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11.嘘

 訓練場から場所を応接室に移動した。

 イスに腰掛けるアメリアの横には、騎士姿のレインフォールが控えている。

 メイド姿だったアメリア王女様も、いまは王女様らしいドレスに着替えている。


「あらためまして自己紹介させていただきます。アメリア=ユークリウス。この国の第二王女です」


 ちなみにアメリアは第二王女だが、第一王女は王宮にいない。

 数年前から行方不明になっている。

 当時から大々的に捜索隊が出されたが、未だに発見できていなかった。


「それで、あたしたちの力を買してほしいってことだったけど、どういうことなの?」


「みなさまもご存じだと思いますが、この国は魔王軍と戦争状態にあります。直接の戦いこそないとはいえ、わたくしが生まれる前からずっとにらみ合いが続いたままです」


「それがどうしたんだ」


「魔王軍との戦いを終わらせるために、とある計画を考えています。みなさまにはそのお手伝いをしてもらいたいのです」


「魔王軍との終わらせるって……もう百年以上も前から続いてるんでしょ」


「記録にある限りでは、五百年以上前からだそうです」


「それを終わらせるって、そんな簡単にできるものなのか」


 ダインのもっともな疑問に、アメリア王女様がうなずく。


「できます。その方法も考えています」


 王女様の発言に、その場にいた誰もが驚いた。

 たぶん驚かなかったのは俺とアヤメくらいだろう。

 まあここは小説通りの展開だからな。


「つまりオレたちに魔王をぶっ飛ばしてほしいってことだな」


 ダインの好戦的な結論に、アメリアが首を振る。


「いえ、そういうわけではありません」


「ならオレたちになにをしてほしいんだ?」


「戦争を終わらせる計画はあるのですが、そのことはごく一部の方にしか話しておりません。お恥ずかしい話なのですが、王都の中にも色々な考えの人がいまして、全員が味方というわけではないのです」


 目を伏せるアメリアの横でレインフォールが憤慨した顔つきになる。


「国と民を守るのが貴族の役割だというのに、私腹を肥やす連中が大勢いる。それどころか、自分が国の権力をにぎるためにアメリア様のお命を狙うものまでいる始末だ」


「ひどい話ね」


 シェーラが怒気のこもった声でつぶやく。

 ダインがニヤリと笑った。


「つまり、そいつ等をぶっ飛ばせばいいってわけだな」


「できればそうしたいところだがな、王宮の中ではそういうわけにもいかん」


「わたくしはとある場所へ向かわねばなりません。そこは王宮の外で、危険な魔物もいるといわれる場所。みなさまにはその護衛をしてもらいたいのです」


「ふうん。それで、その場所ってのはどこなの」


「それは、今の段階では申し上げられません。王家の秘密に関わることですので」


 申し訳なさそうに声をひそめる。

 レインフォールがあとを継いだ。


「ついでにいうと、この話を聞いた後では後戻りはできん。隠すわけにはいかないので先に述べさせてもらうが、情報が漏らされないよう密かに監視もつけさせてもらう。それほどに重大な秘密なのでな」


