 途中、廊下を巡回する兵士とすれ違ったが、まったく気がつかないまま通り過ぎていった。


 すごいなこのスキル。超便利。

 ゴブリンが使うにはもったいない。

 つかこのスキルあったら街とか襲撃し放題なんじゃないか。


 なのにいつ人が通るかもわからない草原で待ち伏せしてたなんて。

 やっぱゴブリンてバカなんだな。


 それはそうと、部屋の前まで来たはいいものの、どうやって入ろうか。

 扉に鍵はかかってるだろうし、敵の多い人だから警戒もしてるだろう。

 実際、俺が来たのは明かりの点いていた部屋、ではない。

 そのとなりの部屋に来ている。

 外から明かりが見えていたのはフェイク。俺みたいな侵入者をだまして返り討ちにしてやろうという領主の罠だ。


 つまりそれくらい警戒している、っていう設定だ。

 それに、小説内には書かなかった見回りの兵士も、館内にうろうろしてるくらいだしな。

 警戒してるってのは間違いないだろう。


 じゃあどうするかというと……うーん。

 いい案は思いつかないな。

 しかたない。正面からいこう。わからないものは考えたってわからないんだ。なんとかすればきっとなんとかなるだろう。


 というわけで、俺が正面からノックをしようと手を上げたところ、中から声が聞こえた。


「そこに誰かいるのか?」


 おっと。マジかよ。勘がいいな。

 とりあえずごまかしておくか。


「はっ。見回りの定時連絡に参りました」


「そうか。定時連絡など今まで一度も受けたことはないんだがな。どこの回し者だ」


 はい速攻でバレましたー。


「何者か知らんが、俺に用があるんだろう。入れ。鍵は開いている」


 ええっ。なんという超展開。

 さすが大貴族の領主ともなると度胸が違うな。

 俺が暗殺者だったらどうするつもりなんだ。正面から戦っても勝てる自信があるってことなのか?


 ……入った瞬間グサッと刺されるなんてことはないよな?

 おそるおそる扉を開く。


 開けた瞬間、光に視界を奪われる。

 意外なことに、部屋の中は普通に明かりが点いていた。

 窓には光漏れ防止用の目張りがしてある。あれで外からは見えないようにしてあったんだろう。


 明かりに慣れた目で見渡すと、簡素な狭い部屋には机がひとつだけあり、そこに切れ長の目を持つ男が座っていた。

 入ってきた俺に一瞥もくれることなく、机の上の書類にペンを走らせている。

 侵入者をガン無視とか胆力がハンパない。


 小説内ではさして重要ポジションでもなかったため、描写もほぼなく、確か2、3回ちょろっと話したくらいのキャラだったんだが、こうして正面から会うとよくわかる。

 この人は本物の貴族だ。それも仕事ができる系の。


「それで? 用はなんだ? 見ての通り忙しいんだ」


 急かすように早口でいってきた。

 確かに忙しそうだな。

 こうしている今でさえ、まだ手を動かし続けてるくらいだからな。


「あー、先に確認なんだが、あんたがここの領主ってことでいいんだよな?」


「そうだ。そういってるだろう」


 ……いや、言ってはいなかった気がするんだけど。

 態度から分かれってことだろうか。


「そういうおまえは何者なんだ。これだけ厳重な警備の中、誰にも気づかれることなく、正確に俺の部屋に来るなんてのはそうそうできることじゃない」


「あんたが王女様に教えた田舎の勇者だよ」


 そのとき初めて男の顔が上がった。

 鋭い目がじっと俺の姿を観察する。


「おまえが? 百年以上も誰も見つけられなかった魔王軍幹部を倒した奴と聞いていたが、その割にはずいぶん貧相なんだな」


 初対面で失礼な奴だな。

 その見立ては当たってるのでなにも言い返せないんだけどさ。


「その前に、実はあんたの名前を知らないんだよ。教えてもらってもいいか?」


「は?」


 さすがに領主が驚いた。


「ここまで忍び込めるほどの奴が、なぜ俺の名前も知らないんだ?」


 知らないんじゃなくて、決めてないんだけどな。

 いちいちサブキャラ全員の名前なんて面倒で決めてなかったんだよ。


「ユリウス=カイサル=フォーエンタールだ。これでいいか」


 おお。貴族っぽい。さすがだな。


「それでここに来た理由なんだが、あんたに伝えておくことがあってな」


「ほう。なんだ」


「あんたが王宮のためを思う限り、俺はアンタに味方する」


 その一言だけで、ユリウスの顔が変わった。

 口元にうっすらと笑みが浮かぶ。

 俺がユリウスの企みを知ってることも、なんのために王女様に俺の存在を教えたのか気づいていることも、すべて伝わったからだろう。


「そこまで見抜いてるとはな。ただの田舎冒険者と侮ってたが、さすがは勇者様ってわけか。それで味方してくれるのはありがたいが、タダってわけじゃないんだろ?」


 ただより高いものはない、というくらいだからな。それはこっちの世界でも同じらしい。


「頼みはないが、条件がある」


「なんだそれは」


「必ず内乱を阻止しろ」


 ユリウスが目を丸くし、やがて大声で笑いはじめた。


「くくく……。あーっはっはっはっは! そうかそうか。そこまでか! そこまで見抜いてたか!」


 ひとしきり笑ったあと、急に鋭い目つきで俺をにらむ。


「お前、何者だ。大臣の内乱は俺たちが何年もかけて極秘裏につかんだ情報だ。個人で集められる情報じゃない」


「悪いがそういう駆け引きはいらない」


「ほう?」


 興味深そうな目になる。俺の真意を探ろうとしてるんだろう。

 腹のさぐり合いなんて面倒だし、俺にそういう芸当は無理だ。こっちはつい最近まで半引きこもりの高校生だったんだぞ。百戦錬磨のユリウスとやり合えばすぐ負けるに決まってる。


 なので、知ってることは全部吐き出してやろう。

 情報のさぐり合いで勝てないなら、与える情報の量で圧倒する。

 物量作戦だ。


「内乱を計画しているのは大臣だが、その背後にいるのは魔族だ。奴らはこの国を内側から乗っ取るつもりなんだろう。

 これはただの内乱じゃない。魔族との戦争はすでにはじまってるんだ」

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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