「だとよ。どうすんだリーダー」


 ダインが俺に話を振ってくる。

 アメリアが慌てて付け加えた。


「もちろん今すぐ返事をしていただかなくても構いません。一度みなさまで相談なさってからでも……」


「いいですよ。その依頼を受けましょう」


 即答する俺を、アメリアが驚いた目で見つめた。


「……え? そんなあっさり、いいんですか?」


「そのために俺たちを呼んだんですよね?」


「それは、そうなのですが……、まさかすぐに引き受けていただけるとは思ってもいなかったので……」


 さすがに困惑気味のアメリア。

 シェーラがドヤ顔で胸を張った。


「ユーマは無駄なところで決断が早いからね」


「普段はヘタレで、いざって時もたいてい役に立たないが、変なところで度胸はあるんだよな」


「それはほめてるんだよね?」


 バカにされてるようにしか聞こえないんだけど。


「まあ、元々依頼は受けるつもりできたんだしな。善は急げっていうだろ」


「おかしな方ですね。それではまるで、わたくしの頼みごとを最初から知ってたみたいではないですか」


 くすくすとかわいらしい笑みを浮かべる。

 最初から知ってたっていうか、実際その通りなんだけどな。


「魔界へ行くつもりなんですよね?」


「えっ!?」


 王女様は驚きの声を上げたが、驚いたのはシェーラたちもだった。


「どうして、それを」

「魔界ってどういうことよ?」

「敵の本拠地に直接乗り込むってか? わかりやすくていいじゃねえか」


 それぞれが驚きを示す。

 ……いや、ひとりは喜んでる気もするが……。


「ユーマ様は、なんでもお見通しなんですね」


 アメリアがどこか優しく、しかしまっすぐな瞳で微笑んだ。

 それはきっと、固い決意の現れだろう。


 アメリアが向かうつもりの場所は、冥府の谷と呼ばれるところ。

 別名、黄泉比良坂。

 結界に断絶された魔界と、唯一つながっていると噂されるところだった。


 もちろん安全な場所ではない。

 凶悪な魔物だけでなく、時空の歪みによってなにが起こるかわからない、非常に危険な場所だ。

 それでもアメリアに臆するところは見られない。


 今はまだ平和な王都だが、半年後に多くの死者を出す戦争が起こる。

 その理由は二つある。

 ひとつが結界の消滅。そしてもうひとつが、アメリア第二王女の死だ。


 王都の民は知らないことだが、ここ最近で結界の効力は薄れつつあり、半年もしないうちに消えるだろうと王宮魔術師団は予測している。

 理由は不明だが、どうやら魔界側からなんらかの攻撃を受けているらしいとされていた。


 ま、実際その通りだしな。

 人間界側に攻撃をしようと計画している魔王軍幹部による仕業だ。

 奴はただ人間を皆殺しにしたいためだけに、戦争を始めようとしている。


 もちろん王宮魔術師たちも黙って見ているわけではない。

 のだが、手の打ちようがないというのが現状だった。

 なにしろ結界の修復どころか、いったいいつ、誰がどうやって結界を張ったのかすらわからないからな。


 なぜなら、俺も考えてないからだ。

 きっと過去の大魔導師的な何者かがどうにかしてなんとかしたんだろう、といういい加減なイメージしかない。

 まあ重要なのはそこじゃないからな。結界が二つの世界を守る境界線であり、魔族側からこれを破ろうとしているということが問題なんだ。


 王都側からしてみれば、いきなりの侵略に相当驚いたことだろう。

 魔族がなにを考えているのかはわからないが、強引に打ち破ろうとしているのだからろくな考えではないはずだ。

 戦争を起こそうというのなら、なんとしても止めなければならない。


 なのでアメリアは、自ら魔界へと赴くことにした。

 魔王と直接交渉することで狙いを確かめ、戦争を起こすつもりならそれを回避しようとしていた。

 そして小説では実際に魔界へと向かうが、それを待ち伏せしていた魔王軍の幹部に暗殺される。


 これが国民の怒りに火をつけた。国民全員から愛されていたアメリアだ。それも当然といえるだろう。

 ほぼ同時に結界も消える。

 まさに、戦争をしてくださいといわんばかりのタイミングだ。あとの展開は、いわなくてもいいよな。


「わたくしの向かう先を知ってても、護衛を引き受けてくださるのですか?」


 アメリアの問いかけに、俺はうなずいて答える。


 結界消滅を防ぐのも必要だが、王女様も守らなければならない。

 それにこのイベントは物語の進行上必須イベントだし、俺としてもやらなければならないイベントだ。

 なのでこの護衛は是非とも引き受けるしかなかったんだ。


「もちろんだ。アメリアは俺が必ず守る」


 面と向かってまっすぐいうと、アメリアの頬が赤くなった。


「えっ、あ、はい。ありがとう、ございます……」


 急にもじもじとして視線を逸らす。


「ん? どうかしましたか?」


「い、いえ、なんといいますか、その……。そんなにはっきりといわれたのは初めてでして、それに皆はわたしくしのことを王女様などというものですから、その、呼び捨てというのは、驚いてしまったといいますか、少し新鮮だったといいますか……」


 頬に手を当てて恥ずかしそうに下を向いている。

 なんだこれ。めっちゃかわいい。

 高貴で凛とした雰囲気をたたえる王女様が、急にこんな女の子らしい反応を見せられると、ギャップでさらにかわいく見える。


 騎士なんていっても中身はみんな男だからな。命がけでアメリアを守る理由もわかろうってものだ。

 照れるアメリアの姿を目に焼き付けていると、急に頬がひねりあげられた。


「ふうーん? ユーマは女の子なら誰でも守るとかいっちゃうわけ?」


「い、いや、王女様を守るのは当たり前だし、そもそもシェーラは守る必要なんか痛い痛い嘘です全力で守らせていただきますからそれ以上は無理無理ほんと無理ちぎれちゃうって!」


「わ、わたしのことも、ちゃんと守ってくれるよね?」


 となりでアヤメが心配そうに俺を見上げる。

 そんな心配しなくてもアヤメを守るのは当然なんだから、その前にこの暴力ヒロインをなんとか止めてくれないかな。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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